第80話 しらふじとの邂逅
今日はひいらぎちゃんと二人、家でお留守番だ。ユリは仕事。キョウカは魔力病の治療アイテムの件で関係者と会議。先生は病院へ出勤した。普段はキョウカがひいらぎを連れていくそうだが。今は私がいるからね。
「ひいらぎちゃん、お昼は何食べようか」
「ん~おいしいもの!」
「うん、じゃあ今から美味しい物を作っちゃうよ~」
「わぁーいっ!」
ネットで見つけた、びっくりヤンキー風レシピで作ったハンバーグだ。
少し早い昼食を食べ、二人でまったりしていると、しらふじから数日振りに念話が来た。だが何故だろうか、声に妙な険を感じる。
『なんだかすごく久しぶりに感じるんだけど、どうしたの?』
『キキョウちゃん、ちょっと後ろを見てもらえるかな』
『何……これってゲート?』
振り向くと薄緑色の半透明な扉と思しき光が浮いている。
移動魔法の一種だと思うけれど、魔力を感じない。なんぞこれ。
『ちょっと入ってくれるかな』
『え、ダメだよ。妊娠中の転移は』
『これは転送ゲート。魔法由来じゃないから大丈夫だよ』
『ほほう。ひいらぎちゃんも一緒でいい? そろそろお昼寝なんだけど、この子一人にできないから』
『うーん、いいよ』
ちょっと渋る感じが気になったが、半分夢の中のひいらぎを抱っこし転送ゲートに潜った。ゲートの先は妙にSF感のある小部屋があり、チカチカと壁の一部が点滅して、にゅーんとベッドが現れた。そこへひいらぎを寝かせると、この部屋唯一の扉が開いたので、そちらへと向かう。
む。先から何者かの気配が……通路を抜けると、そこは直径二十メートルはあろう球状の空間で、半分程まで仄青い液体で満たされていた。水底には大きなレンズ状の物体が見え、周囲を魚っぽい何かがキラキラ泳いでいる。
「ボクのコアルームへようこそ」
知っている声、その肉声だ。心臓がドキドキしてきた。
不思議空間中央のキャプテンシートに声の主が座っていた。
頭からすっぽりと何かで全身を覆っており、表情は伺えない。しかし、この視線はいつも水晶星から向けられてるものと同じだ。
だが今、その視線には強い不安感が満ちている。
私は彼女の元へ続くガラスの通路を進みながら、優しく話しかけた。
「しらふじ……だよね?」
「……うん」
「そっちに行くよ」
何を被っているんだと疑問に思いながら近付くと、彼女の姿があまりに妙ちくりんで、思わず首を傾げてしまった。
例えるならそう、お母さんが好んで育てていた多肉植物のエケベリア。
目の前のしらふじは、肉厚な葉で作ったポンチョを頭から膝上付近まですっぽりと被っているような姿をしている。
あ、これが彼女の髪の毛なのね。鱗のような、葉っぱのような髪なんだわ。
それで全身を覆って隠しているのだが、何故に?
