第89話 真実の愛
「この私、セレクション王国王太子バートリーは真実の愛に目覚めたのだ。よって、ベアトリス侯爵令嬢との婚約破棄し、ユキ姫と結婚する事を宣言する。さぁ姫、お手をどうぞ!」
卒倒する侯爵令嬢を無視して、私の前で跪き、にこやかに求婚の手を差し伸べる王太子。
貴族科の授業として行われる、月に一度の舞踏会。多くの王侯貴族の子女が一堂に会する場での婚約破棄劇は、この半年で三度目。その全てが私絡みです。
「お断りします」
拒否されるなんて、露とも思わない自信満々の王太子に一言告げ、取り付く島を沈没させ、私はささっと会場を後にしました。このまま王太子に正論を告げても泥沼になるのは経験済み。授業の邪魔にしかなりません。いえ、案外このようなトラブルを授業で経験できるのは幸運かもしれませんが。
一緒に会場を後にするパートナー役のノエルちゃんが苦笑しております。
ああ、男装してるノエルちゃん素敵。カッコいい。押し倒してペロペロしたい。
それにしましても、私への求婚をしないよう学園と世界各国に通達してるのですが、求婚者が途絶えません。いい加減にして欲しいです。
特に先程のような身勝手な求婚をしてくる殿方は、まったく他人の話を聞かないですし、話も通じないので、断るのが本当に大変です。
最近では多くのご令嬢から恨まれてしまい、泥棒ヌコ姫とか白き婚約破壊姫などという二つ名が出回ってます……本当に勘弁してください。
「ねぇ、ノエルちゃん……真実の愛ってなんだろう」
夜はノエルちゃんと裸で抱き合って過ごす事が多いです。
もちろんエッチな事もします。
「わっちとユキのは、真実の愛ではないのは確かですね」
「そういう言い方されちゃうと、なーんかやだなぁ……」
「大福発見です」ぷっくり膨らんだ私の頬をペロリとなめるノエルちゃん。
「あれ覚えてるですか? タスマニアン夫婦が出逢ってすぐ結婚した時の事」
「うん、あれはすごかったね」
闇のオークションで私と一緒に助けられたニニアさんと、リトルパレスの宰相様が突然結婚した時の事は鮮烈で、今でも覚えています。
「獣人族は、あんな風にカップルになる事があって、それを彼らは『運命のつがい』と呼ぶそうですよ」
「運命のつがい……なんだか真実の愛よりもずっと健全な感じがするね」
「そうですね。獣人族は本能で、互いに結婚すべき相手が判るらしいです」
「相手が既に結婚してたらどうなるの?」
「ん~そういうトラブルは聞いた事が無いですね。獣人は複数の夫や妻を持つ場合も多いですし、いくつもの家族が寄り合って暮らす事も普通なので、問題ないのかもです」
「ふぅん……なんだかその話を聞いた後だと、真実の愛がすごく気持ち悪く感じるなぁ」
「どうも都合よく、免罪符のように使われてる感じがするです」
「免罪符……確かに」
婚約者の事も、求婚相手の気持ちも全く考えず、真実の愛だからと一方的に自分の気持ちを押し通す。恋は盲目って言うけれど、それとも違う気がする。
私がノエルちゃんを好きな気持ちは、間違いなく真実の愛なんかじゃない。
そう強く感じました。
私がノエルちゃんを好きになった切っ掛けは、出逢った時までさかのぼります。
闇のオークション会場で、お母さんに抱っこされてる時以外、ずっとノエルちゃんが手を握ってくれていたの。離れる時も必ず一言告げて、私が不安にならないよう配慮してくれました。
あの時食べたお饅頭の味は今も忘れていない。
目が見えるようになってからも、気付けばすぐそばにいてくれた。
大人の姿になったのを見た時は、あまりにも綺麗で凛々しくて、すっごく驚いた。
あと奇行にも驚いた……すぐ脱ぐし。エッチなパンツばかり持ってるし。
でも……すぐに愛おしくて仕方なくなったの。
「ねぇ、ノエルちゃん。私の事好き? 愛してる?」
「ふふふ、もちろん好きですし、愛してますよ」
「じゃあ、結婚して。もう無理に男になってとは言わないから結婚して!」
「龍にくらべ天寿の短いユキの人生に付き合うのは吝かではないのですが、さすがにあるじ様にお伺いを立てないとダメですよ。そして結婚するなら、ユキのお母さんが帰ってからです」
「…………」
「どうしたです? 何を泣いてるです?」
「だって、本当に結婚してくれるって言うから……ふえぇん」
「ユキは可愛いですねぇ」
そう言いながら、ノエルちゃんは私の体にからみ付くように抱きしめながら、いっぱいキスしてくれました。
『あるじ様、聞こえるです?』
『うん、何かあった?』
『わっち、ユキに求婚されたです』
『ええええええっ!?』
『冗談ではなく、ユキは本気ですよ』
『マジか……それでノエルはどうするつもり?』
『あるじ様にお許しいただけるなら、ユキの人生に付き合ってもいいかなと思うです』
『マジかー……うん、いいよ』
『そう言ってくれると思ってたです……これからはお義母さんと呼ぶです?』
『やーめーてー』
『あい』
翌朝、お母さんが結婚を認めてくれたと、ノエルちゃんが教えてくれました。
嬉しい! お母さん、ありがとう!
