年末の予定
遥と年末年始に、あの町に帰ることになった。
互いの都合に合わせて、予定を組んだ。
「千歳さんは、29日から休みなんですね。」
「そうよ。遥は?」
「実は、29日の午前までなんですよね。」
そう言いながら、口を尖らせていた。
遥が、風邪を拗らせて以来何度か遥の家に、来るようになった。
お互い、あの町に帰るという目的のために、自然とここに来ていた。
「千歳さん、29日の午後からになりますけど、大丈夫ですか?」
「私は、いいけど、あんたは大丈夫なの?仕事終わってからなんて…」
「大丈夫ですよ。仕事というより、大掃除なんで…」
「そう?じゃ、15時くらいの電車にする?それとも、30日の朝でもいいし?」
遥の頭をポンポンしながら宥めた。
「…わかりました。オレの我が儘で、すみません。」
「我が儘じゃないでしょ?仕事してる社会人は、皆一緒なんだからさ。」
「…はい。」
「そういうとこは、まだ若い証拠だね。私も入社して1年目なんて、ブーブー言ってたわ!」
「フッ…なんだか少し、想像できますね。」
「うるさいわね!」
ムッとして、
遥の頭を軽く叩いた。
頭を押さえながら、スマホで、電車の時刻表を確認している。
「15時分の電車なら、指定席ありますね。これでいいですか?」
「うん。よろしく!」
素早く、慣れた手つきで、スマホを動かす遥。
さすが、若いからスムーズにするなぁ。
「予約できました。後は、乗り換えて、普通列車しかないので、指定はいらないです。」
「ありがとう。…あ!」
「どうしました?」
「あのさ、行きはさ、遥と待ち合わせて行くけど…帰りは、別々になるわ。」
「…え?あの町で年越しするんじゃないんですか?」
首を傾げて、不思議そうに私を見る。
「大晦日に、おばあちゃん家に父さんと帰ることになっててさ。ごめん、遥。」
「…ああ。おばあさん家に毎年、帰ってると言ってましたね。」
遥は、
納得したように微笑んだ。
「あはは!いい歳して、おばあちゃん家に帰るとか笑えるけどさ。」
「そんなことないです。千歳さんにとって、大切な場所なんでしょう?」
「…うん。そうだね。」
おばあちゃんは、ずっと、私を助けてくれた。
母親が、出て行っても…
私の成長を見守ってくれていた。だから、恩返しのつもりなんだ。
遥に、大切な場所って言われてすごく嬉しいわ。
「…千歳さん、その代わりクリスマスイブの日を、空けといてください。」
「え?クリスマスイブ?」
「はい。貴女がよければですが。」クリスマスイブか。
今まで、ろくな思い出でしかなかったな。元カレにしろ、その前の彼氏にしろ…
ドタキャンされたり、他の女と付き合うとかで振られたり。
ほとんど、一人でいたような気がする。
「千歳さん?」
テーブルに肘をついて、問いかけてくる遥に、我に返った。
「…いいわよ。どうせ、一人だし。」
「いいんですか?ありがとうございます!」
嬉しそうに笑う遥は、どことなく、あの頃の面影が残っていた。
「…じゃあ、待ち合わせの時間ですが…」
24日の予定まで、決まってしまった。
こいつは、本当にこれでいいのかしらね?私といてもつまらないと思うけど…
「遥はさ、他のコたちとクリパしたりしないの?」
「…特に、何も予定はないですよ。オレも、その日は一人なんで…」
「…若いのに、もっと遊びなさいよ。いずれ、あの屋敷を継ぐにしてもさ、人と関わり合うことも必要だと思うけどね。」
「充分、人との関わりは、していますよ。」
「そう?でも、クリスマスくらい女の子と過ごすのも悪くないと思うけど。」
「…だから、千歳さんと過ごすんじゃないですか。」
「いや〜私と過ごすって、酒飲んで羽目はずして、また、泥酔して迷惑かけるのがオチよ!」
「言ったでしょう。酒を浴びるほど飲みたいなら、オレが傍にいるときにしてほしいと…」
やれやれ。
それ言われるとなーんも言えないじゃないのさ!
「言っとくけど、Hは無しだからね!」
「……ええ…まぁ…そうですね。」
視線を逸らして、曖昧な返事する遥。
「何?その間は。ヤりたいってか!」
「そ、そんなこと言ってないでしょう!」
遥は、みるみる顔が、真っ赤になっていた。
「だいたい、ヤってもいいっていったら、自己犠牲だのと拒否ったのあんたでしょうが!」
「それは、そうですけど…オレも男なんで、約束はできないですよ。」
「酒を飲んだら、わからんってか!この変態お坊っちゃんが!」
「千歳さんも、同じじゃないですか!」
ギャーギャーと、
私と遥の掛け合いは、大人になっても変わることはなくて、
再会した時よりも、なんとなく距離が、近くなった気がする。
だってさ…
この雰囲気が、めちゃくちゃ居心地が良くて、本当の自分でいられるような気がするんだ。
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