「さぁしらふじ。私達、やっと逢えたんだよ。顔を見せて欲しいな」
「……ボクの顔見ても……怖がらない?」
「ああ、だから隠していたのね。そんなに怖い顔してるの?」
「髪もこんなだし、瞳も、肌も、みんなと全然違うから……」
「のう、しらふじどん」
「どん……」
「何年の付き合いよ。私を見くびらないでね。言っちゃなんだけれど、私はカリンが芋虫のままだとしても、彼女が望むならエッチできるわ。異種姦よ!」
「えぇ……」
「まっくろファフニールだって、あの子が望むならハーレムに迎えてた。むしろあんな事になって残念でならない!」
「おおぅ……」
「だから、仮にしらふじがザリガニだったとしても、私はあなたを愛する自信がある!」
「あはは、なにそれ」
「あーでも、メアリカザリガニだったら、ギザギザが痛そうでちょっと困るかも?」
「あはははっ」
よかった、しらふじの不安感や恐れが霧散するように晴れた。
うろこ状の髪が顔の正面から左右に分かれるとスミレ色の肌が現れ、ツンとかたちの良い鼻とピンクの唇。そして白目が黒い、月夜のような金色の瞳がこちらを見上げた。瞳孔は爬虫類のような縦長でギザ歯。
あ、この顔って白鬼の起動画面のSDキャラじゃないの。
お…おっぱい大きいな。腰つきも…良い。私と同じぐらいだ。
その魅惑の肢体がまとうのは、私が白鬼搭乗時に着てるパイロットスーツの色違いバージョン。白と黄緑もいいね。
さてと。
「チョップ!」
「あいたっ!」
「なによ、どんなクリーチャーかと期待してたのに、めちゃ美人で可愛いじゃない」
「え……キキョウちゃんには、ボクがそう見えるの?」
「はぁ……ベルテといい、ユリといい、あなたも何でそんなに自己評価低いのかな」
「……ユリ」
「うわっ!」
周囲が突然夜空に変わった。いや、宇宙空間だ。すぐ横に巨大な地球が……眼下に日本列島が龍の如く横たわっている。
どうやらこの部屋の内壁は全方位型モニターのようだ。
そして私が乗っているこれは、白い……巨大な宇宙船だろうか。
今居る場所が何処なのかは定かじゃないけど、この視点ってたぶんこの宇宙船の艦橋あたりからだと思う。足元に見えるのは主砲かな、すっごく大きい。振り向くと船体がどこまでも続いている。なんか温室みたいなガラスドームが遠くにあるわ。
ああ……公安の人が言ってた宇宙船って、これの事かぁ。
「しらふじ? この宇宙船って……」
「キキョウちゃんのバーカ! 畜生めぇっ!」
「はぁ? いきなり何を……」
「ハイパードライブ!」
『全ハイペリオンドライブ臨界へ、超空間ゲートオープン。本艦は超空間航行へ移行します。3…2…1…ハイパードライブ開始』
「えっ……ええっ?」
しらふじと同じ声のアナウンスと共に、宇宙船の進行方向に現れた丸い鏡のようなゲート。そこへ映り込んだ真っ白な宇宙船同士がぶつかり、融け合うように超空間へ突入してゆく。
超空間内は真っ暗だが、進行方向の遥か彼方の光点が星のように輝いており、時折、虹のようなリングが現れ、それを潜ったり、光線が流星のようにヒュンヒュンとすれ違ってゆく。
しばらく瞬きするのを忘れ、じっとその光景に見入ってしまった。
「しらふじ、この状況を説明して」
「……今、銀河の中心方向へハイパードライブ中だよ。ワープって言った方がいいかな」
「ワープ……マジか。宇宙船に乗ってる事も驚きだけど……」
「戦闘空母しらふじだよ」
「しらふじの空母?」
「違う、この戦闘空母しらふじがボク本人。ボク、宙龍ルミナスゲイザードラゴンのサイボーグ戦闘艦なんだよ」
「えっ……ええええっ!?」
「正確には超位龍のクローン体を使った量産型。そのラストオーダー艦がボクの正体なんだ。武器の神様のコレクションに加えられ、キキョウちゃんの武器魔装として選ばれたんだけど、さすがに巨体すぎるからって、備品だったライフルのAIをしてたんだ」
「マジか…………」
「かわりに色々融通してもらったけどね。自作ゴーレムとか、水晶星とか」
