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懐かしき心の行く末に  作者: 西島夢穂
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懐かしの町へ

遥の意味深な発言に、不安と恐怖を抱えながらあの町にどんどん近づいてきた。


乗り換えの駅から、2両編成の電車に乗り込んだ。




「へぇ。この電車、おばあちゃん家の駅で終点なんだなぁ。結構、遠いけど…」



「そうですか?意外とあの町から近いですよ。」




「え?そうなの?」




「はい。電車なら、20分くらいで着きます。車だと、40分は掛かりますけど。」



電車の中の、地図を見ながら遥と並んで座る。




「父さんは、いつも車でおばあちゃん家に来てたからわからなかったわ。」




「…このへんも、帰る度、変わって来てます。」




遥は、じっと、車窓の外を見ながら答える。




「…駅に着いたら父さんが車で、迎えに来るけど、遥も一緒に乗ってく?」




「…ありがたいんですけどさっきの話もあるので。」



遥は、苦笑しながら言う。

よくわかんないけど、こいつも大変だな。




「千歳さんのお父さんとはよくお会いしましたよ。」



「そうなの?」




「はい。…だから、貴女と一緒にいると…勘違いされるのではないかと…」




気遣いな言葉に、私も苦笑するしかなかった。


勘違いか。

私と遥なら、そんなふうには見えないと思うけど…




「そういえばさ、遥のお母さんに、夕食誘われたことあったんだよね。」




「……母に、聞いたことあります。」




「え?そうなの?」




「はい。あの頃、千歳さんは、道場が終わってから、近くの公園でいつも素振りをしていたと…。」




「ははは。なんか、恥ずかしいな。」




たぶん、父さんが仕事から帰ってくるまで、公園にいたんだと思う。



あの人と別居中だったし。兄さんも高校受験で、塾通いだったから、誰も家にいなかったんだよね。




「オレは、あの頃、ただ練習していたとしか思ってなかったです。今思えば、違ったんですよね。」




肩を落として、しょんぼりする遥の背中に…



バシッ!




「…千歳さん…痛いです。何するんですか?」




「何で、あんたが落ち込むのよ。もう、過去の話でしょうが!」




「…は、はい。」




遥は、キョトンとした顔で私を見ていた。




「今は、もういい大人よ!あの頃のように自由がきかない子供じゃないわよ!」



私は、興奮気味に答えた。



「…そうですね。」




遥は、クスクスと笑い、私の肩に頭を乗せてきた。




「こら!遥、電車の中よ。何、甘えてんのよ!」




「…千歳さん、今の貴女もやはり、オレの心を動かすみたいですね。」




「そりゃ、有難いことで嬉しゅうございますわ。お坊っちゃん!」




「もしかして、千歳さん、怒ってますか?」



遥は、肩から頭を離して、私の顔を覗き込んできた。



「何よ?」




「千歳さん、顔が赤いですけど大丈夫ですか?」




「ふん!うるさいわね。怒りで顔が赤いだけよ。」




遥は、嬉しそうに私の手を握り締めた。




「あんたは、スキンシップが好きね。ちょっと、私に触り過ぎよ!」




「誤解を招くようなこと言わないでください。」




「…誤解されたくなかったら、離してよ。」




「…イヤですよ。貴女が迷子にならないように、捕まえとかないと。」




「…何さ、迷子って。子供じゃないってーの!お坊っちゃん!」




バカ遥!

あんたが、私のために落ち込んでくれたことは、嬉しかったし、私が、発破かけたら笑って甘えてくるし。


心を動かされているのは、私のほうよ!



遥の傍にいると、くすぐったい気持ちになるのよ…。


あの町に着くからなのかわからないけど…


これだけは言える。


遥と一緒にここに来れて良かったよ。




「千歳さん、オレは、次の駅で降ります。貴女は、この駅で降りてください。」



「え?…ああ、そうだったわね…。」




遥と、ここで、しばしのお別れか…寂しいけど…


まぁ、仕方ないか。

遥との約束事もあるし…。

握られた手を離し、キャリーバッグに持ち変えた。




「んじゃ!また、向こうに帰ったらね。」




「はい。何か困ったことがあったら、いつでも連絡してください。」




「うん!ありがとう!」




ドアが開いて、

私は、懐かしの町へと足を踏み入れた。






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