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ラヴィンティリスの白き魔王ですが、ユリハーレムに龍王や宇宙戦艦がいる件について語りますね。  作者: 烏葉星乃


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第8話 龍王バハムート

 私のやらかしで、まだ一歩も動かないまま白鬼壱式は、バラバラの大破判定を受けた。

 罵倒を覚悟してたのに、脱出機構のテストは必要だったし、予備機もあるので気にしなくていいよ。アハハ~と、うわずった声のしらふじ……ホントごめんなさい。


 気を取り直し、庭のガゼボで遅い昼食。転送され消えてゆく白鬼の成れの果てを眺めながら、魔王服姿でかつ丼を食べる。私はしっとりメインでサクサクが少し残ってる派だ。


 昼食後、クロが魔導銃の試射に最適な場所があるというので、昨日入った宝物庫の隣にある黒い扉をくぐり、小さな部屋に足を踏み入れた。

「下へまいりまぁす」まるでエレベーターガールのようなクロのセリフとイントネーションにギョッとしていると、足元にふわりと水色の魔法陣が現れ、私達は音もなく降下をはじめた。ヒュンヒュンと光のラインが流れる中をしばらく降下すると一旦停止し、足元の魔法陣が赤く輝き、激しく回転しながら再び降下した次の瞬間、眼下に巨大なドーム状の空間が広がった。 


 そこは壁の至る所から木の根が侵入し、さながら某天空の城のような雰囲気を醸すドーム空間だった。根には葉が青青と茂り、橙に桃、黄緑の実がランプのように淡く灯っている。そして、じっと目を凝らすと壁にはうっすら大小様々な魔法陣が浮かび、まるで時を刻む歯車のようにゆっくりと動いてる。

 私達を乗せた魔法陣が、そんな幻想的な空間をゆっくりと降下していった。


「すごい場所ね。ここはいったい……」

「ここは封印城地下三百メートルにある、龍王バハムートを封印した結界。翡翠牢の中ですよ」

「封印城……たしか世界樹の根元にバハムートを封印したって言ってたよね」

「はい、その世界樹を用い築城したのが封印城です。そういえば、まだ外から城を見てませんでしたね」


 転移中に真上から見たわ。この根っこ、世界樹なのね。お城にされてもまだ生きているんだ。


「ところで、そのバハムートはいったい何処にいるの?」

「ここですよ」


 クロが草の茂った地面を踏みつける。


「あやつは結界に魔力を奪われ、巨体を維持できず砂に変わりましたから」


 ここは元々、直径二百メートル程の球状空間で、そこが半ばまで埋まっている。龍王バハムートは、どれだけ巨大だったのだろかう。


 バハムートが魔力を奪われたように、ここではどれだけ強力な魔法を使用しても、すべて結界が吸収してしまうので、気兼ねなく魔導銃を撃てるという。

 私は早速、魔導銃を水平に構えた。


「どうかな、キキョウちゃん。射撃方法は理解できたかな」

「うん、大丈夫」


 魔導銃の扱い方を一通り教わった私は、中央から壁寄りに移動し、銃口を百五十メートル程先の壁に向ける。


 魔法のリストから、炎系攻撃魔法“ファイアブレット”を選択した。

 ちなみに初期状態もこの魔法がプリセットされている。

 網膜投影された標的にトリガーを半押ししながら、レティクルを固定する。

 カメラの撮影ボタンに似ているかも。


 そして魔法の威力を五段階から選択しトリガーを引き抜く。


 適度な反動と共に魔導銃の先端から炎を凝縮した弾丸が射出された。炎の弾丸は音速を超え壁に到達し、瞬時に吸収され消えた。魔法はトリガーを引いた数だけ発射され、トリガーを引き続けると連射状態になる。このブリット系攻撃魔法は威力が大きいほど弾速が遅くなり、飛距離が伸びるようだ。


「おおおっ? すごいすごいっ!」


 射撃中にアイスブレットやストーンブレットなどの属性の異なる魔法へ瞬時に切り替え撃ち続けた。攻撃魔法は炎、水、風、土、雷、光の六属性がある。余談だが光属性魔法“レーザー”は魔法でありながら物理攻撃に属するという。こういう知識は、いざという時の為にきっちり覚えておかないとね。

