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チートな人生を引き継いだ俺が、本当にやりたい事  作者: frrr
4章 夏季休暇と唐突な小旅行
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54幕 夏季休暇と、心配する学友達


 それから学期の終了まで、時間は走り去るように過ぎて行った。


「……俺も、親が帰って来いって言わなければ、ここに残ったんだけどな」


「私も、家の手伝いがなかったらなぁ……」


 そんな言葉が2人の口から出たのは、今季最後の授業の後、つまり今季の全ての日程が終わった後だった。教室は夏季休暇、つまり夏休みに突入したという開放感に包まれていた。教室のあちらこちらで、長期休暇の予定が語られている様は、日本で学生をやっていた頃その物で、もう何年も感じていなかった感覚に懐かしさを感じた。そんな中、ブライアンもシャーリーもそんな事を言ってくれているのは、俺の事を気にしてくれているからだ。


「ノエルは、本当に学校に残るの?」


 とシャーリーは聞く。シャーリーは夏に入ったにも関わらず、その大きな三角帽を律儀にかぶり続けていた。見るからに暑苦しそうに見えるが、本人は苦ではないとの事。


「そうだね。他に行くところもないし」


 親も家族もいない身なので、特に帰る場所がない以上、夏休みの予定も無い。俺がそう答えると、2人はそれで良いのかという心配してくれている表情で俺の事を見た。少し笑って軽い口調を作る。


「大丈夫だよ。帰らない人の方が多いくらいなんだし。それに、別に嫌って訳じゃなんだから。2人に邪魔されずにゆっくりと本が読めるっていうのもいいよね」


「……お前は相変わらずだよな」


 とブライアンが呆れたように言ってくれた。


「ブライアンはヴァプトンだよね、帰るの遠くないの?」と俺は聞く。「私としてはブライアンが帰る事の方が意外だった」


「ああ。普通に帰るなら流石にそれだけで夏季休暇が終わるくらいだけど、うちからは迎えの龍が来るって言ってたから。そう時間はかからないみたい」


「なるほど、龍」


「わっ、凄い、流石お金持ち」


 俺もシャーリーも素直に驚く。龍を飼っている家など、俺はブライアン以外だと、スバルくらいしか知らない。


「至龍? 亜竜?」とシャーリーは聞く。


「シャル、あのな、亜竜は飼うのに向かないんだ」


 ブライアンは言う。知能の無い亜竜は飼育に向かない。こういう知識不足は、シャーリーが平民で、貴族なら知っていて当然という知識を身に着けてこれなかった事の表れだった。しかしそれも、こうして俺やブライアンという友人が出来たのだから、これから知っていけばいいだろう。


「……あ、そうなんだ」とシャーリー。


「でもさ、ノエルが残るなら、次の休みは、俺もここに残ろうかな」


「あ、私もそうしようかな」


「ありがとう。そう言ってくれるだけでも嬉しいよ。2人とも、夏季休暇を楽しんで」


 まだ短い付き合いながらも、そうお世辞にも言ってくれる友人が出来た。それだけでもこの学期は充実していたといえる気がした。勿論その他にも色々と学ぶ事は多かったし、少しだけ問題はあったものの、後は基本的に平和で充実した学期であった事は確かだった。


「お土産、期待しといてな」


「私も何か持って帰ってくる。じゃあねノエル、また新学期で」


「うん、またね」と俺そう言って2人に手を振る。


 2人と別れ、帰省の準備に入った生徒達で溢れる学生を横目に、俺は学生用の食堂へと向かった。味覚が無いので食べる事に対して喜びという物を見出せないでいたものの、それでも定期的に食事をしなければ腹は減る。それもこの学期で嫌という程学んだ事の1つだった。入学して間もない頃、1度2日程食べないで読書に集中していると倒れかけた事がある。以来3食きちんと食べるようにしている。


 帰省する予定が無いのか、それとも帰省の時間をずらしているのか、まだ食堂には生徒が多かった。各国から生徒が集まっているだけあって、半数近くの生徒は帰省しないのだそうだ。


「……あ、ノエルちゃんやん」


 食堂に入るなり、声をかけられる。プリシラだった。基本的に誰とでも仲良くする彼女ではあるが、同級生の中では、おそらくブライアンやシャーリーの次には親しい存在だと思う。


「シーラは帰らないんだっけ?」


 と俺は聞いた。


「ああ、ウチはなぁ、帰るには帰るんやけど、お兄ちゃん待ちやねん」


 とプリシラは溜息をつきながら言った。兄とはヴァーノン先生の事で、つい先日行われた彼の『初級魔術入門Ⅰ』の今学期最後の試験は、アレックス以外が全員合格点を貰っていた。


