1話「入部してくれない?。」
初投稿。
「どう?入る決心はついた?」
「いや、誰も入部するとは言ってないんだが。」
狭い部室の中で「彼」と長身の男子生徒がテーブル越しに座り,話し始めて早20分。身長190はあろう長身の男子生徒も半ば、帰ろうとしているが,唯一部室まで来てくれた入部希望者なので逃がすわけには行かない。そう、今まさに部活勧誘の真っ最中だ。
「そもそもこの部活は存続させる意味があるのか?」
「へっ?なぜそんなことを?」
「いや、だってそれは・・・・。」
このときはまだこの長身の男子生徒も、「彼」との出会いが世界の命運にかかわるとは知りもしなかった。
時はおそらく現代、場所は日本。
主人公は高校生、彼は地球防衛団という部活に所属している。「彼」は部長である。
部活とは言っても部員は「彼」一人である。
3日前までは、他に2人いたが訳あって今は退部している。
生徒会には「一週間以内に部員が3人以上集まらなければ廃部。」といわれた。
付け加えて「ごめん、同好会だから廃部じゃなくて消滅かしら。」といわれた。
なので「彼」はは朝からひたすら勧誘している。
5月の朝は少し肌寒い。そんな中、運動部は朝練をしている。
暇そうな帰宅部に入部してくれと頼んだが頼んだ全員に入部を断られた。
故に彼は部活動をしている生徒に兼部してもらおうと考えた。そう考えてから勧誘してみたものの結局、勧誘した50人全員に断られた。そして一日が終わる。
今日も「彼」は勧誘をしている。陸上部にいる、ある人物を勧誘するためだ。
「すみません。天秀君はいますか?」
「彼」は陸上部員の一人に話しかけた。
「いや、アヤトはここ最近朝練にも来てないし、午後の練習にも参加してないよ。でも退部してはいないし不登校というわけでもないから、アヤトのクラス、教えようか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。」
「あ、まって。いい事教えてあげる。」
「へっ?」
「彼」は再び礼を言うと、その場を立ち去った。そしてその後声をかけた20人全員に断られて一日が終わる。
次の日、二人は出会った。
二人というのはもちろん、「彼」と彼の探していた人物だ。
「彼」が探していた人物の正体は天秀アヤトという陸上部員のエースだった。
190cmはありそうな長身に加え日本人離れした顔立ち、金髪青眼で校内でも1位を争うほどのイケメンだ。
まずはと、意気揚々と挨拶してみた。
「おはよう!天秀くん」
「・・・・・・・。」
返事は無かった。
決して無視をされたわけではない。長身の天秀アヤトは声のする方向に振り返った(というより見下ろした)が、すぐに前を向きグラウンドへ向かって行った。
「ちょ、ちょっと待って!」「彼」はあせってアヤトを呼び止めた。
「何か俺に用か?」
「うん、君に用事があるんだ。ちょっと来てくれない。」
「俺今から朝練だから放課後でいいか?」
アヤトは表情を変えず言った。負けじと「彼」も言う。
「いや、まだ時間あるし今話せないかな?」
「俺はいつもこの時間から練習してるんだ。そういえばなんで俺がこの時間、朝練してるのを知ってるんだ?今、午前3時だぞ。」
「マネージャーの人から聞いた。そんなことよりどう?ちょっとでいいから。」
「彼」はアヤトの顔を覗き込むように言った。しばらくの沈黙。
「彼」はじっとアヤトの目を見つめている。すると、諦めたようにアヤトはため息をついた。どうやら話を聞く気になったようだ。
狭い部屋。下駄箱からだいぶ遠くにある廊下の端にその部屋はあった。
