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懐かしき心の行く末に  作者: 西島夢穂
30/52

至福の時間。

ゴールデンウィーク2日目の朝――



有里家所有の母屋に、一泊させてもらい、昼からおばあちゃん家に帰ることに。


遥が、車で送ってくれるというので、朝イチで迎えに来てくれた。




「まだ時間があるので、ちょっと寄り道していいですか?」




「は?寄り道?どこ行くつもりよ!」




助手席に座り、

運転する遥に問いかけた。



「誰も知らない、オレだけが知ってる絶景スポットですよ。」




にこやかな表情で、運転する遥の横顔に、見惚れてしまった。



くっ…

昨日、あんなプロポーズみたいなこというから。




「千歳さん?」




「…え?」




「オレのことあまり見つめないでください。運転が、疎かになります。」




遥は、赤い顔しながら、そう答えた。




「…あ、えーと、ごめん。安全運転で宜しく!」




クスクスと笑う遥。

車は、徐々に、新緑の山あいを走る。




「あと少しで着きますよ。車では、行けないのでちょっと歩きます。」




「そう。もしかして、獣道を歩くとか?」




「ふっ、獣道ではないですよ。ちゃんとした山道はありますけど…足元に気をつけてください。」




車を道路脇に停め、エンジンを止めた。



車から降りると、一本の山道があった。




「遥、此処って、有里家の私有地だったりする?」




歩きながら、遥に問う。




「ふっ、そうですよ。よくわかりましたね。」




「わかるっていうか、この辺に、民家もなければ車も通ってないしさ。」




話ながら、歩いていると躓いた。




「…わぁー!」




「大丈夫ですか?」




遥は、

咄嗟に私を抱き止めた。




「…あ、ありがとう。」




「やはり、こうしたほうが早かったですね。」




遥は、

私の右手を握りしめた。




「…そ、そうね。」




照れくさくて、思わず強く握り返した。





しばらく歩くと、視界が広がってきて…




「うわぁ!」




私は、そこから見る壮大な景色に、声をあげていた。



「すごく綺麗な景色!」




じっと、その景色に見惚れていると…




「ふっ、気に入ってくれましたか?千歳さん。」




「うん!この町が、まるでジオラマみたい…」




子供のように、はしゃぐ私を見て、遥は私の肩を、抱き寄せた。




「また、転ぶと危ないですよ。」




耳元で、唇が触れるくらいに囁いてくる。




「…っ、遥!」




「この場所を見せたのは、貴女だけですよ。これからもずっと、二人だけの秘密の景色ですから。」




そういいながら、頬に軽くキスしてきた。



ああ!

こいつは、本当にどんだけ私をドキドキさせるのよ!



「…遥。」




お互いに、見つめ合いながら、どちらともなく唇を重ねた。




遥、大好き!



美しい風景が、嫉妬するくらいの甘いひとときに、幸福を感じた。






遥が、おばあちゃん家まで送ってくれた後、家には、先に父さんが来ていた。




「おかえり。千歳。」




「ただいま。」




「あら、千歳、帰ってたのね!おかえり!」




「おばあちゃん、ただいまー。元気にしてた?」




「はは、元気よ!そのうちまた、東京に遊びに行こうかしら?」




「うん!いつでも来て!」



あはは。

おばあちゃんが、元気で何よりだわ!




「私も、東京に行ってみたいが、時間が合わんな。」



「どうせ、父さんは、名古屋行きでしょ?」




「…いや、まぁ…お前も早く孫の顔を見せなさい。」



よく言うよ!遥と結婚させようと企んで、説得されたくせに…




「そうね。元気なうちに、曾孫の顔が、拝めると本望よね?」




「お、おばあちゃんまで、何言ってんの!」



ううっ。


おばあちゃんに、それ言われると辛いな。




「千歳、昼御飯食べてないわよね?」




「うん。お腹ペコペコ!」



笑いながら、食卓を囲む。


いつか、

遥と結婚できたらいいな。


はは。

あいつの営みを考えたら、子供は、2、3人くらいできそうよね。



心の中で、苦笑しながら、近い未来の行く末に、心弾ませる私だったのだ。






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