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ラヴィンティリスの白き魔王ですが、ユリハーレムに龍王や宇宙戦艦がいる件について語りますね。  作者: 烏葉星乃


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第4話 キョウカの置き土産

 この蠱惑的な少女との前世の関係は、記憶も無いし、依然として不明のままだ。

 しかし私は、このクロの事がすごく好きだし、出会って間もないのに絶対に手放したくない。

 心からそう思っている。

 だから私は前世の事を考えるのはやめて、今の気持ちを優先する事にした。

 私って、どちらかと言えば男性より女性の方が好きな感覚はあったけど……ここに来てから、どうもそれが顕著になった気がする。


 木道の終点には、大きな湖に面した露天風呂があった。

 橙色から紫色へとグラデーションする鮮やかな空や、遠くに見える青っぽい山脈。

 自然豊かな森の木々が湖面に映る様は、まさに絶景だ。

 しかし、ここには城も城下町も見当たらない。


「クロちゃん、ずっと気になってたんだけれど、ここはどこ? お城はどこかな」


 振り向くと、クロはすでに全裸で準備万端だった。胸の膨らみは辛うじてあるが、腰のラインは適度に女性的な曲線を描き、腰骨がとても良い仕事をしている。


「ここはダンジョンですよ。城内に作られたダンジョン空間です。ダンジョンって分かりますか?」

「ダンジョン……魔物とか宝箱のある洞窟とかの?」

「よくご存じですね。ここは私が管理者であるダンジョンマスターとなり、キキョウ様が心安らかにお過ごし頂けるよう構築した“キキョウの館”という名のダンジョンです。ちなみにダンジョンコアは館の中庭にある社に……それよりキキョウ様、お風呂入りますよ。脱いでください。早くっ」


 とても興味深い話なのにクロが急かすので……まぁ後にしよう。

「あれ……」私は服を脱ごうとしたが、ボタンもファスナーも見当たらない。


「ねぇ、これどうやって脱ぐの?」

「それは魔装なので『脱ぎたい』と明確に念じてください。装着前に着ていた服装に戻りますから」


 言われた通り念じると――ボユンッ! 乳房が弾けた。


「な……なんで、はだか……?」


 なぜか私は全裸になっていた。

 身に着けているのは、魔法珠というシンプルな腰飾りのみ。キョウカが着ていたであろう服や下着はどこ? もし公衆の面前だったら大惨事世界大戦だよ。動画拡散で人生終了しちゃう。


「ああ~キョウカは無精な子でしたから、再召喚すれば洗濯せず済むからと魔装を普段着にしてましたね。そういえばあの子の普段着姿なんてここ百年以上見てないような」

「うわー……」


 キョウカ……女子力ゼロの残念娘だった。

 あっちの世界でどんな暮らしをするのだろう。ジャージとか喜んで着てそう。ああ、ジャージは楽ちんなので、私も大好きだったけどね。病院じゃずっとジャージだったし……ここではもう着る事もないだろうな。


「さぁキキョウ様、こちらに座ってください。髪を洗いましょう」

「はいはい」


「ふわぁ~」こんないい温泉に浸かれるなんて初めてかも。

 ああ~お湯がとろとろだよぉ。お風呂なんて病院では時間制限があるからシャワーがほとんどだったもの。クロに洗髪され、体中洗われ、私もお返しに洗ってあげて、ちょっぴりエッチな事もしたりして、身も心も色々すっきりだ。

 火照った肌を優しく風が撫でる。刻々と表情の変わる空の下、お互い寄り掛かりながら異世界の温泉を堪能した。


「クロちゃん、後にしようと思ってたけれど今教えてほしい」

「なんでしょう」

「キョウカが私に託した案件って、なに?」

「ああ、それですか。無視しても特に問題ございませんよ」

「新たな龍王のせいで世界が危機に瀕してるって、キョウカが言ってたのに?」


 首をひねり、そんなの知りませんよ? みたいな顔をするクロ。どゆ事。


「なにやら齟齬があるかもしれませんので、少し長くなりますが、初めからお話ししましょうか」


 岩に腰を下ろし、クロがゆっくりと語り始めた。


「およそ千二百年前。四つの大陸と大海、この五つの領域をそれぞれ支配する五柱の龍王がいました。その中で、最も歳若き天空龍バハムートが突如狂乱し、わずか数日で世界人口の半分を滅ぼしたのです」