中はというと、壁側にダンボールが山積みに置かれ、部屋の真ん中にはテーブルが一ついすが4脚。それで部屋はいっぱいになっていた。よく見ると壁にはほこりを被った絵画や、おもちゃの剣が飾られていた。
「それで話って何だ。まあ、大体は予想がつくが。」
アヤトはいすに座った。体が大きいため非常に窮屈そうだった。
「そうか、なら話が早い。この部活に入ってくれない?」
「いやだ。」
即答だった。
しかしこの程度では「彼」はへこたれない。
何せ残り時間は2日しかないからだ。
「いいじゃないか。だって君普段は部活に出席していないんでしょ。兼部でいいから入部してよ。」
「・・・・いろいろ調べてるんだな、俺のこと。どこまで知ってるんだ?」
顔色を変えずアヤトが問う。
すかさず「彼」は答える。
「身長189cm体重88kg靴のサイズ29cm。世界的にも有名な陸上競技のトップアスリートで15歳の時にはビッグ5と呼ばれる超人たちの頂点に立つ。
陸上競技ほぼ全ての種目で世界記録を持ち「鉄人」の二つ名を持つ。そしてその正体はすう・・。」
「もういい、分かった。」アヤトはゆっくりといった。
すると「彼」が話を切り出してきた。
「どう?入部する気になった?それならこの入部届けにサインしてね。まあ、お菓子でも食べながら。」そういいながら「彼」はお菓子の入った木の鉢を勧めた。
「この流れで、どうして俺が入部したいと思うんだよ。」
アヤトは鉢の中のチョコを一つ掴み口にほおりこんだ。そして「彼」に尋ねた。
「なら、俺をこの部活に入れたい理由を教えてくれないか?自分で言うのもなんだが俺は結構忙しいんだ。」
すると、突然「彼」の顔に焦りが出た。何かを隠しているようだった。
「ま、まあ、とりあえず紙は渡しとくから放課後までに答えを聞かせてね。」
そういうと足早に狭い部室から出て行った。アヤトは一人部室に取り残された。
放課後、アヤトは再びあの狭い部室に訪れた。もっとも入部する気はさらさら無かったが。
部屋に入るとそこには「彼」がすでにそこに座っていた。彼はニコニコしながらこちらを見ている。期待にあふれた眼だ。
アヤトはとりあえずいすに座った。
すると「彼」はうれしそうに話しかけてきた。入部する気は無かったので少し罪悪感を感じ、少しの間話に付き合った。
そろそろ帰ろうかとアヤトが思ったがそのとき忘れかけていたことが頭をよぎった。
~なぜ俺に入部してほしい理由を聞いただけであそこまで動揺したのか~
それが少し気になった。そこでそれも踏まえて尋ねてみた。
「そもそもこの部活って存続する意味はあるのか?」
すると「彼」の顔に?が浮かんだ。
「へっ?なぜそんなことを?」
まるで何も分かっていないような「彼」にアヤトは言った。
「いやだってそれは分かるだろ。まずこの部活地球防衛団って名前だが、部活登録表にボランティアサービス部って書いてあった。しかもできてから1年と少しということはまだ部活にもなっていない、同好会だ。活動内容といえばせいぜい水遣りか掃除といったところ。わざわざ部活でする必要は無い。何よりそこまであせって部員を集める必要も無い。なぜそこまで、部活ですることにこだわる?」
言い終わった直後、アヤトは「彼」の目が輝いていることに気づいた。アヤトはしまったと思った。今朝、あんな風に焦った様な素振りをしたのは単に相手の興味を引きたいがため。完全に引っかかった。そして良くぞ聞いてくれたと言わんばかりの視線をアヤトに向けた「彼」は語りだした。
「良くぞ聞いてくれた。実はこの地球防衛団もといボランティアサービス部の活動は仮の姿。この部活動には隠された真の目的があるんだ。その目は・・・・」
「目的は?」アヤトはオウム返しで問い返す。
