あなたの配役はヒロインです
もしも、私の頭がおかしくなったか発狂したか…まあどちらにしても狂っているのだけど、そのどれでもないのならば、どうやらここは私の知っている世界ではなくゲーム内の架空世界の日本で、架空の都市であるようだ。
私は女子高生である。名前は…おっとここではどうやら上手く表記できないようだ。
表記できないとなるとちょっと困ったことになる。
そうだな…、ではかの有名な小説から一節を拝借することとしよう。
私は女子高生である。名前はまだない。
正確には私に名前はあるのだけど、上手く伝える手段がない。
私は既にこの良く分からない架空世界に放り込まれて随分と時間が経つ。
普通に学校の帰り道にひとりでふらふらふらふらしていたので、いつ、どの場所でここにやってきたのかは定かではない。
不甲斐ない限りではあるけれど、でもさ、誰にでもあるだろう?
塾通いが辛いとか、学校の人間関係が面倒だとか、何をするにも億劫な時。
そういう時私は最寄りの駅で一番安い切符を買って電車で環状線を一周して帰るのだけど。もしかすると、それがまずかったのかもしれない。
っていうか、それだよね。
厨要素の強い趣味ではあるけど、これがまた気分がいいのよ。
私は時間間隔でどのあたりの駅にいるかを把握しているから、駅名を確認せずにすとんと降り立った。
そう、この架空世界に。
最初はよく出来た夢だと思ってぼーっとしていたけど、募る疲労感が「現実的に考えようぜ」と脳に働きかけてきた。
そうしてこの一帯をくまなく散策して、分かったこと。
ここは趣味も縁も腐り切った友人が手を出していた乙女ゲーム「ムーン@ディスタンス」に登場する都市と酷似しているのだ。
似てるってもんじゃない、「ムーン@ディスタンス」そのもの。
なんでそのゲームをしていない私がそんなことを知っているかっていうと、友人が懇切丁寧に私にゲームの内容を言って聞かせてきたからである。
あり得ない…!
ホントにあり得ない!何で私が!あのゲーム中毒でヲタでこの手のラッキーハプニングに飢えている二次元ドリーマーの友人ではなく!私が!
さっさと帰ろうと思って駅で切符を買おうと思ったら反応しやしない。
ピクリとも動かない。
これじゃただのハリボテだ。
絶望に呻きながら、薬物対処の出来ない頭痛に頭を抱える。
誰か助けて!しかるのち現実の世界に帰して!あの腐ったヲタの友人と引き換えても良い!
ふらふらとよろめきながら駅前のロータリーの広場に行って、ベンチに腰掛ける。
幸いなことに自動販売機は反応してくれた。
目の前には「ムーン@ディスタンス」の冒頭部分で主人公の背景になっている4人の天使が三日月のまわりで戯れている…と言う彫刻が広場の中心に飾られている。
駅名を再度、もう何度確認したか分からないが、見やる。
「望月駅」
ああやっぱり、何度見ても駅名は変わらない。
はあ、とため息を吐いて気付いた。
あれ、うちの制服とちがう服を着てるよ私。
驚いて飛び上がって両手で体をぺたぺたと触る。
傍から見るとパントマイムをやっているのかなんなのか、間違いなく不審者だろう。
しかし、本当に自分がやられると恐ろしくなる。
品の良いセーラーのブラウスに薄緑色のストライプがはいった紺色のブレザー。スカートはプリーツの多い紺色で丈はひざ下。
ローファーは赤茶色で、カバンも同じ色味の皮鞄だ。
私はスカートを短い丈にしない派だったので全然気付かなかった。気付かなかった自分が怖い。
ああ、でも、当時はパニックで街中をかけずりまわってたし、しょうがないよね。
もう一度、はあ、とため息をついた。
「あれ?うちの高校の子?見ない顔だけど…だあれ?」
女の子の声に飛び上がるほど驚いて、そして立ち上がる。
「あ、あ、あのっ!」
正味の話、私が別の世界からこの架空世界にやってきただなんていう話を信じてくれるのだろうか。
いいや、絶対に引かれるね!
中二房と罵られておきざりにされるね!そのくらい知ってる!
