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―剣喰―ソードイーター  作者: 蟻村 和希
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オークの首領Ⅱ

 ユーニとルーナ、ジェクトの三人が知り合って数日が経ったある日、ジェクトの提案でダンジョンに三人は挑戦することとなる。

 あれから三人で行動する機会が多少増えたが、ジェクトはとあることを気にかけていた。それはルーナも同様だったが、行動に移したのはジェクトであった。


〈エイデンの森〉、帝都フィレクシアの南方にあるこの森は、鬱蒼と茂る草木で昼間でも地上に日の光が届かない。出てくるモンスターは植物系と動物系、そして半獣半人系が多く、数体同時に戦闘となることが多い。レベルの低いプレイヤーでは一対多の戦いになったときに、使用できるスキルの少なさやステータスの低さで苦戦しやすい。

 エンカウントの概念は無い。随所を歩き回るモンスターは、プレイヤーを発見すれば即戦闘態勢に入り近づいてくる。見つからないように進めばある程度は戦闘は避けられるし、戦闘になってとしても逃げることは可能だ。しかし緑の迷路のようなフィールドと、一度に多数出現するモンスターも相まって避けられない戦闘の方が多い。

 推奨レベルは20を軽く超える。


 現在8体のモンスターに囲まれていた。

 体高は1メートル50を有に超え、頭から尾まで3メートルほどもある巨大な狼型モンスター≪エイデンウルフ≫。一概に大型犬の中でも極めて大きいとされるグレートデンやアイリッシュ・ウルフハウンドでも、エイデンウルフと並べばまるで子供だ。その巨体でありながら運動能力は極めて高く、ディレイ(次の行動までの待機時間)の短い攻撃スキルを得意としている。それが四体

 プレイヤーの倍の体躯があり、剣と盾を持ち剣士系のスキルを使用してくる緑色の鱗を纏った半獣半人系≪リザードマン≫が三体。そして1メートルはあろうかという巨大な毒々しい紫色のキノコの姿をした≪エイデンマッシュルーム≫が一体。

 狼はプレイヤーを翻弄し、トカゲ男はその火力で狼の攻撃の間を埋めてくる。

 キノコはその傘から放出される胞子で、プレイヤーの能力を下降修正してくるため厄介だ。


 正直まだここに来るのは早かったとジェクトは思っていた。

 推奨レベルに達していないヒーラーを有するこのパーティ。パーティの継続戦闘力を決めるのがヒーラーだということを知っていた彼は、言いだしっぺが自分でなければ早々に切り上げたほうがよかったと思っていた。


 それは当のヒーラー、ルーナも思っていた。

 取り立てて攻撃力は高くないはずの狼の一撃が体力の三分の一を持っていく。

 二発喰らうと視界の左端に見える体力ゲージが真っ赤に光り、目の前の景色から色が抜け落ち、目がかすんでいくように薄暗くなっていく。

 音は消えていき、うるさいほどに強調された心臓の鼓動だけが聴覚を支配する。

 まさに死を彷彿とさせる演出。


 判断を間違え、回復を怠る。敵との位置取りを考えずに近づく。

 魔法の詠唱時間を考えずに唱え、行動できずに敵の攻撃を受ける。

 一瞬の判断ミスが死に直結する。

 第一、ダンジョンなどは可能な限り推奨レベルに達している最大人数のパーティで挑むものだ。パーティの最大人数はダンジョンやクエストによって異なるが、ここ〈エイデンの森〉なら六人。自分たちは三人。半分だ。

 しかし、それでも森の最深部付近まで来ることができたのは、この剣士、ユーニのおかげだった。


「任せろ!」


 ユーニが剣を地面にたたきつける。剣は大きな音を立て砂埃を上げる。


 下位剣スキル≪挑発≫


 攻撃力は無いが、敵の注意を完全に自分に向けるスキル。

 本来ならば≪挑発≫を行うのは剣士系スキルを修めていった防御力、体力の高いプレイヤー。そのプレイヤーがモンスターの注意――ヘイト――を一身に引き付けることで、ほかのプレイヤーが安全に戦闘を展開できるようになる。

 敵の注意が一人に集中しているため、ヒーラーは安定して回復、バフ魔法をそれにかけることができ、遠距離型プレイヤーなら自分に攻撃が来る心配がなく、固定砲台として活躍できる。