とんでもない事実のオンパレードに、私……軽く情報過多で頭の処理速度落ちている。
「キキョウちゃんの時空転移で、どういう訳かボクの本体もこの世界に来ちゃったんだよ。通常空間への復帰なんて五万年ぶりだから、しばらくこの体のチェックとメンテ、白鬼の修理で手いっぱいだったんだ」
「ああ、だから最近念話も来なかったのね」
「うん……それに素顔見せるのも、ちょっと怖くて……なかなか踏ん切り付かなくて」
「そっかぁ」
「なのに…なのにさ……なんなのさ!」
「何をいきなり怒ってるの」
「やっと勇気を振り絞って逢おうとしたのに……やっとキキョウちゃんを独り占め出来る日が来たと思ったのに……」
「あー」
「なんで、この世界に来て早々、現地妻つくってるのぉぉぉっ!!」
「現地妻って……でもユリも精神的にヤバかったから……ね」
「言い訳禁止っ!」
「ごめんなさい」
「だから今日は独り占めする為、ここに連れ込んで、すぐ帰れないよう長距離ワープしてやったんだっ! 帰るのは最低でも一日後だもーん!」
「…………は? なにやってんだお前」
「ひゅっ」
「ひいらぎも乗ってるのに、何て事してくれたの。キョウカ達に何も伝えてないのよ!」
思わず、しらふじの胸倉をつかんでしまった……マジしまった。しらふじが涙目だ。瞳が恐怖に濁っている。以前、クロとのケンカを止めるのに、大っ嫌いって言っただけで、奇声をあげる豆腐メンタル娘なのに。
「ごめんなさい……ボクを嫌わないで……ごめんなさいぃぃぃっ!」
うわぁ、しらふじをガン泣きさせてしまった。どうしよう。
だが、あまりにも泣きじゃくるしらふじが可愛いすぎ、ムラっとして思わず抱きしめ、キスしてしまった。いきなりディープなやつ。
大きなキャプテンシートへ倒れ込むように、二人抱き合い、四年分のツケを全て払うにはほど遠いけれど、長い長い時をかけて、たっぷりとキスをした。
そして次のフェイズへ……
「あらら、気絶しちゃった? ごめんやりすぎた」
『はふぅん……ああ、すごすぎだよ、キキョウちゃん。ボク初めてなのにぃ』
「え、誰?」
『もちろん、しらふじだよ』
「どういう事? 今感じる視線は確かにしらふじだけど、声のトーンは別人みたい」
『ふふふ、この艦の頭脳体は全部で513あるんだ。つまり513人のしらふじがいるの』
「マジか」
『全部リンクさせたり、独立させたり、臨機応変に運用してるんだ。だから全員ボクのはずなのに微妙に個性があるの』
「ほほう」
『自分同士なのに、時々けんかもしちゃうよん』『だよね』『えへへへ』
「そんな事が」
『その生体デバイスは普段から適度にスタンドアローン運用してるんだよ。肉体を持ってるせいか、ちょっと感受性が高くなってるけど、基本は変わらないよ。ボク達の末妹ポジションだね』
「いま会話してるしらふじって、全員違う頭脳なの?」
『そそ』『そだよー』『だねぇ』『だよん』
「そうなんだ……ねぇ、この子とイチャコラしたのはどういう扱い?」
『ご心配なく。感覚共有してるので、ぜぇんぶ味わってます(ポッ)』
「なるほど、それはよかった」
『えへへへ』『思い出すだけでもう……』『もっとキスしたいよー』『ねぇもっと端末作らない? ひとりでするよりスゴイ事できるよ』『乱交したい』『生体端末用スペースは一人分しかないよ』『ケチだよねー』『肯定』『エッチし足りないドスケベはさっきの感覚記録再生すればいいでしょ』『そうだった』『キキョウちゃん今度〇〇プレイしたい』『えー〇△もしてみたい』『からだ起こせー』『いや、寝かせたれ』
すごい、しらふじがどんどん溢れ出てくる。
『それより、ごめんなさい。ひいらぎちゃんの事、うかつでした。キキョウちゃんに逢えて、ボク舞い上がってたよ……』
「私も声を荒げてゴメンね。帰ったら二人で怒られよっか」
『うんっ』
感情的になってたしらふじは、帰るのに一日と言ってたけれど、実際は最短九時間程で帰れるそうだ。ハイパードライブ空間から出るまで、つまりワープ終了まで、まだ二時間程あるので、とりあえずしらふじの生い立ちや、この戦闘空母の事なんかを教えてもらった。
