第90話 あるじ様のいない世界会議です
八月になったです。八月と言えば世界会議。
今回、わっちが郷魔国の代表として参加しなければならないです。
緊張? とんでもない。もう無礼な連中に我慢する必要ないのですよ。
くっくっく。
でも、超大国となった郷魔国に敵対する国など、もう無いですけど……
さぁ出陣です。あるじ様にはきっちりお洒落するよう厳命されてるですから、ばっちり着飾ったですよ。今回、先頭を往くわっちの衣装は、フリルいっぱいの白と黒のゴスロリ軍服。小さな帽子と尻から伸びたシッポもフリルで飾られ可愛いです。ちなみにパンツは蝶々をモチーフにギリッギリを攻めた逸品ですが、スカートをめくるとみんなに怒られるので、残念ですがご想像に任せるです。
同行するのは、深緑と黒のワンピース軍服が凛々しいベルテ。その隣には同じ意匠の葡萄茶と黒の軍服のアリアンロッド。え~二人のパンツは……説明禁止だそうです。ちなみにわっち達三人の衣装は、ミリタリーロリィタというジャンルらしいです。
そして、全身真っ黒な暗黒龍の鎧を着込んだシルヴィア。昨年末の大会予選で披露したやつですね。最後に空色のシスター軍服に豪奢な金髪をキラキラさせたアスフィーリンクが続くです。シルヴィアは悪目立ちするフルアーマーですが、流れるように輝く銀髪がアスフィーの金髪と並び、とても美しいですね。
補足説明として、ベルテは口元だけ見える仮面、アリアンは左目に眼帯をしてるです。
これらの衣装をまとった姿見は会議終了後に発売予定ですよ。
わっちの姿見のみ、スカートの中は無修正なので、お楽しみにです。
会議場玄関ホール前は多くの報道陣が魔道具を構えており、わっち達が現れると、すごい勢いで撮影が始まったです。あるじ様が居らずとも、郷魔国は注目度抜群ですね。
そんな中、記者の一人が質問を投げかけたです。
「昨年末の人類帝国帝都消滅は、魔王キキョウ陛下の攻撃によるもので、処罰を恐れ逃亡中という噂は本当なのですか?」
あ゛?
全員が歩みを止め、記者を睨みつけたです。全世界に事のあらましを伝えたはずですが、何故にそんな噂が……大いに悪意を感じるですね。
「帝都消滅は、狂乱した龍王ファフニールによるもの。我らが魔王キキョウ陛下はお子を宿した身ながら、世界神ラヴィンティリス様の命を受け、それを討伐したです」
「そのデマを流したのは誰でしょうか。今度そのふざけた事を言ったらキンタマ潰しますよ」
「アスフィー、ステイ。殺気が金玉に集中しすぎですよ。加減しないと、その記者金玉弾けて死ぬです」
「大丈夫、最近リザレクションを覚えたので」
見た目はこんなに美しく可憐なのに、どうしてアスフィーは、こんなにも金玉に執着するですかね。あらら、記者が泡吹いて気絶したです。周囲の男達も内股で震えてるです。まぁそれはともかく、噂の出所はネオ人類帝国でしょう。確定したら、わっちが出向いて滅ぼすですよ。
この世界の国家数は増えたり減ったりが激しく、現在三十四ヵ国です。あるじ様が魔王に即位して、アルス、チャビール、アブリコ、スカイランドの四ヵ国を武力併合。そしてリトルパレスとインセクティアの二ヵ国を平和的に併合して独立自治区にしてるです。
ちなみにクーデターでゼハール王国を簒奪した、ダライアス王のレジナルド王国は、わずか二年程で自滅して、周辺諸国に分割吸収されてしまったです。
ラビットピアで保護してるアルフィール姫がゼハール王家復興を望まなかったので、あるじ様は不介入だったですよ。
「これよりラヴィンティリス歴26449年、第10002回世界会議の開催を宣言する」
参加国を見回したところ、初顔は人類帝国が分裂でして建国したアルバレス民主共和国のマディソン大統領ぐらいですね。彼の左右には、結構高位の勇者が護衛してるです。そのせいか、本来ならお隣同士になるであろう席順なのに、ネオ人類帝国のヘンリー皇帝は、随分離れた席にいるですね。いつもは議長の横で得意げな顔をしてるのに。
「議長、発言をよろしいでしょうか」
「ネオ人類帝国、皇帝ヘンリー君」
「まずは郷魔国へ遺憾の意を表する。我が帝国を滅茶苦茶にした魔王キキョウはどこに逃げた! 断じて赦されぬ悪行だ!」
「貴様、無礼だぞ。魔王陛下はそのようなお方ではないっ!」
「ははは、魔王の色香に酔って、洗脳でもされましたか?」
「ふざけるなっ!」
アルバレス民主共和国のマディソン大統領がヘンリーに猛烈抗議です。
