第72話 武闘大会予戦後編
人類帝国で催されている武闘大会は、他の二大陸より圧倒的に参加者が多く、予戦会場も四か所に分かれていた。更に他の会場と違いバトルロイヤルで抜けられるのは一人だけ。その為、同じ会場で仲間同士が潰し合うのは避けたい。ヴァルバロッテ、シルヴィア、リリィメレル、ストロガーノ達四人は、別々の会場へ向う事となった。
「リリィ、一人で大丈夫?」
「大丈夫ですよ、シルヴィア姉さん。あーしにはイノゥバがいますから」
「じゃあ、お互い頑張ろう。イノゥバもね」
「はいっ」『がんばります』
人類帝国帝都第一会場。
「なっなんで……紅の勇者がこんな大会に出ているんだよ……」
「さすが勇者ランキング一位……すげぇ、攻撃はおろか動きさえ見えなかった……」
「おっぱいすげぇ……」
美しい所作で、キンと小気味のよい音を立て、納刀するヴァルバロッテ。
予戦開始の鐘が鳴り止むと、選手達がバタバタと倒れだし、開始三秒後には舞台に立っている者は、彼女以外誰もいなかった。
正に瞬殺である。
(殺してません、全員みねうちです)
彼らは運が良かった。戦場で相まみえればすべて肉片と化し、血の海に沈むのだ。
(交流試合で騎士に見立てた案山子の群れをバラバラにしたのが噂の発端です)
とある有名流派と同じで、彼女は一対多数の戦闘を得意としているそうだ。
(逆刃刀も頬に十字傷もないですよ)
あなたの流派を教えてください。
(師匠より強くなってしまい、名乗る事を禁じられたので内緒です……)
なんですか、その尻の穴の小さいヘッポコ師匠は。あ、そいつがあなたの求婚を断ったヘタレ野郎ですね?
(お前、もっぺん言ってみ。殺すぞ)
か弱いナレーションを脅さないでください。しんでしまいます。
人類帝国帝都第二会場。
シルヴィアを色に例えるなら、誰もが銀色を選ぶであろう。
実際、彼女は銀姫や白銀の勇者など、銀にまつわる二つ名を数多く持っている。
しかし、実は彼女、前世から黒が大好きだったりする。名は雪野真史郎だったが。
今、シルヴィアは特注の黒鎧を着込み、裏地が紫色の黒マントを羽織っている。
その名も暗黒龍の鎧である。龍の顔を模した盾と流麗な片手剣もセットだ。
実はこれ、こっそりドワーフの防具職人に発注し、二年の歳月を掛け完成させた、シルヴィア渾身の武具だ。少々中二病的なデザイン重視の鎧に見えるが、実はミスリルやアダマンタイトをふんだんに使っており、この品質と性能の鎧を持つ者は、世界的に見ても極限られた王族ぐらいであろうという逸品である。ちなみに費用は内緒だ。知られたら姉に呆れられる。
そんな美しく、超格好いい鎧の初お披露目がこの武闘大会であった。
「うふふふ……僕、格好いいだろう?」
舞台上、兜で表情は窺えないが、注目の的になっている暗黒龍の鎧に、猛烈に得意げなシルヴィア。そうしてるうちに予戦開始の鐘の音が鳴り、すぐ近くの男が斬りかかってきた。
シルヴィアは難なくそれを盾で受け流し(ガリリ)剣の峰で相手の脇腹を強打し撃退した。
「う・あ……」
シルヴィアが恐る恐る盾を見ると、美しい漆黒の塗装が削れ、地金が見えてるではないか。
彼女の対人戦の基本は、相手の攻撃を盾で受け流してからのカウンター狙いである。
うっかりいつもの感じで、自然に体が動いてしまったのだ。
おかげで、おろしたての美しい黒盾に傷が……傷がぁぁっ!
