第59話 また!世界会議
八月といえば、世界会議だ。
会議の一週間ほど前、人類帝国で政変があった。
皇帝セバスチャンを失脚させ、前皇帝ヘンリーが再び皇帝の座に就いたのだ。
そのやり方が汚い。魔王キキョウから賄賂を得て、民を裏切り国を売ったなどと騒ぎ立て、無理やり逮捕したのだ。そして自分は正義の人として、そのまま皇帝に返り咲いたという。
ちなみに賄賂とやらは、一年前にお土産として渡した品々である。
セバスチャンは、茶番同然の裁判で死刑を宣告されたので、彼の家族と共に保護し、現在はラビットピアで静かに暮らしてもらっている。
そう、私は残念な事に世界会議で、再びあの厚顔無恥のヘドロのような視線に耐えねばならないのだ。
今回はきちんとホテル予約をしたかったのだが、カリマー様の強い希望で、また同じホテルにお世話になる事となった。文官達は毎夜開催される大宴会に味を占めてたので大喜びだ。
実のところ、三十人の妃様方が私と美を語らいたいというのが目的だったりする。妃が一人増えてたので、仲間外れにならないよう美の加護の腕輪をプレゼントしたよ。
前回は初参加だったので魔王服で参加したが、今回は思いっきりお洒落をしてみた。白銀の軍服と軍帽のシルヴィアに倣い、ヴァルバロッテは鮮やかな赤の和風軍服。イノゥバは群青のヘソ出し軍服。そして煽情的な白のミニスカ軍服のノエル。その四人が黒いゴスロリ軍服の私を囲むように、大勢の記者達が待ち構える会場に颯爽と乗り込んだ。
どうよ、今回もみんな美しいだろう?
本当はクイントも連れてきたかったけど、彼女にはユキの護衛を頼んでいる。現在ユキは、キキョウ学園初等科の夏季講習に通っているのだ。一応変装はしているけれど、美しさが全然隠せず困っちゃうよねぇ。えっへへへ。
『お母さん。そういうの、親バカっていうんだよっ』
などと、ユキの事で脳内を満たし現実逃避しているうちに、会議場にどんどん各国代表が姿を見せた。何故か王や側近達がこちらをチラ見してくる。
むむむ、この既視感のある視線は……
「皆さん……赤い本読みました?」
この場にいる全ての男達が冷汗顔で、ことごとく視線を泳がせた……
今回も私の左右には、シルヴィアとノエルが同伴している。こと防御力に関しては、このペアがベストなのだ。
「これよりラヴィンティリス歴26446年、第9999回世界会議の開催を宣言する」
「議長、発言をよろしいでしょうか」
「人類帝国、皇帝ヘンリー君」
「いやはや参りましたよ。まさか我が国の新皇帝が、敵国から賄賂を受け取り売国奴と化していたのですから。せっかく退位し、静かに暮らすつもりが、郷魔国のおかげで、再び皇帝に戻る羽目になりましたよ。困った事をしてくれましたねぇ、キキョウ殿」
「人類帝国、新皇帝殿。あなたとは何を話しても無駄なので、話しかけないでもらえますかね」
「ははは、それは罪を認めたと言ってるのですね?」
「寝言はクソして寝てから言え」
「は……?」
「聞こえなかったのか? お前とは話す気は、金輪際ない」
「なっなんたる無礼なっ! それが一国の王の態度ですか!」
「一国の王? では、言わせてもらうけれど」
「ははは、お聞きしましょうか」
「一年前、あなたが諸国を恫喝し、我が国を貶める署名をさせたせいで、龍王の怒りを買った各国の王達は、命を捨てる覚悟で龍王様に謝罪しに郷魔国に来た。皆さん、国と民の為に覚悟を決めた、威厳に満ちた王の顔をしていたわ」
私は周囲をぐるりと見渡し、あの日の面々を称賛した。苦笑いしながら照れる王達。どうやら皆さん、引退せず頑張ってるようね。
