第45話 宝物庫
「お姉さま。私、これが欲しいのですが……でも、こちらも欲しいのですぅ」
宝物庫から、みんなに欲しい物を選んでもらったが、アスフィーが選んだのは、高さ二十センチ程の精巧なブルーカルセドニー製の聖女像と水晶製の魔王キキョウ像だった。
「クロさま、これって聖女さまですよね?」
「ああ、これですか。ミモリ様によく似ておりますよ」
「やっぱり! ふわあああ、初めてご尊顔を拝しましたぁ!」
「ああ、でもミモリ様の肖像画なら……ほら、あそこに」
アスフィーが肖像画の前にひざまずき、お祈りを始めた。
どうやら聖女ミモリの姿は現在ほとんど伝わってないらしいく、世紀の大発見にアスフィーは大盛り上がりだ。彼女は聖女教徒だし、これが当然の反応なのだろう。
肖像画はあげられないけど、アスフィーの希望で館のロビーに飾る事になった。
「これなのですが……」
ベルテが選んだものは漆器のドレッサー。
草花や小鳥が描かれた金蒔絵の三段重箱だった。三面鏡が仕込まれた蓋を開くと、各段が道具箱のように展開する、かなり凝った漆器の携帯ドレッサーだ。
「あの、本当に頂いてもよろしいのですか?」
「うん、大事に使ってあげてね」
「はいっ、ありがとうございます!」
セーラとベッキーは、何も選ばず戻って来た。どうやら遠慮したようだ。
「そっそんな、拝見させていただいただけで十分です」
「ん~余程の物じゃ無ければいいんだけど。クロちゃん、何かこの子達に良さげな物あるかな?」
「そうですね、お二人は貴族でドレスの着用も多いですから……このドレスショールはいかがでしょう」
「うわぁ」「素敵です……」
「ドレスを汚れから護る効果が付与された、中々の逸品ですよ」
「うん、いいね」
髪色がホワイトブロンドのセーラにピンク色。ネイビーブルーのベッキーには、黄緑色を選んであげた。
美しく繊細なレースのショールに二人とも大喜びだ。あえて価格は聞かないおこう。
少女達がキャッキャしてる所に、楽し気にイノゥバが戻ってきた。
彼女が選んだのは、紫水晶のネックレスだった。
「この紫水晶がキキョウ様の瞳の色に一番近かったのです。あなたの色を身に着けたいので、これにしました」
「うん、嬉しいわ。選んでくれてありがとう」
「はいっ」
「じゃあ、リリィにチェンジしてくれる? あと大人組、集合」
ヴァルバロッテとシルヴィアがいそいそと戻ってきて、リリィメレルと並んだ。
「なんなの……あなた達は」
「え? どうしたの、姉ぇちん。顔が怖いよ」
「どうしたのじゃない。あなた達が選んだのは、何?」
「剣」「刀」「弓」
私は、マリアナ海溝ばりの深いため息をついた。
「あなた達、こーんなに綺麗で素敵なアクセサリーやドレスが並んでるのに、なんで武器を選ぶのよ。少女組とイノゥバ見習いなさいよ。大人になって女子力どこに捨てた!」
「僕、公爵令嬢も王妃も経験したし、もうその時代は通り過ぎたので……」
「私もお姫様って歳じゃないし、公務は魔装で済みますし……」
「あーしも四十路で初老だし、健康的に弓引くのがいいかなと……」
「アホかぁぁぁぁっ! 自分の顔見ろ! スタイルを見ろ! どの面下げて言ってるの!!」
「「「ええぇー」」」
「えーじゃないっ! その武器が欲しいなら、ドレッサールームから自分に似合うドレス見つけてきなさい!」
「え、でも僕だと胸が……」
「私も胸が……あと背丈も」
「あーしもたっぱが……」
「そんなのお直しすればいいだけでしょう。行けっ! シルヴィアも選ばないとサーベルも取り上げるわよ!」
「はひぃぃっ」
まったく……間違いなく世界でも屈指の美女達なのに、なんという女子力の低さか。嘆かわしい! ま、私も人の事言えないんだけどね。自分のおめかし、全部メイド任せだし。あと、ノノのジャージお気に入りだし。
「しらふじはいいの?」
「ボクも、もらってもいいのかな」
「もちろんよ、選んでちょうだい」
「うんっ、じゃあ、キキョウちゃんが彫刻されたカメオのペンダント!」
「えーと……これかな?」
「うん、あとで白鬼召喚したらコクピットに置いてもらえる?」
「ほほう、そうすればしらふじに逢えるのね」
