遥の片思い
なんだかんだ、考えているうちに、朝になっていた。
あーあ。
一睡もできなかったじゃないのよ!バカ遥!!
服に着替えて、顔を洗う。
ええーい!
バシッ!
気合いを入れるために、自分の頬を叩いた。
遥が、私を好きなのは、わかったけど…
私自身、何も変わらない。
でも、凄く嬉しいと思ってしまった。
あ、ヤベ!
また、顔が赤い…
鏡に映る私は、恋する乙女のように赤かった。
恋する乙女って!
私じゃなくて…遥が私を好きなだけで…
「ううっ、遥に会ったらメチャクチャ気まずい。」
♪〜♪〜
スマホからの着信音にドキッとした。
画面を見ると、父さんからのメールだった。
『昨夜は、すまなかった。とにかく帰って来い。一人で大掃除出来んのでな。
明日、ばあちゃん家に行ってゆっくり過ごそう。』
「…父さん。」
堅苦しいメールの内容に、笑みをこぼした。
遥が、昨夜、色々話してくれたんだな。
さすがは、跡取り息子だけあってしっかりしてるわ。
私も、ちゃんとしないと。
遥の気持ちを、真摯に受け止めて…。
うーん。
でも、昨夜の結論であってんのかな?
ただの自意識過剰じゃないよね。
昨日の大きな居間に、移動しながら、父さんに返信した。
すると、玄関からドアを開ける音がした。
遥!!
内心、ドキドキしながら、待っていると…。
足音が、別の方向で止まった。
あれ?
だ、誰?
ゆっくりと、襖越しに廊下を見渡すと台所から、遥が出てきた。
「…なんだ、遥かぁ。びっくりした!!」
「あ 、千歳さん、おはようございます。朝食を貰い受けたので、一緒に食べましょう。」
「…朝食?」
「はい、昨日、管理しているご夫婦に頼んでおいたんですよ。」
「…へ、へぇ。」
グゥ〜
感心していると、急に、お腹が鳴った。
「くっ、朝食貰ってきて正解でしたね!」
笑いを堪える遥に、思わず睨み返した。
「う、うるさいわね。お腹ぐらい減るわよ。」
「そうですね。オレも、お腹減りました。」
微笑む遥に、キュンとして恥ずかしさを誤魔化すように台所へと入った。
「いい匂い!なんか、旅館の朝食みたいね。」
「そうですか?普通だと思いますけど。」
「そ、そう?」
遥の視線を逃れるように、食事の中身を覗き込んだ。
「…千歳さん、さっきから何故、オレのこと見ないんです?」
ドキリとした、私は、振り向かずそのまま、立ち尽くしていた。
「…べ、別に…」
後ろから、
ため息が聞こえた。
「…昨夜のこと、まだ怒ってるんですか?」
「…怒ってないよ。」
「じゃあ、何故、目を合わせてくれないんですか?」
遥は、私の腕を取り、無理やり振り向かせた。
やばい。
今、絶対、顔が赤い。
「……!」
私は、恥ずかしさのあまり昨夜の結論を口にした。
「は、遥って、私のこと好きなの?」
「…っ!」
「どうなの?違うの?父さんと師範の企みは、わからなかったけど、あんたの気持ちには、気づいた!」
「…やっと、気づいてくれましたか。そうです。オレは、また貴女を好きになりました。」
「…またって…あんた、女見る目ないわね。」
両手を取られたまま、そっと、遥は、抱きしめた。
「…ちょっと!」
「…千歳さんだから、もう一度恋をしたんですよ。言ったでしょう?貴女は、オレの心を動かすって…。」
遥の心臓が、私以上にドキドキと鳴っている。
私を強く抱きしめたのち、ふいうちで、軽くキスをしてきた。
「…っ!」
遥の気持ちは、わかったけど、私の気持ちがイマイチよくわかんないんだよ。
それでもいいの?
「…ち、ちょっと…いきなり何すんのよ!」
勢いよく、遥の体を押し退けた。
「…オレの気持ちを知って貰えたごほうびですよ。」
遥は、ニコニコしながら、悪びれた様子もない顔で答える。
「何がご褒美だ!朝から暴走してんじゃないわよ!」
遥の頬をおもいっきり、つねった。
「…ひひゃいへふ。」
「いーい!あんたの気持ちはわかったけど、私は今までと同じで、変わらないのよ!」
「はい。それは、散々、思い知らされているので…」
やれやれ。ホントにこいつは、油断も隙もない。平気で、ギュッとしてきたり、キスしたり…
触り過ぎだつーの!
「…はぁ。とりあえず、ご飯食べようか。せっかく、作って貰ったんだし。」
「そうですね。」
穏やかに微笑む、遥。
でもね、
私を好きでいてくれるのは嬉しいけど…
あの屋敷の跡取り息子が、私を好きになっても、
いつか、離ればなれになる時が来る…。
ずっと、
あんたの傍にいたいけど、そんなこと安易に言えないんだよ。
わかってんの?
遥…。
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