表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラヴィンティリスの白き魔王ですが、ユリハーレムに龍王や宇宙戦艦がいる件について語りますね。  作者: 烏葉星乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/70

第36話 アリゲー祭

 水辺に生息するワニに似たアリゲーという魔物がいる。

 とても厄介な魔物だが白身の淡白な肉はとても美味だ。河川や池沼の多い郷魔国では、肉と言えばアリゲーという身近なたんぱく源でもある。

 封印城周囲、高い柵に囲まれた天然のお堀。ここは人が落ちたら絶対に助からない、世界最大の白アリゲー生息地だ。

 ここに平気な顔をして潜れるのは、龍王リヴァイアサンぐらいなものだろう。


 ほの暗い水底から見上げると、何匹もの巨大な白アリゲーが悠々と泳いでいる。

 そんな光景を眺めながら、湖底をふわりふわりと歩くクロ。

 岩陰に隠された宝箱を開けて中身を取り出す。万能薬エリクサーだ。


「ふむ」

 

 どうやらエリクサーに興味はないようだ。

 このお堀、正確には湖なのだが、実は水中型のダンジョンだ。

 こんな街中にありながら、誰もその存在に気付かない、その名も『クロのひとりじめダンジョン(クロ命名)』という。

 半年おきにポップする宝箱を開けて歩くのが、彼女の密やかな楽しみの一つである。

 このダンジョンの宝箱の中身は龍族が好む宝石類が多く、エリクサーは四年に一度ポップするレアアイテムだ。

 ここを発見して以来、千年以上独占してる彼女の魔法珠には、既に二百本以上のストックがあった。

 ちなみにエリクサーの市場価格は、およそ金貨千枚程。日本円換算で一億円。ダンジョン探索を生業とする冒険者にとって、一攫千金のアイテムの一つである。


「これが最後……うお、アレキサンドライトの原石ですか。この大きさ、ここ数百年で一番の大当たりですね」


 ザバァっと水面から飛び出し、アリゲー漁組合の水揚げ場にクロが着地すると、ムキムキな漁師達がそろって少女のように悲鳴を上げた。それは仕方ない。いきなり堀から全身をアリゲーに食いつかれた少女が現れたのだから。ぶるりと振り払うとアリゲー達は地面に落ちて動かなくなった。

 アリゲーは水から出ると動きを止める魔物で、この習性から「まな板の鯉」的な慣用句がある程だ。


「お嬢ちゃんか、相変わらずだな」

「うん」

「大アリゲーの様子はどんなだった?」

「多いですね。今年の祭は盛り上がりますよ」

「おおっ、張り切らせてもらうぜ」


 どうやらクロは漁業組合長と面識があるようだ。

 クロは軽く言葉を交わすと城の方へと歩いて行った。


「な…なんすか……あの娘」

「触らぬ神に祟りなしって奴だ」


 アリゲー祭とは、アリゲーを釣り上げ、その場で解体し、皆で美味しくいただく祭りだ。

 元々は増えすぎたアリゲーを間引くのが目的だったが、いつの間にか祭りになっていたという。例年、七月頃になると各地で自主的に催していたが、今年は日取りを決め、国中そろって開催する事になった。


『それでは、郷魔国歴1221年のアリゲー祭を開催します! みんなケガには気を付けて楽しみましょう。あ。大階段から見物してる人達、落ちないようにね。今日はアリゲーを食べるお祭りなのに、逆に食べられちゃうよ』


 キキョウが念話で祭りの開催を全国に宣言した。

 各地で早速、アリゲー釣りが始まる。鈴の付いた頑丈な釣り針を池に放り込むだけで、バカみたいに簡単に釣れるのだ。それを綱引きの要領で引き上げ、大きな鉈包丁で、ザックザクさばいてゆく。

 元々アリゲーの生息数が少ない北部の大都市には、魔都であらかじめ捕えておいた白アリゲーを配ってある。ズドンと横たわる巨大なアリゲーを前に、大人も子供も大盛り上がりだ。


『私、まさか初めての釣りが、ゴーレムに乗って魔物を釣る事になるなんて』


 魔王キキョウが白鬼弐式に乗り込み、ヴァルバロッテが朱羅を、新参勇者のストロガーノがアルデバランを身に纏い、お掘りに面する城下広場特設会場で順々に釣りを開始した。

 たくさんの子供達に応援されながら、白鬼が二メートル近くある巨大な釣り針を堀にドボンと投入し、少し待つと――


『うわっ! かかった。はわっ凄く重っ!』


 だが、白鬼ではパワー不足なのか、各部関節のモーターが空転しキュルキュルと悲鳴を上げ、まったく引き上げられない。そこを朱羅が手伝い、なんとか巨大アリゲーを釣り上げる事に成功した。