「それなのにあなたは何なの。セバスチャン殿に責任を押し付け、真っ先に逃げたくせに、一国の王の態度って何よ。言ってみ?」
「ははは、私は諸国に恫喝などしていませんよ。全て彼らの意を汲み、汚れ役になった私が責められるのは、はなはだ遺憾ですね。それに私は逃げた訳ではありません。私を失うのは帝国の大損失だからと、セバスチャンの意思を尊重し退位したのですから」
周囲からの冷ややかな視線がもの凄いけど、この男、全然気付いてないみたいね。ある意味才能かしら。もう話すのやめたいわ。
隣でシルヴィアが必死に笑いを堪えてるのが伝わってくる。
「ああ、もういいです。聞くに堪えないわ。時間の無駄」
「ははは、どうやら私の正義が伝わったようでなによりです」
私はケルマディック海溝並みに、深いため息をついた。
「それより、あなたに問いたい。投獄中のセバスチャンを攫いましたね!」
「えぇーっ? 知りませんよ。脱獄したんですね。よかったわー(棒)」
「嘘を付かないでいただきたい! それに昨年、私の奴隷も攫いましたね!」
「は? あなたは証拠も無く他人を、しかも一国の魔王を疑うのですか?」
思わす、すごくいい笑顔で答えてしまったよ。自然と笑みが溢れてしまった。
「状況証拠だ! それにその顔っ! 間違いなくあなたがサラーラを攫ったんだろ! 返せっ、あれは私のだぁっ!!」
彼の言うサラーラとは、彼が溺愛し監禁していた兎人族の違法奴隷だ。私が彼女の意志を確認した上で保護したのだ。彼女の意思? そんなの言わずもがなでしょう。
「知りませんし、それって世界会議の場でする話題ですか?」
「ぐぬぬぬ……何度も郷魔国に抗議したが、全て無視したではないかっ! 他にも、ジョアンナも、ウルサも、リナリーテも、ロロレアも、マミーカも、トレメインも、アンラレッテも、ビオンナも、ジョアンナも、スターファも、パルタリテも、ソルニアも、ビリンも、ハナコも、ポッチーナも、ミケーコも、ウマミーナも、ウシヨさんも、お前が攫ったのだろうがっ!!」
会場の皆さん、超ドン引きである。特に女性達の視線の冷ややかなる事、氷山の如くである。
そう、実は昨年の晩秋に私がこっそり保護してやったのだ。ヘンリーに囲われていたのは、ことごとく違法奴隷だった。中には正当な奴隷も混じっていたが、あまりに不憫な様子だったし、皆が望んだので一緒に連れ出したのだ。現在はみんなラビットピアで静かに暮らしている。
「今、皇帝から名前の挙がった者達の大半が違法奴隷と闇奴隷でした。そして一般奴隷に関しても、奴隷法を大きく逸脱した環境にあると判断して保護しました。現在、全員私の保護下で暮らしています」
「それ見た事か! お前が犯人ではないかっ!!」
「国際奴隷法に違反してるのは、あなたですよ。ヘンリー皇帝」
「違うっ! 私が彼女達を保護していたんだっ!!」
「そうでしたか、さすが大国の皇帝ですね。ならば後の事は、私にお任せくださいね。同性の私が彼女達の傷付いた心をケアし、社会復帰させますから」
「ふぐうぅぅぅぅぅっ! ……うむ。あいわかった。任せよう、キキョウ殿」
カリマーは大笑いしたが、他の王達も笑いを堪えるのに必死のようだった。
抜け殻のようになった皇帝ヘンリーは、力なく退出してしまい、彼の席に色眼鏡の文官が何事も無かったように座った。
そんな苦笑の湖の中、議長に発言を求める者が現れた。
「レジナルド王国、ダライアス君」
「今の話から郷魔国魔王殿に確認したい、余のアルフィール姫を奪ったのは、そなたであろう。姫を返してもらいたい!」
「はて……なんの事かしら」
「とぼけるな!」
レジナルド王国とは、ゼハール王国でクーデターを起こした公爵が建国した国だ。
