第56話 お母さん
今回、闇のオークションで保護した者達は以下の通り。
人族十二人、兎人族三人、小人族二人、黒豹族一人、袋猫族一人、猫人族三人、犬人族二人、エルフ族三人、鼠人族一人、竜人族一人、蟲人族一人、魔族二人、合計三十二人。先に売られた兎人一人が間もなく合流するので、それも含む人数だ。
内訳は、自らの意志で参加した者が三人。誘拐が十九人。闇奴隷が六人、残り四人は家族に売られた者達だ。ちなみに竜人族とはリザードマンの事だ。獣人同様、人に近い姿の者もいるようだが、今回保護したのは、トカゲ寄りの男性だ。
まずロレッタのように、自分の意志でオークションに参加した残りの二人には、相応の金貨を渡した。
私が彼らの覚悟に水を差した形になったからだ。もし行き場が無いなら、郷魔国に住む場所を用意すると伝えた。
次に、誘拐された者達。当然ながら故郷や実家に帰っていただくが、帰る場所が無い場合、我が国の民になってもらい、生活が安定するまでサポートする事を約束した。
この中で最も珍しい種族が蟲人族だろう。見た目も独特で、薄緑の肌に鮮やかな青く大きな複眼の瞳が特徴的なトンボっぽい青年だ。大昔は魔物として狩られた事もあったが、現在は龍王リヴァイアサンの庇護下にあるという。保護した蟲人族は、クロが責任をもって国に帰すそうだ。どこぞの小人姫と同じで、世界が見たくて、島から抜け出したという。
次に闇奴隷。彼らは借金で奴隷になったごく一般的な奴隷だが、死亡扱いにされ闇に葬られる所だったのだ。早速、それぞれの国に働きかけ死亡届を撤回させ、彼ら納得の上で開拓地に送った。うちはお給金が良いので奴隷からの解放も早いはずだ。それに毎日、仕事が終わると自由にお酒も飲めるしね。
最後に、家族に売られたらしい子供三人と大人一人。
闇のオークションに売られるのだから、貧困で子を手放したような真っ当な理由ではない。まず三人の子供達は、クーデターで国を奪った公爵に売られた、ゼハール国王の王子と王女姉妹だった。
昨年夏、謝罪に来た王の一人なので、彼とは面識がある。あの人亡くなったのか……顔見知りが亡くなるのは、やはり寂しい。
「じゃあ自己紹介をしてもらえるかな?」
「はい、魔王様。僕はゼハール王国第一王子クリストフ。六歳です」
「第二王女クリスティアナです。八歳です」
「だっだいさんおうじょのクラリッサ……五さいです」
「うん、ありがとう。みんな良い子達ね」
あれ、第一王女が居ない。もう嫁いでるのだろうか。
さて、私が闇のオークションの商品を根こそぎ奪い取ったのは、周知の事実。
当然、この子達が私の保護下にある事を国元も知るだろう。
その時、国を奪った公爵は、どんな選択肢を選ぶのだろうか。
例えば、王子達の返還を求めるか。無視を決め込むか。
私が王子を旗頭に国の奪還と称して、侵略に来ると考える可能性もあるだろう。
敵対を選ぶなら、こちらも相応の態度で挑むけれど……
では、私はどうするか。
「クロちゃん、いつもの如く質問するけど、どうしたら良いと思う?」
「キキョウ様の思うままにどうぞ」
「うん、そうする。ところで、ゼハール王国の情報って……」
「はい、ございますよ」
王子達に今後の事を伝えようとすると、先を越された。
「魔王様っ! 姉上を救っていただけないでしょうか!」
「無理なお願いしてる事は、承知しております!」
「おねぇさまをたすけてください!」
「うん、いいよ~」
私の即答に王子達が目を丸くした。ふふ、とても可愛い。
早速、しらふじにこの子達の姉の所在を調べてもらい、ゲートを使い救い出した。
王国を乗っ取った公爵は、第一王女アルフィールを娶る事で、国王派を黙らせるつもりだったようだ。幼い弟妹を人質に結婚を承諾させたくせに、闇のオークションに売るとは、度し難いクズのようだ。クロの情報からも、公爵は浅慮で稚拙。国を奪っても権勢は長くは続かないだろう
アルフィール姫にこれからどうしたいか訊ねると、王族の地位を捨て、どこか静かな村で弟達とひっそりと暮らしたいと言う。
そう考えるのも仕方ない。家族付き合いしていた公爵に裏切られ、彼女は目の前で両親を殺害されたのだ。もし立ち上がるにしても時間が必要だろう。
そんな彼女達には、この世で最も安全なラビットピアで暮らす事を提案した。
村人も彼女達の境遇に同情し、大切な村の仲間として受け入れてくれた。
そして、家族に売られた四人のうち、唯一の大人はというと……引きこもりが追い出されたようで、完全な穀潰しらしい。