 世界神の誓約により龍王同士はまともに戦えず、誰もバハムートを止める事が出来ずにいた。そこに現れたのが魔王の称号を持つキキョウと親友のドワーフ勇者ノノ、聖女ミモリの三人。

 更に勇者であるエルフ王と獣人の王、そして商人魔王が加わり、かろうじてバハムートを世界樹の根元に封印する事に成功。その地にキキョウを初代魔王とした郷魔国が建国された。

 その建国時、龍王リヴァイアサンが全世界に向け布告した。


 この地に手出しする愚者に死を。


 時は流れ、今から三年ほど前。

 突然、郷魔国の北に位置する大国アルス王国が、郷魔国に流れ込む河川の多くを上流で堰き止めてしまったのだ。キョウカが強く抗議するも暖簾に腕押し。そうしてる間にアルス王国は、大量の水が溜まった堰を開放する暴挙に出たのである。

 こうして郷魔国は未曽有の大洪水に見舞われ、河川流域に住まう国民の約二割に当たる十八万もの人命を失ってしまったのだ。


「さて、そこで一番激怒したのは誰でしょうか?」

「クロちゃんね」


 クロの問いに、私はすかさず答えた。


「ご名答、何年経とうが龍王の布告は絶対です。郷魔国はキキョウ様の物。そして私の宝……龍の宝に手を出す愚者は死、あるのみですよ」


 クロ、顔がめっちゃ怖い。何やら黒いものが体から漏れ出てる気がする。


「見せしめにアルス王国の国土のすべてを腐らせ、国民の全てをヘドロの海に沈めるつもりだったのですが、それをキョウカが必死に止めるのですよ。仕方なく三年間の猶予を与えました」

「ヘドロ……」

「期限内にアルス王国に相応の償いをさせれば制裁を取りやめると約束し、その代償として私と一緒に寝たり、一緒にお風呂入ったり、ちょっとだけ性的な事をしたり、させたりしました」

「お…おう……」


 キョウカよ……あなたは頑張ったんだね。えらいよ。あとは私に任せなさい。


「それで、その期限はいつなの?」

「三月一日ですから、あとひと月半程でしょうか」

「それ……私も代償払うから延びないかな」

「だめです」

「……それは意地悪とかじゃなく理由があるのよね?」

「はい、この国の穀物備蓄が今年の分しかありません。この春から稲作を行えないと民が飢え、年を越せません。今も定期的に洪水を起こされ、荒れた稲作地帯に手を入れられずにいますから、もはや猶予はありませんよ」


 キョウカから引き継いだのものは、小娘の私にはかなり荷が重そうだ。

 私は夜の色へと変わる空へと両腕を伸ばし、手のひらを広げた。


「でも、ご自分でやるのですよね?」

「やる。出来る限りやる。まずは自分の出来る事を把握しないと」

「お手伝いしますよ」

「ありがとう……まだ知るべき情報も少なすぎるわ。例えば大国だというアルス王国の規模とか、まず敵を知らないとね」

「そうですね、アルス王国は人口約五百万、国土は広大で世界一の面積を誇り、穀物生産は世界生産量のおよそ四割以上を占める農業超大国です。対して郷魔国の人口はおよそ八十万で国土は――」


「え……」

「キキョウ様?」


 世界生産量の四割以上って、そんな世界の食糧庫みたいな国が突然国土ごと消えたら……食料をめぐって世界中で戦争が起こるのでは?