「あ、もしかして『ムーン@ディスタンス』絡み?まってまって、そんなに怯えないで」
同じ制服を着た女の子が慌てて駆け寄ってきて肩を掴んだ。
「どうしたの?バグ?」
「バグ…?ってどういう…?」
「あ、ああそっか、ここがゲームの世界の中っていうところから説明が必要なのか…」
「ゲーム…?ムーン@ディスタンス…乙女ゲームの?世界?と言う話?」
「あなた、名前と配役は?」
「へ?」
呆気にとられるというのはこの事ではないだろうか。
ただ呆然と立ち尽くしてまじまじと見つめる。
「私たちはこのゲームの、あ、ここはゲームの中なんだけどね?配役が決められているの。あなたは…モブかしら?何か記憶っていうかデータがない?」
「…無い、です。でもゲームの話はなんとなく…」
「ふうん、やっぱりバグなのかしら…。ゲームの中では配役が決められていてそれの通りに行動するのだけど…モブだと制限がここまで無いものなのかしら…?」
「配役、ってあの演劇とかの?」
「そうそう。それの通りの行動を約束する代わりに、それ以外は好き勝手してていいらしいのよ、よそはどうなのか知らないけどね?他のゲームにもこういう事があるのかなあ」
いえいえ、そうそうない事ですよ。むしろ滅多に無いことです。
そして驚くべきことです。
「…ちょっとは落ち着いた?まだ混乱してる?」
「…だいぶ、落ち着きました…それより私の話を聞いてくれますか」
「いいよ、それに敬語はよしていいよ。わたしはめぐる。メグって呼んでよ」
女神だ!女神が目の前にいる!
「ありがとう、実は…バグっていうのかな、私の名前上手く伝えられないの…それでね」
そして環状線をひとめぐりする趣味、友達のゲーム、今置かれた状況、元いた世界、全て話す間、彼女は急かすことなくゆっくりと聞いてくれた。
もしかすると、このゲームの世界には時間軸や、『家』が無いのかもしれない。
話し終えた時には日はとっぷりと暮れて、夜闇に包まれていた。
そして私は少し涙目だった。
ひとって、あたたかいのネ。
メグは親身になって話を聞いてくれた。
「メグ、私はどうすればいいのかなあ」
「…うーん、とりあえずバグって事ならバグとして処理されると思うんだけど。確認するためには、ゲームの舞台でもある学園の方に行ってみなくちゃ駄目じゃないかなあ」
「そ、そっか…」
彼女は元気づけるように肩を叩いた。
「だいじょーぶ!私がついてるし!元気だしなよ~」
「ありがとうメグ、じゃあ明日?なのかな、とりあえず私学園に行くよ!」
苦肉の策として、私は駅前のロータリーのベンチで一夜を明かした。
節々が痛くて体が悲鳴を上げている。
ゲームの中、とメグに言いきられてしまったので(もしかすると壮大なドッキリを仕掛けられていて彼女が仕掛け人というオチならばさっさと元の場所に帰してほしい)そう信じるほかないけれど。
ゲームなんだったら、このとてつもない疲労感を消し去ってほしいなあ。
目を覚ましたのがいい具合の時間帯だったので、とりあえず駅前から離れることにした。学園がどこにあるのか知らないけれど、同じ制服を着た生徒がぽつぽつと現れはじめたのでその人の流れに任せてついて行くことにした。
ここで誰かに声をかけて再度ここがどういう場所なのか確認ができたらよかったのだけど、生憎そんな勇気は持ち合わせていないので黙って淡々と歩く。
だって、ぼっちが中2房をこじらせてるとか思われたくない!それは友人の話であってわたしじゃない!
結構歩くのかな?と思っていたけど、バロックアンティーク調の独特な校門が見えてきた。
ああ、見覚えあるぞ、「ムーン@ディスタンス」の舞台の学園だ。
あの学園無駄に広いのよね、私立だったかしら?