「あ……それはダメ。もしキキョウちゃんがボクの所に来たら、誰がゴーレム召喚するの?」
「あ……帰れなくなるのね」
「うん(ボクはそれでもいいけどね)」
「あるじ様。わっち、この椅子が欲しいです」
ノエルが持ってきたのは、藤のつるで編まれた、南国風のラタンチェアだった。
「へぇ、こんなのあったんだ。どこが気に入ったの?」
「この椅子、裸で座るとスースーして気持ちよいのです」
「おおぅ……」
ノエルが全裸になり、大人化し椅子に座ると、大胆に足を開きぎみに組んで見せた。
あ。どこかで見た事があると思ったら、これ……エマニュエルチェアだわ。
その日のうちに、アリアンロッドには学園の寮から館へ引っ越してもらった。
魔王になったからには、少しの間も放置できない。当人はあまりの急激な環境の変化にあわあわして可愛いな。
まぁ、頑張って頂戴な。私の可愛い恋人さん。
なんだろう、アスフィーからの視線がめっちゃ痛い……
あ、マンマネッテとキキリンの事忘れてた。今頃、開拓地で村造り中だわ。
時は半年ほど戻り、二月末。
この時期に、キキョウ総合学園の優秀生徒の表彰式がある。
毎年、魔王キョウカが生徒達を表彰していたが、今年はもう居ない。
まだ私は即位宣言をしていないが、今回は特別に参加させてもらう事になった。
既に魔王の間には、表彰を待つ各学科の生徒達が並んでおり、緊張しながら魔王の入来を待っていた。
私が現れると視線が一気に集中するのを感じる。
が――突然、女生徒からの視線が……弾けるように変化した。
私は驚いて、視線の主を確認した。やぼったローブのメカクレ少女だ。
驚いた。あの子、たった今、私を見て恋に落ちたよ。
うわぁ、ヤバ。私もドキドキしてきた。
ちなみに、男子生徒や同伴の教師の視線からも恋に落ちるの感じたが、よくある事なので無視。
とりあえず、じっくりと彼女を観察してみた。
自身を隠すように、やぼったく着込んだ地味なローブと目深に被ったフード。
自分に自信の持てない娘なのだろうか。
表彰が進み、彼女の番になった。
名前は、アリアンロッド。確か銀の車輪、銀の糸車みたいな意味だったような。
フードで顔を隠している事を教師に咎められ、すごくキョドっている。
が、意を決し――いや、彼女は死ぬ覚悟で、私に素顔を見せたのだ。
思わず抱きしめてしまった。黒曜石と銀水晶の美少女。
ちょっとお手入れが足りてないけど、磨きあげれば確実に超一級の美少女になる。
もっと自分に自信を持てるようにと、持っていたヘアピンで前髪を留めてあげた。
黒と銀の煌めきがあまりに魅力的で、おもわずオデコにキスしたら、気絶してしまった。
なので、私が責任を取って、合法的に館にお持ち帰りしました。
そして現在。
「はふ~美少女の匂い~」
「あの……キキョウ様って、いつもこんな感じなんですか?」
キキョウ様がぬいぐるみのように私を抱きしめ、悦ってるのを見て、皆さん揃ってうなずきました。
閑話
母の宝物庫に入ったのは、数える程しかなく、武器をじっくり拝見するのは今回が初めてです。とにかく刀剣が逸品ぞろいで、ため息が出るラインナップですよ。
あぁ……ムネ様の打った夜波宗光……私がもっとも欲しい刀です。
うわぁ、刃文と地鉄の模様が夜のさざ波のよう……なんて美しさ……
これ、本当にもらっていいのかなぁ……値を付けるなら、おそらく三十億……いや五十億はいくんじゃないかな。私なら百億だって出しますよ。
おや、シルヴィアも剣を相手ににらめっこしてる。あなた、私の知らぬ間にサーベルもらったでしょう。あっちで弓を見てるのは……目が青いからリリィね。
母の険のある声で年長組が呼ばれ、女子力の壊滅っぷりを怒られました。
でも、ドレスを一着選んた事で、刀をもらえた! ああ、なんという幸運!
じゃあ、さっそく床の間に飾って、茶でもしばきましょうか。
ロリ巨乳で名高い紅の勇者。彼女は狭山茶のような渋めのお茶が好みのようだ。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。(ヴァルバロッテ)
え……閑話につかうって……そんなゴムタイヤ……