 ある程度慣れると更に威力の大きいフレームキャノンやブリザードランスを発射した。とても面白い。魔力量の大きな魔法は連射できず、魔力ゲージが満タンになると発射可能になる。以前、よくプレイしてたゲームのディレイに似てるので直感的に操作できた。


 楽しくて少し調子に乗った私は、炎系大規模殲滅魔法バーストフレアを選択し、魔力を大量に吸われる感覚を気にする事もなく、気軽にトリガーを引いた。

 銃口の先、数種の魔法陣で構築された魔導バレルが展開し、大きな光球が射出され、他の魔法と同様に壁の結界に触れると萎むように小さくなってゆく。が――次の瞬間、光が弾けた。


「え」「ちょ」「ごめん、やっちった」


 瞬時に盛大なやらかしを自覚する。

 結界内を埋め尽くす勢いで膨れあがる超高熱を帯びた光が私達に襲い掛かる。

 まずい。逃げる場所なんて何処にもない。


「キキョウ様っ!」


 影のかき消えた完全な光の中、思考停止した私を護るように華奢な体が覆いかぶさってきた。ごめんクロちゃん……私達を飲み込み、結界内を暴れ狂う灼熱の光の渦。


 …………

 ……

 あれ。


「火傷してませんか?」


 耳元で囁くクロ。


「私……生きてた……?」

「また千年待ち続けるのは、流石にもうイヤですよ」

「キキョウちゃんのローストブヒ姿は見たくないなぁ」

「ブヒって……」


 頬に冷気を感じ、顔を上げると、私達を氷のドームが覆っていた。更にそれを囲むように水晶星の編隊が魔法防御障壁を展開している。

 クロが指先で氷に触れると融けるようにドームが消え去り、水晶星達はビキリとヒビが走ると澄んだ音色を響かせながら、次々に砕け散っていった。


 キラキラと水晶星の破片舞う中、即座に土下座する魔王。


「よかった。キキョウちゃんが自分のやらかしを理解してるよ」

「はい、己の愚行を素直に謝罪できる、すばらしいお心をお持ちです」


 静かに始まった二人のお説教は、事が事だけに中々終わらなかった。

 心当たりのない前世の出来事に対する説教も混じるわ、やっぱり白鬼の事怒ってるじゃんってもの混じっていたが、延長戦は嫌なので、反論せず私は只々深く詫びるのであった。

 あれ……何やら既視感が。ああ、今の私ってお父さんそっくりかも。


 ビクリ。


 突然――知らない視線を感じ、周囲を見回す。


「キキョウ様?」「まだお説教終わってないよ」

「視線を感じた……誰?」


 クロとしらふじと私の三人しか居ないはずのこの場所で、誰かが私を見ている。改めて周囲を見回すと、世界樹の根や葉には被害はなく、私の周囲のみを残し草原は燃え尽き砂地に変わっていた。やはり誰も居ない。あ、また視線が……


「それはノエル……龍王バハムートの魂でしょう。砂に帰した肉体から離れ、輪廻に帰るはずの魂が結界に阻まれているのです。なので居ないものとして無視してください」


 クロの声に妙な険を感じる。

 龍王の魂……この場合、幽霊みたいな状態なのだろうか。

 私に向けられた視線をたどり、その魂がいるであろう場所に目を凝らす。


 いた。


 そこには、弱弱しく今にも消えてしまいそうな子供の影が立っていた。

 クロの制止を聞かず、私はゆっくりと影に近寄った。

 影の背格好から五歳ほどの女の子だろうか。


「こんにちは、私に何か用かな?」

「……けて……たすけてください」


 視線から救いを求めてる事は伝わっていたが、まさか話せるとは思わず少し驚いた。この子が狂乱し世界を滅ぼしかけた龍王バハムート……

 私は視線を合わせるように屈むと、子供に話しかけるように優しく質問をしてみた。


「あなたはどうしてここに居るのか、知っている?」

「わかりません……気がついたら、ここいました、です」

「ここに来る前の事は覚えてるかな」

「……こわくて……こわくて、にげて、たたかって……それだけおぼえて、ます」

「ふむ……」

「おねがいです。たすけて、ください」


 クロの話から先入観で、狂暴なイメージがあったけど、この子からはそんなもの微塵を感じない。この子は純粋に救いを求めている。なんだろう、この胸を締め付けられるような強い不安を伴う既視感は……