そして……ぷるぷる震えるシルヴィアが取った次の行動は、あまりにも大人げなかった。
「うわあああああん!!」
瞬時に勇者の攻撃スキル、トルネードランスチャージの衝撃波で対戦者達全員をふっ飛ばしたのだ。ふっ飛んだ者達は、観客席を隔てる壁に叩きつけられ、ピクピクしている。
まさに八つ当たりであった。
「ううう……修理したら、姉ぇちんに防御や修復の加護を付与してもらおう」
人類帝国帝都第三会場。
『ねぇマスター、本当に大丈夫? 震えてるよ』
『本当はめっちゃ怖い……でもやる。支援砲撃よろしく』
『うん、了解。大丈夫だよ』
リリィメレルの魔装は魔弓イノゥバだ。いくら強力無比な勇者と魔弓であっても、常人相手とはいえ狭い舞台上での混戦は厳しい。現在、会場は弓を持つ極上兎人美女の登場に大盛り上がりだ。幸い、勇者のような強者の気配はない。
「こんな美人見た事ねぇ」「乳も尻もたまんねぇ」「ここにいるって事は、何をされても文句言えねぇよなぁ」
下卑た男達の視線と物言いに耐えながら、リリィは深呼吸し、始まりの合図を待つ。そして開始の鐘の音が響くと、男達は欲望のままリリィを取り押さえようと殺到した。
毛むくじゃらの太い腕が、か細い腕を掴みかけた瞬間、リリィが二十メートルほど上空へ跳び上がった。
新体操の選手のように美しく宙で回転しながら弓を構え、くぅっと弦を引くと魔力の矢が複数現れる。それを直下の男達に向け躊躇なく放ち、光の雨を降らせた。
「「うぎゃああああああっ!!」」
十人程の男達が肩や背に光の矢を受け、激痛に悲鳴を上げながらのたうち回り、やがて動かなくなった。しかし悲痛な叫びは止まらない。
なんと、この魔力矢には、ペインとスタン(激痛と麻痺)の効果が付与されていたのだ。
しかも魔法防御力の高い防具でもない限り、鎧を透過し肉体に矢が届くのである。
トンと舞台に降り立ったリリィが、盾を構えた男達を狙い、的確に矢を突き立ててゆく。半数程まで減った男達が、魔法防御力のあるミスリルの盾を持つ者を中心に防御体制をとると、再び上空から矢の雨が降り注いだ。
今度のは実体の矢だ。今度のは物理的に防具を貫通する、かなり高威力の矢である。
「うぎぃぃっ! なんで上から矢がぁぁっ!」
シュパパッ、シュパパパパ……矢の雨を降らせていたのは、上空三百メートルの位置で舞台に艦首砲口を向けたゴーレム『トーラス』であった。こうなるともはや男達に防御の手段はなく、真上と側面からの攻撃を防ぎきれず、一方的に矢を浴びて崩れ落ちてゆくのである。
こうしてリリィメレルの予戦一試合目は難なく終了した。ちなみに大会の規定にゴーレムの使用制限はない。
「めっちゃ怖かった……」
『以前のように、素晴らしく動けていましたよ』
「ありがとう、イノゥバが居てくれるからだよ」
『まぁそうですよね。当然、私のおかげですよね』
「……少しぐらい謙遜しろ」
人類帝国帝都第四会場。
赤いマント~な~び~か~せて~進めストロガ~ノ、我らの勇者♪
私がれいでぃおで披露したアニソンの替え歌だが、いまや郷魔国の子供達に絶大な人気を誇る歌になっている。
歌詞の通りド派手な赤いマントをなびかせ、予戦会場でひと際目立つムキムキマッチョ。そう、勇者ストロガーノだ。
今、彼は自信に満ち溢れている。だが微塵も驕らない。
以前は魔装の見た目から山賊勇者、蛮族勇者などと揶揄されていたが、今の彼は外野に何を言われようが気にならない。
ずっと抱えていた劣等感も、もはや微塵もない。
超大国の魔王に気に入られ、夢の勇者契約を果たしたからだ。
そして今年は、世界会議という晴れ舞台で、護衛を務めさせてもらった。
なんという名誉であろうか。すべては美しき魔王陛下のおかげである。
「絶対似合うから」笑顔の魔王陛下に下賜された真っ赤なマント。
