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白き魔王はユリ属性  作者: 烏葉星乃


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第49話 人間オークション

 十二月。

 魔王連邦構成国の一つ、デーヤネン。ここは魔王カリマーの治める国だ。

 その魔都クイレダーオに、私達は招待された。

 巨大な宮殿のバルコニーに立つと、何万もの連邦国民に歓迎の拍手で迎えられた。

 夜は大晩餐会。そして王妃達と情報交換である。


 公務が終ると、日頃の労をねぎらう為、館メイド達をゲートで呼び寄せ、みんなでグルメツアーである。

 美食の魔都と呼ばれるだけあって、クイレダーオの食文化は驚く程多様だ。特に粉物が熱い。

 発祥は郷魔国二代目魔王ミクニ。異世界転移した料理人魔王が、国民に手軽な料理のレシピを公開した。その中のひとつ、お好み焼きが魔族に衝撃を与えたのである。

 多くの魔族料理人達が魔王ミクニへ師事し、やがて魔王連邦に粉物文化が開花したのである。当時のレシピに忠実な料理から、独自発展した料理。お好み焼きやたこ焼き、やきそばに串揚げ。さまざまなスイーツ。大きなレストランから小さな屋台まで、どれもこれも絶品だ。

 ノエルの食いしん坊センサーが反応し続け、片っ端から買いまくり、魔法珠に放り込んでゆく。

 ちなみにメイド達の護衛が足りず、ダイエット中のトントローも連れてきているのだが、美味しい物に抗えず葛藤しているようだった。ゴメンね。


 食欲を満たした後は、お買い物だ。次に向うのは、オークション都市メイ・ルフーヤ。以前、勇者オークションで訪れた、デーヤネン第二の大都市だ。

 この都市は、オークション、ファッション、美術、武具、書籍、器等々各区画ごとに扱う品が分かれている商業都市で。目的の物を効率よくゲットするにはコツが必要らしい。

 私達は幸い大勢で来てるので、ある程度分担して買い物ができる。とはいえ大半の子達がファッション街に行くそうなので、全員にお小遣いを渡し、私とクロとチビノエルは別行動だ。それと女子力残念娘二人もこっち方向に用があるそうだ。


 本日午後、人材を競る“人間オークション”に、珍しい種族が出品されるそうなので、午前中はクロお薦めの美術街に向かう事に。

 途中、所狭しと武具の並んだ通りを進むと、シルヴィアとヴァルバロッテが「ちょっと覗いてくる」と、早々に消えてしまった。成程、これが目的か。そんな剣まみれな通りを抜けると、今度は美しい壺や彫刻が並ぶ美術街が広がる。

 クロの目的地は、その先にある絵画広場だという。画家が自分の作品を販売したり、お抱え絵師として雇ってもらう為のアピールをする広場だそうな。


「うわっ、私の絵がすごく多いね」

「昔から絵画の人気モチーフですから。今年は復活したので更に多いですね」

「絵具の臭いでクラクラしそうです。もぐもぐ」


 この絵具香る中で、様々な食材が刺さった三十センチ以上ある大きな串揚げをモグるノエル。ひと口もらった。玉ねぎ甘っ!

 白と紫の肖像画が至る所に飾られ、画家達が自分の腕前をアピールしている。

 貴族や富豪らしき客も見受けられ、彼らのお眼鏡にかなえば安泰だ。

 そんな彼らの自信作を眺めながら、私達はまったりと進む。絵画は普通に販売してる物もあれば、オークション方式で競る方式の販売をしてる者もいる。ちょっと気になるのは、私の絵……なんか肉質的というか、胸やお尻が強調され、エロっぽいんですけど。