五か月ほど前、闇のオークションで保護した幼い王子達に懇願され、公爵と強制結婚直前の第一王女アルフィールを攫ったのは記憶に新しい。
今もラビットピアに住まう彼女達とは、仲良く交流している。
「先程の奴隷保護の件で確信した、犯人はそなた以外にいない!」
「よくわかったわね。犯人は私だ!」
「ならば、返していただこう。ついでに他の王子と王女もだ!」
「そうか、ならば戦争だ。そなたの国を奪い取り、アルフィールを女王に据えようぞ。会議後、三日もあれば十分だな」
「なっ……そう言えば怯むと思ったか、性悪女めっ!」
「あの子達はね、王族の身分を捨てて、小さな村でひっそり暮らしてるの。そっとしておいてくれるなら、金輪際あなたの国に関与しないわ。ああ、穀物など諸々の取引もこれまで通り継続するわよ?」
「ぐっ……その言葉に偽りはないな?」
「あなたが、あの子達に手を出そうと思わない限りはね。この場の王達に誓うわ」
「よかろう」
レジナルド王がドスンと椅子に座るのを見届け、私はそのまま話を続けた。
「では、折角ですので、郷魔国からいくつかの報告と提案があります。まず、翼人族の国スカイランドを滅ぼしました」
は?
「ハーガン王が私を妃にすると寝言をほざくので、ぶっとばしました。そして魔都ミモリを襲ったバルキリー騎士団一千騎をねじ伏せ拘束し、そのまま国土を併合しました。現在あの地は、先王ガーランド殿が代官をしてます。今後、観光地化する予定ですので、よろしくね」
ええええええっ!?
「まったく、あんなのが前世の私の息子だなんて……皆さんどう思います? 現在は選民思想に染まったお馬鹿達を更生中ですよ」
寝耳に水の王達が大半で、ものすごく驚いているのが伝わってくる。
スカイランドは鎖国状態で、どこの国とも交流がなかった事もあり、うちの同盟国以外は、ほとんど知らなかったようだ。
現在、代官の号令で新たなバルキリー騎士団を結成し訓練している。その名も“バルクリー騎士団”空飛ぶ筋肉騎士団だ。うん、もう好きにして。
「それと、小人族の国リトルパレスが、郷魔国内に国を移す事になりました」
「うむ。キキョウ殿には、大変世話になっておる。我がリトルパレスは、平和的に郷魔国へ併合された事を、ここに宣言する!」
「ちょっ! お姉さん、そんな話聞いてないんですけど?」
「国民の総意じゃ。我が種族の恩人である、そなたの民になる事を誰も反対しなかったのじゃから、併合決定じゃよ」
「えぇぇ~…」
ティタティト女王とは、家族付き合いする仲になり、そのさっぱりした性格や面倒見の良さから、私は彼女を姉認定し「お姉さん」と呼び慕っている。
先月、属国になると提案され却下したばかりなのに、今度はこんな公の場で併合宣言って……これ認めたら、二年で五ヵ国を併合したトンデモない侵略魔王になっちゃうでしょ。領土的野心は無いって公言してるのにぃ。
ただ翼人族達は、他国民を攫って奴隷にしていたので、かなり嫌われていたようだし、小人族に至っては、居ても居なくても、どうでもいいと思われてるので、他国からは特に反感を買う事は無かった。
まぁ世界最強と謳われたバルキリー騎士団を滅ぼしたという、我が国の凄まじい戦闘力を誇示してしまった形になったけど。
次の報告は、我が国の未開地の農地利用限定借地権だ。
なにせ今の郷魔国は、日本の本州に近い面積があり、その八割以上が平野だ。しかもその半分近くが手付かずなので、それを開墾する条件で貸し出そうという提案だ。一区画辺り千ヘクタール程で、小麦なら三千トン以上の収穫が見込まれる。これを五十区画用意した。