お嬢様、おぼっちゃま高校なのかな、そのあたりの設定聞き流してたから。友達の話には真面目に耳を傾けない。それが一般人として生きていく上で大事なスキルだったりする。
うーん、でも思いがけず活用する舞台が与えられたのは…喜ばしくないなあ。
校門をくぐった直後だった。
聞きなれたメロディーのBGMが流れはじめる。
ショップなんかに入ると音楽が流れているが、そんな感じで唐突に。もちろんびっくりするが、メグに会うためにはこの学園の中を歩いていかねばならない。
茶色のローファーを鳴らして更に進むと、眩暈がするような異常現象が彼女を襲う。
テロップが表示されたのだ。
〝…都立望月学園、両親の仕事の関係でこの町に引っ越してきた。編入試験を経て今日から私の通う学校…。周りはみんないい家の出身みたい、なんだか場違いだわ…。うまくやっていけるのかしら?〟
テロップのまわりをステンドグラスのような囲みが縁取っていて文字が浮いている。
そう、まるで3Dのように宙に浮いている。
文字はそこに存在するとでもいうように地面に影を落としているが、どこか頼りなくおぼろげであやふやだ。
幽かなそのテロップは「>」という部分がうすぼんやりと光っていて煌めく。
恐る恐る手でその部分に触れると続きの文が現れた。
〝この学園がどんな学校なのかよく知らないけれど、とにかくまずはじめに校長室に行って挨拶をしなきゃいけないのよね。どうしよう。〟
さらに「>」に触れて続きを促すと現れたのは。
〝>校長室に行く
>まだやめておく〟
…いったい私にどうしろって言うのよ!ふざけんな!
どういう設定なの!?
理不尽に対してふつふつと沸く怒りにまかせてテロップをゴールテープのように走って突っ切ってやると煙のようにかき消えてしまった。
そしてその場にへたり込んで膝の間に顔を埋めた。
私は柔軟な人間ではないし、こういう類のハプニングは大の苦手。上手に人と折り合いをつけて付き合うのも得意じゃないし、わけのわからない世界に放り込まれたときに「不思議の国のアリス」のアリスみたいに主人公をやれるほどの度胸はないし、そういうのって身分相応な子が選ばれるはずじゃないの?
こんなの狂ってる。
私は、私は教室の片隅で時々誰かと言葉を交わしながら本を読んだり音楽を聞いてるだけの居てもいなくても変わらない子なんだ!
そうだ、そうよ、メグの言ってたモブってそういう子の事じゃない?
私はきっとモブの補充だ!
彼女は学園のエントランスに向かってツカツカと歩いて行って校舎内に入り込んだ。
ローファーは鞄と一緒に持ち込んだ。
突き進んでいくと職員室、事務室の並びに校長室と刻まれている木製の板が並んでいた。
勢いのまま校長室のドアをノックした。
「どうぞ」
中から女性の声がしたのでドアノブに手をかけた。
「失礼します」
中に入ると50代半ばと思われる女性が椅子に腰かけていた。
校長室に足を踏み入れた瞬間にBGMの音楽が変わる。
〝「やあ、こんにちは待っていましたよ。ええっと…あなたのお名前は…」〟
テロップの直後に五十音が現れた。
チカチカと棒線が点滅してパソコンの入力バーを連想させる。名前を入力白手事かしら?
慎重に手を差し伸べて名前を選択した。
〝 イ ツ キ 〟
〝「そう!イツキさんでしたね、うっかり忘れてしまって申し訳ない。本日から私の学園の生徒になるのですから、よろしくおねがいしますね?教室へは朝会で合流することになっています「2-A」ですよ。生憎時間がなくて一緒に行くことができないのですが…」〟
続きを促すと選択肢が現れた
〝>『一人でも平気です』
>『なんだか不安です』〟
ここで大人しく樹は『一人でも平気です』を選択した。
するとBGMが元に戻る。
「やあ!お疲れ様!今回もよろしくお願いしますね。親しみの無い配役ですから戸惑うかもしれませんが…周りの子たちが支えてくれるでしょう!では!」
強引に握手をもぎ取ると校長は部屋を後にしてしまった。
『一人でも平気です』って言ったせいなのだろうか?だとしたら、『なんだか不安です』って言っとけばよかった!
でも前者を選ぶのはゲームのセオリーなんじゃないかしら。
いや、この類いのゲームはやったこと無いけどね?
とりあえず、だだっ広い校舎の中を迷わないように、けれどだいたいの自分の状況が分かるように校舎内を散策することにした。
と言っても、職員室と女子トイレ、それから食堂と自分の「2-A」の教室を探すだけだったのだけど…意外と骨が折れる作業かも。
どうして「2-A」が見つからないの?
