至福の時間。
ゴールデンウィーク2日目の朝――
有里家所有の母屋に、一泊させてもらい、昼からおばあちゃん家に帰ることに。
遥が、車で送ってくれるというので、朝イチで迎えに来てくれた。
「まだ時間があるので、ちょっと寄り道していいですか?」
「は?寄り道?どこ行くつもりよ!」
助手席に座り、
運転する遥に問いかけた。
「誰も知らない、オレだけが知ってる絶景スポットですよ。」
にこやかな表情で、運転する遥の横顔に、見惚れてしまった。
くっ…
昨日、あんなプロポーズみたいなこというから。
「千歳さん?」
「…え?」
「オレのことあまり見つめないでください。運転が、疎かになります。」
遥は、赤い顔しながら、そう答えた。
「…あ、えーと、ごめん。安全運転で宜しく!」
クスクスと笑う遥。
車は、徐々に、新緑の山あいを走る。
「あと少しで着きますよ。車では、行けないのでちょっと歩きます。」
「そう。もしかして、獣道を歩くとか?」
「ふっ、獣道ではないですよ。ちゃんとした山道はありますけど…足元に気をつけてください。」
車を道路脇に停め、エンジンを止めた。
車から降りると、一本の山道があった。
「遥、此処って、有里家の私有地だったりする?」
歩きながら、遥に問う。
「ふっ、そうですよ。よくわかりましたね。」
「わかるっていうか、この辺に、民家もなければ車も通ってないしさ。」
話ながら、歩いていると躓いた。
「…わぁー!」
「大丈夫ですか?」
遥は、
咄嗟に私を抱き止めた。
「…あ、ありがとう。」
「やはり、こうしたほうが早かったですね。」
遥は、
私の右手を握りしめた。
「…そ、そうね。」
照れくさくて、思わず強く握り返した。
しばらく歩くと、視界が広がってきて…
「うわぁ!」
私は、そこから見る壮大な景色に、声をあげていた。
「すごく綺麗な景色!」
じっと、その景色に見惚れていると…
「ふっ、気に入ってくれましたか?千歳さん。」
「うん!この町が、まるでジオラマみたい…」
子供のように、はしゃぐ私を見て、遥は私の肩を、抱き寄せた。
「また、転ぶと危ないですよ。」
耳元で、唇が触れるくらいに囁いてくる。
「…っ、遥!」
「この場所を見せたのは、貴女だけですよ。これからもずっと、二人だけの秘密の景色ですから。」
そういいながら、頬に軽くキスしてきた。
ああ!
こいつは、本当にどんだけ私をドキドキさせるのよ!
「…遥。」
お互いに、見つめ合いながら、どちらともなく唇を重ねた。
遥、大好き!
美しい風景が、嫉妬するくらいの甘いひとときに、幸福を感じた。
遥が、おばあちゃん家まで送ってくれた後、家には、先に父さんが来ていた。
「おかえり。千歳。」
「ただいま。」
「あら、千歳、帰ってたのね!おかえり!」
「おばあちゃん、ただいまー。元気にしてた?」
「はは、元気よ!そのうちまた、東京に遊びに行こうかしら?」
「うん!いつでも来て!」
あはは。
おばあちゃんが、元気で何よりだわ!
「私も、東京に行ってみたいが、時間が合わんな。」
「どうせ、父さんは、名古屋行きでしょ?」
「…いや、まぁ…お前も早く孫の顔を見せなさい。」
よく言うよ!遥と結婚させようと企んで、説得されたくせに…
「そうね。元気なうちに、曾孫の顔が、拝めると本望よね?」
「お、おばあちゃんまで、何言ってんの!」
ううっ。
おばあちゃんに、それ言われると辛いな。
「千歳、昼御飯食べてないわよね?」
「うん。お腹ペコペコ!」
笑いながら、食卓を囲む。
いつか、
遥と結婚できたらいいな。
はは。
あいつの営みを考えたら、子供は、2、3人くらいできそうよね。
心の中で、苦笑しながら、近い未来の行く末に、心弾ませる私だったのだ。
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