正直、すごく扱いに困った。こんな極潰しを開拓地に送っても、現場の足を引っ張ってしまうだろう。
「わっちが良い場所を紹介するですよ」
「へぇ、ノエルが?」
ノエルに引きずられ、穀潰しヒキニートがブヒブヒ鳴きながら連行されたのは、ラビットピアだった。
「トントロー、このブヒ人間を屋台で鍛えて欲しいです」
「うおっ、なんか既視感がスゴいんだな。とても他人に思えないんだな」
「えっえっボクちん、どうなるんでし?」
「彼は上位龍トントロー。彼を師と仰ぎ精進するですよ。使い物にならない時は、食っていいです」
「わかったんだな」
「ぶひいいいっ!」
トントローさん、すごくいい人だなーなどと思いながら、素朴な疑問を口にした。
「ねぇ……なんであれが闇のオークションの商品なのかなぁ。需要あるの?」
「あれでも王選に敗れた某国公爵家の長子ですよ」
「マジか。そりゃ敗れるわ」
二日後の昼、リトルパレスの女王一家と臣下達の家族、総勢百人ほどがキキョウの館をゲートで訪れた。
まるでぬいぐるみの様なファニー型獣人族の宰相、タスマニアンが一人異彩を放ってる一行だ。
「こんのアホちんがーっ!」
「ごめんなさいーいっ!!」
激しく叱責するも、ティタティト女王は、愛おしそうにプリセアナ王女を抱きしめた。
その後、湖畔に用意したパーティ会場で、リトルパレス御一行を大いに歓待した。
キキョウの館定番の焼肉パーティである。闇のオークション被害者達も一緒のパーティなので、結構な人数である。
肉もお酒も種類が多く、食べ比べ、飲み比べが出来て、みんな大いに楽しんでもらえたようだ。しかも小人だから、百人居ても食べる量はちょっぴり。私達のひとくち、ふたくち分の量でお腹いっぱいだろう。
食後のデザートは、小人族から見ればベッドのように大きなデコレーションケーキである。ケーキを囲んで、キャッキャと大はしゃぎする身長十センチほどの子供達。
まるで妖精のようで、めっちゃかわええ~っ!
あ、しまった……この後、重要なお話があったのに、小人族の大臣達がみんな酔っ払いになってしまった。
お昼からお酒を出すんじゃなかったわ。うちのお酒は美味しいからねぇ。
あらら、ベッドだと勘違いしてケーキにダイブした酔っ払いが、子供達をブチ切れさせているわ。
大丈夫。まだまだあるし、チーズケーキやこの世界では貴重なチョコレートケーキもあるよ。
私の隣でケーキを少しずつ削り、ちょっぴり口に運ぶたびに目を輝かすユキ。可愛いなぁ。でもその隣で、ちびちびと酒を呑み、同じように目を輝かす小人のおっさんがいる……
パーティは、ちょっとした騒ぎもあったがつつがなく終了した。
「キキョウ殿、昨日は申し訳なかったのじゃ。皆があんなに泥酔するとはのう」
「ふふふ、我が国のお酒を気に入っていただけて何よりです。お土産に沢山お持ちくださいね」
「それはありがたい。それで、かなり重要な話との事じゃが……」
女王達を連れ向かったのは、館のずっと南部にある豊かな森に囲まれた平原だ。
森のそばにちょこんと突き出た洞窟の入り口が見える。奥へ進むと、大きく開けたドーム状の空間が広がった。
「こっこれは……コケサンゴではないか。こんな広大な群生を見るのは初めてじゃ」
「はい、以前サンプルとしていただいた苗をダンジョンで解析して、コケサンゴに最適の環境を作ったんですよ。そしたら、半年で御覧の通りです」
「「おおおおおっ!」」
早速試食してもらったが、とても素晴らしい品質のようで、女王のほっとした表情が印象的だった。
なぜこの実を必要としているか、小人族だけの極秘事項を女王が語ってくれた。
なんと小人族の妊婦は、コケサンゴの実を摂取しないと、お腹の子が小人族のサイズを保てず巨大化し、母子共々死に至るというのだ。
つまりこれが無いと、小人族は子孫を増やせず絶滅してしまうのだという。
「これを我が国に輸入してもらえるのかえ、キキョウ殿」
「あの、それなんですが……」
「ダメなのかえ?」
「勝手にリトルパレスの国土を調べさせてもらったのですけど、決して広くない洞窟に四万人もの民が隠れ住むように暮らしてますよね」
「うむ……野蛮な人族に見つかれば、わらわ達は、一方的に狩られるじゃろう」
「そこで提案なのですが、この地に引っ越しませんか? 国民全員で」
「ほ……本気で……言ってるのかえ?」
「本気ですよ。外の平原に都市を築きましょう。ここはダンジョン空間ですから、外敵に怯えず、明るい空の下で安心して暮らせますよ」