 つまり……キョウカの言う、新たな龍王による世界の危機って……


「クロちゃんの事じゃん!」

「何の話ですか?」


 こてっと首を傾げるクロはとてつもなく可愛かった……いやほんと可愛いいんだよ。


「大きな疑問があるのだけど、なんでアルス王国は龍王の布告に背いたのかな。普通に考えてそんな無謀なリスク犯さないでしょう。時が経って忘れただけ?」

「アルス王国の言い分は、不当に低い税に惑わされ、我が国の民が郷魔国へ流出している。民の返還と増税に応じない郷魔国に正当な制裁を課した。だそうですよ」

「なにそれ。その税率ってどのぐらいなのかな」

「アルス王国の税率は一番酷い領地で八割ですね。うちは二割です」

「八割って、どうやって生活するの?」

「生活できないから逃げ出すのですよ」

「だよね。自業自得じゃん」

「はい。それと、あの王は」

「あの王は?」

「私を、龍王を、舐めているのですよ」

「なにその命知らず」

「各大陸を支配する龍王達は、人々にほとんど干渉しませんから。バハムートの封印にさえ手を出さなければ、私が何もしないと思ってるようです」

「はぁ……そうなのね。クロちゃん、アルス王国に出向いて叱る気は……多分ないよね」

「はい、ないですね」


 いい笑顔のクロ。制裁する気満々だ。


 再び湯に浸かりながら、私は心に棚を作り、そこへ重々しい諸々をドカっと置いて、ゆっくりと星が瞬き始める空を眺めた。


 お風呂から上がると――さて困った。着る服がない。

 風呂上がりに再び魔王服を着るのは嫌だなぁと立ち尽くしてると、クロがシルクのバスローブを着せてくれた。


「館にキキョウ様の宝物庫があります。そこには転生したあなたの為に用意されたドレスをはじめ様々な衣装がありますから、これからお好みの服を選びに参りましょう。きっとその数に圧倒されますよ」

「うんっ!」


 好きな服を自由に着れる日がくるなんて、おしゃれと無縁の人生を歩んでいたから凄く嬉しい。でもジャージはないだろうな。


 館に戻ると、文字通り胸を躍らせながら四階へと向かった。ぽゆんぽゆん。

 この館、全体的に古い英国様式に見える。しかし四階に上がると、突然和風な空間が広がった。和式ではなく和風。これは前世の私の趣味だろうか。今の私が見ても、とても魅力的に感じる。


 まず土間のようなつくりの玄関が私を出迎えてくれた。

 なんとも落ち着く空間だ。囲炉裏が目を引く寄木細工の板の間に上がり、最初のふすまを開けると掘りごたつのある畳敷きの部屋があった。その奥には書斎や執務室にドレッサールーム、寝室があり、和風の天蓋付きのベッドはとても素敵だ。

 ちなみに四階の半分は洋間で、下の階の洋間より数段豪華な、王族の住まうような空間が広がっていた。


「はぁ~この和室、すごく好きかも……」


 ほのかに畳の香りが漂っている。今日からここが私の家か。

 気に入らなければリフォームすると言うが、とんでもない。


 ペタペタペタ。


 クロは外でも部屋でも変わらずペタペタ素足のままだ。さすがに気になり訊ねてみると、彼女の足はどこを歩こうと、全く汚れないらしい。

 まるでどこぞの猫型ロボットのようである。

 たわいのない会話をしているうちに最奥と思われる壁の前に到着した。

 そこには魔法陣のような文様が刻まれた黒と紫、二つの重々しい雰囲気の扉が並んでいた。


「これらの扉は、キキョウ様と私だけが開く事が出来ます」


 クロが紫の扉に触れると、魔法陣が淡く光り、からくり細工が解かれるようにカタカタと四方に扉が開いてゆく。扉の奥は暗闇だったが、足を踏み入れるとぱぁっと明るくなり、とても広い空間に驚く程大量の財宝が整然と並び、キラキラと輝きを放っていた。

 ここは空間魔法で作られた部屋で、館の床面積より広いらしい。


 超一級品と思しき刀剣や鎧、色取りどりの魔導師のローブなどの武具。お城で使われていそうな豪華な家具。そして多種多様な美しいアクセサリーが並ぶ中を、まるで博物館や美術館をふらふら徘徊するモードになっている私の手を握り「ほらほら、あっちですよ」グイグイとクロが引っ張ってゆく。

 手を引かれ向かった先には、花園の如くドレスが咲き誇る巨大なドレスルームがあった。

 もう圧巻過ぎて言葉も出ない。ポカンとしているとクロが普段着用にと豪奢なドレスを何着も選び始めたので、いそぎ止めた。


「クロちゃん、こういうのはいいから、気軽に着れる普段着が欲しいんだけど」

「え、これ普段着用ですが……」

「うーん、前世の私はどんな服を好んでいたのかな。でもさすがに畳部屋や掘りごたつでドレスはないでしょう?」

「時々着てましたが、そうですね……あの部屋に似合うのは、あちらにある鬼衣や浴衣でしょうか」

「鬼衣?……ああ着物ね。綺麗だし、それもいいけど……あ」


 さっき武具置き場で目を引いた、白いローブを羽織ってみた。軽くてとても動きやすく不思議なぐらい体になじむ。袖や裾などに施された刺繍の紫がとても美しい。そして驚いた事に、フードの内側に空間魔法が付与されており、角が隠れる仕様になっている。