「お兄ちゃん、夏休み入っても先生やから最初の1週間くらいは学校おんねんて。やから帰るのはそっからやわ。それに早目に戻ってこなあかんみたいやし、実質トンボ帰りみたいなもんかな。お兄ちゃんも休みが無いってめっちゃくちゃ嘆いとったわ」


「そっか、大変だね、先生も」


 と俺は言う。社会人になって以来、夏休みなど経験していなかった俺からすれば、まとまった休みが貰えるだけでも嬉しいのだけれども、この世界だとそうでもないらしい。そもそもヴァーノン先生も本来貴族のはずだ、別に必死で働かずともそれなりの金はあるだろう。まぁ、俺はこの世界の貴族事情という物に疎い上に、元の世界とは色々と異なるみたいなのでよくはわからない部分もあるのだけど。


「まぁ、それでもガビー達とあんまり離れんでええのは嬉しいけどな」


「ガビー達? ……ああ、一角兎(アルミラージ)の事ね」


 一瞬そんな生徒が同級生にいただろうかと首を傾げかけたが、すぐに合点が行く。学園で飼っている兎のような魔獣。以前シャーリーに連れられて、何度か飼育小屋に見に行った事がある。角の生えた黄色い体毛の生えた兎の中に、確かそんな風に名づけられた1匹がいた事を思い出す。


 ちなみに、一角兎(アルミラージ)は可愛いその姿ではあるものの肉食であり、魔力を少しばかり持っている。学園にいる程度の生徒なら問題は無いが、それよりも小さな子供程度ならその魔力で眠らせてしまい、食べる事もあるのだそうだ。


「一応、夏休みの間は別の人が餌あげてくれるみたいやけど……それでもうちが直接世話したりたいしな」


 プリシラはいたく一角兎(アルミラージ)の事を気に入っていて、彼らの餌当番を自ら買っているらしい。生物教諭の先生の一人がヴァーノン先生が仲良いという事もあり、色々と良くもして貰っているらしい。


「……あら、シーラ、それにアルフオートも。ごきげんよう」


 そこに別の声が入ってくる。


 見知った顔、フェードルだった。


「こんにちは、フェードル」と俺は言う。


 相変わらず彼女からはよく分からない一方的な敵対心を向けられたままでいる。だけど、プリシラが仲介に入ってくれているお陰で、まだ少しくらいは話が出来るようにはなってきたような気がする。


「フェードル、なんでここにおるん?」とプリシラが少しばかり驚く。「帰ったんちゃうの?」


「あの鬱陶しい帰省の波が落ち着いてから出発しようと思ってまして」とフェードルは言った。「少ししてから帰りますのよ」


「そっか。インフェアだっけ、フェードルの家って。近いんだもんね」


 と俺は聞く。その情報は彼女から聞いた物ではなく、勿論プリシラから聞いた物だ。フェードルと直接話す事は少ないものの、プリシラを通して彼女の事はよく聞く。帰省をするという話もプリシラから聞いていた。


「……」


 しかしその質問は彼女には無視される。聞こえていないはずはないのに、彼女は良くこういう事をする。だけど今回は少し違ったようで、フェードルは俺の顔をじっと見つめて眉を顰めた。


「えっと……何?」と俺は聞く。


「へらへらしていますけど、あなたは、どうするんですの?」


 とフェードルが聞いた。へらへらとしているそのつもりは決して無かったものの、彼女のその声音からはそれに触れても良いか迷っている感情が読み取れた。そんな彼女を見るのは初めてだったので少し驚いてしまう。フェードルは俺の事を心配してくれているのだ。


「なんや? フェードル、ノエルちゃんの事心配なん? 優しいなぁ」


「そんな訳ではないんですのよ」と言ってフェードルはそっぽを向いた。「でもまぁ、単純な疑問として、思っただけですわ」


「んー、そっかぁ。まぁ、でもそやなぁ」とプリシラは言った。「ノエルちゃん、ほんまに帰らんのん?」


「うん。帰る場所もないしね。この学校にいるよ」と俺は言いながら、なんだかこの光景にデジャヴを感じていた。「2人とも、心配してくれてありがとう。夏季休暇楽しんで」


「私は別に、心配してなんかおりませんわ」


「フェードルはほんまに素直じゃないんやから」とプリシラが言った。「素直に言うてあげたらええのに」


「何かいいました?」とフェードルはプリシラを睨む。


「いや、なーんにも」とプリシラは笑った。




いつも読んで頂きありがとうございます。この章は次の章から動く話の準備章になります。5話程で終わり、次の章から大きく物語が動く予定です。

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