 今のユーニたちのパーティならば、ジェクトも剣士系スキルを重点的に解放しているはずなので、その役割を交互に行いユーニを援護することもできるのだが。


 ――ユーニたちは違う。


「おらあ!」


 挑発に当てられたモンスターたちが一同に襲い掛かる。それを剣を引くように中段後方に構え待ちかまえる。モンスターたちの怒りに呼応するように、剣は赤色のエフェクトを帯びて明滅する。

 直後、モンスター群が射程距離に入ると、ユーニは声を出し剣を横なぎに振り切った。

 

 中位剣スキル≪不動一閃≫


 自分に向けられたモンスターの敵意――ヘイト――の数に比例して威力を上げる範囲攻撃剣スキル。

 薄い赤い光の軌跡を描きながら、剣は数体のモンスターの腹部を直撃した。

 モンスターたちの腹部に浮き上がる横一線の赤い線――ヒットエフェクト――。一瞬時間が止まったようにモンスターたちが硬直したかと思うと、次の瞬間ヒットエフェクトからめくれ上がるように膨張し爆散した。

 この時、狼一体とキノコ一体を残した六匹のモンスターが一度に消滅している。

 ダメージは狼の最大体力のおよそ20倍の数値をたたき出していた。


 後二体。

 ユーニは雨を受けるように片手の手のひらを目の前に出した。

 一瞬手のひらが光ると、光の中から生まれるように二本の小ぶりな剣が出現する。


 ≪ステータスコンバート/剣≫


 ユーニが発動したのは自分のステータスの一部を、所持したことのある刀剣カテゴリの武器へと変換するスキル。

 ユーニは自分の攻撃力のうちのいくつかを、二本のダガーへと変換した。


 ≪ダガースロウ≫


 そしてユーニは刀剣カテゴリの武器を投擲するスキルを発動する。

 片手に出現した二本のダガーを両手に持ち、敵に投げつけた。

 またもや敵は一撃で消滅する。

 ダガースロウは、所持品の中の装備していない刀剣を投擲するスキル。確率で投げた剣は壊れて――ロストして――しまうが、遠距離攻撃スキルのない剣士プレイヤーが手段の一つとして習得することは多い。

 ≪ダガースロウ≫のダメージは投げた剣の攻撃力に依存するため、ロストするリスクも考えそこまで高い攻撃力の剣が使われることはない。あくまでけん制だ。

 しかし、ユーニのそれはそれのみで主力となるほどの威力である。

 他のプレイヤーのダガースロウをピストルの9ミリ弾頭だとするならば、ユーニのダガースロウはいわば対戦車砲の40ミリ榴弾。それほど威力に差がある。

 まず敵が出てきたら≪挑発≫により敵を集める。そして高威力の範囲スキルによる一掃。仕損じた場合残党をどの距離でも対応できるスキルで殲滅。


 ユーニたち、いや、――ユーニの戦い方は一体多戦闘の完成形であった。


「な、なんにもすることないやあ」


 ルーナはため息を出す。

 ルーナの一回の魔法の詠唱時間とほぼ同じ時間で一度の戦闘を終わらせる。

 すでに何度も見た戦い方だが、毎回息を飲むほどだった。


「やっぱ強い人と一緒にすると楽だわ。 レベルが違うとこうも違うのかな」


 ただただ関心するジェクトは知らなかった。

 ユーニと自分の差がレベルでしかないと、そう思っていた。


「ユーニさんは特別なんですよねー。 でもほんとに楽だけどいいのかなあ。 私なんにもしてないのにもうレベル4つくらい上がってるもん」


 悩むように顔を傾けルーナが言う。

 怪訝(けげん)な面持ちなのは、それと加えてユーニの戦い方が味方の存在を計算に入れてないワンマンプレイに近いものを感じたからでもある。

 ユーニは時折表現しがたい表情を見せるときがある。頭痛を我慢するような、何か考え込むような、それはこの戦い方に結びつく何かがあるのだろうかと思ったりはしたが、尋ねることは叶わなかった。

 

