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懐かしき心の行く末に  作者: 西島夢穂
14/52

不安な夜

帰って来た。


けど…


久しぶりの父さん家は、思った以上に汚かった。



我慢出来ずに、帰って早々に、掃除を始めた。




「全く、男の一人暮らしだからって、ここまで汚いと体に良くないわよ。」




「そ、そうか?仕事してるとついつい掃除することを忘れる。」




「いい加減、再婚でもしたら?誰かいないの?」




「ははは。こんな年寄り誰が相手にしてくれんだ?」



「…まぁ、父さんがいいなら構わないけどさ。けど、掃除くらいはしてよね。」



「お、おう。」




まぁ、あの人と一緒にいた頃は全然、家事しなかったからね。仕方ないっちゃ仕方ないけど…



最近の、若い男子の一人暮らしだって、ちゃんと家事するからね。


お坊っちゃんの遥も、ちゃんと家事して、部屋もキレイにしてる。




それから、掃除を一段落させた後、夕食をとった。




「お前は、いい人いないのか?そんな男がいるなら、早く連れて来い。」




あはは、始まったよ。

お盆休みに会った時は、彼氏がいるって、言ったけど今は、お一人様ですから。



「そんな男いたら、いち早く連れてくるし。今は、いないってこと。」




「彼氏がいたんじゃなかったか?」




「とっくに別れたわ。」




やれやれ。

こういう話したら、しつこいんだよね。この親父…。



「…なんなら、縁談の話があるぞ。どうだ?」



「いらないわよ。暫く、恋愛はお休み。」




まぁ、最近は、遥と会ってアホな話したり、飲んだくれたりしてるけどさ。



ヘタな男と付き合うより、昔なじみの遥と一緒に遊んでるほうが楽しいわ!




「そういや、有里遥くん覚えてるか?」




突然、遥の話をふられて、吹き出しそうになった。




「…え?えーと…」




遥には、父さんには言わないほうがいいみたいな感じがしたし…




「遥くんも、向こうで働いているみたいだな。」




「へ、へぇ。お坊っちゃんだったんじゃないの?」




「向こうで働いて、時期がきたら、こっちに戻ってくるみたいだ。有里のじいさんが言ってた。」




有里のじいさん…

つまり、師範のことよね。



「父さん、師範とよく会ってんの?」




「ん?ああ、あのじいさんは、俺の師匠だからな。」



「は?そんな話聞いたことないけど…」




ヤバいな。あの師範と父さんが師弟関係って…



つーか、あいつ、ちゃんと言いなさいよね。




「遥くんが、何れ、この町に帰って来て、あの屋敷を継ぎ、結婚して子供を授かるとなると実に、感慨深いな。」




ズキッ…



何?


今…すごく胸の奥で痛みを感じた。




「千歳?どうした?」




「え?べ、別に…」




いつまでも、私と一緒にいれるわけない。そんなことわかっているのに…



でも、


実際、人の口から言われるとなんか、ツラいというかモヤモヤする。



その時、スマホから着信音がなった。



画面をみると、遥からだった。




「…父さん、ちょっとごめん。」




頷く父は、気にせず食事を続けた。



急いで、2階の私の部屋に入ってから…




「遥?どうしたのよ!」




『ち、千歳さん、逃げてください!』




「…は?」




『祖父が、貴女の家に行ったみたいです!』




「げっ!マジで?」




ピンポーン!!




「……む、無理みたい。今…師範が、来たかも。」




『…っ!オレもすぐそちらに行きます!!』




慌て果てた遥は、いきなり電話を切った。



ああ!!

どうしよう!!



万事休す、だー!




「おーい、千歳、降りて来い。師範が来られたぞ。」



ううっ!やっぱり…

怒やされる!



私は、はい、と言って一階に降りた。


恐る恐る、リビングに入ると、ソファーにガタイのいい年老いた男性がいた。


白髪が増えたみたいだけど間違いなく、師範だ。



私に気付いた師範が、ニコリと笑った。




「ははは!久しぶりだな。千歳ちゃん!随分とべっぴんさんになったな!」




「ご、ご無沙汰しております。師範。」




「はは、実はね、千歳ちゃんに折り入ってお願いしたいことがあってな!」



か、変わってねぇ!

マシンガンの如く、次々に喋ってくるところ…


鮮明に思い出したよ。



「…え、えーと…お願いとは、何ですか?」




若干、声が震えながらも、笑顔で対応するしか出来なかった。




「黒沢、あの話をしても構わんな!」




「はい。後は、千歳の返答次第ですが…」




私の返答次第って、どういうこと?父さんまで一緒になって!



こ、これは、自分から謝ったほうが身のためだ!




「師範!すいません!15年前に勝手にいなくなって、遥のこと、泣かして、傷つけて…だから…その…あの頃は、子どもで…」



私は、ペラペラとまくし立て頭を下げて、謝った。




だけど…




「千歳ちゃん、遥のこと覚えてくれていたのか?」




師範は、目を丸くして、呆然としながら答えた。



げっ!

マズい!


遥のこと言ってしまった!!


すると…



ピンポーン!!



家のインターホンが、やたらと、大きく聞こえた。




もしかして…遥?


た、助かった!!




年末のくそ忙しい時期…



静かなはずのこの家は、何故か、騒がしい夜の始まりを迎えるのでした。




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