 私が顔をしかめてるのとは対照的に、クロは真剣な表情で物色中だ。

 ちなみに今日のクロは、青黒ツートンのだぼっとしたマウンテンパーカーっぽい服装で、青ニーソに白いスニーカーを履いており、ボーイッシュな感じがとてもよろしい。

 冬場に踊り子服は悪目立ちするものね。ちなみにチビっ子ノエルは、黄色いポンチョ姿がアヒルのようでとても可愛い。でもその下が全裸だとは、誰も思うまい……

 実は私も、いつもの白でなく、紺に黒刺繍のシックなローブを着ている。


「おや」


 広場から少し離れた所に、ぽつんと絵を飾る者がいる。小柄な女の子のようだ。

 この広場で女性の画家を見たのは、あの子が初めてだ。

 とても気になり、彼女の元へ向おうとすると、ガラの悪い三人組が、私達を遮った。


「お嬢さん方、絵画広場はここまでだよ。そっちにゃ何もねぇ」

「私はあの子の絵を見たいの。どいて」

「ああっ? ここは通行止めだ。他を当んぶへぇぇぇっ!」


 私を掴もうとした大男が、ノエルの回し蹴りで広場横の水路に叩き込まれた。

 ノエル。格好いいけど、股間丸出しだよ。

 更に襲い掛かってきた二人を掴み、両腕をクロスさせるように水路へ放り込む。

 こんどは尻丸出しだ。

 あの水路、アリゲー大丈夫? 悲鳴が聞こえた気もするけど、気のせいだろう。

 

 ぽつんと座ってた女の子が、ぽかーんとこちらを見ている。


「あなたの絵、見せてもらってもいい?」

「ど……どうぞ、にゃ」

 

 服を着込んでわかりにくいが、どうやら猫人族の少女のようだ。

 驚いた。

 彼女の絵はまるで、漫画やアニメのワンシーンを切り抜いたような躍動感のあるものだった。

 絵の中の私は、獲物を狙う肉食獣の如く、凶暴な笑顔で、銃口をこちらに向けている。

 じっと鑑賞してると、まるで私に銃口を向けられてるかのような緊張感が伝わってくるような、そんな迫力がある。

 クロがその絵を物凄く真剣に見つめている。


「すごい迫力ある絵だわ。でも私、こんな顔しないよね」

「いえ、よくこういうお顔されてますよ」

「あるじ様の本質を的確に捉えてるです」

「マジか……気を付ける」


 クロが他の絵も吟味し始めた。どれも私の絵ばかりだ。構図も大胆で、色遣いも鮮やかだ。ひと通りチェックすると、猫娘にクロが質問した。


「あなた……猫人族ですね。名は?」

「にゃ、マレーニャにゃ」


 かわいい……語尾に「にゃ」が付いてるにゃ。


「この玉座の絵は、前世のキキョウ様ですね。どうしてこの絵を描こうと思ったの?」

「色々な魔王様の本を読んでたら、こういうイメージが沸いて……」


 それはとても寂しそうな、暗く塞ぎ込んだような、玉座に座る私だった。

 なにやら既視感のある絵だ。


「ここにある絵、全部買います」

「うにゃぁっ!?」

「おおっ」

「全部で……金貨一枚にゃ」

「さすがにそれでは、絵の具代にもならないでしょう。紫や青は特に高価ですよ」

「よいのですニャ。もう絵を描く事も無くなるにゃ……」

「「は?」」


 クロとハモった。彼女のその言葉は、先程のガラの悪い連中が関わっているような気がする。


「ちょっと詳しい訳を、お姉さん達に話してみるにゃ」

「にゃにゃ……」


 それは、とある大きな絵画コンペで女性画家が最優秀に選ばれた事が発端だという。女性に負けたのが余程悔しかったのだろう。高位貴族のぼんぼんを筆頭に絵画協会男性会員達が、男の方が芸術的感性に優れていると声をあげ、露骨に女性画家への嫌がらせを始めたのだ。しかも悪質な事に、協会とグルになり会費の不当な値上げや、画材の販売制限までする始末。更には協会員以外、絵を描いてはならない。そんな理不尽な規約が追加され、異を唱えた女性会員達は、画材を取り上げられ、次々に退会させられてしまった。

 そんな折り、協会理事長の息子に目を付けられたマレーニャが愛人になる事を拒んだ為、更に理不尽な規約が設けられ、とうとうマレーニャを残し、女性会員の全てが退会してしまったのだという。