「ここから出たい……わっち……もうすぐ消えてしまう、です」 


 ああ……そうか。私がその既視感が何なのか気付いた時、クロの怒声が響いた。


「ノエルゥゥッ! 貴様は誰に救いを乞うているのか理解しているのか! このお方はな、お前のせいでいらぬ苦行を背負い、お心を犠牲にし、身を削り、命を吸われ、苦しみぬいて輪廻に帰り、やっと……やっと転生し戻ってきた、お前のせいで最も苦しんだ被害者だぞ!!」


 私が知るのは過去の客観的事実のみなので、クロの怒りがどれ程深く大きいのか、気付けていなかった。


「お前のせいで……お前のせいでっ! どの面下げて救いを求めているのか……恥を知れ!!」


「え……あ……あ……ごめんなさい。ごめんなさいです」


 私を見つめるノエルからは、大きな驚きと深い謝罪が強く伝わってくる。

 そして、それはあきらめと絶望へと染まり、影はゆらゆら揺れながら薄暗い闇に溶けるように消えてゆく。


「待って!」


 私は薄れ消えてゆく影に私は叫び、クロに詰め寄る。


「クロちゃん、この子助けよう。どうしたらいい?」

「なっ何を言ってるんですか。こいつのせいであなたは……」


 両手でぎゅっとクロの手を握り、怒りと困惑に染まるアイオライトをじっと見つめる。


「クロちゃん、もう……千年経ったんだよ。もう十分じゃない?」

「ですが……」

「この子はここで一人ぼっちのまま死んで、そのうえ魂が消える恐怖に震えているんだよ。償いとしては過剰すぎないかな。私ならきっと発狂してるわ」

「それは……そうかも、ですが……」


 元々感情を読み辛いクロの視線から、妙な揺らぎを感じる。嘘を付いてる?


「クロちゃん……何を私に隠してるのかなぁ」

「私はキキョウ様に隠し事などしません」

「ホントにぃ~?」

「本当です」「はい、うっそ」

「ぐ」


 クロをぎゅっと抱き寄せ、じぃぃっと夜の海のような瞳を覗き込む。

 いくらスキル耐性があろうと、この距離ならば……なんだろう、これは怒り。いや……意固地? 実はもう赦してるけど、本人を前に素直になれない的な? 

 クロも結構普通の女の子なのかもしれない。


「あの……私の感情、読まないでください……卑怯です」


 頬を赤らめ視線を逸らすクロ、かわゆす。


「あのね……私はね、この子から伝わってくる感情を無視できないの。目前に迫る死を待つのって辛いんだよ。すごい恐怖と絶望だよ。私も不治の病で同じ苦しみを知ってるから……どうしても助けたいの」


 深くシワの寄ったクロの眉間をうりうりと人差し指で均す。


「前世の私もこの封印に命を吸われて、同じように感じてたと思う。辛かったろうなぁ、怖かったろうなぁ……」


「ああ……なのに今、忍び寄る死神の影に怯えるこの子を前にしながら、何もできないなんて、私はなんて無力なんだろう……(チラッ)」


「私の館の地下深くで、今も幼子が死に怯えてるなんて……思い出すたびに、胸が締め付けられ、食事も喉を通らないだろうなぁ。クロちゃんとエッチ中に思い出したりしたら……(チラッ)」


 わざとらしく芝居じみた口調で、情に訴えクロの説得を試みる。

 クロが視線を下げ、そのまま私の胸に顔をうずめ隠す。もごもご。


「え、なに?」

「そういう所……」

「ん?」

「昔からぜんっぜん変わってませんね!」

「えへへ、それほどでもぉ」「褒めて、ません!」

「…りました……」

「なに?」

「わ・か・り・ました!」

「ホント?」

「どうぞ! キキョウ様のお望みのままに!」


 胸からクロを引きはがすと、お詫びとお礼に思いっきりキスした。

 周囲を不機嫌そうに飛ぶ水晶星の視線が痛い。


『……ツケにしておくから』

『え、何の事?』

『キキョウちゃんが今後、誰かとキスするたびに、ボクとする分ツケておくから!』

『はい?』

『いつかリアルで逢えたとき、ツケの数だけボクとキスするの!』

『わかった。じゃあその時の為に、いっぱいツケを溜めておくね』


 水晶星が横っ腹に突っ込んだ。


 キキョウ様、またやらかしましたね。(クロ)

 ごめんなさい……あ、いつも読んでくださり、ありがとうございます。(キキョウ)

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