第98話 ラミちゃん
「ラ~ミ~ちゃん」
「はぁい、ひぃらぎちゃん」
「ラミ……ちゃん」
「はぁい、星那ちゃん」
嬉しそうにラミーリュへ抱き着く、二人の天使。
まるで新たな姉妹ができたような懐きようだ。
「二人共ぉ、あたしが怖くないのぉ? あたしぃ、人食いの化け物なのよぉ?」
「ぴかぴかきれいで、すごぉくかわいーの」
「怖くないですよ……とってもきれい。この首輪、重くない?」
あの夕食後、ラミーリュはもう二度と人間を食べないと私達に誓った。
キョウカは半信半疑だが、その視線は真剣そのもの。なにより首輪のせいで嘘を付けないのだ。ただし、人命が大切というより、美味しい料理を生み出す人間の営みが大切らしい。ま、人食いをやめてくれるなら、それで充分だと思う。
邪神とキャッキャする愛娘達の姿に、キョウカの内心は穏やかではなさそう。
食文化の素晴らしさを知ってからのラミーリュは、驚くほど静かに雪野家で暮らしている。食事の準備は必ず手伝うし、買い物に出掛ける時も必ず同行する。いつも菓子や食材をねだるけれどね。今日は鮮魚売り場で鯛の頭をねだられた。今夜はかぶと煮にしよっか。
それとこの娘、封印され幼女の姿をしていても、微弱ながら魔物の気配がにじみ出ているようなのだ。おかげで買い物中、多感な子が顔を引きつらせたり、すれ違いざまに幼児が泣くのである。ごめんねぇ。
そうそう、彼女の服が絶対的に足りないので、しまうらの子供服売り場に連れていった。そしたら「これがいいのぉ」と、金ピカのダウンジャケットを見つけよったではないか。こんな紅白に出る芸人みたいな服あるんだ……試着すると、めっちゃかわええっ! 金色舐めていたわ。お店の人やお客達も、その神々しさに驚いている。おもわず金色系の服や小物をひとそろえしたよ。
ついでに貢物の新作ポケニャントランクスも購入。
彼女の食への探求心は日に日に高まり、パソコンの使い方もすぐに覚え、通販で遠方の食材をねだるまでになっていた。
もう面倒なので、銀行口座を作りスマホを渡し、自由にさせたわ。
「キキョウさぁん、魔法の鞄持ってなぁい? お買い物するのもぉ、この体じゃ不便すぎなのよぉ」
「ラミちゃん……持てる分だけの買い物しなさいよ」
「だってぇ、この体で持てるお菓子とか、ちょっぴりなんだものぉ。スキル封印されて転移もストレージも使えないし、空も飛べないんだものぉ」
「ん~折角だし、今使ってるそのバッグに空間付与しよっか?」
「え、魔法の鞄作れるの!?」
「そりゃ、付与魔術師だもの。はい、この家ぐらいの容量付与したよ」
「やったぁ、これでたっくさぁん買い物できるわぁ。ちょっとコンビニ行ってくるぅ」
「二人のバッグにも付与しよっか。いっぱい物が入るよ。二人とも魔力があるし使用には問題ないでしょう」
「ありがとぉ……むむむ?」
「お母さん、ありがとう。うわ、中に手がどんどん入っていく!」
せっかくなので、ひいらぎのポケニャンぬいぐるみバッグと星那のショルダーバッグに空間付与した。実は最近、ひいらぎにも魔力が発現したのだ。三歳というのはかなり早いが、誰もが魔力病になるとは限らないので、それ程心配はしていない。
ちなみに魔力の無い人にカバンを貸す場合、魔力を込めた魔力石を中に入れておく必要がある。
そうして今年も最後の日。こっちの世界に戻って一年。私は二十五歳になった。
ラミーリュもラミちゃん呼びが板につき、日々精力的にムシャムシャしている。
特に菓子やコンビニスイーツは新作チェックに余念がない。光洋くんちのコンビニでは、ラミ用に新作の取り置きをしており、SNSでやり取りしてるようだ。折角なので私やひいらぎ達の分もお願いしてあり、気に入った菓子は数十箱単位で購入するようにしている。
☆魔王キキョウちゃん@Shirafuji 10時間 …
お菓子なう。魔王と邪神がコンビニスイーツと新作菓子の食べ比べ中。
ボクも混じって、みんなでおやつタイムだよ。この惑星のお菓子はすっごく美味しいね。キキョウちゃんが元の世界へ帰る時、郷魔国民のお土産に一千万個注文するんだってさ。