階段を上ったり下りたりを繰り返していると体力は削られる一方だ。
当てずっぽうでかけ上った階段で人とぶつかった。
ぶつかった拍子に相手の持っていた持ち物が空中に散乱して、自分の身も投げ出される。
「きゃあ!」
「うわっ?!」
階段を踏み外した私の手を大きな骨ばった手が引き留めた。
かろうじて繋がった手だけで踏みとどまった体をぐいと引っ張られる。
「…落ちなくてよかったあ、大丈夫きみ」
「ええ、はい」
弾んだ呼吸を整えるように胸元に手を当てる。
死ぬかと思った。
これが自分の本当に通っている学校の知り合いだったら容赦なく蹴りが出ていたはずだ。
落ち着いてあたりを見回すと絵具や筆、筆洗いやスポンジ、鉛筆や丸めた紙の束や本が散らばっている。
「ああ~っしまった!」
「ご、ごめんなさい!」
慌てて床にぶちまけられた小道具を拾うのを手伝う。
「いいよいいよ、謝らなきゃなのは俺だから。これの所為で前よく見えたなかったんだ」
ちらっと顔を見ると、やけに整った顔だった。
華があるというか、なんというかめっちゃイケメン。でもかなり年上だ。
24、5才かな?
何でそんな歳の人が高校にいるんだろう。先生なのかな。
「君は…どこの子かな?これでも俺学校の子の顔全員覚えてるつもりだったんだけど」
「…2-Aの転校生らしいです。それに…私バグでモブ要員で、昨日ここに来たばかりなんです」
「2-A…?」
何でそんなに驚いた顔するの。
「配役が決まってるらしいですねこの世界。…この世界って言いかたおかしいですけど、私何にも知らないままきたんです。どうしたらいいのか、分からなくて…」
「名前、なんていうの?」
「イツキです」
「イツキちゃん、ね。覚えておくよ」
拾った筆や絵の具の類いを渡すと、彼は嬉しそうな顔をした。
なんだか、胸騒ぎのする笑顔だ。
ぜったいにこの人はトラブルの元になる。そういう、笑顔だ。
イケメンに微笑んでもらえたのにこんな残念な気持ちになるのはどうしてなんだ。
もしかすると、残念なイケメンなのかもしれない。
「それじゃあ、ありがとう。2-Aならこの先の階段を下りて右だよ。頑張ってね」
「あ、ありがとうございます」
彼が立ち去った後、名前を聞いてない事を思い出したが、モブなら会う事もないだろうと記憶から消すことにした。
言われたとおりに進むと「2-A」の教室の前に辿りついた。
そこで死ぬほどホッとする。
勝手に入ってもいいよね?と教室の引き戸に手をかけるとそれに立ちふさがるようにテロップが浮かぶ。
「邪魔しないでったら!」
文字を読まずに突き進んで扉を開け放つと、ひどく驚いた顔をした担任と思しき大人と唖然とする同じ制服を着た生徒たちとかち合った。
「あのっ」
しかし再びテロップが立ちふさがる。
〝担任:「今日から転入することになったイツキさんです、ご家族の仕事の関係でひっこされてきたばかりなので色々と不慣れなことも多いと思います。みなさん親切にしてあげてくださいね」〟
〝わあ!みんなが見てる視線が集まって緊張するなあ〟
〝「今日から転入しましたイツキです。よろしくお願いします!」〟
テロップが朧に消え去って行くさなか、一人の女子生徒が椅子を蹴倒す勢いで立ちあがった。
「ふざけないでっ!」
一様にその声に驚き振り返る。
「何で、何であんたがヒロインポジション(そこ)にいるわけ!?」
「めぐるさん、落ち着いて!」
落ち着いて、と言って聞かせる口調の担任すら困惑に声が震えおろおろとしている。
「メグ!」
知った顔とやっと出会って泣きそうなくらい安堵した。
彼女なら、私のいるわけのわからない立場から救ってくれると思わずにはいられなかった。
目尻にうっすらと涙を浮かべて喜ぶイツキを見てめぐるはたじろぐ。
「メグ、私バグでモブなんでしょ?これも全くの手違いなんだよね?わけのわからないテロップや選択肢ってモブにもあるの?」
「…っ、き、気安く名前を呼ばないで!」
「…メグ?」
「あんたは、ヒロインよ、私たちに関わりを持とうとしないで!」
突き放すように、言葉を吐き捨てる。
聞き捨てならない事を聞いた気がする。
…ヒロイン?