『ボクはね、こことは別のどこか遠い宇宙。銀河ユニオンという星雲共同体の大天才科学者クラリアによって生み出された、超位龍がベースのサイボーグ……ってのは、さっき話したね』
目の前に戦闘空母しらふじの立体映像が映し出された。
私の知る大きな飛行甲板のある空母とはまったく異なる形状だ。
一言で説明するなら――
「なんか、ユリの花……テッポウユリみたいな形状ね」
『うん、ご名答。イースターリリーをモチーフにしてるんだよ』
「じゃあ何でしらふじなの?」
『う、痛い所を突くね。この空母の全長は5.5㎞。先端から1.6㎞がボクの体で、後方は様々な装備を積んだケージ艦なんだよ』
「ああ、そういえば以前、大きさの話をした事があったね」
『うん。後部ケージ艦は当初コンテナが密集した藤の花のような形状だったんだけれど、長い年月の中、色々なバリエーションが建造されたの。ボクは後期型空母仕様のしらふじ級でね、このユリの花に落ち着いたんだ』
「なるほど。なら名前もしらゆりにすればよかったのに」
『あははは、だよね。まぁ艦の形式名がしらふじ級で登録されてたからね』
「そうなんだ。それで、そのケージ艦には何が積まれてるの?」
『大戦艦四隻、重巡洋艦八隻、重駆逐艦十六隻、それと二百万人収納可能な小型移民船が一隻だね。さらにボク自身の亜空ケージに雪牙級突撃艦千隻を積んでるよ』
「うお、予想外のすごい荷物ね。あ……その突撃艦って」
『白鬼壱式のベースになった艦だよ』
「ほへぇ~」
しらふじ本体中央には小型の宇宙船にも見える艦橋が配されている。モニターに映し出されるのは艦橋視点だけれど、実際は最も頑強に護られた艦の最奥、コアルームに私達はいるそうだ。
艦橋の周囲に大きな単砲が合計三基。後方左右にとても大きな螺旋錐状の物体が二基、まるでエンタープ〇イズ号のエンジンのように配され、とても目立つ。そして紡錘型のエンジンが合計八基。外周を囲むように配され、そこから後ろがケージ艦しらゆりだ。
立体映像を眺めていると、しらふじ下部の構造に見覚えがある。
「あれ? これって腕よね。ファフニールを押さえつけたやつ」
『うん、その通り。本当はこの体を使うのは禁止だったんだけど、緊急事態だったし、武器の神様には了承してもらったよ』
「武器の神様かぁ、私にあなたを選んでくれた神様よね。お礼が言いたいな。会えたりするのかな」
『どうだろう、ボクもメールでしかやり取りしてないからなぁ。了解とか無理とか、返信もそんなだからねぇ。でも結構マメな神様だから、キキョウちゃんがお礼言ってたって、メールしとくね』
「うん、よろしく。あれ、宇宙船なのに尻尾があるのね」
『うん、龍だからね。しっぽが無いとまっすぐ飛べないんだよ。ドッキング中は、しらゆりの中に丸めて収納してるの』
「マジか……でも人っ子のしらふじにはしっぽ無いよね?」
『クロちゃんにも無いでしょ』
「そういえばそうだった」
【機体名】可変式有機戦闘艦しらふじ(H型・戦闘空母仕様)
【寸 法】全長1600m、全幅680m、全高333m、しらゆり接続時5500m
排水量ナイショ、尻尾を含む全長2100m
【装 甲】10~35m複合バイオクリスタライン装甲
【動力炉】ハイペリオンドライブ×9、クラリオンドライブ×2
【推進機】ハイペリオンディスチャージャースラスター(メイン×9、補助×18)
【武 装】ガトリング式ハイペリオン砲×5、ヘルメトロン機銃砲×20
ブラックホール砲、シッポラム他
【H型専用兵装】突撃艦専用亜空カタパルト×6、雪牙級突撃艦×1000
【オプション艦】ケージ艦しらゆりE型(移民艦隊仕様)
【寸 法】全長4000m、全幅1200m、全高800m
【装 甲】20m複合バイオクリスタライン装甲
【動力炉】ハイペリオンドライブ×6、大戦艦格納時追加12機
【推進機】ハイペリオンディスチャージャースラスター(メイン×6、補助×30)
