再び、遥の家にて…
遥に、手首を掴まれながら夜の街を歩く。
私の知っている有里遥は、まだ、子供だったのに…
なんだか、ヘンな感じ。
「…千歳さん、貴女の家まで送ります。」
「…それはいいけど、そろそろ手を離してほしいんだけど。」
「…あ、す、すみません。痛かったですか?」
遥は、申し訳なさそうに、ゆっくり手を離した。
遥が、店から連れ出してくれたおかげで、母親に対する嫌悪感が消えていた。
遥と一緒にいたら、思い出すかと思っていたけど…
不思議だなぁ。
「千歳さん。まだ、具合が悪いですか?」
「ううん。大丈夫!多分、店の空気が良くなかったのかもね。」
遥には、助けてもらってばかりだなぁ。
お坊っちゃんなのに、意外と面倒見がいい?
しかも、
5つも年上のアラサー女、相手に…
「…千歳さん。」
「ん?」
「少し、話しませんか?」
「…いいけど。何?改まってさ。」
「オレは、千歳さんに、話したいことが沢山あるんですよ。」
話したいこと?
しかも、沢山って。
なんなんだろう?
まさか、今までの失態の数々?
「しょうがないわね。この間の借りってことでいいかしらね。」
「いいですよ。その代わりお酒は、ダメですよ。」
「は?私、さっきの合コンでほとんど飲んでないし、お腹も減ってんだけど。」
「全く、元気になったとたんに、これですか。」
腕を組んで、ため息をつく遥は、いつもより穏やかに笑っていた。
その後――
「で?なんで、また、あんたの家なわけ?」
「仕方ないでしょう。貴女が、酒を飲むって言って、聞かないんですから。」
「別に、居酒屋でもいいでしょうが!!」
「貴女は、さっき、気分が悪くて休んでたでしょう。外だと、色々と面倒なんですよ。」
うっ!
確かにそうだけど…
「それに、千歳さんと二人で、落ち着いて話がしたいんですよ。」
いつにもまして、真剣な表情の遥に、これ以上は言えなかった。
一体、何の話?
缶ビールと軽いつまみを用意してくれた遥。
なんだかんだいいながら、私のわがままを、聞いてくれる。
はは。
どっちが、年上なんだか。
「遥はさ、付き合ってる彼女とかいないの?」
「…いたら、貴女を家に招いたりしませんよ。」
「あはは!そうだよね!あんた、イケメンのお坊っちゃんだからさ、モテるかなと思ったの!」
「千歳さん、酔ってます?なんだか、いつものテンションの3割増しに、なってる気がします。」
「酔ってないわよ。ビールくらいで、泥酔することないから。」
「ビールでも、飲み過ぎると悪酔いしますよ。」
「その時は、また、介抱してくれるんでしょ!」
冗談半分で、遥をからかったつもりだったのに…
「わかってないですね。」
遥は、私の頬に手を伸ばした。
「酔った女性は、無防備になるんですよ。オレも男なんで、今度は、襲うかもしれませんよ?」
見つめる視線が、妖しく色っぽく、頬に触れた手が、唇に移る。親指の腹でなぞる感触は更に、エロく厭らしい。
「こ、こらぁー!!遥ぁ!酔ってんのは、あんたのほうでしょ!」
ああ、びっくりした。
遥相手にドキドキが止まらない。
このお坊っちゃんめ!!
「フッ。顔が赤いですよ。ドキドキしましたか?」
「はーるーかぁー!!からかったなー!」
私は、遥の頭にグリグリと指の関節を立てた。
「…い、痛いですよ!」
「ふん。私をからかった罰じゃー!」
「こ、今度、泥酔するほど飲みたかったら、オレが、そばにいるときにしてください。」
「…は?何で?」
「この前、介抱したのが、オレで良かったと思ってください。」
「…うっ、それは、そうだけど…」
「オレは、貴女が心配なんですよ。さっきの店のこともあるから。」
俯いて答える遥の、
その声は少し、震えてた。
「……ありがとね、遥。あんたに、また、会えて良かったよ。」
俯く、遥の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「…オ、オレも会えて良かったです。もう…2度と会えないと思ってました。」
遥は、私の腕を取り、
ふわりと、抱き寄せた。
「…は、遥?」
「…す、すみません。暫くこのままでいさせてください。」
抱き締める腕が、若干、強くなった。
「…千歳さんに、言いたいことが沢山あるんです。」
「…うん。」
「聞いてくれますか?」
「うん、わかった。」
そして、ゆっくりと、
話を始める遥だった。
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