第58話 ユキ姫
昨日の奇行に汗顔の至りの私。
『自分は母親失格だから』
「……そう言って、前世のあなたは、母として振舞う事を強く自制していたのですよ。それはもう痛々しい程に」
「それをユキのおかげで思い出して、ため込んでいた母性が爆発しちゃったのね……」
「なるほど。また姉ぇちんが変なプレイ始めたのかと思ったよ」
「プレイゆーな」
「それで、ユキはどうするのです?」
「もちろん、娘にしたいのだけれど……クロちゃん」
「それは構いませんよ。問題はユキの方でしょう。魔王の娘、もしくは姫になる覚悟があるかという事です」
「ああ……そこまで思い至ってなかったわ」
そう、大国の姫君になるのだから、高度な教養や礼儀作法も求められるし。
それにあの容姿だ。成長したらどれ程美しくなる事やら。
きっと求婚も激しい事になるだろう。
もちろん身分を隠し、このままここで幸せに暮らす事もできるはず。
むしろそれがベストだと思う。しかし、まだ幼いがユキの意志を尊重したい。
「ユキ、大切なお話があります」
「はい」
「私は、ユキを娘にしたいと思います。ユキは私の娘になってくれますか?」
「はい。ユキは、お姉さんの娘になってお母さんと呼びたいです」
「ありがとう。とっても嬉しいわ、ユキ」
「はい、お母さん」
私は優しく、ユキを抱きしめた。
「それでね、ユキには二つの道があるの」
「道?」
「郷魔国のお姫様になる道と、お姫様にならない道よ」
「お姫様……それは綺麗なドレスを着て、美味しい物を食べて、いっぱいお買い物して、素敵な王子様とウヘヘってするお姫様ですか?」
「「ぶふうっ!」」
大切なお話なので、家族全員が集まってたのだけど、全員がそろって茶を噴いた。
クロとネロまで噴いた。
「ちょ……ユキ、それってどこ情報?」
「同じ孤児院の子が、いつもそんな事を言ってたので……ウヘヘって」
「よし、ウヘヘは忘れようか」
「キキョウ様、私が説明します」
「え、うん。じゃあクロちゃんお願い」
クロに交代すると、周囲の空気がピシリと緊張した。
「ユキ。郷魔国の姫になるという事は、世界中から注目される事になります。その時、あなたが教養も礼儀作法も身に着けていないと、恥をかくのは誰ですか?」
「私……いえ、お母さんです」
「そうです。あなたのせいで魔王キキョウ様と郷魔国が世界中の笑い者になるのです」
「はい……」
「この国の姫になるなら、その覚悟をもって、大いに努力せねばなりません。それでも姫になりたいですか?」
その言い方だと、姫になりたがってるユキを諦めさせたいみたいよ。
それとも初めから、姫になる事を諦めさせる気だろうか。
だが、ユキの答えは――
「お姫様になります!」
「だ、そうですよ」
「おおぅ。ねぇユキ、無理に姫にならなくても、ここでお母さんと今のまま暮らせるのよ? それでも姫になりたい?」
「お姫様になれば、お母さんのお仕事を手伝えますし、お仕事中も一緒にいられるから」
「そこまで考えてるのね……わかった。ユキの歳ならまだ時間はたっぷりあるしね。そういえばユキって何歳なの?」
「十一歳です」
私を含め、皆がそろって素っ頓狂な声を上げた。
てっきり六~七歳だと思っていたよ。
小さいのにしっかりと話す子だなぁと関心してたら、そういう事か。
どうやら孤児院での栄養事情は、とても悪かったらしい。
「私、目が見えなかったので、食べ物を他の子に取られちゃって……仲のいい子に助けてもらいながら暮らしてました」
「そっか……これからは、お姫様になるんだから、いっぱい食べなさいね」
「はいっ」
こうして、ユキの姫化計画が開始された。まずその体を年齢相応のサイズにしてあげたい。そこで加護を使用した。成長と最適化の加護だ。数か月ほどで、歳相応の体格になるだろう。
他にもユキの身体的な問題が発覚した。紫外線に当たると肌が酷い火傷を起こすという病だ。盲目もこれが原因なのだろうと思われる。この病、なぜかダンジョン内の光では発症しないので、城下に出るまで気付けなかったのだ。
だが病気であるならば、ユキは既に魔国民なので、健康の加護で護られるはず。
なのになぜ発症するのだろうか。しらふじの解析によると、どうやら紫外線アレルギーが病気でなく、火傷として認識されるらしい。
治癒の加護を持たせると、すぅっと赤みが消えてゆく。
しかし防御する訳ではないので、一時的だが外に出るたびに火傷を負う事になるのだ。
まったく……『どんな凹みも板金が銀貨七枚で済む板金王の加護』とか意味不明なのはあるのに、なんで絶対にありそうな『日焼け止めの加護』が無いのかマジで解せない。美の加護用に日焼け対策の検討してたので、無いのは確認済みだ
だが諦められない。そこで代用できる加護がないか改めてリストを調べると『菫外線防御の加護』というのが目に留まった。
多分これだ。菫外線とは紫外線の古い呼び方らしい。
早速、ブルースピネルのペンダントに付与し、ユキに装備させた。
治癒の加護を外し様子を見たが、肌が赤くならないので問題なさそうだ。
これは予備も用意しておかないとね。
六月になった。
あれからユキの体は、どんどん成長し、三か月ほどでアスフィーの背丈を超えた。
成長痛も落ち着いたようなので、成長と最適化の加護を外す。