返信920万 リポッポ2億6000万 いいね4億5000万
などという投稿のせいで、土産に選ばれそうな菓子メーカーの株価は上がるし、最近は各社から直接新作の見本が送られてくるようになった。ちなみに気に入ったお菓子の注文は光洋くんちに頼んで、売り上げに貢献している。
なにせ、光洋が郷魔国へ来るなら結婚してもいいとシルヴィアが言っており、もう彼は行く気満々なのだ。長男なのに……
ラミーリュがこの世界に来て四ヵ月程が経過し、桜の舞う季節になった。
ひいらぎも四歳だ。最近のラミーリュは、人の暮らしを一通り学び、一人でファミレスやラーメン屋などをべ歩くようになっていた。
「メニュー全部注文って……お嬢ちゃん、それはさすがに無理だろう?」
「じゃぁひとつ完食したらぁ、次を出すって事でどぉ?」
「それなら、まぁいいがよぉ」
「じゃぁ、しょうゆらぁめんからよろしくぅ。ついでに餃子もぉ」
――と言う感じで、気になる店を食べ歩くのが、最近の日課になっていた。
おかげで食事処界隈では、大きな首輪を付けた、大食い金色幼女の噂で持ちきりである。
遭遇すると客入りが上昇するとかなんとか……
お祭の屋台なんかも好物のようで、近所の公民館祭りから、遠方で開催されるご当地B級グルメ大会なんかにも出掛けている。そういう日は屋台グルメが夕食に並ぶのだ。
「くんくん……これはアタリっぽいですぅ。おじさまぁ、牛すじお好み焼き十個くださいなぁ」
「まいどぉ~おおっ、景気のいい色のお嬢ちゃんだな。外人さんかい?」
「そんな感じぃ~」
「次は……くんくん……むぅ、あの屋台は油が古いわねぇ。おやぁ、あの子の食べてる芋フライは良さそうだわぁ。どこで売ってるのかしらぁ。あら、さっきは大判焼きだったのに、向こうでは同じものが今川焼きだわ。何故に……」
こんな感じで、焼きそば、たこ焼き、揚げ物や串焼き、クレープになんちゃら焼きなど、匂いで判断して買い漁るラミーリュは、まるでノエルそっくりである。
ひと通り屋台をチェック後、公園のベンチで買い集めた料理を順々にスマホで撮影して、お食事タイム。購入した品は詳細なコメント付きで記録しているようだ。
「もぐもぐ、これは……やはり大当たりですぅ。ソース味が主流のお好み焼きなのに、珍しい醤油味。長ネギがいい仕事してますぅ。牛すじウマぁ。ウシですけどぉ」
などとモクモク食べていると、妙な視線を感じる。少し離れた生垣の隙間から子供が二人、こちらをじぃっと見ているのだ。
ラミーリュは手招きして、その子達を呼び寄せた。
「さぁ、好きなの食べていいわよぉ」
「いいの?」
「いぃっぱいあるからぁ、遠慮しなくていいわよぉ」
「ありがとうございますっ、いただきますっ!」
「いたらきますっ!」
よほどお腹が空いていたのだろう、おいしいおいしいと涙目で食べる二人。
顔立ちがよく似ているので、姉と弟だろう。
「ほらほら、もっとゆっくり食べなさいなぁ」ラミーリュはペットボトル飲料を数本出して、好きなのを飲むようにと勧めた。年の頃は小学校中学年と幼稚園児ぐらいだろうか。二人を観察して気付いたのは、痩せ気味で服がヨレヨレな事。そしてお風呂に入っていない臭いがする事。保護者はどうしたのだろう。
デザートにベビーカステラをもくもく。満腹で幸せそうな二人に訊ねた。
「おかあさんね……かえってこないの」
「うちは母と三人家族なんですが、母がアパートから出て行って……」
「失踪したのぉ?」
「たぶん……男の人と一緒に……以前にもあったけど、もう三ヵ月帰ってきてません」
「あらあらあらぁ」
二人は残されてたわずかなお金と食料で細々と食いつないでいたが、数日前に尽きてしまったという。家賃もかなり前から滞納しており、電気も水道も止められ、管理人から出ていくよう言われているそうだ。
お腹が空いて仕方がないので、ふたりで水を飲もうと公園に来たところ、突然いい匂いがしてきたので、あわよくば食べ残しをもらえないかと、ラミーリュを見てたのだという。
