第52話 スカイランド併合にゃん
現在、バルキリーの散らした羽根集めで、魔都は大賑わいだ。
銅貨一枚で羽根を一枚買い取ると宣言したからだ。
ちなみに超高級品なので、銅貨一枚ではまず普通手に入らない。
羽根を拾い切ったと思われるタイミングで、龍ノエルが魔都に大きな風を起こすと、隠れていた羽根がふたたび舞い上がり、歓声が上がった。
『みんな、羽根集めにに夢中になって、屋根から落ちないようにね~』
戦意喪失したバルキリー達は思いの外、厄介な存在であった。
翼を失いポンコツ状態になった上に、普段の生活が奴隷なしでは成り立たない、お姫様のような暮らしをしていたようで、着替え一つ満足に出来ないのだ。鎧を脱がせるのも一苦労である。
仕方がないので城内ダンジョンの郊外に移動させ、騎士団の野営用大型テントと風呂やトイレを設置し、そこでしばらく寝泊まりさせる事にした。
現在、お手伝いさんを募って、炊き出しをしたり、最低限の世話をしてもらっている。さながら難民キャンプと介護施設を併せたような状況だ。問題を起こしたら奴隷商人に売るぞと脅したので、とても従順である。とりあえず、自分でお着替えと身の回りの事を出来るようになりましょうね。
という訳で、スカイランドの内情を質問しても、ポンコツ娘達は何も答えられなかったのだ。しかし幸いな事に、王の御輿を担いでいた男性達が色々と話してくれた。彼らは、翼を持つ事を許されてる奴隷階級の者だという。
現在のスカイランドは、王族を頂点に臣下とバルキリーがおり、それらの一族以外は全て奴隷だという。翼人族の人口三万人というのは、選民階級のみで、およそ八万人いる翼人族の奴隷階級は、カウントされていないそうだ。
奴隷階級の翼人から娘が生まれた場合、赤子のうちに取り上げられ養育施設で育て、優秀で美しい娘ならばバルキリーに召し上げられるという。それ以外は奴隷に戻されるそうだ。選民階級生まれのクイントは、翼に瑕疵があった為、奴隷専用の養育施設に入れられたようだが、わざわざ自我のある五歳になってからの入所とは、とても残酷な仕打ちだと思う。
クイントから聞いた話と合わせ、私の結論はこうだ。
「スカイランドを滅ぼそう」
もう戦力は残っていないようだし、穏便に解体して奴隷階級は全て開放。
我が国の民として迎え入れようと思う。
「それで、あの王やバルキリー達はいかがされます?」
「うぐ。クロちゃん、どうしよう……前世の息子とはいえ、あんなのに煩わされたくないなぁ」
「スカイランドの民の前で処刑するのが、最も効果的な使い道ですね」
「わっちが食べるですよ。手羽先はぐはぐ」
「ノエル、ハウス」
とはいえ、彼女達も環境の犠牲者と言えるし、自立出来るよう支援するしかないだろう。
バルキリーの七割以上が奴隷階級生まれらしく、実親も健在だ。可能なら家族の元に戻って、新天地で新たな暮らしを始めてもらうのが一番良いと思うけど……これは私が強制する事ではないのかもしれない。
とりあえず、スカイランドを滅ぼしておこう。
早速、ハーガン王を脅して、スカイランドを郷魔国に併合した。
どう脅したかは、シルヴィアにでも訊いておくれ。
よし、これで念話が使える。
エルフの国があるラヴィエル大陸(蝶の左前翅)中央北寄り、深い峡谷に囲まれた陸の孤島のような平野がある。その地にぽつんとそびえる標高三千メートル程の尖った山、このアイランド山とその周囲が天空の国スカイランドだ。
翼人族はその山を三層に分け、山頂を王族、中腹を選民階級、そして平野を含むふもとを奴隷階級の住居と定め暮らしているのだ。
私は天空城と呼ばれている、古代ローマのような荘厳な石造りの王城へ龍化したノエルの頭に乗り降り立った。
すると、大慌てで近衛騎士らしき者達が現れ、その中に、あのアホ王子の姿があった。私を指して何やら必死に叫んでいる。
近衛騎士達がランスを構え、私に向かって飛び立った。しかし次の瞬時、翼を刈られ羽根を散らしながら地面に転がった。クイントだ。
ふわふわと羽根が舞う中、薙刀を構えるクイントは、まるで翼を持つ主人公ロボの如くの格好良さだ。
彼女の姿を見た王子が奇声を上げた。ふふ、私のクイントは、美しいでしょう。
騎士達が飛び立つたびに、瞬時に翼を狩られ転がり、悲鳴を上げうずくまった。
やがて、誰も飛び上がろうとしなくなったのを見計らい、バクンッ!
