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30幕 偉大なる12人の魔法遣い達と腐敗した会議 2





 グラエムとそう変わらない年齢に見えるが、そうでない事をグラエムは知っている。彼はグラエムが子供の頃から『偉大なる12人の魔法遣い』の1人であり、その頃からまったく見た目が変わっていないのだから。


 子供の頃から憧れていた魔術師だからこそ、グラエムは彼の本性を知った今、彼の事が許せない。


 グラエムの思う『偉大なる12人の魔法遣い』の腐敗の最大の原因は、トインビーにあるのだから。


「私は何度も言っているが、今は魔王達と争うような時期ではないと考えている。この数年、魔王達による我々『表側』の国への大きな被害が出ていない今、こちら側からわざわざ火に油を注いでいくような事態は避けるべきではないだろうか。むしろ条約を締結して、和平を―――」


「何故です、今攻めずして、いつ攻めるというのです! 誰がどう見ても絶好の機会ではありませんか!」


 トインビーの言葉を遮って、グラエムは机を叩きながら叫ぶ。


 誰がどう見ても、ハミルトンを攻め入るなら今しかないのは明白なのだ。世界から一目置かれる『偉大なる12人の魔法遣い』達を、はるかに越える魔力を持った存在の『魔王』。普段なら付け入る隙すら見せない彼らが、俗世間ですら一目でわかるような、隙だらけの状態でいる。今攻め込まなければ、いつまたこのような機会が現れるかわかったものではない。


 それはグラエムだけではない。トインビーも、そしてこの『時計会議』に参加している偉大なる魔術師達なら皆が気づき、理解している事だ。


 ハミルトンは目に見えて弱っていて、明らかに、トインビーはハミルトンの事を庇おうとしている。彼がおかしいのは誰の目にも明らかなことなのだ。


 しかし――


「私も、アシュレイ君の意見には反対だ」


 そう手を挙げて発言をしたのは、リストニアの国王、ガウェイン・フリッチ。


 いかにも真面目そうに見える、正義感の強い男。


「魔王同士が争っている最中に手を出すという事は、その2人の魔王を共に相手しなければならない可能性が出てくる。我々がいくら束になったとしても、一度に相手が出来るのは1人の魔王が精一杯だろう。それこそ、クラークなら別であろうが……」


 と言って、フリッチは自身の隣に座るトインビーに視線をやる。


「いやいや、それは買いかぶりすぎだよ」


 とトインビーは謙遜するが、それが買いかぶりでもなんでもない事を、グラエムも、他の魔術師達も知っている。この『時計会議』の中で、彼だけは唯一、魔王と真っ向で対立しても勝ちうる(・・・・)能力を持っている事を。だからこそグラエムは頼んでいるのだ。トインビーが動いてくれれば、いや、2人の魔王を相手にするのであれば、一方の魔王の足止めをトインビーがしてくれるだけでも、勝機が見えてくるのだ。


「それに、戦いは個対個ではない。私1人が動いたところで、犠牲は多く出るだろう」


「そうか……そうだな。そういう訳で、すまないが私も反対なのだよ」


 とフリッチは言う。本当は君を助けたいのだが、とでも言いたげな表情を見せて。


 しかしグラエムには、フリッチのそれが「演技」であるという事はわかっていた。フリッチはトインビーと組んでいるのだ。仕方がなく反対すると見せかけながら、2人とも魔王に出だしすることを執拗に避けようとしているのだ。


「俺も、師匠(せんせい)の言う通りだと思う。魔王は憎いが、ここ数年の被害がおさまって来ている今、無理に手を出していく必要はないさ」


 そう言うのは、リーゼルニアの北にある、本当に小さな国、インフェアの英雄、バジル・フォゼリンガム・パーカー。インフェアがトリエトラ同様、小国であるというのに力を持っているのも、まだ20台後半で『偉大なる12人の魔法遣い』入りを果たした怪物がいるからである。魔王に両親を殺され、復讐の為に魔術を学んだという彼なら、もしかしたら、と思ったが、やはり駄目だったようだ。


