合コンの誘い。
黒沢千歳、28歳。
先日、私の失態で、15年ぶりに再会した有里遥――
当時、子供だった遥が、いつの間にかイケメン男子に変わっていた――
酔いつぶれた私を介抱した挙げ句の再会。
5歳も下の昔なじみのお坊っちゃんに、醜態を見せてしまったことは、なんとも複雑な気持ちだ。
まぁ、28年も生きていると色んなことがあるわけで。
その後、遥に散々別れた彼氏の愚痴を聞かせた。
遥は、さぞ、呆れていただろうなぁ。
案の定…
『千歳さんは、男を見る目がないんですよ。』
キッパリ言われた。
5歳下のお坊っちゃんに。
否定はしないけど。
今まで付き合ってきた彼氏は、大抵、浮気するヤツばっかだったから、仕方ないかもしれない。
そんなことがあり、帰り際に遥とメアド交換した。
『何かあったら、連絡して下さい。それと、あまり飲み過ぎないように!』
『あんたは、おかんか!』
『貴女を心配しているだけですよ。』
そんな掛け合いをしながらも、遥の言葉が、嬉しかったのは事実で…
しばらく会わないうちに、いい男に育ったもんだ。
数日後――
仕事をしていると、先輩社員の吉原さんに呼ばれた。
「千歳、明日の金曜日、合コン行くわよ!」
「合コン?」
「あんた、彼氏に振られて飲み捲ってたらしいじゃないの!」
「あ、あははは!」
彼氏に振られて、飲んだくれてたのは、事実だけど…
つーか、忘れてた。
遥と、再会したことのほうがインパクト強かったし。
「まぁ、気持ちはわかるけどさ。とにかく、次、いくわよ!彩香に頼んでおいたから。」
「わかりました。」
そうよ!次よ!次!!
今度こそ、浮気しない男を見定めてやるわ!
そして、金曜日。
とある洒落た居酒屋で、合コンは、行われた。
相手の男性陣は、30代前半の男性ばかりだった。
しかも、大手企業のリーマンやテレビ局の社員等、働く男ばかりで、来て良かったと思った。
「黒沢さんは、大学からこっちに?」
「はい。とにかく地元から出たかったもんで。」
いい雰囲気の中、大手企業のリーマンを相手に愛想を振り撒く。
「僕は、こっちにきたのが高校生の時で、いわゆる、親の離婚ってヤツで仕方なくですが…」
「わかります!私も、親の離婚で祖母の家にいたんですよね。」
「そうなんですか!なんか黒沢さんとは、気が合いそうだな。」
「ホントですね!」
そう!
これなんだよ。気が合うのが1番なのよね〜
元カレは、実家暮らしの苦労知らずだったし。仕事は転々と変わってたしなぁ。
あの遥だって、お坊っちゃんだけど、一人暮らしして働いてるのに…
何で、今まで、ろくなヤツばっかり好きになったのかしらね。
でも、
これで過去の男たちとは、おさらばよ!
「僕は、いま、母親と一緒に暮らしてまして。今まで苦労かけた分、親孝行しようと思っているんです。」
「そうなんですね。親孝行なんて、素敵ですね。」
親孝行か。
母子家庭に、育った環境ならそう思うのは普通か。
自立した男の人では、あるだろうし、苦労もしてる。
この人と結婚する人は、幸せになれるかもね。
ふと、頭の中で、
母親の言葉が過る――
『千歳は、あの人に似て、可愛気がないわ!』
こんな話をしたせいで…
嫌なこと、思い出してしまった。
「……す、すみません。ちょっと、化粧室に行ってきますね。」
「あ、はい。どうぞ。」
その男の人は、微笑み、了承してくれた。
化粧室から出た私は、近くにある長椅子に腰かけた。
なんか、気分悪いな。お酒は、ほとんど飲んでなかったのに…
「…はぁ。」
最近、母親のこと忘れていたのにな。胸くそ悪い!
頭クラクラしてきた。このまま、帰ろうかな?
吉原先輩に、メールを送っておこう!
「千歳さん?」
「え?」
見上げると、有里遥が突っ立っていた。
「また、飲み過ぎたんですか?あれほど、忠告したのに学習しない人ですね。」
「…………。」
ヤバい。遥の顔みたら、なんか…泣きそうに…
いや!年下のお坊っちゃんに、涙を見せるとか、ダサいし!ダメダメ!
「遥!あんた、ここでなにしてんの!」
「何って、友人と久々に会ってたんですよ。」
「あっそ!友人ね〜。色気ないわね。」
「……何かありました?元気がないですね。」
くそ!泣きそうな気分を、悟られたくない。振り払うかの如く、いつもの掛け合いで誤魔化した。
「私は、いつも元気だっつーの!バーカ!」
「…そうですか。それで、貴女は、ここで何しているんですか?」
「ただの合コンよ!」
「……そのわりには、冴えない顔ですね。」
「う、うるさいわね。…私だって…具合が悪くなる時くらい…あるわよ。」
思わず目を逸らし、俯いてしまった。
「……だったら、帰りますよ!」
遥は、私の手首を掴んだ。そのまま、歩き出して、店を出た。
「…ち、ちょっと!遥!」
掴んだ手首は、思った以上に強い力だった。
無言の遥をチラっと見るとそこには、あの頃の面影はなかった。
強く掴まれたこの手首は、なぜだか、とても、温かい気がしたのだ。
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