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ラヴィンティリスの白き魔王ですが、ユリハーレムに龍王や宇宙戦艦がいる件について語りますね。  作者: 烏葉星乃


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第41話 だが面倒は続く

 翌日の朝。

 一週間お世話になったカリマー様のホテルから、文官達を郷魔国へ送った。

 会議場の玄関前で待ち合わせしていた十四名の王達は、後を頼むと臣下達に別れを告げ、私の元に集まった。

 彼らにもう悲壮感はない。国民を護る為、心を決めた男の顔をしている。

 チャビール王でさえもだ。

 ゲート魔法を発生させ、彼らが恐る恐るくぐると、そこはもう郷魔国。

 会議場から千キロ以上離れた、封印城魔王の間だ。

 皆、驚きを隠せない。

 こんな人智を超えた魔法を操る者に敵対したのかと、愕然としている。


「ようこそ、我が城へ」


 玉座に腰を下ろすと、定位置にノエルがペタリと寄り添う。

 だが、右側にいつもいるはずの踊り子姿のジト目美少女がいない。


「それで……キキョウ陛下。龍王様はどちらに……」


 人差し指を立て、唇の前で「しー」と、沈黙の合図を王達に送る。

 そして、その指をゆっくりと上方へ差す。

 王達が指の示す方向へ顔を向けると、そこには青黒く巨大な龍の頭が、こちらをじぃっと見下ろしていた。人の背丈よりも大きな牙がびっしりと並ぶその口は、中位竜ぐらい簡単に丸呑み出来るだろう。


 王達は天を仰ぎながら、まさに蛇に睨まれた蛙の如く、硬直した。


 天井の高さが千メートルもある魔王の間を見上げるたびに、あの巨大な横柱は何なのだろうと、なんとなく疑問に思っていたが、今判明した。あれは龍王リヴァイアサン専用の止まり木だ。

 まるでミドリニシキヘビのように、クロがまるっと巻き付いているではないか。


『我が宝に手を出す愚かなる王は、これで全員か……む。帝国の愚か者がおらぬな』


 クロの発する重低音に、空気がビリビリと震える。


「りゅ……龍王陛下、発言をよろしいでしょうか」

『許そう。名乗るがよい』

「はっ、人類帝国皇帝代理のセバスチャンと申します。ご指摘の愚か者である皇帝ヘンリーは、先日退位いたしました」

『逃げたか』

「はっ、お恥ずかしながら」

『貴様があの者の罪を被り、我に命を差し出すというのか』

「はい。どうか御寛恕をいただきたく、ひらにお願い申し上げます」

『キキョウ。どう、したい』

「誠実そうな人に見えるし、彼が人類帝国の新たな皇帝になるなら、赦していいと思うな」


 だって、皇帝の名前がセバスチャンって……なんか最高でしょう。


『そうか……人類帝国皇帝セバスチャン。貴様を皇帝とする事で、此度は赦そう』

「あっ、ありがたき幸せにござりまする!」


『王共よ。最も愚かなる帝国を赦した故、お前達も此度は赦そう。だが二度目は、ない』


 王達が深く深く頭を垂れ跪く中、チャビール王だけが立ったままだ。


「余は、既に二度目。龍王様、覚悟はできております」


 おかしい、本当にあれだけゴネた国のゴネール王なの?


「あなた本当にゴネ……チャビール王? 別人じゃないのかな、影武者とか」

「余は、まぎれもなく、チャビール王本人である」

「あー嘘ね。クロちゃん、この人、偽者だわ。ひょっとして人質でも取られてるとか……はいっ正解!」

「よっ余が……私が龍王様に処刑され、雨を止めないと、妻と子が!」


『チャビール愚かなり……キキョウよ、死の雨(酸雨)に変更するか?』

「んん~やっと会議も終わったし、今日はもうクロちゃんと、イチャコラしたいなぁ~」


 クロに向かって両腕を広げ『抱きしめてあげる』のポーズを取ると、頭上から大きな頭が近付いてきた。私はクロの鼻先にべたっと抱き着く。いや、張り付くという表現の方が正しいか。

 はぁ~ヒンヤリして気持ちいい。

 私達、世界一の体格差カップルだよね。あ、歳の差もか。

 そのままキスすると、全長千メートルもの巨体が、いつもの可愛いクロに戻った。

 そして、改めて抱き合い頬ずりすりすり。各国の王達、目が点である。


「今、降らせている雨は全て止めました。黒雲は消え、すぐに晴れるでしょう」

「「おおお……」」


 クロの言葉に涙流す王。気が抜けて座り込む王もいる。


「皆さん、本日は我が国にお泊りください。明日、私が国にお送りしますので」


 クロを抱きしめてたら、なんか今日はもう仕事するのイヤになった。


 せっかくなので、彼らを特別にキキョウのお宿へと招待する事にした。

 現在正式オープン前で試泊に当選した家族が数組おり、王達には申し訳ないが、二名ずつの相部屋をお願いした。突然の国賓級のお客様のお越しに、スタッフ一同が目を丸くしている。急きょ、サポート要員として城と館のメイド達にも来てもらい、万全の態勢で臨んだ。