急激な成長に戸惑いながらも、ユキは喜びを感じているように見える。
正直なところ、もっと小さいユキのままでいて欲しい気持ちもあったけれど、子供はペットじゃないものね。
それにしても、十一歳なのに結構胸が大きい。私もこんな感じだったと記憶してるけど。それと、元々整った顔付きだったが、驚く程の美人さんになった。
将来がとても楽しみだわ。ちなみに水晶星を使って、バシバシ記録している。
まるで私達を撮影しまくってたお父さんみたいだと、シルヴィアに笑われた。
それは仕方ない。娘は父親に似るというし。
さて、ユキがここに来て以来、夜はユキと一緒に寝ている。
ハーレムメンバーは、口にも顔にも出さないが、みんな不満に思っているかもしれない。
はたから見れば、そう思われてもやむ無しであろう。
「お母さん、今朝はノエルちゃんの匂いがする。昨日の朝は、アリアンさんの匂いがしてた」
「マジか」「マジだよー」
くんくん……私、そんなに臭い……いや、ユキの嗅覚が鋭いのか。
まぁそういう訳で、私はマメなのである。恋人達との関係は大変良好だ。
ユキの教育だが、読み書き計算などの基礎を学ぶ他に、お姫様教育も始まった。
幸いな事に我が家には、お姫様二人と元お姫様が一人、元王妃、そして子爵令嬢と元伯爵令嬢が揃っているのだ。ちょ……元お姫様のベルテと元伯爵令嬢ロレッタ以外、逃げ腰及び腰なのはどーゆう事? おい、元王妃様のシルヴィア様逃げんな。
近況報告をしておく。
忘れてしまったかもしれないけれど、ヒマリを狙ったスパイ達を捕え、封印内に閉じ込めていた件の続報を伝えておく。結果から言うと、全員が人族至上主義者をやめて、外に出る選択をしてくれた。
その間、食事の他に書物を差し入れたり、ドワーフの職人による簡単なアクセサリー製作体験や、美術品の鑑賞会をしたり、私の姿見撮影会を開いたり、キキョウれいでぃおの公開放送した。そして、食事を含めそれら全て亜人が関わっており、人族と何ら変わらないのだと伝え、じっくりと懐柔したのだ。
封印の外に出た彼らは、この国の料理の美味さに惚れ、料理を学んだり、ドワーフに弟子入りしたり、新たな世界が広がったようで何よりである。
だが、スパイは減らず定期的に捕獲している。
なんかもう懐柔するのも面倒になって、翼人のガーランドに丸投げした。
彼の筋肉ブートキャンプで更生してもらおう。
最初のスパイ達と比べ、随分ぞんざいな扱いになったが、運がなかったと諦めてほしい。
スカイランド領の方は、ガーランドの手腕で順調に選民層が教育されているそうだ。主に筋肉と拳で……
おかげで、特権階級だった翼人達も身の回りの事は、自分で出来るようになったし、興味のある事を見つけ、料理を始めたり、木工細工や陶芸を始めるなど、少しずつ自立に向け動き出しているらしい。
そんな前向きな者達への支援予算を通した。例えば陶芸家の講師を呼んだり、ろくろや陶芸窯などの必要な道具が支給されるのだ。
だが、あの王や王子は相変わらず、どうしようもないらしい。
チャビールの王族のようにやる気を出せさてあげようかな。
リトルパレスの移住計画の進行状況について。
都市の設計が終わると、その図面通りにダンジョン機能で平原を整地し、道や橋、川や池を配置した。
そして設計図の完成した住宅を生み出し、技術職の先行移民者達に都市開発の手伝いをしてもらっている。小人族の家は集合住宅型が中心で、様々な形状の住宅が設計された。最も数の多いのがベランダの広い段々畑のようなリゾートマンションタイプだ。並ぶとモダンでとても美しい景観を生み出す。
すべて一戸建てでも充分な広さの土地を用意したのだが、彼らは小さいゆえに群れる習性が強く、大勢で住む方が安心なのだという。
その住宅だが、五階建てマンションタイプでも、高さは三メートルに満たないので、資源もとても少なく済んでいる。私の要望通り、ガラス窓もふんだんに採用してもらった。彼らはガラスを自由に使える事に歓喜し、総ガラス張りのマンションも数棟建てられていた。プライバシーどうすんのよ……
この新リトルパレスが完成すれば、世界で最もモダンな都市国家となるだろう。
さて、本来真っ先に築城する予定だった、国のシンボルとなる王城がまだ無い。
現在、都市の真ん中に、ぽっかりと空き地がある状態だ。
私が何気なく、三角形を組み合わせたドームハウスの存在を伝えると、それを採用したお城にするぞと、完成したばかりの設計図を破棄してしまったのだ。ネズミーランドのツンデレラ城のようで、とても素敵だったのに。私としては、コミュニティセンターのような施設用にどうかと、提案したのだけれどね。
都市が完成し、すべての移住が終了するのは秋頃を予定してる。
七月。七月と言えばアリゲー祭だろう。今年も盛大に開催された。
誰よりもこの祭を心待ちにし、並々ならぬ気迫で挑んだのは、しらふじだった。
昨年のゴーレムによるアリゲー釣りのリベンジをするらしい。
白鬼弐式の各部モーターの強化とトルク配分をアリゲー釣りの為に変更したそうで、なんだか腕と脚が少し太くなってる気がする。更に強化した飛行ユニットまで装着して、万全の態勢で望むのであった。
結果、見事大型アリゲーを釣り上げる事に成功した。よかったねぇ。
七月。七月と言えば夏だ。夏と言えば水着でしょう?