人類帝国内部で、彼が頭目の反人族至上主義を掲げた反政府組織に、あるじ様はず~っと、こっそりごっそり支援してたですよ。スラムにも色々支援して、望む者達は郷魔国へ移民してもらったですしね。
スラムの大半は帝都外縁部だった為、郷魔国から出向し、スラム支援中だった人達がファフニールの攻撃に巻き込まれなかったのは、不幸中の幸いです。
案の定ではありましたが、今のヘンリーの言い様。これでネオ人類帝国の終了は決定です。わっちは議長に向け、手をひらひらさせたです。
「郷魔国魔王代理ノエル君」
「まずは、龍王ファフニール狂乱による未曽有の事態の中、早急に民をまとめて国家を安定させた、アーデルハイド王国セバスチャン国王とアルバレス民主共和国マディソン大統領の手腕に心よりの称賛を贈るです」
拍手するわっちに続くように、他の王達も拍手してくれたです。ヘンリー以外。
「ノエル様、こちらこそキキョウ陛下に多大な支援をしていただき、いくら感謝しても足りない程です」
「今、民達が飢えずにいられるのは、郷魔国の支援のおかげです。魔王陛下とノエル様に心よりの感謝を!」
「そのお言葉、我があるじ様にしかとお伝えするですよ……さて現在、事実無根のよからぬ事をのたまう者がいるですね。しかも我が国から支援を受けてる国の皇帝がです」
ギロリとヘンリーを睨むと、一瞬ひるんで睨み返してきたです。
「すべて魔王キキョウが発端ではないか! 我が国内で子作り相手を選ぼうなどという、ふしだらな大会を開催したのが全ての元凶であろう!」
「その件については、我があるじ様も被害者であると、事の詳細を伝えたはずですよ。そもそも妊娠中なのに、そんな大会を開催するはずないです」
「そんなもの信じられるか!」
「ほう……お前も嬉々と参加していたですよね。うちの可愛いウサWの攻撃で股間にぶっといの突き立てられ、無様に負けたのは、どこのどちら様でしたですかぁ~?」
「今も思い出すと笑い過ぎて、お腹痛くなっちゃうのよね」
「あれだけ醜態晒して、まだ生きてるなんて、ねぇ?」
左右でベルテとアリアンが煽るようにクスクス笑うと、ヘンリーが真っ赤になったです。
「きっ貴様らぁぁぁっ!」
「ちなみにわっちは、ジェハーク国の大会で優勝して、お小遣い十億もらったです」
「ぐぬぬぬ」
「折角なので、ここで当時何があったのか詳細をお話するですよ。事の始まりは――」
わっちは記者達も会議場へ呼び入れ、あの日起きた事を詳細に語ったです。幼児でも類人猿でも(チラリ)理解できるように、易しく丁寧にです。
「あの時、龍王リヴァイアサンとわっちの龍魔法ドラゴカノーネが効かないとは思ってもみなかったです。最悪、大陸ごと消滅してもやむなしと放ったのに、相殺されたですからね。それを倒したあるじ様は、まさに世界最強ですよ。ただ、ファフニールの最後っ屁のおかげで、異世界へ強制転移させられてしまったですが……」
獣王も含め、ティリアル大陸の王達の顔が真っ青です。無理もないですけど。
「きっきっ貴様はいったい何者なんだ!」
「あぁー知らないから、こんなにも食い掛かってたんです?」
最初の頃はともかく、今は全く隠してないですが、海外でわっちの素性を知る者はけっこう限られてるかも。これはうっかりでしたね。
わっちは立ち上がり、普段お目にかけない完全な龍人の姿を見せた。小さな髪飾り程だったツノを前方へ湾曲するように伸ばし、すみれ色の皮膜が鮮やかな白い四翼を広げた姿ですよ。普段は全裸で転がったり、湖に潜ったりしてるので、邪魔な翼は隠して暮らしてたですからね。どういう訳かわっちって、天空龍のくせに地ベタの方が好きみたいです。
「では改めて自己紹介するですね。わっちの名はノエル。魔王キキョウ陛下の愛玩ペット兼魔王代理を勤めてる『龍王バハムート』です。趣味は食べる事と痴女道を極める事。以後、よろしくですよ」
「龍王……バハムートだと……封印された大量虐殺者ではないか。魔王キキョウは、そのような者の封印を勝手に解いたというのか! これは全世界へ対する裏切りではないのか? 皆さん、このような郷魔国の、魔王キキョウの身勝手な暴挙を許してよいのでしょうか!」
驚きと恐怖の入り混じる視線がわっちに注がれるです。うう、居心地が悪いです。
「まちたまえ、当事者として言わせもらうが、我らは世界の為などではなく、自国を護る為に龍王と戦ったにすぎん。聖女ミモリ様も狂乱した我が子を殺さぬようにと封印したまでの事。キキョウ陛下は親友の娘を守る為、封印の要となったのだ。個人的な行いを世界の裏切りとは片腹痛いぞ」
