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45幕 同い年の友人達と背景





「傑作だったな」


 とブライアンは手を叩きながら笑った。


「見たかよマウリッツのあの顔、あんな顔見た事ないっての」


 授業の後、俺はブライアンに誘われて、時計塔近くの芝生に腰を降ろしていた。シャーリーという三角帽の少女も一緒だった。俺とシャーリーは、ブライアンが授業を途中で抜け出して買って来た焼きたてのパンを貰い、頬張っていた。相変わらず味はしなかったものの、食感や嗅覚から味を連想する事は出来る。雲ひとつ無い昼下がりの風が心地よく、そのまま芝生に寝転んでしまえばいつでも眠れてしまいそうな程だった。


「前から気に喰わなかったんだよな、アイツ等」


「そうなの?」と俺は聞く。


「そうなんだよな。アイツ等さ、群れて大きな顔してて、人を困らせてはそれを生きがいにして楽しんでる感じなんだよな。正直、いつか殴ってやりたいって思っててさ。1対1なら負ける気はしないんだけど……あれだけの数相手だと、流石にな」


 とブライアンは軽く頭を掻きながら言う。


「だから、正直助かった。アルフオートがあそこで助けてくれなかったら正直どうなってた事か」


「ノエルでいいよ。それに大した事はしてないし、放っておいてもすぐにきっと、お……私が入らなくても、ヴァーノン先生が来てたよ」


 と俺は言う。最近の話相手がスバルとトインビーばかりなので、つい『俺』と言いかけてしまったのだ。


 あの後、マウリッツ達が教室から出るのと擦れ違いに、ヴァーノン先生が入ってきた。出て行ってしまったマウリッツ達数人の事を気にしてはいたものの、彼らは結局その授業の間帰ってくる事はなかったのだった。


「わかった、ノエル。俺もブライアンて呼んでくれて構わない。ブライアン・イスカリオット・トロイ・ホレイショー・バーンハート・エインズワース」


「長いな」と俺は言った。


「俺の国の貴族はだいたい長い」とブライアンは言う。「でもみんな覚えてないし、ブライアン・エインズワースとだけ覚えてくれれば大丈夫だし、他の奴もそんな感じ。ここからだいぶ北へ行ったところにある、ヴァプトンって小さい国、知ってるか?」


「ああ、うん。知ってる」


 ブライアンは『だいぶ』と言ったが、『かなり』北にある国のハズだった。非常に小さな国で、気候もこのあたりとは違いずっと寒いはずだ。彼の肌が妙に白いのは、北国出身だからだろう。


「……ん、エインズワースって、確かそこの王家じゃなかったっけ?」


「俺は、王家からは少しだけ血が離れてるんだ」と彼は言った。「しかも俺はそこの4男。上に6人、下に3人。この学校にも兄貴と姉貴が通ってる」


「10人兄弟……」


 とそこで驚きのあまり、シャーリーが口を挟む。どうやら彼女は家柄よりもその家族の多さに驚いたらしい。彼女は先程から話に加わるタイミングを見計らっているようだった。俺とブライアンの視線が彼女に向いた所で、彼女は頭を下げて言う。


「アルフオートさん、エインズワースくん、あの……さっきは本当に、ありがとうございます。私みたいな、平民の為に……」


「だからブライアンで良いって」


 とブライアンは苦笑いしながら言う。


「それに、平民とか貴族とか、この学校では気にしないのが基本なんだって。気にすんなよ。俺は単純にアイツ等が気に喰わなかっただけだし」


「私もノエルでいい。確かにあれは、見てて不快だったからね」


「はい。なら、あの……ブライアンくん、ノエルさん、さっきは本当にありがとう。私、シャーリーって言います。シャーリー・ノーム。リーゼルニアの、えっと、リーワースの街から少し行った所にある、ノームって田舎村から来ました」


「うん、よろしくな、シャーリー」


 とブライアンは言った後、少し呆れたような顔になる。


「……でもお前さ、毎回その帽子でからかわれてるってわかってんのに、なんで懲りずに毎回着けてきてんだよ」


 ――ほんま、シャルもああなるんわかっとんやったら、帽子かぶってこんかったらええのに


 確か、プリシラも似たような事を言っていた気がする。彼女の帽子は時代遅れの物で、大きくかなり目立つ。まるで自分から注目してくださいと言わんばかりに見えなくもない。


「う……」


 それはシャーリー自身にも自覚があるのか、酷く苦い表情をする。


「何か理由があるのか?」


 と俺は聞く。


「ええと……はい」


 と彼女はそう言って、帽子を外し、ぎゅっと握り締める。


「これ、お母さんが私の入学祝いに買ってくれたんです。お母さん、私よりも魔術の才能があって頭も良かったんですけど、平民だから貧乏で……。この学校どころか、どこにも入る事が出来なくって、我慢したんです。でも、ノエルさんとブライアンくんは貴族だから知らないかもしれませんが、今は20年前と違って、平民なら、学費はいくらか免除して貰えるんです」