「そ……そんな……夢のような事が……」
「ダンジョンマスターは、龍王リヴァイアサン様ですから、世界一安全な場所ですしね。絶滅寸前だった兎人族も、湖の対岸に住んでますよ」
「キキョウ殿……そなたは、我ら矮小な小人族に何を望むのじゃ?」
「決まってます。繁栄です」
「そなた、女神か!」
「いえ、俗物です!」
「よろしくお願いする!」
「よろこんで!」
◇とある識者の小人族という種族の考察◇
小人族は身長が人族の六分の一程度の種族だ。
この世界の住人は、他種族間で子が成せるが、なんと小人族との間でも子が成せるのである。(どんな体格差カップルだよ)
父が小人族の場合、子供は必ず母親の種族となる。
逆に母が小人族の場合も必ず小人族になるのだが、この時、コケサンゴの実を摂取しないと、胎児が通常の人族サイズに育ってしまい、母子共々死亡する。
そして……これと同様の事が、小人族同士の胎児にも起こるのだ。
そこで私は、元々小人族という種族はおらず、彼らは小型化した人族ではないかという仮説を立てた。例えば、限られた環境と資源で多くの民を養うために、人族を何らかの手段を用いて小型化したというものだ。
もし小人族が種として確立した種族であるなら、生まれてくる子も問題なく小人族のはずだ。だがそうならないのは、無理に小人化した弊害だと考えられる。
そこで重要になるのが、コケサンゴの存在だ。
恐らく小人化に必要な、なんらかの成分や因子がこの植物にあるのだろう。
コケサンゴを我ら人族が摂取しても、小人化する事がないのは確認済みだ。
しかし人族の妊婦が摂取したらどうなるのであろうか。
残念ながら、その報告はない……ドキドキ。
なので助手よ! 私と子作りして人体実験キボンヌ!
「ふべっ、ぶほっ、ほごおおおっ!」(超美人助手の三連コンボ炸裂)
小人族の国リトルパレスの大移民計画が立ち上がった。
やる事自体は、ラビットピアを大規模化させた感じだろうか。
城や街造りは専門家と当事者達に任せたので、納得ゆくまで検討して欲しい。
あまり口出しするつもりはないが、私は二つの提案をした。
小人族はガラスがすごく好きらしいので、一つ目はガラスを望むだけ自由に使用していい事。住宅に好きなだけ窓ガラスを使っていいし、お城なんて総ガラス張りでもよい。
もう一つは、人族が歩ける道をいくつか通す事。人族の労働力も使えるし、何より私が小人の街を歩きたいので。
どうも最近、ユキの様子がおかしい。
突然メイドのまねをしたり、ヒヨコのようにくっ付いて離れなかったりするのだ。
一緒に保護されていた子達が帰国したり、移住したりで周囲が寂しくなったせいかと思ったが、どうも違う。
ガゼボにお茶を用意してもらい、そこにノエルがユキを連れてきた。
元気のないユキを隣に座らせ、お菓子を勧めた。今日はシュークリームだ。
「ユキちゃん、何か不安があるのなら教えてちょうだい」
「……」
か細い声で、まるで何かを恐れるように、ユキは胸の内を話してくれた。
「…………あの、私はいつ孤児院に帰されるんでしょうか」
「え」
予想外の答えに、正直驚いた。ユキを孤児院に戻す気など微塵もない。
もう私はこの子が可愛くて仕方ないのだ。手放すなんてとんでもない。
この子は、私が落札した私の子だ。お金払ってないけど。
「帰りたいの?」
ぷるぷると強く否定するユキの姿に、心から安堵した。
「きちんと伝えなかった私のせいだわ。ごめんね、不安にさせて。私はユキと一緒にここで暮らしたいの。あなたを手放す気は全くないのよ」
「こ……ここに居ていいんですか? お姉ちゃんと、ずっと一緒に暮らしていいんですか?」
「うん、ずっと一緒よ」
先程まで曇天のようだった表情が、まるで大輪の花が咲いたかのような笑顔に変わった。
だが、なんだろう。どうも胸の辺りがしっくりこない。
この感覚はなんだろうか……
「ねぇ、ためしに私の事をママって呼んでみてくれる?」
「はい……ママ?」
「ん~じゃあ、お母さんって呼んでみて」
「お母さん」
「………………」
「キキョウ様?」
「あるじ様?」
「お母さん、どうしたの?」
突然震えだした私の尋常じゃない様子に、心配し、顔を覗き込むユキをむぎゅっと抱きしめた。
お母さんと呼ばれた途端、胸の奥がどんどん暖かくなって、じんわりと心も体も満たしてゆく。
なんだろう、この感覚。これって、もしや母性というものでは……
前世で大勢の子を出産しておきながら……子育てをせず、父方に丸投げした私に母性?
