表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
懐かしき心の行く末に  作者: 西島夢穂
39/52

母親、倒れる。

私は、おばあちゃん家に向かう電車の中にいた。



兄さんから、あの人がおばあちゃん家に帰ってきて、一緒に住むと聞かされた。


いてもたってもいられずに私は、おばあちゃん家へと自然と足が向かっていた。


ちょうど、土日に合わせて有給休暇をもらった。



遥には、本当の事を言いたかったけれど…


父さんがいるし、とりあえず落ち着いてから、話そうと思って、会社の研修で、3日いないと嘘をついた。


ごめん、遥。

あの人がおばあちゃん家に住んでるとなると、あんたは、一緒に着いて来てくれるでしょう?



いくら、結婚を前提で付き合っているとはいえ、自分の家のことは、自分でなんとかしたい。



今まで、遥に甘えてばかりだったから。



だから、今回は、一人で、あの人と対峙するよ。





数時間後――



駅に着くと、改札口の前で父さんが待っていた。




「…千歳、済まないな。」



父さんは、いつになく疲れた表情だった。



あの人と話し合いをしていると兄さんから聞いてたからなぁ。



かなり、手こずってるか…あの人と父さんは、もう赤の他人のようなものだし。



「…父さん、色々とありがとう。おばあちゃんは、どうしてる?」




「うむ。ばあちゃんは、仕方なくという感じだが…母親だからな。」




「…そう。」




やっぱり…。

おばあちゃんにとって、あの人は、娘だし。




家に着くと、おばあちゃんが、出てきた。




「千歳!」




「おばあちゃん、連絡しなくてごめんね。でも…あの人がここに帰って来て、住んでると聞いたら、無視できなくて…。」




「…千歳…ごめんね。私には、祥子を追い出すことはできない…」




涙を浮かべながら、私を抱きしめる。



私は、おばあちゃんを宥めながら、家に入った。



リビングには、あの人が、ソファーに座っていた。




「あら、千歳?お帰り。」



「…ずいぶんと、身勝手な事ばかりしてくれるわね。一体、どういうつもり?」



「どうもこうもないわ。実家に戻ってきただけよ?」



「勝手に出て行って、男と別れたから、ここに戻ってきたってわけ?」




私は、握り拳をつくりながら言った。




「…そうね。」




母さんは、ため息をついて短く答えた。




「いい加減にしてよ!おばあちゃんと私を見捨てたくせに!どうして謝りもせずに帰ってこられるのよ!」



私は、

母さんの頬を叩いた。



立ち上がった母さんは、睨み付けて…




「相変わらず、乱暴な子。親に手をあげるなんて、とんだ不良娘ね!」




母さんも同じく、私の頬を叩いた。




「…あんたに…おばあちゃんと私の数十年の苦労がわかってたまるか!何で…今更…戻って…くる…の。」




私は、

その場で泣き崩れた。



まるで、母さんが出て行ったあの頃と同じように…。



「…!…祥子!」




「…祥子!」




俯いたまま泣いていた私の頭上で、父さんとおばあちゃんが母さんの名前を呼んでいた。



顔を上げると、胸を押さえて踞っている母さんが、視界に飛び込んできた。




「…っ…な…なに?」




「お義母さん、救急車をお願いします!」




「…は、はい!」




母さんの苦しく乱れた息がこの部屋に響いた。



一体、何が…?



目の前で、

起こった出来事に、



ただ、呆然と見つめるしかなかった。





病院の待合室で、父さんとおばあちゃんと共に、椅子に座っていた。



暫くして、

医師が出てきた。




「命に別状はありませんが入院して精密検査を受けてください。かなり心臓に負担がかかっているようですので。」




医師は、そう言って会釈しながら歩いて行った。



診察室から、病室に移され母さんは、ベッドで眠っているままだ。



私は、何がなんだか頭の中が混乱していた。



さっきまで、憎まれ口を叩いていたはずなのに…




「…はは、なんなのよ。帰ってきたと思ったら、何倒れてんの?」




私は、ただ、あんたにおばあちゃん家から、出て行ってほしいと言いに来ただけなのよ。



なのに、




「…自業自得よ。勝手に出て行って、男に捨てられた挙げ句に…病気になるとか…罰が当たったのよ!」




「千歳!いい加減にしなさい。病院だぞ、ここは。」



「関係ないわよ。母さんは私のことなんて…嫌いなんだから…。」




眠っている母さんを罵っているのに、視界が徐々にボヤけてきた。



頬を伝う、温かな滴が止めどなく流れ落ちる。




「…千歳。」




それに気づいたおばあちゃんが、私の手を強く握りしめてきた。




「…ふ…っ…バ、バカだよ…母さんは…自分から…不幸に…なるなんて……」




私は、泣きながら

その場にしゃがみこんだ。



「千歳。…とりあえず、今日は、ばあちゃんと一緒に家に帰りなさい。」




「でも、源一郎さん。祥子の付き添いは…」




「私が、付き添います。入院の手続きもしておきますので。また明日、来てくれると助かります。」




「…わかりました。」




おばあちゃんは、心配そうに母さんの眠っている顔を見てから、私と共に、家路と向かうのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