第79話 太田ユリ
お正月、私は雪野家で静かに過ごしている。錦卵うめぇ。先生のお雑煮最高。
窓から顔を出すと視線を感じる。キョウカはこの国で結構なVIPらしく、この家は公安がこっそり警備しているそうな。
さて、魔装やゴーレムの更新は終わったそうで、魔導銃も使えるようになったが、白鬼はしばらく修理中だ。そのせいか、しらふじは水晶星も飛ばさず口数も少ない。邪魔しても悪いので、こちらからは話し掛けないようにしている。
「桔梗君、これを使ってくれ」
「うわ、スマホ!」
先生に手渡されたのは、スマホと預金通帳とキャッシュカード。それに現金が百万円。最低でもここで二年は暮らす予定なので、不便の無いようにと用意してくれたのだ。
通帳には一億五千万円……私の両親の保険金と事故の慰謝料や賠償金の一部だという。
こっちの通貨も無いし、断るのもどうかと思ったので、ありがたく使わせてもらう事にした。残ったら置いて帰るしね。残るかな?
今年は例年より雪が多いらしく、今日も外は真っ白だ。
そろそろ散歩でもしたいなぁと思うが、既にネットで大拡散してる私の存在がバレると、周囲に迷惑をかけてしまう。そこで夜にこっそりと近所を散策する事にした。
フードを目深にかぶり、夜のお散歩開始である。
ふわふわと雪の舞う、真っ白な夜の世界をキュッキュとブーツを鳴らし、鼻歌交じりで歩き出す。
家を出てすぐの場所。ここは以前ガソリンスタンドだったけれど、今はキョウカの小さな診療所が建っている。
その診療所を横目にまっすぐに進んでいくと、交差点の角地にコンビニ。ここは弟の親友の家が経営してるので、よくシロくんと二人で利用したものだ。
扉が開くと懐かしい入店音が響く。同じメロディを口ずさみ、お菓子の棚へGO。
あああ、何たる至福。もう食べれないと思ってたお菓子達が、私の帰りをずらりと並んで待っているではないか。お菓子達よ、私は帰ってきた。
早速、欲望のままにカゴに入れてゆく。うわ、真冬にチョコミント発見。たしか妊婦にはあまり良くないんだっけ。でもちょっとならいいよね。お、なんだこのキノコ……チョコの傘がない。この四年でお菓子も様変わりしたなぁ。あ、もうカゴがいっぱいだ。追加しよう。おお、これは……
なんか魔法使いみたいな格好で、お菓子を中心にスゲェ勢いでカゴに入れていく客がいる。こんな時間に食ったら確実に太るぞ。チョコなんて全種コンプする勢いだ。
ポッキリーの全種、在庫も全部買うって? マジか。今お出しします。
うお、結局カゴ十二個分かよ。うちの店ぶっちぎりの新記録樹立だ。まいど!
「袋どうしますか?」
「え、今レジ袋って有料なの? じゃあ、ピってしたら横に積んでください」
「え、はい……」
この量、どうやって持ち帰るんだよ。菓子箱がうず高く積み上がっていくぞ。ジェンガでもする気か。マイバッグも持ってなさそうなのに。ここで食う……わけないよな。うち、イートインも無いし。
「あれ? えーと……光洋くん?」
「え? あ、はい。どちら様ですか?」
「わたしわたし、シロくんの姉ぇちんだよ」
そう言いながらフードを取る謎の女性。この人知ってる。最近ネットやテレビで話題の謎のツノが生えた白髪美女宇宙人! しかも今は亡き親友の姉さんそっくりだ。
「桔梗さん似の宇宙人!」
「いやいや、本人だから。あと、異世界人。訳あって今は鬼人族の魔王だよ」
「ままま魔王? でも桔梗さんはすぐ近所に住んでて、時々娘さんとお菓子やアイス買いに来ますよ?」
「あの子、実は異世界の親戚なの。んー私が姉ぇちんである証拠証拠……ああ、昔シロくんと病院へお見舞いに来てくれたでしょ。その時ちょうどお着替え中で……光洋くん、私の生おっぱいガン見してたよね?」
「その節は大変お世話になりましたぁーっ! え、本当に桔梗さん?」
おおう、正直者だな。まさかシロくんの親友に会えるとは、ちょっと嬉しい。
幸い他にお客もいないので、過去バナを咲かせまくり、ついでに会計済みのお菓子の山を一瞬で魔法珠の中へ消して見せた。
「すっげぇーっ! 本当にラノベみたいなストレージってあるんだ」
「ふふふ、じゃあもっとすごいの見せてあげる」
私は姿見水晶を取り出し、白銀の勇者を映した。
「すっごい美人……これ誰ですか?」
「私と契約してる白銀の勇者シルヴィアさん」
「勇者!」
「実は彼女……なんと異世界転生したシロくんです!」
「えええええええ……シロってマジっすか」
「マジっす。不思議な事に間違いなく本人だよ」
「ほへぇ……」
光洋くん、シルヴィアの姿に見蕩れて頬を染めている。惚れちゃったかな?
