1幕 ノエル・アルフオートと、栄光を前にした悲劇
ノエル・アルフオートは天才少女と呼ばれていた。
リストニア王国の貴族、アルフオート侯爵家の次女。
物心がつく頃には既に炎や水、風を自在に操る事が出来ていた彼女は、魔法を学ぶ環境にも恵まれていた為、着々と力をつけていった。6歳の頃には魔術学院卒業程度の大人達が束になっても敵わない程の魔力を身に着けていて、将来は間違いなく、魔術師の頂点に立つ『偉大なる12人の魔法遣い』入りをするだろう。そんな噂をされていた。
天才で、怪童。
その魔力素養故に、各国の魔法学校の校長達はこぞって彼女の勧誘にやってきた。
『偉大なる12人の魔法遣い』の1人であり、世界一の魔法遣いである、リーゼルニア国立魔法学校の校長クラーク・トインビーですらも彼女を直々に勧誘した事は、世間を震撼させたのだった。
それだけの期待を背負っていたのがノエル・アルフオートという少女になる。
12歳になればおそらく魔法学校へと入り、そこで師を見つけ、魔法の高みを目指していくのだろう。誰もが一度は憧れながらも、才能という壁を前に諦めるしかない魔術師としての『高み』。そこに向けて確かに歩いていけるだけの可能性を持った存在だと、皆が確信めいた物を彼女に対して感じていた。
輝かしい栄光への道。
不運にも彼女がそのレールから外れてしまったのは、11歳の時だった。
◇◆◇
その日ノエルは家族と共に馬車に乗り、アルフオート家の所有する避暑地へと向かっていた。
既に魔法学校へ入っている兄と姉は、夏季休暇を機会に家に戻ってきていた。
兄弟で1番年下で、1人だけまだ学校に入学していないノエルは、11歳の誕生日プレゼントとして貰った熊のぬいぐるみを抱きながら、兄や姉の学校での様子を目を輝かせながら聞いていた。天才とは言われながらも、まだ子供っぽい彼女は、久しぶりに会う兄と姉の土産話を楽しみにしていた。
140センチに満たない背丈に、腰まである綺麗な栗色の髪。目尻の垂れ下がった優しそうな瞳は、透けるようなエメラルドグリーン色をしている。
「――ところでノエルは、どの学校に行くか決めたの?」
姉と兄が興味深々と言ったようにノエルの顔を見る。ノエルは恥ずかしそうにそれに答える。
「いえ、いくつかお誘いは頂いたのですが、まだきちんと考えられてはなくて……」
「……そっか。何になりたいとか、そういうので決めればいいんじゃない?」
「そうだね。それにノエルなら、どこへ行っても上手くやれると思うよ」
「そう、なんでしょうか……ね」
と彼女ははにかみながらそう言う。
「何がしたいのか」などと言われても、彼女は何も答えられない。周囲からは自分の才能を評価され、後々は『偉大なる12人の魔法遣い』の1人になる事を期待されているのは知っていた。その為の勉強はしているものの、それが自分のしたい事かと言われると怪しい。かといって、何かしたい事が思いつくものがあるわけでもない。
……まぁ、それも、これから入学までの時間で考えればいいだろう。もし決まらなくとも、どこかの学校に入学してから決めていけばいい。そんな風に彼女は思っていた。
だが、それを前にして、彼女に悪夢が待ち構えていた。
「……ん、どうした?」
まだ道中だと言うのに、馬車のスピードががくりと落ちる。不自然な減速をした馬車は、そのまま歩みを止めてしまった。
「急だな。何かあったのか見てくるよ……どうした、何があった……なんだ、お前達は―――」
御者から何も説明もない事に疑問を持ち、父は外へ出て確かめようとする。しかし馬車の扉をあけた父は、そのまま前のめりに馬車から落ちた。首を切り落とされたのだ。
家族が誰1人としてその事を理解する事が出来ないうちに、馬車の中に見知らぬ男達が乗り込んでくる。
ノエル達はそこで、魔法を使えばあるいは助かったかもしれない。しかし、戦闘訓練などをほぼした事の無い彼女達に、その道のプロであった「彼ら」は隙を与えなかった。
一瞬の出来事だ。
母が、続いて兄が事態を把握するより先にナイフで喉を切られ瞬く間に絶命した。それから男達は矢継ぎ早に、姉の腹部へとナイフを突き立てる。言葉を漏らす間も出来ずに、姉もあっさりと事切れてしまう。
「……え?」
目の前で何が起きているのだろうか。
つい先程まで談笑していたハズの家族達が一瞬で……。
そんなノエル自身も男に腹部を殴られ、意識を失ってしまった。計画され尽くした上での、流れるような作業だった。
アルフオート侯爵とその家族、また護衛の従者達は、その襲撃によって、ノエルを残し皆命を落とした。
それはリストニア王国の隣の国、バラント王国の仕業だった。目的は、才能を持った少女、ノエル・アルフオートの誘拐である。
初めまして、自分の好きな異世界転生TSものを書く予定です。男が女になる系です。
あまり上手くないかもですが、もし宜しければ読んでいただけると嬉しいです。長くなるとは思いますが、少しづつ書いていければと思います。
投稿ペースは初めは短め、慣れてきてからは、週1程度で更新できると嬉しいなと思っています。
もし宜しければ、評価点や感想など頂けますと、今後の参考にもなりますしとても嬉しいです。