 実はグラエムの提案は、バジルが動くかどうかにかかっていた。しかし、早々と反対をされてしまった。


(結局、バジルもトインビーの犬だという事か……)


 とグラエムは内心で毒づく。リーゼルニア国立魔法学校主席卒業。彼の師は他ならぬクラーク・トインビーなのだから。


 こうなると、グラエムの計画は、一気に雲行きが怪しくなっていく。


「私もトインビー先……トインビーさんがそう言うのであれば」


 リストニア国立銀行の金庫番、フィリス・アップルガースが言う。その魔力は強大で、リストニアの銀行が世界で最も信頼できる金庫を持っているといわれるのは、彼女がいるからだ。その魔力は申し分ないにも関わらず、あまり自分の意見という物を持たない。リストニアの人間だというのに、フリッチではなくトインビーの意見に賛同するほどのトインビーの崇拝者。勿論、リーゼルニア国立魔法学校の卒業生である。


 他にも、平和主義者のエミール・フィッツヘルベルト。政にはあまり関心のないジャニス・アハルなどがそれに近い賛同の言葉を述べた。皆、リーゼルニア国立魔法学校出身であり、何かしらトインビーとかかわりを持つ存在だった。


「……」


 そもそもこの『時計会議』に参加する面子の多くは、リーゼルニア国立魔法学校出身者が多くを占める。それだけの環境があの学校には備っているという事ではあるのだけれど、その結果、こういう事が起きてしまう。


 会議参加者12人のうち、6人があっという間に反対の意思を示す。7人以上の賛成で可決するこの会議では、この時点でもう否決が決まったようなものだ。


「皆さん、わかっているのですか!? 『偉大なる12人の魔法遣い』はなんの為に存在するのです!? 魔王と仲良くする為? いえ、魔王を打ち滅ぼす為の集まりではないんですか! 今一度その存在意義を考えて頂きたい!」


 堪えられずにグラエムは叫ぶ。会議室の中でその言葉は響く。


 いつもそうだ。魔王討伐関連の話題になると、必ずトインビーが反対の意を示す。トインビーの取り巻きがそれに乗る。結局そのせいで過半数の票を集められず、何一つ解決しないまま会議が無駄に終わるだけなのだから。


「……俺はアシュレイさんに賛成だがな」


 とザカライアス・ニーソンが言う。大きな身体で、その身長は2メートルを越え、威圧感を漂わせている。いまひとつ、彼が何を考えて行動しているのかグラエムには想像もつかないものの、彼が魔王を滅ぼしたいと考えている事は確かだった。


「アシュレイさんの言う通り、ハミルトンを破るなら間違いなく今、それは皆も気づいているだろう。なぜ今その機会を逃す、何故そう躊躇おうとする」


 グラエムにとって、ザカライアスの言葉は有難かった。


 確かに皆がわかっているのだ。今が、ハミルトンを破る絶好の機会だという事を。


 その言葉を聞き、魔王へあまり良い感情を持っていないフローレンス・ブライスと、チャド・ベイクウェルが続く。


「ここでたとえ否決されたとしても、私の国の軍隊はトリエトラ王国に応援に出します」


 とまでチャド・ベイクウェルは言ってくれたくらいだ。


 しかし、それはこの会議では言ってはならない事だった。


「……駄目だ。それは許されない。無闇に犠牲を広げてはいけない」


 チャドのその熱は、トインビーの一言で鎮圧されてしまう。


「チャドがどうしてもというのであれば、私からも1つ、提案させて頂きたい。少なくとも……今後2年程は、トリエトラのハミルトン領への進攻に『偉大なる12人の魔法遣い』は手を貸さないという事だ」





あと2話程この流れが続きますが、読まなくても大丈夫なようには出来ています。

『偉大なる12人の魔法遣い』なので12人出てきますが、その名前は覚えなくても読めるような話にするつもりです。

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