失態の再会。
はじめまして。
今回、初の連載ということでかなり緊張して書かせてもらっています。
稚拙な部分もあるかと思いますが、何卒、宜しくお願いします。
†
私、黒沢千歳、28歳。
人生最大の失態です!
目覚めると下着のままで、ベッドにいた。
あちゃー!
やってしまった!
見渡すと知らない部屋にいました…とさ。
「アハハハ!」
いや、笑い事じゃないし!一人ボケ突っ込みをしていると…
「おはようございます。」
上半身裸で、濡れた髪をタオルで拭きながら、
見知らぬ男が、声をかけてきた。
「!!……昨夜……は……一体………っ!」
頭痛い。
の、飲みすぎた!
昨夜の記憶がない!
「…シャワー使っていいですよ。話は、その後でも構わないので。」
その男は、短い黒髪にスラッとした背の高さで、自分よりも若く見えた。
ああ!とうとう、
年下の男を相手に…
息を吐き、
ベッドから降りた。
「……お言葉に甘えてシャワーいただきます。」
数分後――
浴室から出た私は、ソファーに凭れ、ペットボトルの水を飲んでいたその男に、昨夜のことを聞いた。
「昨夜…ベロベロに酔ってて…もしかしてあんたと…ヤった?」
私は、その男に尋ねた。
「……貴女が自分で服を脱いでしまったのは、事実ですけど。」
「……マジで?」
私は、額に手を当てた。
やっぱりな。
いくら酔っていたとはいえ見知らぬ男と一夜を共にするとか…
ああ、
自分自身が情けない。
「でも、オレは、何もしてないですよ。」
「は?」
「服を脱いだら、ソッコーで爆睡してましたし。」
「……マ、マジで、何もしなかったわけ?」
「ええ。男の名前をうわ言のように言って、涙を流していたら、何も出来ないでしょう?」
あ…
そうか、私、彼氏に振られて1人バーで飲みまくってたんだ、確か。
でも…
「なんで、見ず知らずの私を介抱したわけ?」
「見ず知らずですか。オレは、貴女を知ってますけどね。千歳さん。」
「え?」
今、私の名前を…
どこかで、会ったことがあるの?
私は、じっと、彼を見つめた。
うーん!
思い出せない!
「ゴメン!誰だっけ?」
「最初はオレも、わからなかったです。貴女が、酔った勢いで、自分の名前を言ってくれたおかげで、すぐに気付きましたけど。」
酔い潰れて、知らない男に自分の名前言うとか、私って、アホすぎるでしょ!
「い、色んな意味で…なんか、ゴメン。」
「…まぁ、ムリもないですね。千歳さんと最後に会ったのは、15年前の夏だったから。」
「じゅ、15年前!!」
「はい。同じ剣道の道場に通っていたんですよ。」
「…剣道…?」
ちょっと待って!
確かに、子供の頃に父親の薦めでやっていたけれど…同じ剣道道場でよく喋っていた子っていっぱいいたけども…
そんな昔のことなど、覚えているわけもなく…
悩んでいると、
「……ヒントは、師範の孫で三丁目の屋敷に住んでました。」
師範の孫?
………?
あ!
もしかして…!
「……遥?……有里遥!」
「ご名答です!」
その微笑む表情は、何となく懐かしい感じがした。
「…嘘!マジで、有里遥?大きくなったね〜」
子供だった遥が、眩しいくらいに成長していて、私の背を追い越していた。
しかも、
こんなイケメンに育っていたなんて…
「貴女は、今でも、オレを子供扱いするんですね。まぁ、仕方ないですかね。」
ため息をつき、呆れる遥。
だって、15年前のことだからほとんどうる覚えだし。でも…
「遥、その喋り方は、今も変わらないね。」
「そうですか?」
「まぁ、仕方ないか。あんたは、お坊っちゃんだし。3丁目の屋敷も、何となく思い出したわ。」
「……オレのことは、忘れていたくせに、何言ってるんですか。」
「しょうがないじゃん。子供の頃の記憶と今では全然違うってーの!」
「……そう、ですね。」
遥のその表情は、どこか切なさを帯びていた。
やっぱ、覚えてなかったことがそんなにショックだったのか?
そんな顔されると言い返せなくなってしまった。
いたたまれなくなった私は話題を変えた。
「そ、そういえば、ここってあんたの家だよね。」
「…はい。こっちの大学に進学して一人暮らしを始めました。」
「へぇ。よくあのおじいちゃんが許したね。可愛いがられてたのに。」
「特に、反対されたことはないですよ。寧ろ、自活しろと言われてました。」
「そうなの?なんか意外。お坊っちゃんは、どこに行っても、使用人が付いてくるもんだと思った。」
「失礼ですね。オレは、もう大人です。家柄は関係ないと思いますけど。」
少し、膨れっ面の遥が、なんとも可愛くて…
つい、笑ってしまった。
「あはは!」
「…わ、笑わないでください。本当に貴女は、人をからかうところ、今でも変わらないですね。」
顔を赤らめて、反論する遥を見て、あの頃の記憶が、ボンヤリと蘇るのだった。
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