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チートな人生を引き継いだ俺が、本当にやりたい事  作者: frrr
4章 夏季休暇と唐突な小旅行
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55幕 夏季休暇前と唐突な誘い





 その後、皆で食事をとる。相変わらずフェードルは俺にはつっけんどんな態度だったけれども、それでもプリシラが間に入ってくれた事でなんとか会話にはなった。2人と別れた後、俺はいつもそうするように、図書館へと足が伸びていた。プリシラとの会話で出た一角兎(アルミラージ)の生態系についての本を読むつもりで、生物の本がある棚へと向かった。そこにはアレックスがいた。本当に、彼は図書館の中であればどこにでもいるようだった。一体彼はどれくらいの読書量と知識を有しているのか。


「こんにちは、アルフオートさん」


 と彼は俺に気付いて言った。


 彼の表情には色が戻っていた。むしろ、前よりも生き生きとすらしているように思える。


「こんにちは、ブルームフィールドさん」と俺は言う。「ブルームフィールドさんは、ご実家に帰らないんですか?」


「んー、あと3日程したら帰る予定、かな。夏季休暇前に、どうしても読んでおきたい本がいくつかあってね。それだけ読んだら帰る予定なんだ。本当は帰りたくないんだけど、一応、帰れる時は帰って来いと言われてしまって」


 と言って、手に取っていた本を俺に見せながら満面の笑みを見せる。


(……良かった。もうすっかり立ち直ってくれてるみたいだ)


 『通り道(ゲート)』を開いた後はどうなるかと心配していたものの、数日もしない内に、彼はまた図書館へと戻ってきていた。曰く『どんなに魔力が低いとしても、可能性があるなら出来る限り足掻いてみるよ』との事だった。スバルの言うように彼への心配が杞憂に終わった事を知り、俺はほっとした。


 実技試験のテストでは『物持ち上げ』は出来ず、授業で唯一の落第者となったものの、彼は落ち込んでいる様子もなく、むしろ晴れ晴れとした表情になっていた。『あとどれくらい魔力があれば「物持ち上げ」が出来るかわかったのが嬉しい』のだと後で教えて貰った。勿論それまでの道のりは遥か遠く、『物持ち上げ』以前に、花瓶を少しでも動かせるようにならなければいけないのだが。


「つい先日、父上と手紙でやりとりしてね、少なくともあと2年はこのままでいていいって言って貰えたんだよ」


「そうなんですか」


 本来なら彼は8学年生(最終年生)、一般的な同級生達なら卒業をする学年である。


「だからその2年以内の間に、なんとしても魔法が遣えるようにならないとね」


 笑顔では言うが、おそらく、その確立の方が高いという事はアレックスもわかってはいるのだろう。その表情は少しばかり陰りが見える。


「だから向こうの家に戻ったら、とにかく色々と魔術鍛錬に費やす予定でね。何をすれば効率の良いのかを色々と考えていたんだ。君が『通り道(ゲート)』を開いてくれてから、本に書いてあった事が具体的にどういう事なのか、色々とわかってきたしね。ありがとね」


「いえ、私は大して何も……」


 と俺は言うが、内心とても嬉しくほっとしている。


「……ところで、珍しいね、このあたりの本を読んでるなんて。アルフオートさんは何を読むつもりなの?」


 と聞くアレックスに対して、俺は『一角兎(アルミラージ)の生態系』について書かれたその本を見せる。明確な目的があって勉強をする彼に対して、俺がその本を選んだのは、会話の中で話題に出たからに過ぎない。だからそれを見せるのは、少しばかり恥ずかしい事に思えてしまった。


一角兎(アルミラージ)……ああ、僕はあの魔獣、苦手だな」


 と彼は苦い顔をする。


「そうなんですか? 可愛いのに」


「昔、飼育小屋を通る時に、一角兎(アルミラージ)の魔力のせいで眠った事があるんだよね。あれは怖かったな。お昼時の人が多い時で助かったよ。下手をすれば食べられている可能性だってあったんだから。周りにいた生徒に保健室に連れて行かれて、教師達にもそんな生徒は始めて見たって呆れられたよ。それ以来、一角兎は凄く苦手だな」


「なるほど……」


「ところで、アルフオートさんは……その、夏休みはやっぱりここに残るのかい?」


「あはは、やっぱりそれを聞きますか」


 と俺は苦笑いをしながら答える。


「ん?」


「ごめんなさい、こちらの事です」


 と俺は言った。実はという程の物ではないが、食堂を出てから図書館に来るまでの間に、何人かの生徒に尋ねられた質問ではあった。そうなると返答自体も同じような物になる。


「――そっか、やっぱり帰らないか」


 と俺の返答を聞いた彼は、少しの間考えてから言った。


「……もし良かったらなんだけどさ、うちの屋敷に来るっていうのはどうかな?」


「ブルームフィールドさんの家に?」と俺は聞いた。


「凄く急な事なのはわかっているんだ。凄く勝手なお願いかもしれないんだけど、出来る事なら僕の魔術訓練に付き合って貰いたいんだ。『通り道(ゲート)』を開けて貰った時に、やっぱり君の魔力はとんでもない物なんだって思ったよ」


 と彼は言った。


「色々とお礼もしたい。うちの両親も君の事を心配していたから、きっと、君が来るって言うのなら、うちの人達は皆喜んでくれると思うんだ。それに僕自身も君に来てくれると嬉しい。君の事も、もっと知りたいなって思うし」


「……せっかくのお誘いなんですけど、ごめんなさい」


 と俺は少しばかり考えてから答えた。


「お誘いはありがたいんですけど、流石に急っていうか……私もこの夏季休暇は、先約がありまして」


 学外で経験が出来るというのは確かに魅力的ではあり、ありがたかった。しかしながら、彼が魔力を増やしたいように、俺も自分なりに勉強がしたいと思っていた。それに、夏季休暇は外に出る予定がなかったからこそ、スバルにも空間魔術の事を含めてじっくりと教えて貰うという話をしていた。


「そっか。いや、急にごめんね」と彼は言う。


「いえ、こちらこそ誘っていただいたのに」


 と俺は返す。




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