ノエルが牙びっしりの口を開き、地面に転がる彼らに食い掛る素振りを見せ威嚇すると、王子が腰を抜かし恐怖で動けなくなった。あ、お漏らし。
全長千メートルのクロ程ではないが、ノエルもかなり大きいので迫力満点である。
『告げる。我は郷魔国、魔王キキョウ。たった今、このスカイランドは滅び、郷魔国に併合された。魔王の念話がお前達に届いている事が、その証である。まず、状況を説明するので落ち着いて聞きなさい』
内容は簡潔に、ハーガン王が私の宝を奪おうと、バルキリー騎士団一千騎を率い郷魔国に侵攻。それを私の可愛い精鋭達が返り討ちにし、千騎全員を拘束した事を伝えた。
水晶星を使って、国中に当時の映像と現在の王やバルキリー達の様子を流しながらの説明なので、とても判りやすいはずだ。
そして最後は無残に翼を引き千切られ、意気消沈のハーガン王による降伏宣言だ。
『山に住む人達は全員、中層の大広場に集まりなさい。さもないと……』
ノエルが山頂上空に向け、最大出力のバーストフレアを放つと、凄まじい光がアイランド山を照らし、暴風を巻き起こした。
『次は、この山を焼き尽くすわよ』
王族が山頂から慌てて下りてくる。中腹に住む者達も恐る恐る建物から出て集まり始めた。大広場の中央に選民層が約三万。その周囲に、ほぼ同数の奴隷層が集まりつつある。
翼ある奴隷達は、無い者を抱えて城から降りてきた。
半時ほどかけ、ようやく集まった彼らに、身分に関係なく郷魔国民として迎え入れる事を告げた。五年間免税の上、その間の生活支援をする事。他国から攫われて来た者達は、帰国に協力する事もだ。
そして王族と選民階級の者達に向け、これからは平民となり、大地に足を着け暮らす事を命じた。
当然、猛反発だ。これまでの特権階級の暮らしが奪われ、自ら働かねば暮らせなくなるのだから。
『これからどうやって暮らす気? もう護ってくれるバルキリー騎士団も居ない。着替えを手伝い、食事を作ってくれる奴隷も居ない。召使いを雇うにもお金を稼がなければ、もう食事も出来ないのよ?』
『ああ、その羽根を売れば、しばらく暮らせるかもしれないわね。ちょうど寝具用に羽根が欲しかったのよ』
『あははは、怒ってる怒ってる。でもね……自分がされて嫌な事を、あなた達は平気で他者にやってたのよ。その自覚を持たないと、これはらは暮らせないわよ?』
『やはり、寝具にしちゃった方が早いかしら……』
激昂する翼人族達。やはり翼を奪うべきかと考えていると、下層から三千を超える翼人族が飛び上がってきた。翼人にしては筋骨たくましい者達ばかりだ。しかも男性は上半身裸だし。
「貴様ら、翼人族の誇りを忘れたかっ、恥を知れぇぇぇっ!!」
リーダーらしき男性が凄まじ怒号を響かせると、ムキムキ翼人軍団が王族と選民層の群衆に突撃した。そして男女問わず、大人達をボッコボコに殴る、殴る、殴る! 蹴る事はしない。その丸太のような、重機のような腕で、肉の弾ける音を響かせ、ひたすら殴り続ける。「歯ぁ食いしばれぇっ!」そう、これは鉄拳制裁なのだ。
着飾った軟弱な者共を次々に殴り倒してゆくムキムキ達。
先程、空へ逃れようと飛んだ者達が瞬時に翼を刈られ、広場に転がった。
その様に恐怖し、泣き叫びながら地面を這う者達。
それを筋肉達が捕まえ、岩のような拳を叩き込んでいった。
ちなみに先程、翼を刈られたのはクイントの両親であったが、当人達は知る由もない。ただただ笑顔で、薙刀をふるうクイントである。
瞬く間に二万以上の選民達が広場に転がった。その中にはボコボコに顔を腫らした王子の姿も……まさに死屍累々である。全員生きてるけど。
そういえば、その王子。前世の孫なのよね……
そして、私達の前に整然と跪く三千を超えるムキムキ達。
「魔王陛下。面目ございませぬ! 私はスカイランド先王ガーランドにございます」
なんと元王様だった。見た目は初老の美中年という感じだ。そして筋肉がすごい。