「これ撮影していいですか?」
真剣な表情でシルヴィアの姿をスマホで撮影しまくる光洋くん。水着姿もあるぞい。ついでに私ともツーショット撮影。いえーい。彼の事は念話が次に繋がった時、シルヴィアに教えてあげよう。
あー楽しかった。私は再び雪の中を歩き始めた。
おっ菓子~お菓子~チョコっとおかしい~おっかっしっ♪
確かこの道を行くと公民館と併設された小さな公園があったはず。
もう深夜零時近いし、誰もいな……いた。
傘も差さず雪に埋もれかけ、力なくベンチに座る女性が……え。
まさか……私は雪の中をスボズボ近寄り、彼女の隣に腰を下ろした。
「こんばんは、雪に埋もれて風邪ひいちゃいますよ」
「……いいんです。いっそ高熱でぶっ倒れたい」
「ユリは相変わらずだねぇ」
ピクリとして、ゆっくり顔をこちらに向ける、ぼさぼさ鳥の巣頭の眼鏡っ子。
「え…………桔梗の偽物宇宙人っ!」
「あははは、本人だよ~ユリ。あと宇宙人じゃなく異世界人」
「……叔父さんが今の桔梗は別人だとか、新たに来た白いのが本物の桔梗だって言ってたけど……本当にあなたが私の知る桔梗なら証拠を見せて!」
警戒する猫みたいなユリ。昔と全然変わらない。相変わらず可愛いなぁ。
「よろしい、私がユリの知る雪野桔梗である事を証明をしましょう」
「出来るのならどうぞ」
「ユリが病院にお見舞いに来てくれた時の私、いつも寝ていたでしょう?」
「……それが、なに」
「あれ、ぜぇ~んぶ、狸寝入り」
ユリの呼吸が止まった。そして目が泳ぎ出し、全身がプルプルと震えだす。
当時の事を思い出しているのだろう。
耳まで真っ赤になり、頭の雪が融けて湯気をあげそうだ。
「ユリは寝ている私にキスしたよね。初めは唇が触れるだけ。次第に大胆に舌をねじ込みディープになってゆき……そして胸を揉みしだき、大胆にショーツの中へ指を……そして私の――」
「ギャァァァァッ!!」
ベンチから転げ落ち、雪の上でのたうつ我が親友。妙に既視感のある光景である。
全身雪まみれでうずくまり、指の隙間から私を見つめている。
「うううう……本当に……本物の桔梗なの?」
「ふふふ、色も種族も変わったけれど、間違いなく本人だよ」
雪の上で座り込んだユリを優しく包む込むように抱きしめた。
相変わらずちっちゃいなぁ……こんなに冷えちゃって。私のせいだよね。
「ごめんね、急に居なくなっちゃって」
「ふえええええん」
「ほらほら、立って。私んち行こう。その様子じゃ、ろくにご飯食べてないでしょう。夕飯のカレー残ってるから温めてあげる」
「うん……やわかい……桔梗のいい匂いがする」
胸に顔を埋め、深呼吸するユリ。
「ふふ、甘えん坊さんめ。どんどん嗅げ」
「……知らない女の臭いも複数する」
「すごいな、ユリの嗅覚。浮気できないわ。しないけど」
いつの間にか雪は止み、ユリが私の胸から分離した頃には、雲間から星空がちらほら顔を覗かせていた。
指をからめ恋人同士のように手をつなぎ、二人だけの真っ白な世界を楽しみながら家に向う。深夜なので静かにね。ひいらぎちゃんも大好きな甘口のカレーを温めていると、キョウカが寝室からのっそりと現れた。
「あれ、その子は……」
「親友のユリ。公園で雪に埋もれてたのを発掘したの」
「……どうも、夜分お邪魔してます」
この子は……そう、キキョウの友達の太田ユリ。
雪野桔梗として生きる為とはいえ、私が安易に記憶喪失のフリを選んだせいで、彼女に耐えがたい苦痛を与えたのだ。
そう言い切れるのは、今も私が彼女の表情を忘れられないでいるから。
以前、彼女の親族である公安の太田さんに伝言を頼んだが、結局会う事は叶わなかった。
「ユリさん、その節はごめんなさい。あなたの気持ちを全く考えない、とでも酷い言動でした」
「え……あの、記憶喪失の事は叔父に説明されて納得してます。あなたの立場を考えれば当然……それに桔梗が帰ってきたし、もう大丈夫です」
「そう……私もあなたの顔を見たら、心の棘が抜けたみたいにほっとしたわ」
「ユリ、彼女はキョウカ。私を死の病から解放してくれた命の恩人で、実は前世の私の子孫なのよ」
「……前世の子孫?」
「じゃあここは若いお二人さんに任せて、私は寝るね。お幸せに~」
最後に意味深なセリフを残し、寝室に戻るキョウカをポカンと見送るユリ。
そんな彼女の前に「はい、どうぞ」コトリとカレーを置く。
モクモクとカレーを食べるユリを眺め、その後は二人でお風呂に入った。