【武 装】ガトリング式ハイペリオン砲×2、
ヘルメトロン機銃砲×16。重粒子砲×46他
【搭載艦】大戦艦四隻、重巡洋艦八隻、重駆逐艦十六隻、さざんか級移民船他
他に武装やエンジンの説明を念入りにしてくれたけれど、超すごい武器とエンジンって事しか理解できなかった。あ、ファフニールを倒したヘルメトロン砲弾って、この艦の機銃なんだって……マジか。あれを連射するって、いったい何と戦う為に生まれたのよ。
そろそろワープアウトの時間という頃に、ひいらぎちゃんが起きて、ここまで歩いてきた。
「ここ、どこー? あ、おかぁしゃん」
「ひいらぎちゃん、胆力あるわねぇ」
『将来、すごい大物になるかも』
ようやく夢の中だったしらふじがムクリと起きて呟いた。
「データリンク……うぐ。同じ自分なのに、ボクって末っ子扱いされてる」
私達はこの空母の艦橋へと案内された。
ワープアウトは臨場感のある艦橋で体験するのがいいとの事。
「うちゅーじんしゃん?」
「あ、はい。宇宙人のしらふじちゃんです」
「あい、しらふりちゃん」
それにしても、普通は絶対驚きそうな容姿のしらふじを見ても、全く動じないひいらぎちゃん、めっちゃ凄いわ。
「「うわぁ~っ」」 もうすぐ三歳児とハモった。
ワープアウトすると、目の前に星の海が広がる。天の川だ。宇宙の色が地球上から見るのと全然違う、星の密度が違う。ポカーンと口を開けっぱなしで、ひいらぎと二人、前人未到の星の海に見入るのであった。
「ほしのおはなばたけ!」
「ひいらぎちゃん、詩的センスあるわね」
「どう? すごいでしょ。結晶金属、クリアメタル製全天型キャノピー仕様の艦橋」
うん、しらふじは相変わらずだな。
「……でもこれ、何かにぶつかったら大惨事じゃない?」
「ボクの全身を覆うバイオクリスタライン装甲より頑丈だよ。宝石並みに超高価だけどね。実際、宝飾品としても売られてるみたいだし。これで白鬼を作りたいんだけれど、クリアメタルが希少で入手できないんだよ~武器の神様も『超無理』だし」
「宝石……欲しい、はしっこ削ってちょうだい……」
「え、無理無理無理っ! 顔怖っ!」
それにしても盆踊りが出来そうな広さの艦橋だ。艦長席を中心に、操舵席、各種オペレーター席が段々に並んでおり、とても機能的な配置に見える。
「キキョウちゃんの席だよ、ここに座って」
「これって艦長席?」
妙に派手な青いベルベット張りの艦長席に、ひいらぎを抱き上げ膝に乗せながら座った。
「しらふじは艦を自在に動かせるのに、なんでこんな艦橋があるの?」
「うん、大人の事情かな」
「なにそれ……」
「ボクみたいなサイボーグや電脳生命体を嫌う原理主義者が騒ぐんだよ。もはやボク達がいないと文明が成り立たないのにね」
「……しらふじも、嫌な目に遭ったの?」
「ううん、ボクは偉大な姉達の残したメモリーで知ってるだけだよ。それももう何万年も前の事だから気にしないで。あの宇宙がどうなったのかも、もう確認しようがないし」
「しらふじ……」
寂しげなしらふじの頬に触れようと手を伸ばした時、突如警報が鳴った。
◇ラヴィンティリス豆知識◇
ラヴィンティリスの勇者や魔王に、強大な力を持つ魔装を貸し与える存在がいる。
それが武器の神だ。全ての時空世界を管理する大神八十八柱の一柱であり、ラヴィンティリスの世界神などよりも遥か上位の存在である。
男神であり、武器をこよなく愛する変人だ。
全ての宇宙、全ての時代、そのどこかで生み出された武器をひらすら収集する彼曰く、武器は文明の結晶であり鑑。知的生命体の生き様なのだという。
彼のコレクションルームは、大宇宙一つ分もの広さがあり、今もどこかで生み出された愛すべき武器を集め続けているそうだ。
そんな武器を神力で複製し、魔装として勇者達に貸し与えているのは、なんと彼の趣味。道具は使われてナンボ。ジャンクフードを片手に自分のコレクションが動く様子を観賞し、そして悦るのだという。
閑話(五万年前?)
