緊急事態
ゴールデンウィークが終わった次の土曜日――
遥ん家で、飲み明かそうと思って来たのはいいけど…遥に、男のスイッチが入ってしまった。
ほとんど二人でいる時間がなかったから、遥も、相当我慢してたのかも。
結局、その日は、一晩中、付き合わされた。
それから、数日後、遥とのラブラブな生活から、一転する事態が、起こった。
仕事の帰り道、スマホから着信音がなる。
ん?公衆電話?
誰?
タップして、電話に出た。
「…もしもし?」
『千歳、オレだ。千彰だ!ばあちゃんが、倒れた!』
「え?おばあちゃんが?」
『今、病院に来て、父さんが、ばあちゃんに付き添っている。』
「…う、うん。」
『命には、別状はないらしいから、安心しろ。』
「う、うん。私、明日、そっちに行くよ。」
『…わかった。とりあえず落ち着けよ。明日来るとき父さんに電話しろ!』
兄さんが、
電話を切ってから、なんとも言い難い恐怖心に身体が震えた。
おばあちゃん!!
おばあちゃん!!
心の中で、叫び続ける。
「…は、遥、助けて…」
呟くように言った後、私は遥に電話した。
その後、遥が、
私の家に来てくれた。
「…はぁ…ち、千歳さん!どうしました?」
私の様子が、おかしいと思ったのか、息を切らして走ってきたみたいだった。
「…う、遥、どうしよう…おばあちゃんが…ううっ……おばあちゃんが…」
遥の顔を見るなり、私は、その場で、泣き崩れた。
遥は、ゆっくりと私を抱き抱えてリビングへと、移動した。
「千歳さん、落ち着いて、話してください。」
私は、
涙を堪えながら、話した。
「…おばあちゃんが、倒れたって…さっき兄さんが…電話して来て…」
「…そう、ですか。」
遥は、表情を曇らせて、私の肩を抱き寄せた。
「…でも、命に、別状はない…みたいだし…明日、有給休暇使って…帰るよ。」
遥の胸に、
顔を埋めて答えた。
「オレも、一緒に行きましょうか?」
遥の温かい声音が、私の耳を掠める。
「…ありがとう。でも、父さんと兄さんがいるし…大丈夫だよ。」
「…わかりました。何かあったら、電話かメールをくださいね。」
「…ありがとう。」
遥の腕の中で、目を閉じながら、優しいぬくもりを、感じていた。
あんたが、いなかったら、冷静になれなかったと思うよ。だから、遥、ありがとうね…。
翌日。
朝イチで、吉原先輩に連絡を入れてから、家を出た。
一晩中、
私の傍にいてくれた遥は、途中まで一緒に駅まで来てくれた。
駅までくると、遥とは反対方向だったために、ここで別れた。
数時間後――
私は、おばあちゃんが入院する病院に来ていた。
「千歳、わざわざありがとうな。」
「…うん。大丈夫。会社の先輩に、理由をちゃんと言ったから。」
「…そうか。」
「…兄さんは?」
「千彰は、今日の始発で帰った。大事な会議が、あるらしい。」
「…そう。父さんは?仕事大丈夫なの?」
「ああ、今は、閑散期の時期だからな。溜まった有給休暇を使わないとな。」
「はは、私も一緒だよ。」
廊下を歩きながら、互いの近況を話す。
病室に入ると、ベッドに横たわっているおばあちゃんがいた。
近づくと、おばあちゃんは起きていた。
「…千歳?」
「…おばあちゃん。大丈夫なの?」
「ふふ。平気よ。」
にこやかな表情で、おばあちゃんは、起き上がった。
「疲労が溜まって、倒れたみたいだ。」
「そう。」
私は、
安堵のため息を吐いた。
「千歳、わざわざ東京から来てくれたの?ありがとうね。でも、仕事はちゃんとしないとダメよ?」
「うん、わかってるよ。でも、心配で、怖かったんだから!」
兄さんの電話の後、身体が震えたくらい怖かった。
でも、遥のおかげで落ち着いたんだ。
「ばあちゃんは、明日午前中に退院できるから、安心しなさい。」
父さんは、私の肩をポンとして、微笑んだ。
「…そっか。良かった。」
「だから、千歳は、今日中に東京に帰りなさい。」
おばあちゃんは、優しく私の手を握り締めた。
「…で、でも…」
「ダメよ。もう、大人なんだから、わがまま言わないでね。」
「…う、うん。」
おばあちゃんに、そう言われたら、帰るしかなった。
父さんが、駅まで送ってくれ、電車の時間待ちで、しばらく、駅前のカフェでお茶をしていた。
「…父さん、私、こっちに戻ってきたほうが、いいのかな?」
「…そこまで、考える必要はない。」
「で、でもさ、今回みたいなことがあると思うと…」
おばあちゃんを一人にするのは、心許ない。
「千歳、考えたんだが、ばあちゃんと一緒に住もうかと思っている。」
「…え?」
「お前には、向こうでの仕事と生活もあるだろう?ならば、私の家で一緒に住めば安心できるかと、思ってな…。」
父さんは、コーヒーカップを手にしながら、窓の外を眺めた。
「…あの町で、暮らすってことだよね。」
「うむ。そうだな。」
あの町で、おばあちゃんと父さんが一緒に住めば、私も安心して帰れる。
「おっと!そろそろ電車の時間だ。」
「うん。」
カフェを出て、私は、駅の改札口で父さんと別れた。
そして、その日のうちに、私は、帰京したのだった。
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