「ユリ……さすがに痩せすぎでしょう」
「大丈夫だよ、こんなの普通でしょ」
久々のユリとのお風呂にウキウキ服を脱ぎながら、彼女の体をガン見して驚いた。ガリガリなのだ。もともとスレンダーで背格好はクロに近い娘だったが、この痩せ方はかなり酷い。
「いや、全然普通じゃないから……よし、私が知ったからには、ガリガリなんてアイス以外認めないよ。ユリにはふくふくになってもらうから」
「えー……ふくふくって」
「えーじゃない。返事はイエッサー! それはともかく、ほら、お風呂入ろ」
湯船に向かい合い浸かる私達。ユリの顔が真っ赤だ。湯にのぼせた訳ではない。
私がクロやノエルにするみたいに、もしくはされるみたいに、デリケートゾーンに指を突っ込み、前後念入りにほじり洗いしてしまった為だ。ごめん、やりすぎた。だが後悔は微塵もない。余は満足じゃ。
「ねぇユリ……また逢えるとは思ってなかったから、すごく嬉しいよ」
「……うん」
「まぁ、お腹の子を出産して、二年後ぐらいに元の世界へ帰っちゃうけどね」
「え……お腹の子? ……二年後?」
「うん、あっちに家族もいるしね」
「き……桔梗、結婚したの?」
「正式な結婚はしてないけど、ハーレム作ったの」
「ハーレ……」
「ちなみに十三人。全員女の子のユリハーレム。旦那も女の子だよ。ドラゴンだけど」
「は…………」
「あとね、私って向こうの世界で魔王やってるの」
「ま…………」
「こう見えて六つの国を併合し、勇者もいっぱい従えた、今や超大国の魔王陛下だよ」
脳が処理限界を越えたらしく湯船へ沈みかけるユリを抱き上げ、そして抱きしめた。
「私……ずっとユリの気持ちを知ってた……だけど今なら……死を待つしかなかったあの頃と違って、今の私ならユリのすべてを受け止められるんだよ」
「でも、二年後に帰っちゃうんでしょ……」
「もちろん、ユリも連れていくわ。私と家族になって、私の家族達と一緒に暮らすのよ」
「桔梗のハーレムに……私も入るって事?」
おや、不服そうだ。無理もない、当然だと思う。ああ、可愛いなぁ。ユリってこんなに可愛かったのかと、思わず再認識した。本人の自己評価は凄く低いんだけれどね。
「ごめんね~私を独り占めさせられなくて~」
「誰もそんな事言ってない。桔梗のいじわる。そういうところ、全然変わってない!」
「えへへへ……で、どうする? OKならキスして。ん~っ」
「ぐぬぬぬぬ……」
眉間に深いしわを寄せながら、滅茶苦茶不服そうに睨んできたが、十秒も経たず私の唇に吸い付いてきたユリ。
お風呂から出るとベッドへ直行し、私達はいっぱいキスしながら眠った。
翌日、憑き物が落ちたかのような、晴れやかな表情でユリは仕事へ戻っていった。
ユリは公安の職員で、今は雪野家の護衛関連の仕事をしているそうだ。選ばれた理由は桔梗の同級生だから。自分の事をきれいに忘れ、結婚し幸せそうな桔梗を見るのは、とても心穏やかではなかったはずだ。
ユリには魔法の鞄にあちらの世界の丼ものやハンバーガーなんかと、昨日買ったお菓子をたくさん入れて持たせてあげた。あと魔力をたっぷり込めた美の加護と護身用のブレスレットもね。
「ねぇ、キキョウ。今、太田さんから電話着てるんだけど」
「ユリならさっき家を出たよ?」
「いや、なんかここの上空千キロに巨大な宇宙船らしき物体が浮いてるんだけど、心当たりないかって……」
「え……なにそれ」
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。(キキョウ)
やっと、やっと宇宙船という単語が出てきました。もう79話かよ!
舞台が地球へと変わったけど、時々ラヴィンティリスの子達のお話もあるのでお楽しみにね。さぁ、この先は怒涛の展開が待ってるよ! 皆さん、超面白かったら評価よろしくお願いします!
くっくっく、ハードル上げてやったわ。まさか、まったりと地球編したりしないよね?
「それは命を落としかねない、大変な目に遭いたいって事かな?(謎)」
うぐっ……どうせ物語は書き上がってるのでしょう? アスフィー、やれ。
「はい。誰であろうと逃がさぬよ。玉差し出せぇぇーっ!」
「てっ転移ーっ!!」
「くっ……お姉さま、逃げられました……あとちょっとだったのに」
うん、次会ったら、金玉が肥大化する呪いをかけてやるわ。
「スイカぐらい大きかったら、潰し甲斐がありそうですね!」




