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63幕 虐殺と思念

 いつも読んで頂きありがとうございます。

 そして本当に申し訳ございません。

 誠に勝手ながら、『第60幕』でありました主人公ノエル・アルフオートの成長(身長の伸びなど)を無かった事にさせて下さい。(現在は修正後の第60幕を置いております)本当は主人公を成長させ、その下りをもっと掘り下げていくつもりだったのですが、ロリじゃなくなった途端モチベーションが落ちてしまい、続きがまったく書けなくなってしまいました。

 いつも読んで頂いている方には本当に申し訳ないと思っているのですが、ノエルは今後も銀髪ロリ少女という設定で行かせて下さい。今後の展開も小さいままという設定で進めさせて頂きます。今後大きくさせる予定もありません。本当に申し訳ありません。






 動かなくなったフェードルの身体に、一角獣(ユニコーン)は襲い掛かる。おそらく先程の一角兎(アルミラージ)と同じように踏み潰すつもりだったのだろう。


「――っ、風よ!」


 しかし俺は今度こそ間に合わせる事が出来た。魔法の射程に入ったのだ。風の刃が、一角獣(ユニコーン)の身体を横一線に真っ二つに裂いた。思考主を失った一角獣の下半身は、そのまま足をもつれさせ、フェードルに辿り着く前に倒れて、動かなくなった。


「っ! フェードルっ!」


 目の前の魔獣が絶命したのを理解するなり、プリシラは慌ててフェードルに駆け寄る。その顔は涙と獣の血でぐちゃぐちゃになっていた。


(良かった。まだ生きてる……!)


 俺も、フェードルの元へと駆け寄る。気を失っているようだが、彼女から感じる魔素量に変動は無い。一角獣(ユニコーン)に突進された時に、ツノが刺さらなかったのは幸いだった。頭こそ打っていたので脳震盪などは心配だったが、血も流れている様子もない。すぐに命を落とすという事もなさそうだった。


「フェードル! フェードルっ! なぁ、目ぇ覚ましてぇな!」


「ゆすっちゃ駄目だ、シーラ!」


 と俺は叫ぶ。プリシラの身体がびくりと震える。叫んだことを反省して、少しだけ声を抑えて問う。


「……治癒魔法は遣える?」


「少しだけ、やったら……」と彼女は頷く。


「じゃあ、フェードルを頼むよ」


 そう言って、俺は周囲を警戒する。先程の攻撃で、他の一角獣(ユニコーン)達の視線と敵意がこちらへと向いていた。


(さっきの一頭の感じだと、多分、いけると思う。後ろの2人を護りながらにはなるけど……でも……それよりも……)


 俺は嫌な予感を覚えていた。


 一角獣(ユニコーン)は至龍と同じように、知性のある生物だ。獰猛なので、こうして人前に現れれば、話などは通じる事もなくなり、厄介な存在となる。しかしそれでもわざわざ自分達から人里へとやってくる事などは無いはずだ。1頭が迷い込んだというのならわかる。しかし、30頭が一度にやってくるなど、普通に考えて有り得ない。


(食料不足でここへ来た……? いや、それなら殺した魔獣達を食べないのはおかしい。そもそも食べるそぶりさえ見せない……これはもしかして……)


 これと同じような状況を、俺は知っている。


「……」


 アクサムの村で、森の一眼巨人(モノアイギガンテス)と対峙した時だ。あの時の彼らも、ただ破壊衝動に駆られていただけで、食料を目的としていなかった。


 加えて、興奮している一角獣(ユニコーン)達の眼は血走っている。普通の一角獣を知らないけれども、それにしてはあまりに血走り過ぎているように思えてしまう。瞳孔が開きっぱなしで、息があまりにも荒く、口からは涎が出ている。


(呪術判定液を持っていれば確認できるのに……)


 作ってはいたものの、学内でそんな物を使う機会が訪れるとも思わず、持ち歩く事もない。


 一角獣(ユニコーン)達は聖獣だ。呪術にかかる可能性は低い。それはわかっている。しかしそれでも、狂血呪術(バーサク・カース)にかかっているという可能性を考えずにはいられない。もし、呪術にかかっているとすれば、それはもうどうしようもない事だ。ただでさえ獰猛な一角獣(ユニコーン)が、更に見境無くして人を襲う。被害が大きくなる前に対処しなければならない。


 加えて一角獣(ユニコーン)達からは魔素というモノをまったく感じる事が出来なかった。同じ聖獣の至龍であるマカロンは、尋常ではない量の魔素を放ち存在感を示しているのだ。一角獣達は魔力の強い生き物のはずである。本来であれば、校内に一角獣(ユニコーン)のような存在が近づけば、その時点で教員達は皆気付いていたハズである。一角獣が自らの魔素を隠して行動する習性があるという話など、俺は聞いた事がない。


 その事も、アクサムの村の状況と似ている。巨人の1人が、魔素封じの鉱石を持っていたのを思い出す。一角獣(ユニコーン)達もその可能性がある。だとすれば、呪術にかかっているという前提で動いた方が良いだろう。


(あの時と同じ人間がこの状況を作っているのか……? でも、誰が? なんの為に?)


