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38幕 買い物と街




 スバルと共に寮へ戻ると、エントランスホールのソファにトインビーが座っていた。どうやら、俺達を待っているようだった。


「おかえり」


 とトインビーは言った。一緒に戻ってきたスバルと俺を見て満足そうな表情をしている。


「その様子だと、仲直り出来たみたいだね。良かった」


「……見ていたんですか?」


「まさか。そんな野暮な真似はしないさ。君に言い忘れていた事があってね。部屋にいなかったから、ここに居れば戻ってくると思っていたよ」


 そう言ってトインビーは持っていた封書を1枚、俺に渡してくる。


「入学に当たって用意しなければいけない物のリストが入っている。式までの日も短いので、本当なら使用人に全て用意させてもいいのだが……君も入学前に下町の様子を見ていた方が良いと思ってね」


「そうですね、1度見ておきたいです」


 と俺は返す。


「でも、お金が……」


「最初に言っただろう。その心配はしなくてもいいと」


 とトインビーは言って小さく笑う。トインビーの話を聞いた今では、何故そうまでしてくれるのかという疑問も沸いてこない。しかし、そのお金に頼らなければならないのはわかるものの、それでも、素直に受け取りづらいのも確かだ。


「気になるのであれば、将来的に返して貰えれば良いさ。スバルもそうなのだから」


「いつも先生には感謝してもしきれません」


 トインビーの笑みに、俺の隣にいるスバルもそう感謝の言葉を述べる。と言っても、その表情はかなり穏やかな物で、今まで2人でいる時には見た事のないものだった。スバルが俺への警戒を解いたからなのだろうか。そのやり取りはかなり自然な物のように思えた。


「とにかく、学校が始まれば落ち着いて行ける時間も取り辛いだろうからね。明日、街に行って来なさい。あそこで君に危害を与える者などいないとは思うが、スバル、君もついて行ってやってくれ」


「わかりました」


「その方が私としても安心だし、君達もお互いの事をより知る機会になるだろうしね」






 翌日、トインビーにお金を貰い、玄関先へと来ていた。金の価値はいくら貴族の子供とは言え知っていた。リーゼルニアとリストニアは通貨が同じ上に、日本円とその数値はほとんど変わらないようだ。


「待たせた、悪い」


 とローブを身に纏ったスバルが来る。


「大丈夫だ、俺も今来た所だから。じゃあ、行こうか」


 と言った俺も、似たようなローブを纏っている。下町に行くのに適した服装という物に少し悩んだものの、肩甲骨のあたりまである長い髪は銀色の為に、悪目立ちする。フードで隠せるようにしておくべきだと、今朝の朝食時にスバルに言われていたのだった。


「あれ、今日はマカロンには乗らないのか?」


 と彼女の前を素通りしかけるスバルに、俺は聞いた。


「学園から歩いていける距離にあるんだ。併設された都市だ。あいつに乗るまでもない」


「なら、今日は留守番て事なんだな」


「ああ。アイツも昨日の今日で疲れているだろうしな。それに、昔に比べればかなり体力が落ちてきている。休ませてやらないと」


「そうなのか、おばあちゃんだもんな」


 齢140、龍の寿命が150年と言われている以上、かなり高齢に入るのだろう。甘えたがりと人懐こさから、まだまだ若い龍なのかとも思っていたが、相当歳をとっているらしい。


 俺がそう言うと、マカロンは大きく俺を批難するように鳴いた。スバルに聞かなくてもわかる。年寄り扱いするなという事だろう。


「ただ、耳はまだまだ良いみたいだ」と俺は言った。


「だな」とスバルは返す。


 リーワースの街は、広い学園の敷地を出てすぐの所にあった。おそらく、街の端に併設されるように学園が建てられたのであろう。リーゼルニアの5大都市の1つと言われているだけあって、アクサムの村などとは段違いの人口と活気があった。商業の街としても栄えており、街に入ったときからあちこちで屋台商店が開かれている。RPGの都市に入ったかのようなその場所に、俺は心が昂ぶる。東京の都市部みたいに人が多いのに、街の人間の表情は明るい。


 目に付くものすべてが新鮮で、一日中入り浸れてしまうかもしれない。興奮気味に、四方八方に目をやりながら歩いていると、少し歩いただけなのにかなり体力をもっていかれた。街の中心部にあるかなり開けた場所にある噴水の傍に腰を下ろし、俺とスバルは買い物のリストを確認していた。


 俺もスバルもフードを被っていて、怪しい2人組みに見えるかと心配したが、そうでもないらしい。ローブ姿は至る所にいた。


「制服とローブ、教科書は、必修科目分が数冊。実験用の防護用革手袋に、地図にコンパス。ガラス製の小瓶と……あとは、鍋、何に使うんだろう。調合?」


「俺もわからない」


「知らないのか」と少しばかり驚く。


「俺はあの学園の生徒ではないからな」とスバルは言った。「図書館を使う事は許されているが、授業は受けていない。大方の予想はつくが、実際に授業を受けた訳じゃないからな」


「そうなのか。なんか悪いな、それなのに付き合わせて」


 確かに、いくらトインビーといえども、魔王を学園に入れる事は出来ないらしい。考えてみればわかる事ではあった。


「別に気にしていない。それに、俺一人ならこの街に来る事も少ないし、行く場所も限られてくる。大方、トインビーが気を効かせてくれたのだろう。お前程ではないが俺も結構楽しいんだ。……リストの下にどこで買えばいいかもちゃんと書いてくれてあるな、流石はトインビーだ」


「わかる?」


「ああ、大体の場所は」


 そう言って噴水から腰をあげた。俺も彼についていく。


 本来は制服の採寸を先に済ませた方が良いのだろうが、スバルが最初に行ったのはリストの中ではその場所に一番近い本屋だった。少し古めかしい外装の本屋の入り口には『教科書取り扱っております』との張り紙が貼られている。本はかさ張る上に重いので、先に買うのはどうかとは思ったものの、スバルの好意を無碍にする訳にもいかなかった。


 俺が店の中に入ろうとすると、スバルが付いてこない事に気づく。


「俺はここで待っているよ」


 とスバルは言った。



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