「そうだな、俺達は大英雄などと持て囃されてるが、実際は一国の王として、国と民を護り、そして友の為に戦ったにすぎねぇんだぜ?」
援護してくれたのは、エルフの王と獣王のお二人です。わっちもその事実を数か月前に知ったですが、聖女様と宰相ハイベルが両親だったのは驚きでした。そこにカリマー様が更に続けたです。
「だのう。ノエルちゃんが外に出れたという事は、解放可能な時期が来たという事であろう。あれから千二百年だしの。しかも、解放には龍王リヴァイアサン様も立ち会われたのだからの。貴様がもっともらしい言葉を並べ、キキョウを悪党に仕立てる気なら、魔王連邦は黙ってはおらんぞぉ?」「我が国もです」「うちもだぜ」
わっちは感謝を込めて、三人の王へ深く頭を下げたです。そして――
「今年中にわっちがネオ人類帝国を物理的に滅ぼすので、皇帝は抗う準備をしろです」
ニタァと渾身の笑顔で宣言すると、ヘンリーが過呼吸でぶっ倒れたです。
医務室へ運ばれてゆく彼に代わって、何事も無かったかのように席に座る文官。
色付き眼鏡と七三分けが優秀そうな匂いを醸す男ですね。
「ノエルちゃん、本当に帝国を滅ぼすのかの?」
「カリマー様、滅ぼすのは決定事項ですよ。ただ、現在続いてる郷魔国からの支援を止めただけでも消えそうな弱小国ですから、滅ぼす価値があるかは微妙ですが……」
「郷魔国へ併合はどうかのう」
「うちに併合するぐらいなら、欲しい国にあげるです。希望する人はジャンケンで公平に決めるですよ」
「でしたら、私に任せていただけませんか?」
挙手したのは、先程、ヘンリーの席に座った色眼鏡の文官でした。
彼の名は、ムスコ。軍属上がりで階級は元大佐だそうです。
「ほほう、お前に任せたらどうなるんです?」
「私が王となって、帝国を人種差別のない、まともな国にしてみせましょう」
「ほう……ですが、どうやってあの皇帝を引きずり降ろすです?」
「三分間待ってください」
そう言って、ムスコは笑いながらスタスタ小走りで会議場を出ると、本当に三分で戻ってきたです。
「ヘンリー皇帝に退位していただき、国の全権を譲り受けてきました」
「マジですか。いったいどうやったです?」
この場の王達も記者達も興味津々です。あの頭のおかしい権力欲の権化から、ただの文官が国を取り上げたのですから。
「実は私、勇者ヘンリーの契約相手なのです。ちなみに私自身も勇者です」
「なんと」
「普段の私は帝都には近寄らず、地方文官として身を隠しており、昨年末の首都消滅にも巻き込まれず済みました。私は彼の生命線なのです」
「なるほど……あ、ひょっとして」
「はい、私に国を譲って引退しろ。でないと龍王様に私を殺してもらうぞ。そう脅したのです。随分昔の事ですが、彼には個人的に恩があったので、穏便に引導を渡しました」
「やるですね。いいでしょう、ムスコ殿にネオ人類帝国を任せましょう」
「ありがたき幸せ。皆様の良き隣人となれるよう誠心誠意努力いたします」
彼が大仰でスタイリッシュなお辞儀を披露すると、会議場が拍手で沸いたです。
まさか人類帝国がこんな幕引きになるとは……この事をあるじ様に伝えると、念話の繋がってるあいだ中、ヒィヒィ笑い転げてたですよ。
その年のうちに、帝国はラピュタル王国として再建され、ムスコが初代国王となった。
腹がよじれて死ぬかと思う程、笑いまくったキキョウです。
いつも読んでくれてありがとう^^
ああ、とうとう人類帝国が完全に滅んじゃったね。
それにしても、ノエルは魔王代理をうまくやってるようね。
とんでもない法律でも作ってヒャッハーしないか、少し心配だったのよ。
まぁクロちゃん達もいるし安心だわ。
「なにか法律を追加したり、法改正の案がある人いるですかー?」
「魔王代理様、提案があります」
「アスフィーが法律の事で、意見を出すのは珍しいですね。どんなのです?」
「罪人の刑罰はすべて金玉を潰しましょう。執行人はわたしがやります!」
「おおぅ……そう来たですか。潰すのはいいですが、罪人が女性だった場合どうするです?」
「量刑通りでいいです」
「相変わらず、男だけに厳しいですね……ではとりあえず、来月から金玉潰しの刑を発布するですか」
「あ、公開処刑でお願いします。黒いベールで顔隠して、処刑人しますっ♪」
「アスフィーに任せるです」「はーい♪」
この案件は、あるじ様に伝える必要はないですよね。




