03.ボク
何処をどう歩き回ったかは分からない。
でもふらふらと歩き回りながら考えている内に、問いも回答も頭が計算していた。
まだ誰も登校していない早朝の学校。用務員の人が辛うじて学校に来る頃を見計らって校内に侵入した。そのまま真っ直ぐ自分の教室へ進む。
きっちり等間隔に並べられた机を椅子を、叫びながら蹴り倒した。椅子で机を叩き壊した。窓辺に置かれた花瓶を黒板に投げつけて割った。何もかもを滅茶苦茶にしたかった。こんなに大声を出したのは何年振りだろう。涙が次から次に溢れ出てくる。
ぶん投げた椅子が窓に当たってガラスが派手な音を立てて割れる。と同時に警報機が鳴り響いた。まだ用務員が防犯スイッチを切っていなかったらしい。でももう、そんなことはどうでもよかった。
壊したかった。自分みたいに。僕はもうとっくの昔に壊れていたのだ。壊されていたのだ。正解なんて出せるはずがないじゃないか。だから壊すんだ。自分みたいに何もかも。
破損した備品が手に足に刺さる。服が破れて隠してきた傷が露になる。どうでもいい。全部もうどうでもいい。壊したい。壊したい。壊したい。
見て、こんなに壊れてるんだ。誰か直してよ。ねえ、誰か。誰か。
体力が底を尽きて、何もかもが破壊された教室の隅っこで、僕はくず折れた。
「先生、だから早く直してください。皆が待ってるんです。早く、皆が望む僕に直してください」
あれから病院に連れられて、沢山の薬が処方された。毎日頭がぼーっとして、何だか眠くなって、その内に1日が終わってしまう。
学校に行かなきゃいけないのに、母さんはもう行かなくていいって言う。その代わりに薬を持ってくる。父さんは最近見かけなくなった。何処へ行ったんだろう。母さんに訊きたいけど、体も頭も重くて僕から僕が逃げていってしまうみたいだ。
病院の先生が言うことも、母さんの言うことも、よく理解できない。
学校に行かなきゃ……? 学校に行って、どうするんだっけ? でも、僕が学校に行けば、きっと皆笑ってくれる。父さんも帰ってくる。望まれなきゃ。望まれ、なきゃ?
今日も僕は母さんと病院へ行く。調子はどうですかと訊かれる。
「学校に行かなきゃいけないんです。だから早く直してください。
望まれる僕は、どこにありますか?」