封印を護る為、新たな魔王を得る為に、利用する為に子を産んだ、親を名乗るのもおこがましい私に母性?
前世の事とはいえ、そんな母親失格な私がこの子を愛おしくてたまらないなんて……
こんな姿を、前世の私を知るヴァルバロッテが見たらどう思うだろうか。
そんな事を考えていると、ヴァルバロッテとシルヴィアが現れた。
「陛下、どうしたんです? ユキが潰れますよ?」
「私……母親失格だけれど、お母さんって呼んで」
「は、何言ってるんですか」
「お母さんって呼んで!」
「おっお母さん?」
「うわああああん、ごめんねぇ~っ!」
「ムギュ」
「だから、ユキが潰れてしまいますって」
ユキを挟むようにヴァルバロッテに抱き着きながら、ひんひん泣いた。
今の私、どうやら母性が暴走して、感情がうまく制御出来ないでいるみたい。
前世の行いが関係してるのだろうか。
「ほ~ら、ロッテちゃん。お母さんのおっぱいでちゅよ~」
「何これ……どゆ事?」
「ヴァル。親孝行だと思って、おっぱい吸ってあげなさい」
「えぇぇ……」
その日の私は、ずっとユキを抱っこし離さず、ヴァルバロッテにべったり密着して過ごし、一緒に寝た。
そして翌日、お父さん譲りの土下座を披露するのであった。
読んでくださり、ありがとうございます。(ヴァルバロッテ)
ちょっと私の事をお話しましょう。母が郷魔国初代魔王になり30年後、私と双子の妹のグリンレッテが生まれました。その後すぐ、父親の国であるエルフェイム王国で王女として育てられました。エルフ族の成長は遅く、成人は三百~四百歳。私はわずか百歳(エルフの五歳)で勇者の称号を得て、郷魔国の母の元へ向かったのです。
はじめて逢えた母は郷魔国次期魔王を得る為、多くの子を成したせいで無理がたたり、それはひどい状態でした。ですが一目見て私を娘だと気付き、泣きながら抱きしめてくれた事を今も忘れません。お母さんはとってもいい匂いがしました。
その後、父からの帰国命令をガン無視し、郷魔国を訪れてたサムライサワムラに師事して、サムライマスターを目指したのです。
もう剣を振るえない母を護るためですが、刀の妖しい輝きに魅了されたの動機のひとつです。母が最も愛している夫、ムネさんに刀を何度か打っていただきました。
『月風霧丸』『桔梗一文字』『豪天王』どれも超名刀です。ひゃっほう!
ああ、刀剣の展覧会を開いて、刀好きと語り合いたいなぁ。
母の没後は郷魔国の将軍職に就きました。そしておよそ六百年後、母そっくりなアイシャ姫がアスラン王国に生まれ、クロ様と共に彼女の娘、キョウカを徹底的に鍛え上げました。当時、すでに勇者ランキング一位だった私が太刀打ちできない程、強くなったキョウカ。唯一難があるとすれば、ずぼらで女子力のない事でしょうね。
あ……それに関しましては、私も人の事を言えないです。
ああ、あと内緒ですが、70話から物語が動き始めます。