なるほど、彼が夫だった人か。どうりで私に向ける視線が優しいはずだ。
あれ、いつの間にか隣にクロがいる。
「久しいですね、ガーランド」
「こっこれは、龍王リヴァイアサン様。お久しゅうございまする!」
「見ていましたよ。翼人が選民思想に毒されてゆく様を」
「慙愧の至りにございます……」
五百年程前、彼が王位を譲った息子が急におかしくなり「翼人は選ばれし民だ、神にもっとも近い種族だ」そんな妄言を叫び出したという。そしてバルキリー騎士団を強化し、更に奴隷制を導入。同族でも翼に瑕疵のある者達を容赦なく奴隷に落としたという。
そんな息子を止めようとしたが、多勢に無勢で城を追い出されてしまった先王。
その後は下層で奴隷達を護りながら暮らし、国を正す為、この三千を超えるムキムキ達を育てたそうだ。
「魔王陛下……この者達の腐った性根、私に叩き直させて頂けませんでしょうか」
「いいでしょう、先王ガーランド。この地の代官に任じます。存分におやりなさい」
「ははーっ、ありがたき幸せ! ……陛下。ご転生、心よりお喜び申し上げます」
「うん、ありがとう。あなたも息災でなによりです」
私の思惑とは全く違う方向へ進んだけれど、彼の存在はとても幸運だった。
あのお荷物になってる王もバルキリーも、ガーランドさんにぶん投げよう。
「クイント。あなたのご両親も、あの中に転がってると思うけれど……」
「私の家族は、キキョウ様と館の皆様なので、どうもしません」
「そっか、じゃあうちに帰ろうか」
「はいっ」
こうして、スカイランドは郷魔国の新たな領土となり、凝り固まった選民思想から脱却すべく翼人族は、再出発するのだった。
自由を得た元奴隷達は、新天地として郷魔国本土の開拓地に向かう者、魔都ミモリや各都市に引っ越す者、代官ガーランドのもと、スカイランド領の平野で農業や酪農を続ける者に分かれ、郷魔国民として再スタートするのであった。
このスカイランド領だが、アイランド山の佇まいはとても美しく、城も街並みも古代ローマっぽいので、観光地化して外貨を稼ぐのもいいかもしれない。
山好きのマンマネッテに調べてもらった所、山より国境の峡谷に上質なラピスラズリやネオンブルーに輝く希少なアウイナイトの鉱脈が眠っている事を発見してくれた。やったね。思わず抱きしめて、その可憐な唇にキスしてしまったよ。
気付けばこの世界に来て、一年が経っていた。
魔王になったり、新たな家族が出来たり、可愛くて綺麗な娘達をハーレムに迎えたり。戦争したり、転生した弟と殺し合ったり、いっぱい人を殺したり……色々ありすぎだわ。
今年も既にやらかして、一国併合してるし。でもあれは……私のせいではないよね。降りかかるふりかけ的なものだし。普通掃うでしょう?
うん、もう大丈夫。きっと今年は静かに過ごせるよ。
「キキョウちゃん、クロちゃん。マレーにゃんが城下に来ているよ」
「マレー……ああ、画家のマレーニャね。もしや絵が完成して自分で持ってきちゃった? いや……私、素性も住所教えてないよね」
「うん、実は色々あってね。命の危険は無かったから、可能な限り手を出さず見守ってたんだけど……」
「何か問題発生ですか?」
「実は……」
読んでいただき、ありがとうございます。(クイント)
害鳥駆除は、この私にお任せください……………………
……え……もっと何か話せと言われましても……そうですね……
好きな食べ物は、手羽先です! 煮ても焼いても美味しいです!
キンキンに冷えたビールが最高に合うのです……あ、よだれが。
おかげで最近は、翼人族共の翼まで美味しそうに見えてしまい、とても困っております。キキョウ様には見えなかったと思いますが、先程の戦いで、うっかりよだれを垂らしてしまいました。
そういえば最近、ノエル様に「手羽子」と呼ばれてるのですが……
私も彼女の目には、美味しそうに見えるのでしょうか。




