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はしくれのプライド(1)

翔太先輩のモデルを引きうけて(引き受けざるをえないように恐喝されて)2週間がたとうとしている。

悲しい事に絵のモデルになるのはイベントでも何でもなかったようで、彼のシュミのようだ。これを事後報告するとめぐるは首を絞める勢いで怒って、チャット越しで友人には大爆笑された。

文字制限めいっぱい使って草を生やされた。

くっそ、除草剤買っとこう……。



今朝は行がけにマミーにタオルとスポーツドリンクを渡された。


「マミー、どうしたのこれ」

「え?えーっと今日は…最高気温更新って朝のニュースでやってたから!熱中症には注意しなきゃ!」

「……分かりやすい嘘つかなくていいよ、イベントでしょう?私なんかフラグ立ててた?」

「えっ、ううんっと……そろそろじゃないかなって思っただけで、別にフラグなんて立ってないから、大丈夫よ」


マミーはどこか私がイベントやゲーム絡みの話になると神経を張り詰める癖を見抜いているのかいないのか、それは分からないが気を使って話してくれる。

それがありがたくもあり、すこし不安感を煽りもする。


そんなわけで持たされたスポーツドリンクやタオルがカバンのなかで幅をきかせている。


「おっはよーイツキ!」

「メグおはよー」


今日は何でかメグのテンションが高い。


「イツキ…今日はちょっと厄介なことがあるけど…!大丈夫よ!私なんとかするから!」

「メグ…なんだかちょっと後ろめたいことがあるんでしょ?なんとかするって何するの?駄目だよ、そんな風に…背負いこんだら」


彼女は子犬のようにしゅんと項垂れた。


「だって…」

「スポーツドリンクとタオル…に関係ある事?」


なんでそれを…!と顔をひきつらせるめぐるの顔を見れば一目瞭然だ。


「あなたのお母様とっても気がきいてるわね…」


本当なら学校に行く途中でどこかに寄って買うつもりだったんだろうか。そんなに大事なアイテムには思えないけど……体育に関係してるの?運動するひと?