 一度は死を覚悟した人達だ。我が国自慢のお酒と料理で、大いに歓待しようではないか。


 しかし、憔悴しきったチャビール王の偽物さんは、料理もろくに喉を通らないだろう。

 雨は止んだが、あの国への本当の制裁はこれからだし、家族も人質に取られているのだから。

 もう死にそうな顔しているので、気になる事をいくつか訊ねてみた。


 彼の名はカリム。チャビール王国の文官であり、国王の影武者だ。

 かの国に全く興味が無かったので、王の顔も知らないが、彼を見るに王は美形なのだろうか。しかし、そのぷっくり頬とぽっこり腹は、近くで見ると妙に不自然だ。私が腹を見てると、腹と頬の詰め物を外し、彼はスラリとした美青年になった。おいおい。それじゃ死んだら偽物だって即バレでしょうに。


 どうやらチャビール王は、私と会うのが恐ろしすぎて、世界会議の期日が近付いてくると、夜も眠れなくなっていたという。普段は文官で、時々影武者をしているカリムは、例の署名に強く反対した為、家族を人質にされた上で、世界会議に送り出されたそうだ。

 そして会議初日の午後、雨が降り出した。


 当初、夏季に降るはずのない大雨に、チャビール王は大歓喜した。

 しかしそれが龍王の制裁だと知るや否や、カリムに全ての責任を押し付け、死んで龍王の怒りを鎮めろと無茶振りをしたという。


 私は、日本海溝並みに深いため息をついた。


「クロちゃん、チャビール王国を併合しよう。王家には代官をさせず、平民にしちゃいましょ」

「キキョウ様のお望みのままに。愚か者の末路に、あえて死を選ばぬのも一興」


 それ、対面座位でべったりと抱き着きながら言うセリフかね。


「とりあえず、今からカリムさんのご家族を保護しましょう。しらふじ~」

「はーい」

「あっありがとう、ございます!」


 その夜、魔王も国王も宿泊家族も、そしてカリム一家も一緒に、みんなワイワイ湖畔で焼肉パーティを楽しんだ。普段よりグレードの高いお肉とお酒を出してるので、居合わせた家族達はラッキーかも。


 翌日、王達にラビットピアを見学してもらった。

 私がどれだけ本気で兎人族を保護しているのかを知って欲しいからだ。

 見た事もない様式の立派な家屋と街並みの素晴らしさに、王達は感嘆した。

 おかげで帰国後、自国内の兎人族の状況を調べ、場合によっては保護し、郷魔国へ送ると確約してくれた。


 ふと思い出し、兎人村の勇者襲撃の件をアドコック王に問うと、逆に驚かれてしまった。

 村の位置はリリィとの約定で国家機密なのだという。経緯を調査し関係者を厳罰に処すと約束してくれた。

 それと嫌がらせ求婚の事も訊いてみたが、求婚が始まった理由は不明で、王族の慣例なのだという。私にはクロがいるので、次はもう冗談では済まないと念を押しておいた。とんでもない慣例もあったものだ。


 そして、リリィの心が戻った事を心から祝福し、その原因となった二十年前の王族の愚行を深く謝罪してくれた。リリィの件とハンズフリー王子の事もあり、アドコックは頭のおかしい国かと思っていたが、この王様は常識人で大変好感が持てる。



 今回の署名騒動は帝国による恫喝もあるが、各国の不安定な食糧事情も起因している。

 現在、農地利用に限り、我が国の未開発地域を貸し出す検討をしている旨を王達に伝えた。開墾する必要はあるが、格安で肥沃な農地を利用できるのだ。穀物を輸入に頼る国々には魅力的な提案だと思う。我が国は輸出量と収入が減るが、その分を畜産業にシフトするつもりなので抜かりはない。

 まだ一部の地域でしか出回っていないブヒやモウ、ケッコウを育て、肉や卵、乳製品、革製品を国内外に安定供給させたいのだ。いくらお肉が美味しくても、アリゲーばかりではね。人はアリゲーのみにて生きるにあらずと言うし。


