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27幕 圧倒的な力と更に圧倒的な力





「……っ!」


 立ち上がった森の一眼巨人(モノアイ・ギガンテス)は、近くの村人達目掛けて跳躍した。人間より遥かに優れた脚力で、村人との距離を一瞬で詰める。唐突なそれに、村人達はは構える暇もない。巨人は持っていた金棒で村人達を薙ぎ払おうとする。


 しかし、村人達にその金棒は触れる事はなかった。スバルが巨人の腕を凍らせ、動きを止めたのだ。巨人は固まった腕を何度も何度も無理に動かそうとし、ついに動かない腕に纏わりついた氷を、反対側の腕で叩き割ろうとする。しかし力任せに叩いたそれは、周囲についた氷だけではなく、凍ってしまった巨人の腕もろとも砕いてしまう。自分の腕がなくなった事に気づくと、巨人は叫び声をあげる。


「今のうちに、残った女子供を連れて逃げろ」


 苦しみの声をあげその場にうずくまる巨人を横目に、スバルは村人達に向かって叫ぶ。今まで誰1人として、巨人に与えられなかった傷を簡単に負わせてしまったその魔術に驚きながらも、男達は頷くと、その場から離れていく。


「ウゥゥアアアアアアァァゥ!!」


 片腕を失った巨人は怒りのあまり、スバルとその傍にいる俺に向かって全速力で駆け出す。が、スバルはそれに動じる様子も見せず、氷結魔法を巨人に向かって放つ。


「――凍れ」


 巨人の踏みしめた右足がその場で固まり動かなくなる。先程と同じ事が起ころうとしているにも関わらず、理性のなくなった巨人は、己の欲するまま、勢いに任せ走り続けようとする。何かが砕ける音がして、次の一歩をなんとか踏み出す。しかし今度は左足が凍りつく。それでも強引に、力任せに巨人は身体を動かし続ける。凍った左足が胴体から分離してやっと、巨人は次の歩を進めようとする。


 ……が、次の瞬間、腹から前のめりに地面に倒れる。当然だった、左右両方の脚を失った今、巨人の胴体を支える物は何もないのだから。スバルとの距離を、ほとんど埋める事も出来ていない。


「グ、グググ、グ、グアア」


 それでも、残った片方の腕だけで、巨人はスバルの元へと向かおうとしていた。その表情は怒りに満ち溢れていて、痛みを我慢するかのように喰いしばる歯の間からは、涎が垂れている。


「……すまない」


 その言葉はきっと巨人に言ったのだろう。しかし、その声はあまりに小さく、俺にしか聞こえないものだった。


「――氷よ」


 そう言ってスバルは巨人の残る身体を端から段階を踏み、氷漬けにしていく。自分の身体が少しづつ凍っていく事を、狂化されながらも本能で理解しているのだろうか。巨人は苦悶と恐怖の表情を浮かべながら、死にいく身体を動かし続けようとしていた。首まで固まったところで、巨人は迫り来る終焉に、とても悲しげな表情を見せた。


(……むごい殺し方だ、でも……)


 彼の傍にいるので、彼の体内にある魔素がフル稼働しているのがわかる。これが彼の中の精一杯なのだ。生きている者を凍らせるというのは、その者の命を奪うという事でもある。かなり高位な魔法。並大抵の魔術師程度では、巨人の足の指先を凍らせる事すら、出来る訳がないのだから。


「凄い……」


「あの人、巨人を凍らせたぞ……何者なんだ」


 村民達は呆然としながら、スバルを見ている。


 仲間が絶命した瞬間を目にした一眼巨人達は、村民達を襲うその手を止めた。そして、攻撃の目標をスバルとマカロンに変え、走り出していた。おそらく、先に強い戦力を潰そうという考えなのだろう。本当なら、もう理性などもう持ち合わせていないはずなのに、そう言った行動に出るのは、本能のなせる技なのだろうか。


 一斉にスバルに向かってかかっていくのは、先程のような氷漬けも数が多ければ通用しないと思ったからなのだろう。確かに、数が多ければスバルは皆を足止めする事は出来ないだろう。確かにそれは有効な手段だったはずだ。スバルが攻撃の手段をそれしか持たないのであればではあるが。