「…冗談でしょ」
「私も気付かなかったわけだよ、だって主顔じゃないんだもん!」
主顔…主はこのゲームのヒロインのこと、もしくはプレイヤーを指す。
ヒロインというだけで、突然周囲と隔たりが出来る。
見えない壁が、めぐるとの間に立ちふさがっている気がした。
めぐるは容赦しない。
「私と慣れ合おうとか考えないで頂戴、あたしアンタの事大っきらいだから!ヒロインなんて、顔がいいだけの尻軽女なのよ!」
「!!」
思わず周囲が「メグ、言いすぎだよ止めなって」と執り成すほどの声と言葉だった。
昨日とは正反対、似ても似つかない言動に驚きと寂しさと悲しみを滲ませる。
スカートの上で拳をぎゅっと握って、俯く。
さすがに泣くんじゃないかと客観を決め込んでいたクラスが静まり返る。
しかし、イツキのとった行動は誰の予想もしないものだった。
ツカツカと一直線にめぐるの前まで進んでそれから、笑んで見せたのだ。
「な、何よ!」
「メグ、私のためにわざと突き放したりするんでしょ?」
「ちがっ…!」
「あなたの配役、ヒロインに意地悪をする親衛隊か相手キャラに恋をしている女の子じゃない?ちがう?」
もはや言葉も出ず否定もしない。
「メグのことはじめてあった時から優しいなー、なんて親身になってくれる人なんだろうって思ってた」
「…イツキ、ちがう。わたしそんなんじゃ」
「私は腹をくくった。違うって言われても最初に会った方のメグを信じようと思う。これからもし、ヒドイ仕打ちをしなくちゃいけない役回りで、そういうシナリオなら、メグがヒドイ人だと思わない方が楽なの。だから、仲良くしてほしいんだ」
「イツキ、いいかげんにして、やだよ私!」
「メグが嫌でも、私は諦めないよ」
めぐるの大きな瞳に涙が溜まっていく。
「なんでよりにもよってヒロインなのよ!バグとモブの違いも分かんないくせに!なんで公然と仲良くできないポジションなの?なんで助けてあげられない立場なのよ!」
ぐしぐしと手の甲で目元を拭うめぐるの頭を撫でる。
「メグ、私、このゲームやったこと無いんだ」
「そうだと思ってた」
「正直、私もヒロインなんて顔がいいだけの尻軽女だと思う」
「…さっきのは本気で言ったわけじゃないからねっ」
「ていうかさ、ヒロインはもっと身の程をわきまえた方がいいと思うんだよね」
「?」という顔をするので言葉をつけ足す。
「イケメンを振って振ってフリまくる事に快感を覚える性癖の持ち主なら否定はしないけどさ、やっぱ無しだと思うんだよ。私がヒロインっていう配役なんだったら、フラグを折って折って折りまくってやりたい気分なんだよね」
これには周りも二の口が継げない。
「自己紹介やり直します」
周りへ自分を誇示するように胸を張ってピンと背筋を伸ばした。
「私は新野樹、配役はヒロインだけどもバグです。得意なことはバスケ、出身はこのゲームの外の世界、「ムーン@ディスタンス」のゲーム経験はありません!でも乙女ゲームのヒロインが現実にいたとしたら張った押してやりたいと常々思っています!ヒロインに不満のある子とは仲良くできそうな気がするので、是非声をかけてください!以上!」
静まり返った教室は、彼女畏敬の念を込めた視線を投げる者と、異生物を目の当たりにしたような視線を向ける者が入り混じって混沌としている。
「で、でわっ、イツキさんの席はあっちになりますので!」
裏返った声で担任が机を指差すと、道が割れるように人だかりが自分の周りから退いていった。
「どうせバグだと思うんで、処分されるまでの短い付き合いですがよろしくお願いします」
さて、はじめましての方が多いと思いますので
肇川七二三です
現在定期的に更新している別の小説が長すぎるのでこの辺でもう一つくらい連載してみても良いんじゃない?と思い書きはじめました
えーっとですね…とにかくより多くの人に読んでもらえたらいいなという野心を持ちつつ
だけども読んでてスカッとするコメディーが書きたいのです
感想、コメント、辛口評価、どんと来いというかどうかよろしくお願いします!
こちらの小説は不定期の更新になりそうですが
しっかり書いていくつもりなので、残念な終わり方にはさせません!
では今後ともよろしくお願いいたします