 その後、王達に健康の加護やうさ蜜などのお土産をたくさん持たせ、ゲートにて各国の城や官邸へ送った。

 カリム一家には、チャビール王国が消えるまで、しばらく館に滞在してもらうつもりだが、ラビットピアに移住してもらうのもいいかもしれない。


「しらふじ、帝国のセバスチャンさん。暗殺されないように護ってくれる?」

「りょうかーい」



 郷魔国の西部に位置するチャビール王国。

 かつて砂漠の国と呼ばれていたが、それも今は昔。

 広大なトバード砂漠は、賠償金代わりに郷魔国の国土となったのだ。

 最近、砂漠が莫大な資源の宝庫であった事実を知り、チャビール王は狂ったように枕へ八つ当たりしたらしい。

 チャビールが砂漠地域を失っても、乾燥したステップ気候の貧しい小国なのに変わりはない。

 おもな産業は放牧で、遊牧民が人口の半数を占める。彼らからすれば、王族や首都に住む者達など、税と称し馬や羊毛を奪い、安く買いたたく、盗賊と大差のない存在だ。

 今日も彼らは痩せた土地を耕し、羊たちは鈴をチンチンを鳴らし、黙々と牧草を食むのであった。


 ズドォォォンッ!!

 突如、王宮が揺れた。柱にヒビが走り、女官達が悲鳴を上げる。

 王宮倒壊を恐れ、我先にとチャビール王が外へ飛び出すと、驚く程巨大な四翼の白龍が金と紫の瞳で、こちらを見下ろしていた。

「ひいいいいっ」悲鳴を上げながら無様に尻もちをつき、後ろへでんぐり返る王。

 龍が右手を差し出すと、そこには白い巨人が、見た事もないゴーレムが乗っているではないか。

 目の前に降り立ったゴーレム内部より現れたのは、チャビール王が絶対に会いたくない、白き髪の美しき鬼人の娘だった。


「ごきげんよう、チャビール国王陛下。魔王キキョウです。侵略に来ました」

「ひえ……」

「抵抗は無意味です。この場で潔く死ぬか、国を明け渡すか、今選んでください」


 その日、チャビール王国は、郷魔国チャビール地方となった。



「もしも~友と呼べるならぁ~♪」


 いつものように乾いた大地を耕していると、驚くような大雨が降り出した。

 恵みの雨と思いきや、あまりにも雨量が多く異常だ。

 いつもの道が川になっている。

「ちょっと畑の様子見てくる」外へ出ようとした爺さんを全力で止めた。

 そんな大雨がやんだ数日後。突然、頭の中に女性の声が響いた。


「こんにちは、郷魔国魔王のキキョウです。チャビール王国は本日をもって終了しました。国土は郷魔国に併合され、皆さんは私の国民となります。さて遊牧民の皆さん。緑豊かな土地へ引っ越して、畜産業を始めてみませんか?」



 閑話


「突然ですが、龍の里と上位龍について話しましょうか」

「クロちゃん、突然どしたの」

「龍の里はエルフの国のある蝶の左前翅の大陸の深い森の中にあります。住まうの人化できる上位龍が大半で、普段は人の姿で人族と同じように暮らしています」

「へぇ、てっきりドラゴンの姿で暮らしてるのかと思ってたわ」

「人口は三千人程で、基本的に里の外にあまり出ようとしません。現在、外にいる上位龍は、見聞を広めるために旅行中の変わり者か、里でトラブルを起こし、追い出された者ですね。たとえばコントアローが良い例でしょう」

「……誰だっけ、私の知ってる人?」

「ラビットピアで串焼きやダンゴを焼いてるではないですか」

「あ、トントローさんか。てっきり本名だと思ってたわ」

「彼は里から追い出され組ですね。他にも冒険者のまね事をしたり、用心棒をしたり、あまり素行の良い者はおりませんね」

「ああ、トントローさんも初めは、郷魔国を攻める軍勢に居たんだっけ。でも、上位龍って勇者数人分とか言われてるでしょう? そんなのが無秩序に暴れたら大変じゃない?」

「はい、ですので、そういう愚かな龍が出た場合、取り決めがあるのです」

「どんな?」

「人に害をなす上位龍は、魔物として狩ってよいのですよ」

「そうなんだ。実際に狩られた上位龍っているの?」

 おりますよ。もう1000年以上前の事ですが、前世のあなたに求婚して断られた者が暴れまして」

「えええっ、私が原因? それで狩られちゃったの?」

「はい、滋養があるお肉ですから、みなさんで美味しくいただきました」

「……それ、私は絶対に食べなかったよね」

「はい、頑なに。ですので後日、何の肉かは伏せてお召し上がり頂きましたよ。それはもう、美味しい、美味しいと……」

「こんちくしょう!」

今の閑話が後書きだったのに……(クロ)

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