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懐かしき心の行く末に  作者: 西島夢穂
12/52

出発の日

12月29日――



あの町に帰る当日。

遥との待ち合わせ場所である駅に到着していた。



結局、クリスマスイブは、遥が予約していた店で、クリスマスディナーを堪能して、帰り道にイルミネーションを見て回った。



まぁ、ここまでは、よかったんだけど…



イルミネーションを見たせいで、私のクリスマス気分が一気に加速し、飲み足りないと言い出した。



その後、遥ん家でどっちが酒に強いかを、競い合い、シャンパンをがぶ飲みして二人とも、知らないうちにグダグダになって寝てしまった。



次の日は、案の定、二日酔いになった。


幸い休日だったため、その日はおとなしくして1日が終わった。

なんとも、色気のないクリスマスイブだった。


やっぱり、

こうなるんだよね…。



私はともかく、遥まで巻き込んで…年上の私が、こんなんじゃダメだろーがぁ!


遥に、我が儘ばっかり言って甘えてんなぁ。



私の大バカもの!!




「すみません。お待たせしました。」




駆け寄ってくる遥に、お疲れ様と言い、荷物の少なさに目を見張る…。




「遥、荷物って、それだけなの?」




「…はい。実家に帰るだけなので、ほとんど持っていくものはないですね。」




「なるほどね…。」




男って、必要なものなんて少ないわよね。羨ましく思ってしまう。




「じゃあ、行きましょう。電車の時間に遅れます。」



遥と私は、急いで、

自動改札機を通る。




電車に乗り込み、指定された席を確認して腰を下ろした。遥は、自然と私を窓側の席を促した。




「…ありがとう。」




「そのキャリーバッグも、上の棚に置けますね。」




ひょいと、軽く持ち上げて棚に置く遥の姿に思わず、見とれてしまった。




「どうかしましたか?」




「え?いや、あんたのスマートさに感心してたのよ。なかなか、そこまでやれる男って少ないし…さ。」




「…そうですか?でも、貴女にそう思ってもらえるなら、嬉しいですよ。」



穏やかに笑う遥は、いつもの倍は、男らしく見える。

時々、見せる男の顔に、

ドキッとさせられる。


こいつは、おそらく素だよなぁ。女としたら、一番たちが悪いんだよねぇ。




「……あの、千歳さん。」



「ん?何?」




「貴女にお願いがあるんですが…。」




「お願い?」




「はい。…あの町に着いたら、ウチの屋敷には、近づかないでください。」




「はぁ?何で?」




「…あと、祖父には、絶対に会わないでください。」



「…はぁ?意味がわからないんだけど…?」




困惑した表情の遥は、頬杖ついて、目を逸らした。



ちょっと、待ってよ!

私…何かした?



あ!


15年前のことで、あの師範が怒っているとか?



まさか…。

でも、それしか思い浮かばない!!




「な、なんか、こ、怖いんだけど…?」




「…大丈夫です。幸い、正月に祖父母と両親は、海外旅行に行くので。」




「海外旅行?あんたは、行かないの?」




「オレは、仕事があるのでこっちに残ります。大晦日におばあさんの家に行くまで、辛抱してください。」



「…ううっ…怖い。なんでこんなことに…」




「すみません。今は、理由を言えませんが、いつか、詳しく説明します。」




「…遥?」



俯いて、いつになく困った感オーラが滲み出ていた。


ううっ、めちゃくちゃ不安になってきたじゃんよ!



私の心情を察したのか、遥は、私の手の上に手を重ねた。




「心配しないでください。オレは、貴女の気持ちを最優先します。」




「…はぁ?何それ…。」




どういう意味?


そう言いたかったけど、言い留まった。



遥ん家は、あの町では、由緒正しい名家だと、父さんが子供の頃に言っていた記憶がある。



だから、唯一の跡取り息子である遥を子供の頃とはいえ、傷つけた…。



マジか?

あの師範、15年前のこと根にもってんのかよ!




「…あの、千歳さん。顔が若干…怖いです。」



「はぁ?怖いのは、こっちだっつーの!!」




「た、多分、貴女が思っているようなことでは…ないと思いますが…。」




「だから、意味がわかんないってのよ!」




半分八つ当たりで、遥の肩をボコボコと叩いてた…。



一体…。

私が何をしたというの?



あんな昔のこと持ち出されても、私だって子供だったんだから…



ホントは、あの町で父さんと兄さんと一緒にずっと、居たかった。




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