 その制度については実は知っていた。トインビーの計らいなのだそうだ。


「だから、私はなんとかその制度のお陰で、ここに入る事が出来たんです。勿論学費はかかるので、家には迷惑をかける事には違いないんですけど……それでも、お母さん、かなり無理してくれて。私までお母さんみたいな想いをして欲しくないからって。その上に制服や帽子まで、お金がかかるから良いって言ったのに買ってくれて……。これ、お母さんが子供の頃に流行ったデザインなんですよね。多分お母さん、これをかぶって学校に通いたかったんだと思うんです。だからこれは、母代わり、という訳ではないんですけど……」


「……」


「そっか……」と俺は言って、ブライアンと顔を見合わせる。「なら仕方ないよね」


「なら仕方がないよなぁ」とブライアンも返してくる。


「でも、こんな風になるなら、置いてきた方がいいかもしれませんね」


「いや、辞める必要なんてないだろ」と俺は言った。「お母さんの為なんだろ? なら辞める必要なんてないんじゃない?」


「そういえば、ノエルの家族って……」


 とブライアンが何かに気づいたようにそう言って、声に出たそれに慌てて口を塞ぐ。どうやらシャーリーもその事は知っていたようで、今までしていた話題が不味かったと思ったのか、ばつの悪そうな顔をする。


「ああ、気にしないで」


 と俺は苦笑いをして返す。


「大丈夫だから。確かに家族の事はあれだけど、そういう話題を気にしてわざと避けられるのはもっと辛いかも」


 と俺が言うと、今度は2人が顔を見合わせてから頷く。


「わかった」とブライアンは言う。「なら、それよりも今は、シャーリーがどうやってからかわれなくなるか、だな。一番はさっきのノエルみたいな魔力を手に入れたら一気に虐められなくなるんだろうけどさ」


「途方も無い道になりそうですね……」


 と彼女は言う。


「卒業しても無理かも」


 マウリッツに向けた魔法は十分手加減をしていた。あれは簡単な『物持ち上げ』の応用である。それくらいの威力の魔法で良いのであれば、恐らく数年もしない内に頑張れば彼女でも身に付けられるだろう。しかし彼女が言いたいのはそういう事ではないというのはわかる。


「まぁ、そこまでは行かなくても、自衛できるだけの魔力を身につけるくらいなら出来るだろうし」と俺は言う。「それまでは少なくとも、私達が一緒にいて、護ってやるってのが一番なんじゃない?」


 そう言って、ブライアンの方へと目を向けると、彼は目を輝かせる。


「ああうん、そりゃいいな」とブライアンは言う。


「え? え?」


 とシャーリーが何がなんだかわからないと言った風にうろたえる。


「それに一緒にいるなら、私も少しくらいなら、魔法も、教えられるかもしれないし」


 教えるのも理解を深めるという勉強に入るだろう。スバルもそう言っていたハズだ。『あ、いいな。なら俺にも教えてくれないかな』などとブライアンが乗りかかるように言うのに対し、相変わらずシャーリーは上手く理解が追いついていないようで慌てている。


「だからさ」そう言ってブライアンは笑う。「俺達、友人にならないかって事」


「え、あっえっと……」


 顔を少し赤らめながらシャーリーは言う。


「いい、の?」


「うん、勿論」と俺は言う。「よろしくね、シャル」


「うん、ありがとう。……でも、嘘みたい」そう言ってシャーリーは帽子を握り締めながら言う。「あのノエル・アルフオートと友人になったなんて言ったら、多分お母さんひっくり返ると思うから」


「多分俺の親も驚くだろうな」とブライアンも続く。「……でもこうして話してみると、なんか、ノエルって思ってたのとイメージが少し違うな」


「あ、それは確かに思ったかも」


 とシャーリーがそれに同意する。


「そう?」


「ああ。勉強にしか興味がないのかと思ってたからな。いつも図書館にいるし、教室にいる時も本読んでるし」


「確かに……ちょっと話しかけづらいイメージあったよね」


「そうなの、か……」


 と俺は言う。確かに、言われてみればそんな気がしないでもない。ずっと本を読んでいた気がする。スバルとの魔素比べにおいても早く並びたいという想いもあり、色々と知らなければという思いは強かった気がする。


「でも話してみたら、普通に変な奴なだけで、いい奴みたいだし」


「普通に変って、なんだよそれ……」


 とブライアンの発言に俺は呆れ、シャーリーはくすくすと笑う。


 そんな訳でそれ以来、ブライアンとシャーリーは俺の友人になったのだった。





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