ギロチンマシン
けっこう前に書いた小説です。ちょっとだけ修正をして投稿することにしました。未熟な話ですが、よろしくお願いします。
月が明るく地上を照らす夜。
「なあ、どこまで行くんだ?」
二つの影だけが動く。
「・・・・」
一人は黙ったまま、ついて来いとでも言うかのように少年の前を走る。
その時だった。
「あ・・・・」
銀に光るナイフが少年の腕に刺さった。少年は尻もちをつくように倒れた。強靭な精神だけで痛みを堪えているようだ、もう一人の少年を見上げる。
「な・・んで・・・?」
だが彼の姿を見、驚きの色が混じった声でそれだけを言うと少年は意識を失った。少年を見下ろしている影がかすかに動く。
「『何で』? それは、君が弱かったからだよ」
「なあ、『ギロチン人間』って知ってるか?」
「ああ、知ってるぜ。人を殺しても、動揺しないし罪悪感も抱かない奴につく異名だろ?」
ある組織の人々はこの噂で持ちきりだった。
「まあ暗部の俺らにとっちゃあその心は大切なんだがな」
「よろしくなんてしたくねーけどよ、しなくちゃイカンらしいな。これはコードネームなんだが、一応俺は『レオ』ということになっている」
少年に語りかける人物が居た。それは暗殺部隊―――即ち、暗部のグループリーダーだった。
少年のコードネームは『ユキヤ』と名づけられていた。
「・・・・・・」
ユキヤは仲間を信じていない。
「〰〰〰〰返事ぐらいしろっ! この馬鹿がッ!」
レオは仏教面をしているユキヤを殴った。
「〰〰〰殴らなくてもいいじゃないですかっ!」
その場の勢いから、思わず言葉が出る。
「何だ、フツーに言えるじゃねーか」
ユキヤに負けず、レオも『すかした奴』だった。
「大体、『ギロチン人間』なんてこの世にいるわけねーんだよ。そんな奴がいたら、お前が死ねって言ってやる」
ユキヤは自分と同じ年齢のような奴に説教をされたのは気に喰わなかったが、少しだけ今までとは違う何かを感じた。
そう、少しだけ。
「それで、こいつらが俺のチームにいる奴だ」
レオの後ろには四人の人間がきちっと整列していた。
「・・・・早くしろっ!」キレたかのようにレオが言う。
すると、四人とも出てきた。誰もが仮面をつけている。もちろんレオ、ユキヤもそれは同じだ。
「レオーっ、早く紹介させくれよォ!」
一番手前にいる奴はとにかく五月蝿い。
「イチズっ、五月蝿いわよ!」
そいつの後ろにいる奴は手前にいる奴となんら変わらなかった。
「ああもうっ! 早くしてよ!」
ユキヤはここまでくるとため息が出そうになった。しかし、一番後ろに並んでいる奴は手前の三人を無視して読書をしている。
「悪いな。俺の班は変わり者集団と呼ばれている奴らばっか集まったんだ。まったく俺の苦労も考えてほしいぜ」
レオはこういう五月蝿い集団に慣れている。今の騒ぎもほんの一部にしか思っていないだろう。いや、既に忘れているかもしれない。
「ハイハイハイハーイ! 俺の名前を教えてやろーか?! 俺はコードネーム、『イチズ』だ!! よろしくな!」
イチズは仮面を外した。すると、ユキヤが思った通りだった。性格と同じで暑苦しい顔。
「私のコードネームは『エミ』。これからよろしくお願いしまーす!」
エミは綺麗な桜色の髪をしていた。よく笑う表情にはぴったりだ。どこか調子が良さそうなところが、あまり好きではないのだが。
「私は『スズカ』よ! あ、コードネームでだけど」
「スズカはコードネームと性格が合ってないよな~。なんでだろ」
―――似合わないって。名前に似合う似合わないなんてあるのか?
ユキヤは思わずツッコミを入れそうになった。
「・・・・オイ、自己紹介をちゃんとしろって言ったろ」
レオが命令しても聞いていない人物が一人いた。
「『ユウタ』!!」
レオが叫んでやっと、『ユウタ』というコードネームの少年(多分)が立った。
こいつの顔が見てみたいぜ。
ユキヤは場の空気を読む気もない奴―――自分も人のことが言えないくせに―――がどんな顔をしているのか知りたくなった。
カラン・・・と、仮面が外される。
「僕のコードネームは『ユウタ』です。貴方に教える事が出来るのはそれぐらいですよ」
ユウタは自己紹介を終えるとまた、座った。
「面白い奴だな」
ユキヤはその時初めて、他人に関することを口にした。彼がそうするのは珍しいことだった。
「俺のコードネームは『ユキヤ』だ。先に言っておくが、お前らと行動―――ましてや『仲良く』なんてなろうとは思っていないからな」
「なっ・・・・!」
三人―――レオとユウタを除いて―――が絶句する。
「誰にも囚われない、何も信じない。それが俺のモットーだ。俺はそれを貫いて今まで生きてきた。
誰かの為に命を失くすなんてバカバカしい。そんなことをするくらいなら、自分の為に死んだ方がマシだね」
誰かの為に死ぬだなんて馬鹿げてる。
俺は俺の為に生きて死ぬ。
たとえそれが間違った選択だったのだとしても、それでいい。
「君が弱かったからだよ」
ユキヤは少年を見下ろした。彼は絶命していた。ユキヤは空を見上げる。月は、恐ろしいほど綺麗だった。
『ギロチン人間』。
ユキヤはナイフから滴る赤い液体を舐め取った。足元に蹲る、もはや生きていないそれを、どこから持ってきたのかノコギリで解体する。嬉々としてその作業に取り組む彼の姿は静まる森の中よりいっそう不気味だった。
「ごめんね?」
その言葉と共に、ごろりと何かが転がる。ちょうど、ドッジボールくらいの大きさの何か。
「レオ、イチズ、エミ、スズカ、ユウタ。みんなのこと、好きだったよ」
足元に転がる球状の物体は五つ。