試算では、世界標準価格の半額程度で小麦が手に入る事になる。もちろん栽培する作物は、果樹や綿花でもいい。返還は自由、又貸し禁止、契約更新は百年おきだ。
既に我が国からの穀物輸入に頼る国々へ優先的に打診し、九割の区画が契約済みになっている。その大半が農地の乏しいティリアル大陸の国々だ。水晶でお世話になっているカベルカ王国をはじめ、昨年クロへ謝罪に来た十四ヵ国中、九ヵ国がこの大陸の国なのだ。
「あと数区画残っております。ちょうどブドウの生産に適した気候の土地もありますから、ワインの生産をしてみたい国がございましたら、相談に乗りますよ」
「のう、キキョウ。自国の利益を減らしてまでする事かのう。いささか人が良すぎではないかの?」
「ん~私、打算的で結構俗物ですよ?」
「ほう、どんな風に?」
「まず、我が国に領土的野心の無い事を喧伝できるでしょう? 穀物減産に関しては、元々畜産業にシフトする予定なので影響は限定的です。食肉の安定供給も重要ですから。そして何より味方の国が増えて恩も売れます。足元も見れるので桔梗屋も出店しやすくなるし、食料が安くなれば国民に余裕が生まれ、うちの商品も買ってくれるでしょう? 郷魔国の特産品や私の加護石とか……あと、姿見水晶とかね」
そう言った瞬間、多くの王達が反応した。ぬぅ?
「皆さんひょっとして、私の水着姿見た? 郷魔国内限定販売なのに」
うーわ、みんな視線が泳ぎまくりだわ。
「カリマー様、どの水着が良かったです? 今後の水着のデザインに反映させたいので、皆様のご感想を伺いたいですわ」
「黒くて布面積の際どいのが、はち切れそうで良かったのう!」
「余は、あの縞模様が世界的大発明だと感じましたぞ」
「わしもじゃよ、この世の中心でボーダーと叫びたい気分になったわい」
「吾輩、水着の紐の部分がは……たまらんかった! だって紐なんだもの!」
「パレオの奥にチラつく布地の、なんと魅惑的な事か!」
「わしは、濡れて肌に張り付き、透けそうな……はっ!」
うっかり者世界大会は、女性陣の冷ややかな視線に気付く事で閉幕した。
「はっはっはっ、なら話は早いですねぇ。郷魔国アンテナショップ桔梗屋を皆さんの国に置いてくださいね。新作もすぐ購入出来るようにして、国民も共犯者にしましょう。もし一国の王ともあろう者が、私のエッチな姿を取り寄せて、こっそり楽しんでいたなんて王妃様や国民に知られたらねぇ。ん? なぁに、損はさせませんから、ふふふふ……」
あのような痴女同然の姿を民に売り出す。なんて破廉恥な小娘だと侮っていた。まさか各国の為政者に向けた巧妙な罠だったとは……水着の女魔王こえぇぇぇ。
――などと思われたようだが、全然そんな事ないし。水着も姿見写真集も趣味で、国民への娯楽の提供とファッションの提案だし。
あと、水着の女魔王ってゆーな。
ちなみに先月発売されたヒマリの三作目は、よりによって「水着の女魔王-愛のバカンス編-」だったりする。
読んでくれて、ありがとう。(某国の王)
我が王家の優秀な隠密が郷魔国から、とんでもない物を持ち帰りおった。
かの絶世の美女、魔王キキョウのあられもない姿の姿見写真集であった。
水着……これが水着だというのか! この布の少なさ、これでは下着ではないかぁぁぁっ! なんだこの魅惑の縞模様は! これなど下乳がはみ出ておるうううっ! うおおおおおっ、大事な部分を隠す小さな布切れ以外、全部ヒモではないかぁぁぁっ!
わしは一人きりになれる隠し部屋で、彼女の姿見を上から下から、けしからん隙間を覗き込み、もんどりうって、歓喜の叫びをあげまくるのであった。
それが各国の為政者に向けた、深慮遠謀なる魔王の罠であるとも知らず……




