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懐かしき心の行く末に  作者: 西島夢穂
19/52

母親の帰還

大晦日――


私は、おばあちゃん家に来ていた。


正月用の重箱に、出来たおかずを入れていく。




「千歳、あとは、頼んでいいかしら?」




「うん。」




おばあちゃんは、突き立てのお餅を丸めていた。


昔は、臼で突いていたらしいけど、今は、電気でできるものがあるから、世の中便利になったものね。




「おーい。門松と締め飾りの準備出来たぞ。」




父さんが、台所にやってきておばあちゃんに言う。




「源一郎さん、ありがと。男手があると助かるわ。」



源一郎――


父の名だ。


何でも、亡くなった父さんの父親…つまり、おじいちゃんが気に入って付けた名前らしいけど…詳しくは、

知らない。




「千歳も、お茶にしましょう。干し柿が余ったから、食べてね。」




「うん。ありがとう。」




湯飲みを片手に、時計を見上げた。




15時過ぎか…


遥のやつ、そういえば、今日は、中学の同級生と会うって言ってたな…。




昨日の朝――




『千歳さんは、明日、おばあさんの家に行かれるんですね。』




『うん。あんたは?家の手伝いとかすんの?』




『いえ、明日は中学の同級生と久し振りに会います。去年は、こっちに帰って来なかったので…。』




『そうなの?毎年、帰っているのかと思っていた。』



『はは、去年は、インフルエンザで最悪の年末だったんですよ。』




『マジで?そりゃ最悪だったわね。』




『インフルエンザだというのに、母さんが心配して来てくれましたね。』




母屋からの帰り、車の中で普通に話せてた。



遥の気持ちに、私は答えられるのか…わかんない。



あいつが、ずっと私の傍にいてくれるなんて、そんなことあるわけないしね。



それくらい、遥に甘えていたんだと思う。




お正月の準備が、一段落してから、テレビから流れる特番を見ながらのゆっくりと過ごした。



ズキッ!



ん?


頭痛いな。


一昨日から、睡眠不足だったからね。今日は、早く寝よう…。



「千歳、千彰に会ったそうだな。」



向かい側に、座っていた父さんが、突然、話かけてきた。




「え?ああ、向こうでね。日帰り出張だったみたいで私の会社に来て、びっくりしたわよ。」




「そうか。」




父は、昨日から、師範との企みについては一切、聞いてこなかった。



遥が、どんな説得をしたのかわからないけど、何も言わないなら、敢えて、聞く必要もなかった。




「千歳、お風呂が沸いたから先に入りなさい。」




おばあちゃんが、傍に来て促してくれた。




「うん。」





のんびりお風呂に入り、髪をドライヤーで乾かしていると、リビングのほうが騒がしかった。



なんだろう?


誰か来たのかな?


まさか、遥?



いやいや、だから、おばあちゃん家知らないって!

イチイチ期待して…どうすんのよ!



服に着替えて、リビングに来るとそこには…



今、一番会いたくない人が目の前にいた。




「あら、千歳?久し振り。大きくなったわね。」




「…な、何で、いんの?」



「何でって、自分の実家に戻ってきて悪いの?」




十数年、会うこともなかった母親がそこにいた。




「祥子、今さら、家に帰って来て何のつもりだい?」



「酷い言われようね。年末だから帰ってきただけよ。悪い?」



「…悪いわよ!勝手に出ていったくせに…今さら、おばあちゃん家に帰ってくるなんて、ふざけないで!」



怒りまかせに、母親の腕を引っ張った。




「千歳…」




父さんが、私を止めに入った。すると、クスクスと笑いながら母親が、言った。



「相変わらず、乱暴なコ。誰に似たのかしら?そんな可愛いげがないから、結婚もできないのよ!」




母親の言葉に、おばあちゃんが怒る。




「祥子!そんな言い方はないでしょ!千歳だって、これから幸せになるのよ!あんたに言われる筋合いないはずよ!」




「母さんも、毒されてるわよね。元旦那と娘にいいように使われて。気持ち悪いのよ!」




「…帰ってよ!何食わぬ顔で戻ってきて、あんたなんかに、私たちの苦労がわかってたまるか!」




私は、拳を握り締めながら足早に、自分の部屋に戻った。



くそ!くそ!くそ!


十数年経っても、全然変わってない!


よく、この家に帰ってこられたもんね!



私は、

急いで荷物をまとめた。


あの人と、

一緒にいたくない。



父さんとおばあちゃんには悪いけど…。



荷物をまとめ、身支度していると、ノックがした。


外から、父さんの声が聞こえた。




「千歳、嫌なら、私の家に帰ってなさい。」




「……うん。」




ドアを開けて、父さんから家の鍵を、預かった。



玄関で、靴を履いているとおばあちゃんが、風呂敷に包んだものを渡した。




「さっき、作ったお節が、入っているから食べてね。…千歳、すまないね。せっかく来てくれたのに…」




おばあちゃんは、ため息をついて、額に手を当てた。



「おばあちゃんは、悪くないよ。…じゃあ、また来るね。」




そう言って、背を向けて、家を出たのだった。




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