第46話 キキョウのお店
十月。
今月から二週に一度の“キキョウれいでぃお”が始まった。
内容は以前とほぼ同じだけれど、各地の名物情報などを中心に充実させてみた。
あと反響の大きかった私の歌。アニソンから歌謡曲、映画の主題歌など、こちらの世界向けに少しアレンジして、毎回披露する予定だ。結構覚えてるものだなぁと、自分の記憶力の良さに驚いた。クラシックもフンフン♪ハミングでもいけるかなぁ。それと、作者のクリスチーネ先生から許可を得られたので、魔法学園ラブキュートを朗読するコーナーも用意してみた。
それと、キキョウのお宿が正式オープン。
既に数か月先まで予約でびっしり埋まっているので、別館も追加すべきではと、早々に文官から提案が出ている。
初日、私もオープニングセレモニーに参加した。
お客もスタッフも全員参加の大ビンゴ大会は、大いに盛り上がった。
低価格で販売予定の加護石や、うさ蜜や珍しい果実などが景品の中心だ。私がドワーフ街で作った、つたないトンボ玉。その失敗作を一位の景品にしたの誰かね?
それと景品が足りず急きょ用意した、私との握手券がどういう訳か一番盛り上がったわ……
そして、予てより開発を進めていた魔道具が完成したのだ。
その名も“姿見水晶”……以前からあるでしょと、ツッコミを入れないで欲しい。
この魔道具がどういった物か、改めて説明しよう。
簡単に言うと、カメラに似た魔導具で撮影した対象を立体で映し出し、デジタルフォトフレームのように使用する魔道具だ。
元々、お見合い写真的な使用を想定し、王侯貴族や富豪向けに開発された魔道具らしい。動画再生機能や魔導通信の受信機能など様々な機能が追加され、安価なグレードでも金貨五十枚。日本円で五百万という、大変高価な魔道具の一つになっている。
例えば、キキョウが三月即位宣言に使用した、高さ三十メートルの映像を映し出すものは、金貨千枚以上と更に高額だ。
約半年前。私達がノノのブティックに遊びに行った時の事。
ノノが姿見水晶をマネキンのように使ってるのを見て、私がモデルを買って出たのだけれど、整備で訪れた魔道具ギルド職員がそれを見て閃いたのだ。
販売が伸び悩んでいた姿見水晶に、魔王キキョウの姿見データを入れたら、ものすごく売れるのではないかと……
「キキョウ様のお姿を販売させろ……と?」
クロが氷点下だ。臣下達も当然反対だ。しかし、グラビアや写真集の異世界文化を知る私には、特に抵抗感のない提案だったので乗る事にしたのだ。
そこで私が思い付いた提案をしてみた。
まず映像サイズを身長三十センチ程。機能も簡略、とにかく安く国民の誰もが無理なく買えるようにする事。そして、私が提供する姿見データを定期的に販売する。というビジネスモデルだ。
その為に、姿見水晶の価格は、銀貨五枚(五万スフィア、あっちのゲーム機位の価格)ぐらいが理想で、データは十映像入りで大銅貨一枚(千円ぐらい)というお手軽価格。そう提案した。
「むっ無理です……材料の高品質水晶だけで金貨十枚程します」
いきなり価格で躓いた。使用する水晶の品質が高くないと、映像にノイズが入るというのだ。水晶の産地、カベルカ王国から輸入してる高品質な物でも、使用できるのは一割に満たないという。低価格で普及させるのは少し難しそうだ。
「キキョウ様のご尊顔を拝せるなら、国民は金貨十枚でも五十枚でも出しますよ。なんなら購入を義務化しましょう」
「いやいやいやいや。クロちゃん、そういうの私が嫌。購入は任意で、お手軽な娯楽として提供したいの」
「そうですか……とりあえず姿見水晶の仕様を決め、試作品を作らせましょう」
こうして、私の姿見を販売するプロジェクトが発足した。
必要なのは商品の姿見水晶だけでなく、販売方法をどうするかも重要だ。
店舗を持つのか、雑貨店などに委託するのか等々。
でもさ、魔道具ギルドの提案を奪っちゃったみたいなんですけど。
そうして九月。試作第一号から始まり、今回で三号。
リテイク理由は主にサイズだ。小さくしてAランク水晶の使用量を減らす事。
見た目は直径十五センチ程、二層構造の八角柱となり、通常のサイズの四分の一に収まった。
Aランク水晶の使用量は、元の八分の一以下で、バッテリーに相当する魔力蓄積部をDランク水晶で安く抑えた。
起動すると、六分の一程のサイズの私が現れた。このサイズ感は小人族ね。
性能は、姿見の表示、回転、姿見データのサムネ表示という最低限のもの。
他に記憶メモリ増設も出来るようになっている。
だが、価格は金貨八枚、八十万スフィア。国民の二~三か月分もの収入になる。
大人なら何とか買えても、子供にはとても手が出ない価格だ。せめて金貨三枚ぐらいにならないものかと考えていた時、ラビットピアを造ったダンジョンの機能を思い出した。
ダンジョンに安い水晶を吸収させ高品質の水晶に再構築する方法で二層構造を一体化。加工手順も見直す事で、価格を金貨三枚に抑える事に成功。ついでに製品そのものを複製してしまえば、ぶっちゃけ金貨一枚でも売り出せるという事に気付いてしまった。折角なので、今後の商品展開を見越して、音声や動画再生機能なんかを付けて、金貨二枚にしようか。