 しかし次のストロガーノは、アリゲーが針に食いつくと「ふんんっ!!」カツオの一本釣りのように一気に釣り上げるのだった。空を舞い落下してくる巨体を両腕でドシンと受け止めて見せると、大歓声が上がった。ベルテの隣にいる白い髪の王子も大喜びだ。

 

 釣り上げた二十メートルを超える大物アリゲーの頭をヴァルバロッテが鬼刀で刎ねると、漁協のムキムキ達が慣れた手つきで皮をはぎ、猛烈な勢いで肉にしてゆく。

 それを待ち構えていた大勢の料理人が豪快に焼き、待ってましたと客が豪快にかぶりつき、冷えたビールをぐいぐいと豪快に煽るのだった。

 私も串焼きやステーキ、から揚げに舌鼓を打ち、念話で食レポする。


『うんまっ! すごい柔らかいね。脂が甘くてとても美味しい。ビールにあうわ~』


 その後、百人ものムキムキ達が、まるで綱引き大会のように大型アリゲーを釣り上げたり、串焼きの大食い勝負をしたり、創作アリゲーダンスを披露したりと、様々な催しが続いた。

 この文面だと、すべてムキムキ達が披露したと誤解されそうだが、誤解ではない。


 途中、しらふじがリベンジに燃え、修理を終えた白鬼壱式で飛びながらアリゲーを釣ると言い出した。

 苦笑しながら了解したが、私は白鬼には乗り込まずにノエル達と串焼きをモグりながら、しらふじを応援する事にした。がんばれ~。


 「見せてやろう、ボクの白鬼壱式Ver.2.0の力とやらを!」


 新たなる白鬼壱式が力強く空を舞い、釣り針を投下した。

 そして、見事アリゲーを釣り上げ――られず、水中に引きずり込まれるのであった。ブクブクブク……無念。

 しかし、それはそれで、会場は大いに盛り上がった。


 皆の笑顔に囲まれながら、キキョウは思った。「あとが怖い……」


 そんな愉快なトラブルもあったが、アリゲーはどんどんムキムキに釣り上げられた傍から捌かれ、ブロック肉が普段よりずっとお得な価格で民に買われてゆく。肉が足りないと連絡してきた都市に追加のアリゲーを転送し、最終的に十六匹の大型白アリゲーが釣り上げられるのだった。

 各地でも祭りは大成功を収め、北部の民にもアリゲーの味を知ってもらい、需要を増やすという目的も果たせそうだ。



 ◇ラヴィンティリス豆知識◇


 アリゲーは魔物である為、生物学的な分類は出来ないが、識者によると、二種類いると言われている。口を閉じると上の牙のみが見えるのがアリゲー。下の牙も見え、海にも生息するのがコロダールだ。

 基本的にどちらも獰猛で、水中から出ると動かなくなる性質も同じだ。コロダールは一般的に、海アリゲーや黒アリゲーと呼ばれている。

 そして郷魔国魔都に生息する白アリゲーは、視力が弱く音に強く反応する性質を持ち、洞窟奥の地底湖などに多く生息している種らしい。


 獰猛かつ食欲旺盛なアリゲーの体内には、胃らしき臓器はあるものの、不思議な事に中はいつも空なのだ。こんな話がある。アリゲーに丸飲みにされた子供を救おうと、すぐ捕らえ腹を裂くも、なぜか胃の中は空だったという。子供は一体どこへ行ったのだろうか……

 

 アリゲーは一定の水位かつ水量がある場所に「発生」する。これが最も厄介な特性だ。

 幸い、水田レベルでは発生しないが、ため池だとほぼ確実に湧く。どこかの王宮の噴水に湧いた事例もある。

 この世界で水遊びという概念が無いのは、まさにこの為だ。それに魔物以外でも水辺には、肉食魚の筆頭ニャンピラなどの獰猛な水棲生物が生息している。

 そちらの世界のアマゾン川には、ピラニアより恐ろしい肉食魚がいるので、川に入る時は注意しましょう。尻と尿道に入り込まれるので、ガードは忘れずに。


 やぁ、いつも読んでくれてありがとう!

 僕、いや俺はアリゲー漁師のジョヴァンニ。

 筋肉ムキムキだか、こう見えて某国の第二王子なんだ。

 子供の頃から王位争いが酷くてね。毒殺されかけた俺は、国から逃げるようにキキョウ学園へ入学して、寮で成人まで暮らしたんだよ。

 郷魔国に来て二年目ぐらいだったかな、城のお堀のアリゲー漁を見たのは。

 いやぁすごかった。筋骨隆々の男達が大勢そろって汗をほとばしらせ、巨大なアリゲーを堀から引き上げるんだもん。そこで漁師飯を御馳走になったんだけど、アリゲーの肉汁がじゅわぁぁって、素晴らしく美味かったんだ! 

 あの味が忘れられなくてね、卒業後の進路は一択だったよ。君もどうだい?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