 そんなこんなで、マレーニャにとって今日が最後の芸術広場出店だそうだ。仮に売れても利益の大半を協会に納めるので、手元にはほとんど残らないのだという。


「呆れたわね。クロちゃんどうする? 絵画協会潰す? ヘドロに沈める?」

「キキョウ様、ドウドウ。いつもと立場が逆転してますよ」


 あまりにも理不尽な話に、私は強い怒りを覚えたが、ぶつける対象が周囲にいない。そこで、ふわりと絵具の匂いのするマレーニャへ衝動的に抱き着いた。


「ふにゃん」

「がんばれ、負けるな。私が応援するから。魔王キキョウの絵を一枚依頼するわ」

「え、でも、もう画材を買うお金も……」

「金貨百枚。これでお願いするね。依頼料は十枚。残りは生活費に使いなさい」

「ふっふにゃーっ!?」

「キキョウ様、ずるいです。この娘は永劫、私が支援するつもりでしたのに」

「じゃあクロちゃんも支援してあげればいいよ。お金はいくらあっても困らないでしょ?」

「そうですね、ではこの魔法の鞄を使いなさい。とりあえず金貨千枚もあれば、しばらく困らないでしょう」

「にゃー……」

「あら、気絶しちゃったね。もういっそ拉致る?」

「この娘は画家です。どんな些細な事が作風に影響を及ぼすか分からないので、しばらく自由にしておくべきです」

「なるほどね。しらふじ、この子をこっそり見守ってもらえる?」

「はーい」

「いつも面倒押し付けてごめんね」

「一応自覚あるんだね。いいよ~楽しいから」


 私達は、マレーニャが目覚めるのを待ち、二ヵ月後にここで逢う事を約束し別れた。何も無いといいんだけれど、彼女に幸多からん事を。

 クロがあげた鞄に、いくつか加護のストラップを付けておいたよ。


 お昼はノエルの嗅覚に導かれるまま入ったレストランで、お好み焼き定食を堪能。

 昼食後、人間オークション会場へ向かった。会場内部は劇場型で、すでに満員御礼だ。

 事前にクロが予約した中央前寄りのベストポジションに座った。

 二席しかないので、膝にノエルを乗せている。

 むお、菫色の髪から色々な食べ物の匂いが漂ってきた。


 人間オークションは、勇者の時と同様、己の技能をアピールして雇ってもらう場合と、奴隷売買の二通りがある。今回のは両方が入り混じるタイプのオークションのようだが、基本的に内容の差はない。

 奴隷であっても、良い主に買われるようアピール出来るし、この催しに出れる者は、有用な技能を持つ者ばかりなので、特に悲壮感はないという。


 そんな中、一人、絶望する者がいた。今回の目玉商品と噂される娘だ。

 

『それでは今回のオークションの大本命! 翼人族の娘です!』


 場内が大きくどよめいた。だが私は「ふーん」という感じである。

 翼人族なら館メイドに一人居るのだ。

 あ、ハーレムに誘う気はないよ。既婚者だし。

 などと考えていると、私は舞台に現れた翼人女性の姿に目を奪われた。

 それと同時に、やかましい声が響く。


「ちがうっ! 我らは翼人族などではなく、最も神に近き存在、天神族である!」

『しっ失礼しましたっ! 天神族の娘です!』


 最前列が空いてるなぁと思ってたが、このやかましい男と従者らしき女性四人がドカドカと現れ席に着いた。全員翼が生えている、翼人族だ。古代ローマのトーガに似た服を着ており、場違い感がスゴイ。しかも冬なのに寒くないのだろうか。