「……」


 スバルは風を起こし、先程氷漬けにした巨人の身体を力強く砕く。砕いた欠片を宙に浮かせ、巨人へと目掛け、まるで弓でも射るかのように飛ばしていく。


 いくつもの刃が同時に飛んでいく様は、弓の早打ち、などといったレベルではない。欠片は一瞬にして、巨人達の身体や目玉、脳を的確に貫通していく。巨人達は走り出してはいたものの、つぶての衝撃にやられ、仰向けに倒れこみ、やがて動かなくなった。


「凄い」


 と声が漏れていた。巨人が死んでいく様に思うところはあるものの、それでも素直に感動すらしてしまいそうになる。彼は割れた氷の欠片の一つ一つに風魔法を使っているのだ。かなりの集中力と緻密さが必要なハズだ。俺がいかに彼よりも能力があったとしても、そのような細かな芸当は出来ない上に、そもそもそのような魔法の遣い方は思いつかなかったであろう。


 スバルは倒した巨人達には目もくれず、自分の龍の方へと目を向ける。


 龍は何匹もの巨人に囲まれて苦戦していた。それでも一匹は仕留めたらしく、傍には巨人の死骸が倒れていて、その身体には大きな穴が空いていた。おそらく、爪で身体を貫かれたのだろう。


「小回りの効かないお前じゃ不利だ。離れていろ!」


 とスバルはマカロンに向かって叫ぶと、彼女はぐぇ、と鳴き素直に上空へと離れていく。


 相性が悪いのか、それとも、狂化した巨人が強いのか。そしてそんな巨人を圧倒するスバルとはいったい何者なのだろうか、という疑問が沸く。


 そんな俺の疑問を他所に、スバルは遠く離れているにも関わらず、先程と同じように、氷漬けにされた巨人の残りの欠片を使い、的確に打ち抜こうとする。


 しかし――


「危ない!」


 唐突に、背後から誰かが叫ぶのが聞こえた。


 振り返ると、一匹の巨人がこちらに向けてかけてきていた。どこかに潜み隠れていたのか、俺達の背後に回り込んで、様子を伺っていたのだろう。


 俺はその存在に、声をかけられるまで気づけなかった。巨人の魔素をまったく感知する事が出来なかったのだ。それはスバルにしても同じ事のようで、意図せぬその接近に驚き、目を見開いていた。加えて彼はマカロンの傍にいる巨人対して魔法を使っていた為、身動きが取れなかった。


「――氷よ」


 しかし、幸いにも巨人はまだそう接近していなかった為に、俺はその巨人に対して氷結魔法を発動させる。叫ぶ間もなく、その巨人の身体は「一瞬にして全身」が氷漬けになった。


「……」


 スバルがそれを見て、俺に何かを言いたげな表情をした。スバルの方でも、巨人達をどうにかし終えたようだった。


「ええと……」


 と俺は首を掻く。氷結魔法を使ったのは決してわざとではない。咄嗟に思い浮かんだのが、先程見たスバルの使っていたその魔法だったというだけの事だった。しかし、見ようによってはあてつけのように見えるかもしれない。気まずさに目を逸らしていると、スバルはぼそりと言った。


「助かった。お前がそうしてくれなければ、危なかった」


「えっ?」


 まさかそんな言葉が出てくるとは思わず、目を丸くしてしまう。


 村の人達はしばらく呆然としていたが、やがて、自分達が助かったのだとわかると歓声をあげ始める。


「助かった……のか……」


「凄い!」


 結局、村に入ってきた巨人のそのほとんどを、スバルが1人で倒してしまったという事になる。


「……」


 皆が大喜びしている中、スバルは淡々とした表情で、俺が氷漬けにした巨人の傍へと歩いていく。何をしているのだろうかと思い近寄ると、彼は俺に何かを示すようにその氷漬になった巨人の胸元を指差す。


「お前、これ、どう思う?」


「え……これって……」


 氷漬けにされた巨人は、鉱石をつけていた。それは、俺が朝リーゼルニアを出る時にスバルから借りた、魔素をおさえる為のネックレスと同じ形をした石だった。





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