さて、どうしよう。ラミーリュは考えた。
キキョウ達はいつも言ってる。子供は宝だと。そして護るべき大切なヒナだと。
先程の様子から、このまま二人を放置すれば死んでしまうかもしれない。
母親が三か月も音沙汰無しと言う事は、恐らくこの子達を捨てたのであろう。
ならお金を与えるか? キキョウからもらった十億がある。しかし、女の子は星那と同じらいの歳のようだし、お金があろうと保護者なしの生活は問題が出そうだ。
どうしたらいいのか答えが出ない。そもそも自分は人族の世情に疎い。とりあえずキキョウとキョウカに相談しよう。
早々に結論付けたラミーリュは、二人を連れ雪野家へ帰る事にした。
これまでの彼女であれば、親とはぐれた子供など、パクっと食べて終了の案件である。
「あたしはぁ、ラミーリュ。あなた達のぉ、お名前とお歳はぁ?」
「私は、神原つむぎです。九歳です」
「ぼく、かんばらなぎ。五さい」
「うん、二人ともいい子ねぇ」
不思議な金色の幼女に連れられ、電車にゆられ二人が向かった先は、白き魔王が住まう魔王城……ではなく、どこにでもある3LDKの一戸建て住宅であった。
テレビによく出てくる魔王の登場に驚きを隠せない二人。挨拶がかみかみである。
「それで、連れてきちゃったの?」
「そうなのぉ、このままじゃぁ、お腹を空かせて死んじゃいそうだったしぃ」
「そうね、春とはいえまだ寒いのに、幼い子がいるのを知ってて電気を止める管理人って、さすがに無いわぁ~」
「でしょぉ?」
「ん~じゃあ、とりあえずラミちゃんが面倒見てちょうだい。まずはみんなでお風呂入ってきなさいな」
「はぁい。さぁいくわよぉ」
「はっはいっ、ありがとうございましゅっ」
「ましゅっ」
ラミーリュが子供を保護した事に対して、非難する者は居なかった。むしろ命の尊さを理解し、子供を救おうとするラミーリュに驚くばかりである。
ひいらぎは家族が増えた事に大はしゃぎだ。いや、まだ正式に家族になった訳ではないけれどね。だが、赤子を含め十人も住まうこの家では、さすがに手狭だ。そろそろ引っ越しや建て替えも含め、色々考えないといけない。そこで――
「ラミちゃん。折角だし二人を連れて、明日から宇宙旅行に行ってきなさい」
「ええっ、予約もなくそんな急に大丈夫なのぉ?」
「大丈夫よ、社員枠や接待枠で参加するお客が毎回三万人ぐらいいるから」
「へぇーそうなのねぇ。じゃあ二人ともぉ、突然だけれど明日から三泊四日の宇宙旅行に行くわよぉ!」
「「ええええぇ~!?」」
「しらふじちゃん、よろしくねぇ~」
「まっかせて~」
突然現れたしらふじに驚き「宇宙人だぁ!」声を上げる二人にほっこり。
翌日、ラミーリュは金、つむぎはオレンジ、なぎはブルーのぴっちり宇宙服を着て、仲良く手をつなぎ、笑顔で転送ゲートをくぐていった。
いつもぉ、読んでくれてありがとぉ。(ラミーリュ)
あたしが自我を持ったのはいつだったかしらぁ。
薄い意識の中、ひたすらゴミを消化していた頃、時々人間が落ちてきたのよね。
不注意から足を滑らせたのか、故意に不要な人間を落としたのか知らないけれど、それがすごく美味しかったのぉ。やがて、あたしは溢れ出たの。明確な意識を持ち、あたしは人間を襲ったの。美味しい~っ!
だが人間も愚かじゃない。あたしを超兵器で攻撃してきたわ。
それはすさまじく強力で、あたしは仕方なく隠れ潜んだの。やみくもに襲うのはやめて、人間の欲しそうなものに擬態したり、人間そのものに化けて彼らの基地内へ侵入して蹂躙したり、街そのものに化けて、何十年もかけ、人間達が暮らし、繁栄したところを根こそぎ食べた時は、最高だったわぁ。
そうそう、あたしがなぜ犬や猫を襲わないかというと、あれってぇ、人間の非常食でしょう? やせ細った人間なんて食べても美味しくないものぉ。
だからぁ、人間以外の動物は食べない事にしてるのよぉ。
ところでお前の名前は、なんだニャン?
飼い主にメンチと名付けてもらったワン! 嬉しいワン!
思いっきり非常食みたいな名前だニャァ……




