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ヒロイン!髪を切りに行きます!

予約投稿です

マミーとゲームをしていると結馬と咲馬が帰ってきた。


「ねーちゃん?!」

「どうしたのねえちゃん!!元気になったの?!」

「うん、ちょっとだけ元気になった」


即答する姿を見てふたりの顔色は明るくなる。


「ねえちゃん!おれともゲームして!」

「はあ?結馬お前は宿題でひいひい言ってろ!抜け駆けすんなよ!」

「別にいいって、順番にしよ!」


こんなふうにゲームのコントローラーを奪い合うのも初めてで笑みが絶えない。





マミーは満足げにその光景を見守って、少し離れたところで電話をかけた。






「イツキー朝よ~起きなさ―い」

「ううう…」

「今日も学校にはお休みって言っといたから~起きて~」

「おーきーなーいー…」

「起きてってば、約束取り付けてあるから」

「やくそく?」

「そう、髪伸びたでしょ?美容室予約しておいたから行ってきなさいよ」


魅力的な誘いに布団から顔を出してしまう。


「でも、私…切符買えない…」

「大丈夫!なんと一日乗車券をマミーは持っているのですー!」


じゃじゃーんと取り出された切符が七色に光って見える。


「この切符さえあれば、機械はダメでも駅員さんにみせれば乗り降りできまーす」

どう、起きない?と言われて起きないほど性根は曲がってないない。

「準備する…」



自分の髪の毛をくるんと指に絡めてみる。

毛先は揃ってないし、枝毛もあったりするし、なんというか栄養不足っていうかバサバサっていうか…毛並みがよろしくない。


美容院なんて行くの久しぶりだなあ。


前の家にいた時はお母さんが切って無理矢理三つ編みにして誤魔化してた。勉強しかしなくて、美容院に行くのは親戚会うときとか何か行事がある時だけで正直、嬉しさでドキドキしている。




階段をおりて朝ごはんをもしゃもしゃ食べていると、制服姿の結馬と咲馬が降りてきて「あれ?」と首をかしげる。


「ねえちゃん、今日はどっか行くの?」

「うん、髪切って来る」

「えー!勿体ないよ!ばっさりなんて切らないでね?!」

「毛先整えてもらう程度だからそんなに変わんないよー」


ふたりはそんな感じで学校を休む私を自然に受け入れ自然に会話をしてくれる。さすがマミーの子、と私は心ひそかにふたりに拍手を送っている。

ちなみに一度出来心でパラメータを表示させた事があるのだが、ふたりのパラメーターはゲージマックスで上下しない事が分かった。どんだけシスコンなのよ、というのは悪友の感想だ。だまれ腐れヲタ。


マミーは丁寧に乗下車する駅と地図を書いてくれた。

スマホでナビゲーションも出来るのだが、マミーの手によって作られると別の安心感がある。


あんたも随分なファミコンになったわねぇ…、と言われてもそれは仕方が無いかもしれない。ファミコンとはファミリーコンプレックスの略であり某ゲーム機の事ではないとここで解説しておこう。





望月駅のまえにやってくると、さすがに何か心構えがないといけないような気がする。

切符は有効だろうか、果たして電車に乗れるのだろうか、乗れるとしたら…元の世界へ帰れるのだろうか………?


さまざまな人の顔が思い浮かんで慌ててそれを振り払う。


今は、今を楽しまなきゃ!!



そうして、胸を張って切符を持って改札口に進んでいったのだ。


電車には呆気ないほど簡単に乗れてしまった。

こうして揺られていると、元いた世界と何ら変わりないと実感する。

吊革広告やビルの看板の内容は元いた世界とは違うけれど…それでも変わりないと言って差し支えないだろう。


下車した駅も知らない駅名だった。

望月駅を含み、どうやら環状線がひとつまるまる東京に出来てしまったという事なのだろうか。

学校の近くにも最寄駅があり、確かにいつだったか如月くんの言った通り電車で通学したほうが楽かもしれないし、実際に使っている子は多いのだろう。






リング・ア・ベル

それが予約したお店の名前よ!とマミーに念押しされたので私は一店舗一店舗お店の名前を確認しながら慎重に道を進んだ。

本当はウィンドウに並んだ服や靴や雑貨が可愛くて気になって気になって仕方なかったのだけれど。慎重にあくまで慎重に道を歩いているだけだからねっ!




「りんぐ・あ・べる・・・・りんぐ・あ・べる・・・?」


「はぁい、お嬢さん!うちのお店に御用かしら?」


「はっ、はいぃ?!」

声が途中で裏返って無様な醜態をさらしてしまった事を許してもらいたい。

私を「おじょうさん」と呼びとめたのは…紛れもなく筋肉ムキムキのマッスルな「男の人」だったからだ。

しかし…顔は女化粧を施されて非常に美人な…うん、肌きれいだし、睫毛ゼッタイ私よりも長い…美人な顔だった。


「あっ、驚かせちゃってごめんなさいねぇ!大抵イチゲンさんはそういう反応するから気にしなくていいの。私も鏡見てびっくりするから!お前誰だ~~っって!」

「それはそれで問題ですね…」


鏡を見た時に自分が分からないのは怖い。


「それで、Ring a bellはうちの店の事だけど…」

「あ、あのっ!予約していた…新野、樹です」


マミーは本名で登録しておいたと言ってくれていたけど、それはそれで少し複雑だった。


「あらぁ!あなたがイツキちゃんなのね!」

「え?え?」

「珍しいと思ってたのよぉ、うちのお店はねカットする店員を指名できるんだけど…」


手を引かれながらお店の中に入ると、恐ろしくセンスの良い空間が広がっていた。

無意味なものは無く、肩肘を張るようなこともなく、かといって安っぽくもない。


「まだイチゲンさんには知られてないはずなのにハジメちゃんのコト指名するからぁ」

「ハジメ…?」


私は首をかしげる、そんな事一言も聞いてないですけどマミー!?


「はーちゃん~?お客さまよ~?」

「店長!お客の前では―ちゃんは止めてくんないっすかね?!」








店の奥から出てきた男の姿に私は顔をひきつらせて固まり…


……如月君は半ばやけくそに笑みを張り付けて「いらっしゃいませー!」と腰を折った。




次回の更新は来週の月曜日20時を予定しております!

次話も乞うご期待☆

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