第二話
うちのオカルト研究会はちょっと変わっている。
変わっていると言うのは、部員に幽霊がいるとか宇宙人がいるとか超能力者がいるとか、そんな次元の話じゃない。
うちのオカルト研究会は、学生作家である石橋部長をサポートするためだけに石橋部長の手によってつくられた部である。石橋部長は、古今東西の都市伝説を題材に、持ち前の妄想力と文章力で作り上げたフィクション小説を作り上げており、『山上太郎』というペンネームで学生作家稀代のニューエースとして有名である。代表作としては、大金が盗まれた事件や、お菓子会社の脅迫事件などを題材に小説を書き、書店にも並んでいる。
では、他の部員は何をするかというと、色々である。
石橋部長は、文才はあるのだが如何せん色々とだらしなく、締め切りを守らないのは当たり前、編集者との打ち合わせの日にちすら忘れると言った失態を数々犯してきた。そのため、研究会を作り、自分のアシスタントを募ったのである。
なんでそんなオカルト研究会に俺が入っているかと言えば、石橋部長の古くからの友人の須田さんとバイトが一緒だったという縁もあるが、もっと大きい理由があった。
*
「うわー。お前顔変わってないなー。」
いつもの如く俺の家に居る高村が勝手に人のアルバムを覗いていた。
「これにひげ生やしたらまんまお前だよ。やっぱお前童顔か?」
「五月蠅い。」
冷たい缶の緑茶をシャツと背中の間に入れてやると「きゃん!」と叫んだ。男であるから虚しい。
俺は高村を押しのけると、実家から届いた段ボール箱を覗いた。取材に必要な資料として実家から送られてきた俺の幼少期のアルバムと、幼稚園の連絡網が入っていた。連絡網を見ると、そこにはちゃんと、『高瀬龍哉』と『大島桃子』の名前が載っていた。
「あ、もしかして、この人達?」
高村が一枚の写真を寄越した。写真の中で5人の幼稚園児がレジャーシートの上で笑っている。一番右端に居るのが見まごうこと無い俺。そして、俺から一人挟んで、真ん中に居る男の子と女の子が、タツ兄とモモ姉であった。
「うわ、なつかし!!」
思わず声が出た
「覚えてるのか?前忘れたとか言ってたじゃん。」
「二人の事じゃないよ。この金色のバッジの事。」
タツ兄の幼稚園の制服の上に、不似合いなほど綺麗な黄色い花のバッジが光っていた
「俺が公園で迷子になった時にタツ兄が助けに来てくれたらしい。そん時タツ兄の胸についてたのがこのバッジ。俺を探している最中に、外国人の女の子に会って貰ったんだってさ。全部母さんから聞いた話で俺は覚えてないんだけど。でもこのバッジの事は覚えてる。俺も似たようなの拾った記憶があるんだけど、誰も信じてくれなかったんだよ。タツ兄のが羨ましいから、夢でも見たのかって。母さんに笑われたことだけは今でも覚えてる。」
高村がそれを聞いてニヤニヤと笑い出した
「何だよ。」
「面白いな。謎の女の子に謎のバッジか。」
「すぐそういう風に取るな。」
オタクの直結回路は何事もアニメに結びつく。
「どうやらそのバッジの女の子が『満月事件』を解くカギになりそうだな。」
手を顔に翳して探偵気取りで言う姿は滑稽以外の何物でもない。
「その女の子正体分かってるよ。」
「は?」
手を顔に翳したまま素っ頓狂な声をあげた
「そん時幼稚園にスイス人と日本人のハーフが居たらしい。その子が似たようなおもちゃを持ってたんだって。」
「何それ、面白しくねー。」
口をタコみたいに尖らせたので、先っぽにするめを差し込んだらもしゃもしゃと喰い始めた。
「でも、石橋さんならこれだけで一冊書けるな。」
「ああ、間違いない。」
俺達の中で石橋さんは超人であった
「じゃあ、広島行ったらまずそのハーフの子から探してみようか。」
「居るかな?もうスイス帰ってるかもしれんぞ?」
「ハーフだろ?可愛いんだろうなー。口説いてもいいよな?取材終わってからなら。」
「………ご自由にどうぞ。」
既に旅行の目的がすり替わっていることにツッコむ気力も無かった。
一週間開いてしまいました。すみません。