当然だが、魔道具ギルドマスターに難色を示された。
見込まれていた魔道具師の仕事に繋がらず、開発費とパテント料しか得られないからだ。
「この商品の国内需要は、二百五十万個以上。海外展開すれば合計一千万個は必要でしょう。魔道具ギルドは、年内に何個納品出来ますか? ダンジョンマスターの私なら八十万個いけます」
クロの示した数にギョッとした。
「そんなに作って大丈夫?」
「大丈夫、問題ないです」
ギルドマスターが口をパクパクしている。
「まぁまぁ。魔道具ギルドとは、末永くお付き合いしたいから」
「確かにそうですね。今後も制作依頼したり、改良する事もあるでしょう」
「えっと、ギルドマスターさん。普及版の製造はこちらに任せて、そちらは本来の需要を狙う方がよいのでは?」
「本来の需要……はっ!」
「普及版って、性能的にお試し版よね。もっと高性能で高価なグレードを売るチャンスよ」
「たっ確かに……では、高性能版の製造はギルドに任せていただけると」
「元々あなた方の商品ですもの。元は私の姿見を封入して、それを売る為の提案だったでしょう?」
こうして十月。動画機能付きの製品版が完成。ダンジョンの機能で量産に入った。
そして販売する店は、魔都に二店舗、各地十数店舗を用意し、今月から開店している。
店の販売物は、私が作りため込んだ各種加護石。私のキャラクターグッズや郷魔国土産(ぬいぐるみやキーホルダー、ペナント、置物、安価なアクセ等)そしてアンテナショップ的な役割を持たせ、各地の特産物も扱う事にしてる。姿見水晶は八月に試作品を公開し、九月に開始した先行予約が既に八十万件以上入っている。思わず報告を聞き直したよ。発売は在庫数がそろう年明けだ。
ちなみにお店の名前は“桔梗屋”である。
シルヴィアに「なんか普通」って言われたけど、ラビットピアとか、キキョウのお宿とか、どれも普通だよね。
「キキョウ様、水晶が足りません……輸入量を増やしてもらうか、砂漠砂使っていいでしょうか」
「へ……ああ、水晶と砂って同じものだったっけ」
そう、砂同様に水晶も融かすとガラスの材料になる。
「ん~輸入量がそのままなら、カベルカ王国も何も言わないよね。あ、そういえば……」
以前、カベルカ王国の水晶鉱山で強制労働させられてた、元アルス王国の奴隷を保護した時に見た風景を思い出した。ちょっと行って確認しよう。
ガラガラガラ……目の前で鉱員が石を捨てている。
そこは水晶鉱山付近にある崖、下を見ると驚くほど大量の石塊が崖に沿ってうず高く積もっている。
商品にならない品質の水晶捨て場。産業廃棄物だ。
「これは……なるほど、宝の山ですね」
「でしょ? 廃棄物とはいえ勝手に持っていくのは問題だと思うから、カベルカ王様に許可を頂きましょ」
こうしてカベルカ各地の鉱脈付近に廃棄された水晶を大量に入手する事が出来た。
これでも足りない場合は、砂漠砂を使えばいいと思う。
「ん? どうしたの、クロちゃん」
「う……ペンがこっちを見ています。帰りましょ」
「私、全然視線感じないけど?」
「龍王ペンペラーが私達より、はるかに格上だからです」
「え。龍王リヴァイアサンよりも?」
「私なんて、ちゅるんと踊り食いされて終わりですよ」
なにそれ……クロがシロウオの踊り食いのように食べられちゃうイメージが頭をよぎった。ちょっと会ってみたいと言ったら、クロがむちゃくちゃ嫌そうな顔をした。とてもまぶい。
「手土産は、大きなマグロウがいいですよ」
それってマグロの事かな。ちなみに海に棲む凶暴な大型回遊魔物らしい。
この世界の動物や植物の名前って、微妙……というか絶妙?
牛がモウ、豚がブヒ、鶏はケッコウだし。桃がドンブラーコとか何の冗談かと思った。
犬がイッヌ、猫がヌコ、鹿はセント、熊はプーペ。ああ、アリゲーもそうよね。
そしてネズミがミッキーマ。マジ勘弁してください。
魔王の権力総動員で全世界にネズミって呼ばせようかしら。
他にも、スワールが白鳥でガ―ダックがアヒルや鴨の総称らしい。
なのに何故か、イッヌの獣人は犬人族だし。そういえばウサギとカメはそのままだった。
何か法則とかあるのだろうか。
ただし、私が混乱しそうなので、イッヌやヌコが居れば普通に犬猫って言うので「よろしく」
私が誰も居ない方向に宣言してると、クロがこてんと首を傾げた。
読んでいただき、ありがとうございます。(キキョウ)
そういえば、劇中で「鳩が豆鉄砲~」のバリエーションが豊富ですが、こちらの世界で鳩はサブレーという名らしいですよ。
なんかもう、ツッコミ入れるの疲れちゃったわ。
他の異世界転移者や転生者も、きっと困惑してるんじゃないかな。
「おら、サンタ狩りにいくぞ」
「ええっ? サンタさんを狩るの?」
「俺達が生きる為には仕方あるめぇ」
「この世界の住人とサンタクロースの間にいったい何が……」
ちなみにサンタとは、トナカイの事である。
まぎらわしいわっ!