それを羽織る姿はとても雄々しく「スーちゃん素敵ぃっ!」ハーフリング族の奥様も大絶賛である。
やがて、赤マントは彼のトレードマークとなってゆく。
子供達にも大人気。勇者ストロガーノマントは、全国の桔梗屋で大好評販売中です。
「やたら派手な野郎がいやがるなぁ……蛮族? なんだ、蛮族の勇者じゃねぇか!」
予戦の舞台上で顔見知りに会った。名前は……覚えてないな。私の見た目を殊更蛮族だとバカにしていた男だ。確か勇者ランキングは……やはり覚えていない。
「よぉ、聞いたぜ。お前どうやって魔王の勇者になったんだ? なのに何でこの大会に出てんだよ。ああ、ひょっとして子作り迫って断られたのか?」
「……」
「図星か? 俺はこの大会で優勝して、あの女と勇者契約するからな。もちろん孕ませるぜ。そうなりゃお前はお払い箱さ。はははは」
相変わらずのクズだな。我が魔王陛下にこんなクズを近付けさせない為に、私はここにいるのだ。
さてと、予戦開始の鐘の音だ。さっさとブチのめしてしまおう。
人類帝国帝都第五会場。
ここは帝都からかなり離れた僻地。急きょ設けられた会場だが、告知していないので参加者は誰もいない。いや……どうやら一人いるようだ。
「はっはっはっ、これでホコリ一つ付く事なくスマートに本戦参加決定だ。待っていたまえ、キミを孕ませ夫になるのは、この私だ!」
人類帝国皇帝のヘンリーであった。
「うぉえぇぇ……」
「お姉さま、つわりですか?」
「うん……そうかも?」
その日の予戦が終ると、みんな一旦ゲートで帰宅した。
館に帰ると、キキョウからのねぎらいの言葉と豪華な夕食、そして反省会が待っていた。
「みんな今日はお疲れ様。とても素晴らしい、勇者らしい試合だったわ。まずはヴァルバロッテ。勇者のトップに君臨するに相応しい力を見せてくれたわ」
「恐れ入ります」
「リリィはもう大丈夫そうね。ジャガイモ共を相手に見事な射撃だったわ。イノゥバの援護射撃も的確で格好良かったよ」
「はい、もう大丈夫です」『明日もどんどん撃ちますよ』
「グリンレッテの鞭捌きを初めて見たけれど、まるでレッドスネークカモンって感じで、とっても凄かった!」
「……言葉の意味は分からないけど、とにかく凄く褒められてる事は伝わったわ」
「そしてストロガーノ。我が勇者に相応しい圧倒的な力。見事である」
「はっ、恐悦至極に存じます」
「ねぇお母さん。どうしてストロガーノさんの時だけ、言葉遣いが違うの?」
「大人の事情なのよ」
「なにそれ~…」
そして、ここからは反省会というか、苦言を少々。
「えーと、まずは……シルヴィアさん?」
「ひゃいっ!」
「…………いい歳して、大人げない」
「ごめんなさい!」
「次に……ノエル」
「はいです」
「やりすぎ。あと大会中のパンツは普通のになさい。あれは見た人の性癖を歪めます。私は大好物だけれど」
「です……」
「最後にアスフィー」
「はっはい!」
「……ほどほどにね」
「はい、ほどほどに潰します」
結局、予戦で勇者とかち合う事も多々あったが、それをすべて力でねじ伏せ、各会場で全員が本戦出場決定となった。
魔王連邦とジェハーク国の本戦は十六人。人類帝国が三十二人のトーナメント戦により優勝者が決定する。流石に本戦は出場者の半数近くが勇者だ。大半がランキングの低い食い詰め勇者だが、高ランカーも数名いるらしい。強欲な勇者の主人が賞金と魔王の貞操目当てで、参加させているようだ。
読んでくださり、ありがとうございます。(アリアンロッド)
私ぃ、全然出番が、なーいーっ!
雑種の国ハイビリアル都市国編はどうしたの?
現在の展開的に、もう日常編ぶっこむ余地ないよね?
私の回なのにぃ……家族紹介したり、世界最大のダンジョンで地下王国発見したりって展開あったよね? なんで書かないの?
え……物語の進行優先? そんな殺生な……
じゃあ私の登場回ってもう……がくり。