真っ先に思い浮かべたのは………かぐやくんだった。


「かぐやくんかあ……」


思わず呟いて、ケータイのアプリを開いた。



《マミーに何かイベントの入れ知恵した?》

《したけど》

《イベントの注意喚起度は?》

《危険度は六段階評価で星ふたつ!好感度アップに向けてふぁいとだおっ!》




「ちくしょう!」


画面を覗き込んでめぐるが聞く。


「それ……前の世界の、友達?」

「別にこんなの友達じゃないってば!」


悪し様に罵れる友人をどう思ったのかは分からない。


でも…


彼女は一切の表情を消して「ふうん」と声を漏らした。それが背中を氷のかけらがつたっていくように鳥肌をたたせる。


こんなめぐる、見たこと無い……。


「め、メグ?」

「うん?イツキどうかした?ほらほら学校に行くよ!急ぐよ!あたし遅刻したくないもん」




体育の授業に目星をつけて授業中はずっと時計の針が気になって仕方なかった。


「ちょっと新野さん?授業に集中していますか?」

「は、はいっ?!」

「まったく…理由は察しがつきますが、生徒としての自覚をもってくださいね、じゃあテキストの32ページの3行目から読んで」

「…はい」


しょぼんと項垂れて指示され通りに読みあげると、教室に笑いのさざ波が立った。

ああ、皆さんもこの後何があるのか御承知なんですね…知らないのは私だけなんですね…。

孤独を嘆く事も許されないのですね…贅沢なことだと一蹴されるのが目に見えているもの…。



予想に反して体育の授業前から雲行きが怪しくなってきて、煮え立つように積乱雲がわいて青かった空を覆い隠してしまった。

そしてぽつぽつと雨粒が空を切り裂いたかと思うと、たらいをひっくり返したような雨が降ってきた。

煙立つような雨の量では体育はおろかしばらく外に出る事もはばかれる。

そして…BGMが教室を包み込んだ。



「ねえ、メグ…ヒロインってなんなの、都合のいいように天候を捻じ曲げられたりするの?それって雨女よりも雨女の称号があうよね、私雨女なの?」


彼女は無言で背中を押した。

振り返ってめぐるを縋ったが、彼女は黙ってかぶりを振った。



〝窓の外でざあざあと雨が激しい音を立てて地面で砕け散っている

 次の時間は体育なのに…これじゃあ授業なんてできないよね…〟


〝廊下の向こうで慌ただしい足音がいくつも聞こえる…もしかして先に授業をしていたクラスがあったのかな〟


〝教室のドアを開け放つとそこには…〟


〝「か、かぐやくん?!」〟


〝「イツキのとこの授業は次だったんだ…俺たち運悪かったなあ、急に降ってくるんだもん、おかげでこのざま」〟


〝彼は笑ってびしょぬれの体操着姿を差した〟






さあっせんしたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!


これ私以外の人はみんな知ってんだよね?!


クラスが違おうがどうだろうが知ってんだよね?!


分かっていながら雨に打たれて体育をの授業に出てくれるみなさんはなんなんですか?!天使なんですか?!清き心を持った無償奉仕をも辞さないその役を背負ったあなた達は!!!


あなた達は!!!!



〝>私はかれにタ……〟


選択肢なんぞ知るか!

私は踵を返してずかずかと教室をまたいで乱暴に自分の鞄をひったくった。


「かぐやくん!これ使って!」


彼はおかしそうに笑っている。


「おお、思い切りがいいなあ」

「何で私なんかのためにみんなが雨に濡れなくちゃいけないの?!かぐやくんだから渡したんじゃないからね、私のせいで雨に濡れた人代表として渡すんだから!これ使って!」

「すっごい理屈だな…でもまあ、ありがとう」

「あの…他のみんなは」


「…まあいつもの事だからな」

「いつもの事だから…なんとも思わないなんてことないと思う」

「その理屈も…間違っては無い」


でも、とかぐやは少し逡巡して言葉を続ける。


「でも、雨に濡れたやつ全員分のタオルを用意することはできないし、謝ったって仕方が無い。それにもともと天気予報ではきちんと雨が降るって言ってたし…これもたぶん間違ってない理屈だって思うんだけど…分かってくれる?」


頑なな子どもを諭すような優しい声音と、見上げると優しく責める気持ちの一切ない視線を受け止めた。


「……うん」

「じゃあ、かわりに…ってなるか分かんないけど」


〝「ありがとう、明日タオル返すから、放課後に会えないかな」〟


〝「わかった、いいよ。でも部活があるんじゃない?」〟


〝「部活が終わった後に、ちゃんと返すから待っててくれる?」〟


〝「うん、わかった、まってるね」〟


〝かぐやくんってたしか…野球部に入ってるんだよね。

 野球部の練習ってとても大変そうだし…〟


〝よし、明日もタオルと…飲み物も持ってこよう!〟


〝※持ち物リストに「タオルと飲み物」が追加されました〟




「これは?」

「ん?何ってイベントのフラグじゃね?」


っわあああああああああああああああああああああ!

今日だけじゃないんですか!?

ああ、日をまたぐ感じのあれっすか!

ああ!そうっすよね!

デートだって一週間くらい前に約束するもんね!

デートと同じにされても困るんだけどね!



「ああ……また世間様からヒロインへの反感を買った気がする…」


「んー、おれは嫌いじゃないけどな…イツキ別に嫌われるような事してないし?」



あなたのそういうところを好きになってしまっている女性がどれほどいるか分かってない!あなたまるでわかってない!!

そんな女性の方々の不興を買ったら…どんなことになるか…!

私は想像するだけで…怖くて眠れないのに……!


「イツキ?」


彼がうかがうように俯いた私の顔を覗き込んだ。

その距離の近さに頬が火照る。

これで動じない女の子がいるのならぜひともお目にかかりたい!うちの友人はどうなのかわっかんないけど!少なくともノーマルの女の子ではこんなのにカウンター持ってる奴なんてありえないから!


「ぜ、ぜんぜん大丈夫だから!あ、明日の放課後ね!わかった!」






はしくれのプライド(2)につづきます!

時間に余裕のある方はぜひあわせて読み進めてください!!

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