私は今の素直な気持ちをノエルちゃんに伝えました。
「私、ノエルちゃんに習って、今日からノーパンで学校に通うね。妻として」
「やーめーてー」
「麗しのユキ姫様!」
その日のお昼休み、中庭のガゼボで級友達とお弁当を広げていた所に、バートリー殿下がすごい剣幕で現れました。やはり諦めてはくれなかったようで、お付きの二人も申し訳なさそうな顔をしてます。
「昨日は突然の求婚で驚かせてしまいましたね。ですが、どうか安心して私の元へ嫁いでください。生涯を捧げ、あなたを愛すると誓いましょう」
「あの、バートリー様。よろしいでしょうか」
「はいっ、なんなりと」
「申し訳ありませんが、私はあなたと結婚しません。あきらめてお帰り下さい」
「何故ですか! これは私達の真実の愛なのですよ?」
「私にはすでに結婚を誓った最愛の相手が(チラリ)おりますので、求婚をお受けできません。どうか私の事は忘れ、婚約者様を大切にしてください」
「なっ……」
「えええっ! ユキ姫様、いつの間にそのようなお方が?」
「キャーっ、いったいドコのドナタ様ですの?」
「こちらのノエルちゃんです」
「「キャーッ!」」
ノエルちゃんが見せ付けるように、私の頬にキスしました。
みな様、楽しそうに黄色い声を上げます。しかし、とても納得ゆかないバートリー殿下は、ノエルちゃんに食ってかかります。でもそれは悪手ですよ。
彼女がこの国の魔王代理なのは、学園の誰もが知ってるはずですのに。
「メイド風情が高貴なる私の真実の愛を邪魔する気かぁーっ! 冗談では済まさぬぞ、決闘だぁぁっ!」
「いいですよ、バカ王子。いつ決闘するです?」
「今ここでだぁーっ!」
バートリー殿下が叫びながら、護衛騎士の腰から剣を抜き取り、ノエルちゃんに向けました。王太子ともあろう者が丸腰のメイドに剣を向けるとは、まともではありません。周囲で私達の様子を窺っていたご令嬢方も悲鳴を上げています。
「いい度胸です。死にますよ?」
「ノエルちゃん、食べちゃダメですよ」
「あい」
ノエルちゃんの頭上に大きな魔法陣が現れ、ジャンプしてくぐると、巨大な四翼の白龍が現れました。校舎に大きな影を落とす、翼幅三百メートルもの超巨大な龍の出現に、お昼の学園は大騒ぎです。騒ぎを聞きつけたアスフィーちゃんが屋根の上から、呆れ顔でこちらを見下ろしてます。
「剣を抜いたからには、ただでは済まさ……へ?」
「龍王バハムートであるわっちの宝、ユキ姫に手を出す愚か者よ。さぁ選べ。この場で喰われて死ぬか、ユキ姫を諦め、潔く帰るか」
「龍……王……ババムーチョ……」
「バハムートです」
巨龍が大きな牙をむき出し、殿下へ向け口を開きました。すると硬直したバートリー殿下がぐりんと白目をむき、異臭を放ちながら倒れてしまいました。
勝負ありと、ノエルちゃんがふわりと可憐なメイド姿に戻ります。
そして、スカートの裾を摘まみ、くるりと回ってお辞儀すると、中庭を囲む校舎から大歓声が上がりました。
そして、従者にずるずると運ばれてゆくバートリー殿下をみんなで見送り、昼食を再開したのですが……
「うんこ臭いですね……」
ノエルちゃんの一言で、全員昼食を噴き出しました。
いつも読んでくださって、ありがとうございます。(ユキ)
ノエルちゃんという素敵で激つよの婚約者がいるのに、私への求婚を諦めない人は、まだまだいるようで、すごく困ってます。
そこでストロガーノ様も護衛に加わってくれる事になりました。
近年ムキムキ……いえメキメキと頭角を現した、雄々しくて、とてもたくましく、赤マントの似合う大人気の男性勇者です。あと誠実で、愛妻家としても有名ですね。
特に子供とムキムキの男性のファンが多いそうです。
今日は誰も求婚してこないでほしいなぁ……
すると、私の前に男性が飛び出してきました。またかぁ。
すかさず、ストロガーノ様が私の前に出ます。
「どうか私と結婚してくださいっ! 世界一幸せにしてみせますっ!」
申し訳ありませんが、私の婚約者は既に――
「ストロガーノ様っ! いえ、兄貴ぃーっ! お慕いしてますぅーっ!」
え…………




