5・運命の出会い(佐藤稔視点)
稔視点です。
入学式か…。
とりあえず、天気は良いみたいだ。
大きく伸びをして、ベッドから起き上がった。
俺、佐藤稔。
今日から、高校生になる。
手早く着替えて、リビングに行くと大学生の兄貴がなんだか煩くテレビを観ている。
横目で、見ながらテーブルに置いてあるパンを口に入れる。
俺の家は、父子家庭だ。母親は、三年前に病気で亡くなった。
そっから、俺と親父と兄貴のむさい男所帯だ…。
潤いたいなぁ…。
ボソッと、つぶやくと兄貴が振り返る。
「稔、なかなか緑ヶ丘の制服が似合うな。まあ、お前は顔が良いから何を着ても似合うな(笑)」
そんな事を、言ってくれる兄貴はお世辞にもカッコ良いとは言えないルックスだ。いや、男らしい男が好きな子からしたら、イケているのかもしれない。
「さんきゅう。」
「結局、修也も同じなのか?」
「まあね。」
修也というのは、長い付き合い腐れ縁の関係だ。兄貴に言わせると、「それは、幼馴染というものだ。」なんだけど、俺から言わせると何も好き好んでつるんでいる訳じゃないから「腐れ縁」なんだ。
だって、幼稚園から、小学校、中学校、クラブも一緒だったし、塾に通っても、スポーツ少年団に入ってももれなく修也が付いてくる。
いつのまにか、二人でワンセットみたくなっちゃって…。
まあ、嫌いじゃないから良いんだけど。
「稔も、高校生になったら彼女を作れよ。手作り弁当とか良いぞ~。」
最近、可愛い彼女ができた兄貴はしきりに彼女をすすめてくる。
「いいよ、面倒だし。」
「お前は、贅沢だなぁ。告白されてばっかりだろ?」
「もう、時間だから…いってきます。」
話しの途中で、席を立つ。
兄貴、おせっかいだし。俺が、機嫌悪くなるとあっさり話を切り上げて「気を付けてな。」と見送ってくれた。
自慢じゃないけど、結構モテるんだよね。
彼女も居なかった訳じゃないけど、面倒くさいんだよね。実際、付き合ってみたら他の女子と話すと後から、何を話していたのかとしつこく聞かれて、うんざりしたし。
他の女子も、そんな彼女に対して軽い苛めをしちゃったりで、とにかく面倒!
そんなんなら、まだ修也と一緒にいた方が落ち着くっていうか、気楽?
修也に言わせると、「お前は、飾りすぎ。」ってさ。
だけど、みんなと楽しくしたいと思ったら気を使って当然だろ?誰かが、つまらなさそうにしていたら気になるし。
で、気を使いすぎるとこっちが疲れちゃうのと、相手から過大な好意を寄せられるという、とんでもない事態になりがちだ。
だから、適当にチャラくして女子たちには平等に優しくする。
嫌われないように、特別と感じて貰われない程度に優しくね。
うん、その方が気が楽だ。
だけど、感じちゃったんだ。
伝説の桜の下で。
ビビビって、この感じかぁって。
初めて見る子だったけど、一瞬でインプットされた。
同じクラスだったら、いいな…。
次に会ったら、自分から声を掛けるんだ。
そうだ、思い切り優しくほほ笑んで握手から始めるんだ。