出発の日
12月29日――
あの町に帰る当日。
遥との待ち合わせ場所である駅に到着していた。
結局、クリスマスイブは、遥が予約していた店で、クリスマスディナーを堪能して、帰り道にイルミネーションを見て回った。
まぁ、ここまでは、よかったんだけど…
イルミネーションを見たせいで、私のクリスマス気分が一気に加速し、飲み足りないと言い出した。
その後、遥ん家でどっちが酒に強いかを、競い合い、シャンパンをがぶ飲みして二人とも、知らないうちにグダグダになって寝てしまった。
次の日は、案の定、二日酔いになった。
幸い休日だったため、その日はおとなしくして1日が終わった。
なんとも、色気のないクリスマスイブだった。
やっぱり、
こうなるんだよね…。
私はともかく、遥まで巻き込んで…年上の私が、こんなんじゃダメだろーがぁ!
遥に、我が儘ばっかり言って甘えてんなぁ。
私の大バカもの!!
「すみません。お待たせしました。」
駆け寄ってくる遥に、お疲れ様と言い、荷物の少なさに目を見張る…。
「遥、荷物って、それだけなの?」
「…はい。実家に帰るだけなので、ほとんど持っていくものはないですね。」
「なるほどね…。」
男って、必要なものなんて少ないわよね。羨ましく思ってしまう。
「じゃあ、行きましょう。電車の時間に遅れます。」
遥と私は、急いで、
自動改札機を通る。
電車に乗り込み、指定された席を確認して腰を下ろした。遥は、自然と私を窓側の席を促した。
「…ありがとう。」
「そのキャリーバッグも、上の棚に置けますね。」
ひょいと、軽く持ち上げて棚に置く遥の姿に思わず、見とれてしまった。
「どうかしましたか?」
「え?いや、あんたのスマートさに感心してたのよ。なかなか、そこまでやれる男って少ないし…さ。」
「…そうですか?でも、貴女にそう思ってもらえるなら、嬉しいですよ。」
穏やかに笑う遥は、いつもの倍は、男らしく見える。
時々、見せる男の顔に、
ドキッとさせられる。
こいつは、おそらく素だよなぁ。女としたら、一番たちが悪いんだよねぇ。
「……あの、千歳さん。」
「ん?何?」
「貴女にお願いがあるんですが…。」
「お願い?」
「はい。…あの町に着いたら、ウチの屋敷には、近づかないでください。」
「はぁ?何で?」
「…あと、祖父には、絶対に会わないでください。」
「…はぁ?意味がわからないんだけど…?」
困惑した表情の遥は、頬杖ついて、目を逸らした。
ちょっと、待ってよ!
私…何かした?
あ!
15年前のことで、あの師範が怒っているとか?
まさか…。
でも、それしか思い浮かばない!!
「な、なんか、こ、怖いんだけど…?」
「…大丈夫です。幸い、正月に祖父母と両親は、海外旅行に行くので。」
「海外旅行?あんたは、行かないの?」
「オレは、仕事があるのでこっちに残ります。大晦日におばあさんの家に行くまで、辛抱してください。」
「…ううっ…怖い。なんでこんなことに…」
「すみません。今は、理由を言えませんが、いつか、詳しく説明します。」
「…遥?」
俯いて、いつになく困った感オーラが滲み出ていた。
ううっ、めちゃくちゃ不安になってきたじゃんよ!
私の心情を察したのか、遥は、私の手の上に手を重ねた。
「心配しないでください。オレは、貴女の気持ちを最優先します。」
「…はぁ?何それ…。」
どういう意味?
そう言いたかったけど、言い留まった。
遥ん家は、あの町では、由緒正しい名家だと、父さんが子供の頃に言っていた記憶がある。
だから、唯一の跡取り息子である遥を子供の頃とはいえ、傷つけた…。
マジか?
あの師範、15年前のこと根にもってんのかよ!
「…あの、千歳さん。顔が若干…怖いです。」
「はぁ?怖いのは、こっちだっつーの!!」
「た、多分、貴女が思っているようなことでは…ないと思いますが…。」
「だから、意味がわかんないってのよ!」
半分八つ当たりで、遥の肩をボコボコと叩いてた…。
一体…。
私が何をしたというの?
あんな昔のこと持ち出されても、私だって子供だったんだから…
ホントは、あの町で父さんと兄さんと一緒にずっと、居たかった。
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