心強い先輩。
波乱の年末年始が終わり、通常の生活に戻った。
あの日、おばあちゃん家で1日過ごした後、遥とは、別々に帰京した。
今回の年末年始は、色んなことがありすぎてかなり疲れた。
師範と父さんの企み、十数年ぶりに、会いたくなかった母が帰ってきたり…
あと、遥が私を好きだということを知って、母の話をした時、傍にいて慰めてくれたりして…。
そんなことがあって以来、遥に、惹かれはじめている自分がいた。
けれど、遥の将来を考えると、好きになってもいつかは離ればなれになる。
そう思うと、不安が拭えないんだな。
あいつは、私を甘やかすほど好きかもしれないけど…わかってんのかね。
一人で考えるより、誰かに相談しようと考えた。
週末の金曜日、久々に、吉原先輩と食事することになった。
「あんたから、食事を誘うなんて滅多にないけど、男絡みとみた!」
吉原先輩は、私を見据えて答えた。
「はは、やっぱ、先輩には敵いませんね。」
「ふん!何年、先輩やってると思ってんのよ!」
笑いながら、
私は、遥のことを話した。
「へぇ。千歳にそんな過去があったのね。そのお坊っちゃんの初恋が、あんたで大人になって再会して、また好きになったと?」
「はい。大人になった彼に最初は戸惑いましたけど、会う回数が増えていくにつれ、懐かしさゆえ、傍にいることが、当たり前になっていました。」
「けどさ、そのお坊っちゃんが鈍感って言ったのわかるわね。かなりのサインが出てたってことよ?」
「確かに、そうなんですけど、私の記憶の中では、子供の頃の彼だったので。」
一緒にいて、不思議とあの頃と同じように喋ってたんだよね。
からかい甲斐があって、頭を撫でる癖まで、当時のまま自然と…
「…惹かれているのは、事実ですけど、このままお互い好きであっても、いずれ別れる時がくると思うと、このままでいいのかと。」
「その彼に、カレカノになっても長続きしないこと、聞いたの?」
いつになく、真剣な眼差しで問いかける吉原先輩に、私は、首を振る。
「まだ好きだと彼には、言ってません。」
好きだと認めてしまえば、遥とずっと一緒にいたいと願ってしまう。
「はぁ。難儀ね。でも、言わないよりも、今の自分の思いを全て、その彼に言ってから答えを出した方が、いいと思うわ。」
「そうでしょうか?」
「悪いけど、元カレの時とは、全然思いが違うでしょ?それだけ大切な存在だってことを、あんたもわかっているはずよ。」
「そう、かもしれないですね。だからこそ、失うのが怖いんですよね。」
「その時は、私が、慰めてあげるわ。そんで、また合コンやってやるからさ!だから、ちゃんと彼と、向き合いなさい!」
笑顔の吉原先輩に、頭を撫でられた。
あはは!
先輩に相談して良かった。
こうやって、恋愛の相談事は聞いてもらってはいたけれど、ほとんどが彼氏の愚痴ばかりだったしね。
こんな真剣な話をしたのは初めてかも。
私にとって、遥の存在は、いつの間にか大きくなっていたということなんだ。
5つ年下のお坊っちゃんにときめくなんて…
あの頃の私は、思ってもみなかっただろうね。
「千歳は、気づいてないかもしれないけど、最近、表情が柔らかくなったわよ。きっと、そのお坊っちゃんのおかげよね。」
吉原先輩は、ウィンクしながら茶化した。
「そ、そうですかね?」
照れながらも、嬉しいと思った。
「全く!赤い顔しちゃってさ!可愛いヤツ!」
入社して以来の仲だけど…こういう時、すごく心強いと思う。
吉原先輩、
ありがとうございます。
それから、先輩と別れて、スマホを手にして遥に、電話をした。
2回のコールで、
彼は出た。
『もしもし?千歳さん?』
「遥、今から会えない?」
『え?は、はい!いいですよ。今どこですか?』
あはは。
嬉しそうな声しちゃって!
やっぱ、こいつの声聞くと落ち着くな。
思った以上に、私も好きになってるみたい。
「あんたの家から、5つくらい手前の駅にいるから、すぐ行けるわ。」
『わかりました。駅まで迎えに行きます。』
「うん。ありがとう。」
こうして、
私は、自分の正直な思いを遥に伝える為に、駅に向かって歩き出したのだった。
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