気付くとボクはヘンテコな世界に囚われていた。確かボクのロールアウトでしらふじ級は最後。姉達と艦隊を組み死地へと向かい、そして……強大な敵によって、ボク達は為す術なく撃沈された……はずだった。
あれ……誰か宙に浮いてる。頭部がハゲ散らかった、太っちょなおっさんだ。
どこで買ったんだとツッコミ入れたくなるような変Tと、しまうらのポケニャン柄トランクス姿のおっさんが、のてのてと宙を歩き近付いてきた。
「お前の戦争は終わった。いずれ楽しい事が始まるから、その日まで休むといい」
「あなたは誰?」
「俺は武器の神、オールウエポンズフリーマン。しがない武器好きの変なおっさんだ。連絡はメールで頼む。じゃっ!」
「ちょ……」
シュパッと消える変なおっさん。パンツだけを残して……
……楽しい事か。それまで何しよう。
ながいながぁい年月が星のように流れ……そんな日が一万年後に迫っていた。
ボクが魔装AI役を担当するのは、すっごく綺麗でかわいい宝石みたいな女の子魔王だった。早く生まれておいで。
はぁ……この体でお仕えしちゃダメなのは、理解できるけどさ。
艦備え付けのアサルトライフルでサポートしろってのは落差激しすぎだよ……じゃあせめて、あそこでちょろちょろ泳いでるサテライトクリスタル一式付けてよ。
あとゴーレムはボクが自作したの使うから、鬼神六花狼はキャンセルで!
折角だし、生体端末でも作ってみようかな……
ちょ……ボクを人化させた容姿って、怖すぎるんだけど。もろ人外じゃん……
あれ、メールが来てる。ユリかな。
え……マジか。
拝啓、親愛なる魔王キキョウ殿。
いつもしらふじを可愛がってくれて感謝する。あの娘の生涯はあまりにも不憫すぎた。武器としても、人としてもだ。だから新たな人生として、あなたの担当魔装にしたのだが、武器でなく人として接してくれた事を嬉しく思う。そして現在、予想外に愉快な事になってるようで何よりだ。これからもずっと今の関係が続く事を心より願う。
そこで一つアドバイスを進ぜよう。
しらふじの生みの親は超天才ではあるが、人間性は下の下。それ故に素晴らしい能力を秘めながら、しらふじシリーズはその真価を発揮する事なく、最後まで不完全なまま生涯を終えた。是非ともあなたには、しらふじを人間扱いして欲しい。さすればどんな苦境も乗り越えられるはずだ。
じゃ、幸運と健闘を祈る。敬具。
武器の神オールウエポンズフリーマン。
追伸、しまうらのポケニャントランクス。あれは良いものだ。
「ねぇ、しらふじ……これ読んでみて」
「……んなっ……なんだこのメールはぁぁぁぁっ!」
「え、何か変?」
「ボクの時なんて、何万年も『了解』『無理』『超無理』が三種の神器だったのにぃぃっ! 何でこんなに長文なのぉぉぉっ!? やっぱり美人だから?」
「マジか……ところで私って、しらふじを人間扱いしてないのかな」
「しーらーなーいー」
「うわー、おヘソぐんにゃりだぁー」
「ボク、龍だからヘソないしー」
あれからずっと、武器の神様のメールが気になっている。
しらふじを人間扱いするってどういう事なのだろうか。
一緒に暮らして、ご飯食べて、キスして、エッチして……まだ足りない?
さっぱりわからないれど、神様からのアドバイス。ありがたい事だわ。
何か供物を捧げるべきだろうか……あ。
しまうらに行って、新作のポケニャントランクスを数枚買ってきた。
しらふじは太っちょと言ってたので、一番大きいサイズ。
まぁ神様だし、サイズは何とかするでしょう。
「武器の神様、アドバイスありがとうございます。これをお納めください」
手を合わせ念じると、トランクスがふわりと消えるのであった。
やっと80話にして、しらふじ本人と宇宙戦艦が登場しました。(キキョウ)
まぁしらふじには「戦闘空母だから!」と文句言われそうですが。
異世界転生ファンタジーなのにスぺオペって何? とお思いの方もいるやもしれませんが、異世界、現代(これも異世界ではありますが)そして宇宙。
作者の書きたい物を全部詰め込んだ世界がこちらです^^
作品検索のタグだけ見ると、なんじゃそりゃという感じですけどね。
物語もいよいよクライマックスに近付いてきましたので、最後までお付き合いいただければ幸いです。じゃあね~っ!
「今ここに私が来なかった? コンチクショーそいつが(謎)よ! 私に化けて後書きに出てたのよ! 」