「その目的は、魔界にいる悪魔の王、魔王を倒すこと。そのために僕は部員を集めているんだ!」
「・・・・・。」
アヤトは愕然とした表情を浮かべた。予想はしていたがこれほどとは思ってもいなかった。これほど頭のおかしなヤツだとは・・・。
「そうか、頑張れ。」
そういうとアヤトは席を立ち部室のドアに向かった。
「ち、ちょっと待って、冗談じゃないから!本気だから!」
「それならなおさらここには居られない。」
あせって止めようとした「彼」にそう言い残し、アヤトは部室から出て行った。
「明日でもいいから、入部する気になったら入部届けにサインして持ってきてよ!」「彼」は叫んだが、アヤトの耳には届かなかった。
「何なんだ、あいつは。」
そういいながらアヤトは照明の少ない暗い住宅地の道を歩いていた。「彼」との話が思った以上に長引いたため、すっかり日が暮れていたのだ。
「高校生にもなって、あそこまで馬鹿でいられるなんて逆にすごいな。悪魔を倒すために協力してくれないかとか、そんな理由で入部しようと思うやつがいるとでも思っているか。」
アヤトは呆れていた。17年、生きてきたがここまで呆れたことはおそらく一度も無かった。正真正銘の馬鹿といえるようなヤツに出会ったことも無かった。
本当に無駄な時間だったなと思った。しかし・・・
「あいつの目、言ってることは馬鹿丸出しだったが、あいつの目からはなんと言うか、その、信念のようなものを感じた。まるで本当に悪魔が居るかのような・・・。」
そして、気づいた。あそこまで熱心に勧誘するのは「彼」が友達をほしいと思っているからではないかと。しかし・・・
「できれば今後かかわりたくないな・・・」アヤトはそう思った。
そう思った直後、目の前の十字路に人影が見えた。どこかで見覚えがある。
いやな予感がした。
残念なことにその予感は見事に的中した。そこにはアヤトが今一番会いたくない人物がたっていた。
厳密に言えば、きょろきょろと辺りを見回して何かを探しているという感じだった。アヤトはとっさに近くの電柱の影に隠れた。
「うーん。ここら辺に着たはずなんだけどなぁー。」
「彼」は一人でぶつぶつ何かしゃべっている。やはり何か、もしくは誰かを探しているのだ。
「帰るか。」アヤトはそう言うと「彼」が居る方向とは逆の方を向こうとした。
向こうとした。そう反対側を向こうとはしたができなかったのだ。
何かが、アヤトの肩を掴んでいた。
アヤトは恐怖した。ここまで何かを恐れたのは、初めてだった。恐怖のあまり身体がまるで凍りついたように動かなくなった。
後ろの人物を意識しようとすればするほど、まるで身体が苦しみに蝕まれていくように感じた。
一秒が何時間にも感じられた。
「勇者ッスラァァァァシュッ!!!」
突然の雄たけび声が聞こえた直後、アヤトは地面に叩きつけられた。
それは、先ほどアヤトの背後に居たものも同じだった。
アヤトは振り返った。その技名(?)からそこに居る人物は大体予想できた。
「大丈夫かいッ、アヤト君!」
そう「彼」だった。その右手には鞘に収まったおもちゃの剣が握られていた。
先ほど、ボランティアサービス部の部室で見た物だ。
訳も分からず混乱しているアヤトに「彼」は言った。
「僕がアイツを引き付けるから、その隙に逃げるんだ。大丈夫僕はこんな程度では死なないよ。」
そういうと「彼」は走り出した。
「彼」が目指す先には、先ほどまでアヤトの後ろに居た人が居た。
しかし、アヤトの眼には、その人は映っていなかった。厳密に言えばそれは人ではなかった。
全身を茶黒いコートで包んでおり、顔もフードで覆われている。しかし手や足はしっかりと出ていた。しかしその手足が奇妙だった。