「翼人族は非常に選民意識の強い種族で、地面に降りるのを殊の外嫌う傾向があります」

「ほほう、じゃあ彼らは、余程の事があって降りてきたのね。あの子のせいかな」


「はふぅ」舞台に立つ翼人族の娘の美しさに、思わずため息が漏れる。翼人族は長命種なので、年齢を見た目で判別するのは難しいが、外見は二十歳ぐらいだろうか。

 薄っすらと青い、肩ほどの銀髪にペリドットの瞳。背はすらりと高く、まるで美を体現した如く整った容姿をしてる。

 そしてなんと、本来左右一対あるはずの白い翼が、左側に二枚生えているのだ。

 上下の形状的に見て、恐らく本来は四翼のはず。リリィの耳のように再生してあげたら、さぞ美しかろう。

 私が手を振ると、ちらりとこちらを見た。彼女の視線から感じたのは……深い絶望だった。


「よいか地虫共! この無様な翼の娘は、この私、天神族の王子であるヴァルカムが落札するのだ。余計な真似をした愚か者は只では済まさんからな!」


 静まり返った会場で、本来持ち込み禁止のランスを四人の女達が掲げる。

 あれがヴァルキリーと呼ばれる翼人族の女騎士だと、クロが説明してくれた。

 

『そっそれでは入札を開始します! まず銅貨一枚からです!』


 しんと静まり返った中、王子が立ち上がった。


「なんだなんだ。お前は銅貨一枚の価値もないようだぞ、クイント」


 バカにするような王子の言いように、女性は無反応だ。

 名前はクイントね。たしかラテン語で五番目って意味かな。

 

「ははは、なら私が落札してやろう。光栄におも――」

「金貨千枚!」

「なにぃっ! 愚か者は誰だぁぁぁっ!」

「愚か者じゃぁないけど、私だ!」

「言ったはずだぞ、余計な真似をするなと」

「ここは魔王連邦の公共オークション会場よ。誰が入札しても、文句を言われる筋合いはないのよ」

「きさまぁぁっ!」

「金貨二千枚」

「なぁっ!」

「ほらほら、早く再入札しないと私が落札しちゃうわよ。金貨三千枚!」


 うわぁ、私。いつになく好戦的だわ。

 あんな子を絶望させるクズ王子に容赦などしないよ。


「おいっ、この女を黙らせろっ!」

 

 戦乙女達が私にランスを向けた瞬間、ランスの先から半分程が瞬時に消えた。

 ゴキゴキメキキ「不味いです」ノエルがペッと吐き出すと、金属の塊がゴットンコと床に転がった……すご。


「きっ貴様ぁっ、何者だっ! 顔を見せろぉっ!」


 私は立ち上がり、フード内に手を入れ、ローブ内に隠していた白い髪を吹雪の如く舞い散らした。

 この場の全ての視線が私に向けられている。大注目だよ。


「郷魔国、魔王キキョウですが、なにか?」

「なっなっ……」

「ほら、入札しないのかしら」 

「クイントなどもういい……命令だ! そなた、私の妻になれ!」

「お・こ・と・わ・り」


 転移魔法をセットし、魔導銃の引き金を躊躇なく引いた。彼らは今頃、他大陸のどこかの空の上だろう。転移先はしらふじに任せた。

 アホ王子が消えた事で、オークションは再開。結局、私が金貨八千枚にて落札。

 クイントは終身奴隷なので、落札者には最後まで面倒を見る義務が発生する。

 しかも長命種なので、もし定命種が落札した場合、いくつか面倒な規約が発生するが、私は長寿な魔王なので何の制限もなく彼女を迎え入れる事が出来た。



「クロちゃん、なんか魔王連邦魔都のエピソード、数行で終わったったね」

「魔王連邦と言えば、オークション都市メイ・ルフーヤですからね。今回はマレーニャと人間オークションを優先しましたし」

「こんな調子だと、きっとエルフの国と獣王国も……」

「もぐもぐもぐ……何故そうなったか、わっちは知ってるです」

「え、どゆこと?」

「作者が設定作ってないのです。この前、そう言ってたです」

「え……ノエル、この物語の作者の知ってるの?」

「あ、禁則事項です」

「ぐっ、それを言えば何でも誤魔化せると思うなー」

「キキョウ様。作者が書かない世界は、無いのと同じなので、仕方ないのですよ」

「それって、観察者の存在が現実を確定させるっていう、哲学的なやつ?」

「「…………たぶん?」」

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