 そうした思考は、襲い掛かってくる一角獣(ユニコーン)によって遮られる。


(考えるのは後だ。とにかく今は、一角獣(ユニコーン)を止めなきゃいけない。もし本当に狂血呪術(バーサク・カース)にかかっているのなら、もう殺すしか方法はないんだから……)


 この学園に来てから、それなりの書物にあたってきたつもりだ。しかしどの文献にあたっても、狂血呪術(バーサク・カース)を解呪する方法という記述はなかった。巨人と対峙した時にスバルが言ったように、『かかった時点でもう死んでいる』のと同じ事なのだ。


「――風よ。――炎よ」


 俺は勢いよく走ってくる一角獣(ユニコーン)を風の力で紙一重で避ける。そのような戦い方は、スバルとの稽古で身に着けたものだ。擦れ違い様に炎で作り出した槍を馬の身体に突き刺す。槍は体内の血液や細胞を一瞬にして沸騰させ、身体の内部から蒸発させていく。一角獣(ユニコーン)の身体は膨れ上がり、そのまま爆発するように身体を四散させた。


 飛び散った血が俺の顔にかかった時、ふとどこからか声が聞こえた。


『ありがとう』


「……え?」


 唐突に聞こえた声に、困惑する。


(なんだ……今の声……)


 困惑しても、手をとめる事は出来ない。次にこちらへと向かってくる一角獣(ユニコーン)の脚を凍らせる。凍らせた四本の脚を風の刃で胴体から切り離す。達磨状態になって、動くことの出来なくなった一角獣(ユニコーン)の首を、氷の刃で刎ね跳ばす。


『すまない、乙女よ』


 先程とはまた違う声が聞こえた。まるで直接俺の中にその声は届くかのような声だ。


 突進してくる魔物を、水で作り出した網で捕獲し、走ってくるもう1頭に投げつける。あまりの質量がぶつかった事に気絶した2頭を、炎で焼き払う。


『多くの被害が出る前に、我々を止めてくれて良かった』


『これでやっと、呪術の苦しみから解放される』


 それが俺の殺した一角獣(ユニコーン)達の送る思念なのだという事に気付いた。それは呪術から解き放たれた、狂う事から解放された彼らの声だった。彼らは間違いなく、呪術にかかっているのだ。


 戦闘はあまりに一方的な物となった。一角獣(ユニコーン)と俺の間にははっきりとした力の差があって、いつの間にか状況は、為す術のない一角獣達を俺が虐殺する形になっていた。一角獣達を殺すたびに、彼らの思念が俺の中に飛んでくる。


『我が森を襲ったあの男を、絶対に許せない』


『母さん……』


『これでやっと、あの呪術から解放される……』


 彼らは本当はこんな事をしたくない。わざわざ人間を襲いたくない。殺されたくもない。まだ生きていたい。しかし呪術に犯された体は破壊衝動に抗う事が出来ない。そんなむき出しの感情が、彼らの後悔の念が、一匹一匹殺す毎に、俺の中へと流れてくる。


(……なんなんだ、これは)


 俺は混乱しながらも、次々に一角獣(ユニコーン)を殺していく。残り2頭となった一角獣(ユニコーン)のうち1頭を、風の圧力で押しつぶした。彼らは皆、狂血呪術(バーサク・カース)によって狂化されているだけなのだ。彼らを殺したくは無い。しかし、殺さなければ被害が出てしまう。それに、そのまま放置していても、彼らはやがて死んでしまうのだ。俺に出来る事は、苦しまず、一瞬で命を奪うやり方だった。


『あの男を……あの男を……』


 その1頭の命が消えた時、その言葉と共に、頭の中に、ある映像が流れてくる。それが一角獣(ユニコーン)の見た記憶だというのはすぐにわかった。ある1人の男の映像だ。


 フードをかぶった、背の低い男。顔はよく見えないものの、下卑た表情で笑う輪郭は男の物で、唇の下に大きな黒子があった。その男が、何かを唱えた。その瞬間、一角獣(ユニコーン)の見ている視界が一気に曇って行く。きっとそれが、呪術にかけられたという事だろう。


(……今の映像……)


 映像はそこでぷつりと途切れてしまった。あまりにも情報量不足な映像だった。それだけでは何もわからない。まだ知りたい事はあったが、もう2度と、その一角獣(ユニコーン)から思念が送られてくる事はない。まだ情報が必要だった。だが、その情報を得る為には、残った一角獣(ユニコーン)を殺さなければいけないという事なのだろう。


 しかし、俺は残った一角獣(ユニコーン)を殺す事も、情報を得る事も出来なかった。


「……え?」


 どさり、と音を立ててその巨体が倒れる。その身体は痙攣している。誰も、何もしていない。その1頭がひとりでに倒れたのだ。やがて一角獣は苦しそうに最期の一鳴きをした後、動かなくなった。絶命したのだ。





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