 それに気楽そうな面持ちでジェクトは答える。


「いいんじゃね? 大体の初心者とかはそうやってMMOの基礎とか知るんだから」


 ジェクトは自分をエンジョイ勢だと自称する。楽しめればそれでいいのだと。なのでいくつかのダンジョンやクエストで見たユーニの絶対的な能力値についても言及しなかった。



「そういえば、なんでここに?」


 ルーナが聞いた。


「いやあ」


 と答えたのはジェクトであった。


「ここのボスがドロップするアイテムが強い剣の素材に必要になるみたいだから、今のうちに行きたいなって」

「ユーニさんがいる間に?」

「まあね」


 二人は笑う。

 知り合った時、そのいでたちから自分と同じくらい、もしかしたら自分よりも初心者だと思っていた剣士は、蓋を開けてみれば相当の実力者だった。少し引っ込み思案かと思うくらい口数は少なかったが、それはまだ自分たちに慣れていないためだと思ったジェクトは、たびたびユーニを誘うようになった。

 今回だって、自分が欲しいものがあるとは言ったものの、本当の目的はほかにある。


 

 帝都フィレクシアなどの大人数のプレイヤーが同時に入れるできるエリアを〈拠点エリア〉や〈街〉などと称し、このモンスターが出現するその他のエリアを〈インスタンスエリア〉や〈ダンジョン〉などと称することが多い。

 このインスタンスエリア内では侵入できるプレイヤー数や一個あたりのパーティ人数というのに制限がある。

 そしてこのエリアには総じて最深部には〈ボスモンスター〉と呼ばれる強力なモンスターが設置されている。

 それはここ〈エイデンの森〉も例外ではない。

 この森のモンスターたちを力だけで屈服させ、この森の頂点に君臨したといわれる、オークの首領がこの先にいるのだ。


「そろそろだと思う」


 ジェクトが言った。


「話で聞いたのだと、巨大な戦斧を持つオークらしい。推奨レベルに達するレベルとステータスでもその攻撃の重さから、同じレベル帯のボスと比較しても頭一個分抜けた難しさだってよ。 でもユーニがいれば大丈夫だろうな!」


 そう続けた。


 いつの間にかあたりの風景が少し変わっていた。

 木々の間をうねるように進んでいたと思ったら、まるで人の手によりならされたような太い一本道を走っていた。

 それはけもの道と呼ばれるものだった。

 ただその太さ?いや道幅が広かった。

 けもの道というのは、道なき道を動物たちが周期的に歩くことにより徐々に草木が踏まれ、ならされ、天然の歩道のようになったものだったはずだ。

 しかし今我々が走り抜けようとしている場所はどうだろう。

 三人が横一列になってもまだ余裕があるだろうという幅だ。

 リアルなら車一台が通れそうなほどの広さがある。


 それが本当にけもの道であるとするのならば、どれほど巨大な生物が歩いた後なのだろうか、ジェクトは自分たちが走っている道を見ながら唾をのむ。

 数分、一切モンスターと出会わない時間が続いた。

 そしてようやくそのけもの道を抜けると、広い場所にでた。

 これも人為的につくられたのかと思うほど綺麗に整地されているようだった。

 サッカー場、そこまではいかないか、しかしそれほど広い緑の広場だった。

 ところどころに人間よりも大きな岩が転がっていたり、大木が横たわっていたが、そのほかにはこれと言って珍しいものはなかった。


 あるとすれば、食べかす。

 しかしそれは、人間が食事をしてそのままにしているとか、そんな生易しいものではない。巨大な草食動物と思われる生き物の上半身だけが転がっていたり、(あるじ)の解らない巨大な骨が転がっていたりと、おおよそ知性のある生物の食事後とは到底思えなかった。

 ルーナはそれを目にして少し寒気を感じて、すぐに目をそらす。

 三人はその広場の中央まで足を運んだ。


「どうやらついたようだな」


 ジェクトが言った。


「気をつけろよ。 これまでとはわけが違う。 ルーナは距離をとって回復魔法の準備とバフの用意。ジェクトは遊撃、難しいと思うけど頼む」


 ユーニが言った。

 ユーニが今から出てくる者の情報を知っているかは解らないが、これまでのモンスターの群れとの戦闘みたいに上手くはいかないとその表情は語っていた。

 今までのモンスターは、ユーニが一撃で倒せるほどの体力だったからいいものの。ボスとなればそうはいかないだろう。間違いなく自分たちも攻撃を受ける可能性がある。

 

 二人は真剣な顔でコクリとうなずいた。

 


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