「これいいかも。これにする! 私のパーソナルカラーっぽいし」

「はい、とてもお似合いですよ。キキョウ様は付与魔術師ですから、そのローブは正装として公の場でもお召いただけます。ただ……」

「ただ?」

「裸ローブは感心しません。もし公衆の面前で、ポロンペロンとやらかしたら大惨事ですよ。目撃者は私が根こそぎ輪廻に送りますからね」

「はい……」


 笑顔なのに笑ってないクロに、下着とローブに合うショートブーツを選んでもらった。ローブの下に着る服も探そう。ここには普段着になりそうな服もあるようだし。


「他に気になる物がございましたら魔法珠に入れておくといいですよ」

「魔法珠? ああ、これね。これひょっとして魔法の鞄的なやつ?」

「はい、勇者や魔王が利用できる最上位ストレージ装備です。私のはこれですね」


 クロの魔法珠は、左手中指に輝くアクアマリンの指輪だった。ちなみに私のは紫水晶の腰飾りだ。勇者と魔王の魔法珠は、すべて腰飾りらしい。


「あ、うっかりしてました。前世のあなたから預かった物をお返しします」


 私の腰飾りにクロが指輪を近付けると、何やら大量に送り込まれて来るのを感じた。露天風呂で魔装を解除したときの要領で意識を集中すると、魔法珠内に何が入っているか手に取るように解る。一番多いのは……金貨がカンストしてる。一体どれ程の額なのか。他に……これは……


「クロちゃん、キョウカの私物が入ってたよ。どうしよう」

「処分してかまいませんよ」

「いやいや。さすがにそれは駄目でしょう、人として。あ、クロちゃん龍だった」


 もうキョウカと逢う事はないかもしれないけど、わたし的にそれはない。もしもの時の為に混ざらないよう注意しておこう。えーと金貨二万枚に……かつ丼、カルビ丼、きじ焼き丼、かき揚げ丼、肉料理にお菓子がいっぱい。食べ物がほとんどだった……


 処分してもいいかな、胃袋的に。



 ◇ラヴィンティリス豆知識◇


 郷魔国の魔都ミモリ中心にそびえ立つ封印城は、世界樹を加工した巨塔の城だ。

 龍王バハムートを封印する装置であり、実は城ではない。


 本物の城は、塔内部に作られた直径十キロのダンジョン空間の中心に、柱のように建っているのだ。

 直径四百メートル高さ二百メートルの城の名は郷魔城。通称は柱城はしらじろだ。

 その城を中心に、城勤めの者達が住まう居住区、商業区、鍛冶区があり、地方都市レベルの街が広がっている。さらに周囲には川や森もあり、このダンジョンには、およそ三万五千人が生活している。その四割がドワーフ族だ。

 ちなみに封印城前の城下街にある扉から出入りできる。


 これとは別に、魔王の間も独立したダンジョン空間である。城正面の高さ七十メートルの大扉が入口で、内部は直径三百メートル、高さは千メートルもある縦長の空間が広がっている。その最上部に何があるのかは、誰も知らない。

 魔王の間と柱城は繋がっており、普通の城のように臣下が行き来している。


 ちなみにこれら二つのダンジョンマスターとコアの位置は非公開だ。


 キキョウの館も上記二つと同様、独立したダンジョンで、龍王リヴァイアサンがダンジョンマスターをしている。直径はおよそ十三㎞、中央に大きな遠浅の湖があり、全体の七割が森林だ。ちなみに湖中央の深みに淡水棲の上位龍が住んでいる。

 遠方に美しい山脈が見えるが、そこへ行く事は出来ない。

 湖畔にあるキキョウの館の中庭に世界樹が生えており、これを外部から護り育てるのも、このダンジョンの目的の一つだ。

 魔物も住んでいるが、無害なスライムや角兎、毛亀が生息する。

 ダンジョンマスターが放った、食肉用野生動物が自然に増えており、時々間引いて市場に卸しているらしい。

 宝箱もいくつかポップしてるが、中身は期待してはいけない。

 キキョウの館ダンジョンは、ポータルと呼ばれる転移ゲートのみが唯一の移動手段だ。外部と隔離されており、認証された者以外出入りできない。


 このように封印城は、三つのダンジョンコアによって構成される、他に類を見ない城なのだ。ちなみに、封印城周囲のお堀は天然のダンジョンだが、その存在は龍王リヴァイアサン以外誰も知らない。

 四話まで読んでいただき、ありがとうございます。(キキョウ)

 あれ、こんな所にメモ書きが……えーと。

『とても重要な事をお知らせします』ゴクリ……

『この先、劇中でのお風呂はすべて、今回の露天風呂の事を指します』

 は?

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