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47幕 特待生と落第生






 友人が出来たと言っても、別に四六時中一緒にいる訳ではない。勉強がしたいと思う時は素直に図書館に行ったし、2人もまたそれを邪魔するような事は無かった。ノエルが勉強をしたいなら、それを優先すべきだと。彼らが少しばかり大人っぽく、精神的な年齢が高くて助かった。


(とは、いえ……)


 そうは言っても、彼らも俺も、実際の身体は12歳でしかない。図書館の少し高い棚の本になれば、途端に手が届かなくなる。軽い脚立を使っても、目当ての本まで上手く届きそうにない。身体を宙に浮かせればいいのだろうが、時計塔内では司書以外は魔法の使用は禁止されている。


(……でも、さすがにこれは魔法を使ってもいいような気もする)


 細心の注意を払うなら大丈夫だろう、魔法を唱えようとした所で、背後から声をかけられた。


「何か必要な本でも?」


「え、きゃっ」


「……おっと」


 驚き慌て、脚立から落ちそうになる身体を彼に支えられる。どこかで見た生徒だった。


「あ、ありがとうございます」


「どの本?」


「えっと、上から二つ目の棚にあるはずの『溶液入門と作り方』って本を」


「わかった。なら脚立ちょっと貸してね……うん、これだね」


 その男の上背の高さに、少しばかり悔しさのような物を覚えてしまう。以前の身体のままであれば、それくらい簡単にやってのけただろう。それに今は女性の身体な以上、そう身長は伸びる事はないだろう。不便だ。


「助かりました……あっ」


 その顔をどこで見たのか思い出した。先程の授業で魔法が使えなかった、ブルームフィールドという上級生だ。無造作に伸びた癖毛に覚えがあった。


「ん? どうかした、ノエル・アルフオートさん」


「いえ、何も。……私の事、知ってるんですか?」


「勿論。君は有名だからね……ん、」


 そう言いながら、彼は俺の持っている本を眺めて、少し考てから言う。


「もしかして、『呪術判定液』を作ろうとしてる?」


「……わかるんですか?」


 と俺は聞いた。彼の言う事は見事に当たっていた。以前『呪術大前』で読んだ『呪術判定液』を実際に作ろうとしていた。


「当たった? なら、その本を読むよりも……」


 と言って、彼は2つ程隣の列の本棚から、1冊の本を持ってきて俺に渡してきた。


「こっちの本の方がいいだろう。そっちの本の作り方で作っても反応した時の色が少し弱いみたいなんだ。それに、こっちの本の方が読みやすい」


 とそう言って彼は別の本を渡してくる。軽くページをめくっただけだが、確かに彼の言う通りわかり易いように思えた。


「ありがとうございます。詳しいんですね」


「まぁ、このあたりの本は一通り読んだからね」


 と彼はそう簡単に言ってのける。『このあたり』というのがどの範囲を示すのかはわからないが、もしそれが本当であるならば、100冊や200冊と言う話ではない。半信半疑ではあるものの、彼の知識自体は読んだ者でなければ知らない知識のようにも思えてしまう。


「凄いですね」


「そうでもないよ。……さっきの授業で一緒だったから見られてただろうけど、僕は勉強くらいしか出来ないからね。でも、このあたりの本なら頭にも大方入っているから、なんでも聞いてくれればいいよ」


「あの、『呪術判定液』を作った事があるんですか?」


「何度かね」


 そう言って彼は続ける。


「この学園には教職員向けの寮に、一匹至龍がいるからね。判定液に必要な『龍の唾液』も、彼女を怒らせさえしなければ唾液や涙を手に入れる事ができると思う。彼女は至龍の中でも優しい方みたいだし。まぁ、涙に至っては彼女が欠伸をした時にしか貰えないから結構粘ったけどね」


 そう言って、ブルームフィールドは笑う。


 『教職員用の寮にいる龍』というのは、マカロンの事だろう。教職員ですら生物学の教員以外は避けたがるというのに、彼はマカロンの事を『優しい彼女』と呼ぶのだ。性別まで知っている。相当の知識があるのだろう。


 彼の知識が本物であるという事を知り、尋ねたい事が出てくる。


「なら、聞きたい事があるんですが」


「うん、なんでも聞いてくれて構わないよ」


「作り出した『呪術判定液』って、どうやって試すんですか? 呪術がないと、判定液がきちんと出来ているかどうかすら、わからない気がするんですけど」


「ああ、それなら木片か何かに呪術の属性を持たせてあげればいいんだ。簡単な道具で作れるんだけど、その事について書かれた本が確か……2つ上の階の棚にあったはずだ。それも借りればいい。一緒に行こうか、場所を教えるよ」


「ありがとうございます。……凄く詳しいんですね」


「そのあたりの本もだいたい読んでるからね」


 『だいたい読んでいる』。一体どれくらいの時間を彼は図書館で過ごしているのだろうか。彼の知識は間違いなく本物で、とてつもない知識量を有している事になる。先程まで持っていた、『落第生』という彼への評価が、一気に自分の中で変わっていく。彼は確かに魔力こそは無いかもしれないが、俺が到底及ばないような知識を持っている人だった。


 ブルームフィールドの言っていた通りの場所に、目当ての本はあった。


「ありがとうございます」と俺は言った。「これで作れそうです」


「うん、頑張って」と彼は言った。「もしわからない事があったら聞いてくれればいい」


「そうさせて貰いますね。でも、なんとお礼すればいいか……」


「別にお礼なんていいよ……でも、あ、」


 とそこで彼が何か思いついた事に気づく。


「何かありましたか?」


「いや……うん。実は一つ、聞きたい事があるんだ」


「なんでしょう?」と俺は聞く。


「でも……うん、やっぱりやめておくよ。それは凄く失礼な質問かもしれない。君の気分を酷く害するかもしれないからね」


 と彼は言って小さく笑う。何の事だろうか見当が付かず、俺は首を傾げる。


「いいですよ、なんでも聞いて下さい」


「いや、でも……なら……」


 と俺は言う。彼は少しの間話しづらそうにはしていたが、それでもやがて口を開いた。


「ありがとう。……なら、聞かせて欲しいんだけど、君のその髪色はもしかして……『魔術強壮剤』によって変化した物なんじゃないかい?」




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