石炭のように黒く、揺らめいていた。まるで黒煙のように実体は持っているのに、不定形。蒸発するかのようにコートの隙間から黒い灰のようなものがじわじわとあふれ出ていた。
しかし眼だけは赤くぼんやりと不気味に光っており、まるで恐怖を具現化したような姿だった。
「ていぁぁぁぁぁ!」叫び声を上げる「彼」。
しかし「彼」の振るおもちゃの剣は空を切る。
威勢よく飛び掛ったものの、「彼」は予想以上に苦戦していた。
「ちょっとやばいかも、このままじゃ」
そういいながら、剣を振った。しかし・・・・
コート男はそれをスッとよけると今度は「彼」の腹部に強い拳をぶつけた。
「ブフゥッ!」、「彼」は吹っ飛ばされ近くの家の壁に叩きつけられた。
そして地面に倒れこんだ。
コート男はゆっくりと「彼」に近づいていった。十数歩あるいて倒れている「彼」の前で立ち止まると、口を開いた。
「オユルシヲ、コレモスベテ、アノオカタノゴイシ・・・・」
そういい終わると、コート男は右腕を上に挙げた。
すると先ほどまで手の形をとどめていた黒い煙が形を変え鋭利な刃物のようになった。「彼」は気を失っている。
コート男はそれを振り下ろした。
「おい、起きろ。こんなとこで寝てると風邪を引くぞ。」
突然自分を呼ぶ声がして「彼」は目を覚ました。
「アヤト・・くん・・。」
「やっと起きたか。もう大丈夫だな。」
そういうとアヤトは立ち上がりふぅと息を吐いた。
「あっ、えっ、いま、オリジンが、じゃなかった。悪魔が居たよね。」
「あー、そうかあれが悪魔か。」
あせって聞く「彼」にアヤトはそう言うと、付け加えた。
「そうそう、その悪魔なら俺が倒した。」
「倒したんだ、はー良かった・・・。じゃない!」
「彼」は人生初であろうノリ突込みをした。
「倒したって、生身で?武器も持たず?」
「ああそうだ、普通に蹴り倒した。ほらそこだ。」
アヤトが指差す先にには、さっき倒したというコート男が壁にできた巨大クレーターの中心で小さく、まるで火の粉のようにくすぶっていた。
「そうか・・・君が倒してくれたのか・・・ありがとう。」
「彼」はゆっくりと立ち上がりながら言った。
「いや、礼はいらねえ。勝手に俺がやったことだからな。」
アヤトは、大した事はしていないという表情だった。
「ますます君を、地球防衛団に誘いたくなったな。」
そういう「彼」にアヤトが言った。
「いや、それなんだがな・・・」
アヤトは少し斜め上を向きながら続ける。
「俺、ボランティアサービス部、入るわ。」
「えっ!」
「彼」は驚きの声を上げた。きょとんとしている「彼」にアヤトは言った。
「お前だけじゃ、はっきり言って不安で仕方がない。あんなザコみたいなヤツに苦戦するようならこの先、いくつ命があっても足りないぜ。」
アヤトはニッと笑った。
すると、「彼」の表情がぱっと明るくなった。
「じゃ、じゃあ入部してくれるって事?」
「そうだ。」
即答だった。
「兼部、だよね?」
「いや、陸上部はやめる。何せ魔王と戦う部活に入るんだからな。」
「本当!!」
「ああ、本当だ。」
「彼」はこれまでにない笑顔を見せた。
そして「彼」は改まった表情で言った。
「これからよろしく。天秀アヤト君」
「こちらこそな、ん?お前って何て名前なんだ?」
そういえばという顔でアヤトが言った。
「彼」もそういえばという表情をした。
「それじゃあ、改めて。僕の名前は一二三四五六。地球防衛団(ボランティアサービス部)の部長だよ。」
何とか頑張って書きました。最後まで読んでくださった方本当にありがとうございます。思いついたことを書くので投稿する日にちは決まっていませんが、なるだけ早く書こうと思います。応援よろしくお願いします。