今月の姿見写真集は、水着だ! ちなみに来月も水着だ!
最初、臣下達は反対したが「じゃーん」私が水着姿を見せると、どよめきの後、前屈みになりながら押し黙った。
水着姿での御前会議は、ちょっとシュールだったが、男性陣的には凄まじい衝撃だったようだ。その後、こっそり購入してくれたようである。
城内とダンジョン街にもデータの販売所を設けておいたので、城下の桔梗屋に行かずとも購入可能だ。
水着の姿見は、他の月に発売したものと販売数は大差なかった。
姿見水晶の購入者の大半が、毎月写真集を購入してるので、水着だから売れたのかは。まだ判断できないなぁと思ってたら、水晶本体が一気に売れ始めたのだ。
なるほど、個人でこっそり楽しむ用に買ったのかな?
ちなみに、キキョウのお宿での布教活動も功を奏し、水着姿の女性も増えてるようで安心した。
私は軽い気持ちで水着姿の姿見を発売したが、この衝撃は全世界(特に男性)を揺るがす事になっていたようだ。
姿見水晶発売から半年、一部の同盟国でも販売を始めたが、さすがに水着姿は時期尚早と考え、販売を見送っていた。しかし、うわさを聞き付けた者達が我が国で購入し、それを持ち帰り見世物にする商売を始めたという。
「見ヌキ屋さん、だそうですよ」
「ぐはぁっ!」
私、どうやら世界規模でオ●ペットにされてるようだ。
これについて、元弟であるシルヴィアに意見を聞いてみた。
「姉ぇちんに口や手でしてもらってた事のある僕は勝ち組だね」
「そうだった!」
「キキョウ様に種付け出来る私こそが、真の勝者です」
「張り合うな!」
姿見水晶の水着写真集が男性陣のおかずにされた事を知った数日後……
「誠に申し訳ございません!」
魔道具ギルドマスターと幹部三人が、魔王の間で総土下座していた。
此度の失態を全員死んで償うというのだ。
「え……何やらかしたの?」
顔面蒼白で震えながら、技術主任が販売中の姿見水晶を起動させ、デフォルトで入ってる私のドレス姿を映し出した。そして親指と人差し指でOKサインを作り、スカート部分に触れると……指で円を作った部分のスカート生地が消え、下着が丸見えになった。
「なっ……」
私も魔法珠から水晶を取り出して、同様にしてみると、確かにスカートの中身が丸見えである。最近、魔道具師がこのドレス画像データだけが他より大きい事に気付き、発覚したそうだ。
既にこれが二百五十万個以上売れて、世に出回っている。
「成程、それで死を覚悟した土下座なのね」
「これは……関わった者の一族郎党、公開処刑でも生ぬるいでしょう」
クロの冷ややかな言葉に、彼らは凍り付いた。
「あっはははは、いいんじゃない? 透けてたり、マ●毛でもはみ出てたらヤバかったけれど。うん、問題なさそうだわ」
「キキョウ様、言い方!」
「世界規模で魔王がパンモロ画像販売してたとか、これ歴史に残るよね。まぁ水着だって人によっては下着にしか見えないだろうし、この秋に大企画でやらかすから、こんなの販売促進用のオマケだと思えばいいわよ。はい、解散」
ポカーンとする魔道具ギルドの面々と、苦笑する臣下達。
「ところで……これに気付いてた男共、挙手なさい」
いつも読んでくださり、ありがとうございます。(キキョウ)
ああ、ユキ可愛いっ!かわゆすっ!
「姉ぇちん……まさかと思うけど、光源氏計画とか考えてないよね?」
えっ………………………………………考えてないよぉ。
「なにその間は……」




