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ラヴィンティリスの白き魔王ですが、ユリハーレムに龍王や宇宙戦艦がいる件について語りますね。  作者: 烏葉星乃


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第31話 リリィメレルと兎人族の村

 二十年ぶりに目覚めると、あーしを取り巻く世界は、がらりと変貌していた。

 魔弓イノゥバに全部丸投げして、あーしは目も耳も塞いで眠りに就いていたんだ。

 どうなろうと全部自分の責任だ。

 こんなあーしに、イノゥバをどうこう言う権利はない。

 それに、耳が元に戻ったのは、心から感謝してる。

 でもさ、女魔王のハーレムの面子になってるって、これも自業自得なのか?


 その日、魔王様に命じられ、あーしとイノゥバは、互いがうまく暮らせるよう共存の妥協点を話し合った。

 魔王様が言うに、イノゥバは人間と同等の存在へと進化した為、今のあーしの体には、二つの魂が宿っているのと同じ状態だという。


 つまり簡単に言うと、目覚めたら進化した魔装に自分の体が奪われかけていた。

 これが客観的事実だ。しかも新な契約主は、絶対的強者でイノゥバの恋人だ。

 一方的な譲歩を迫っていいはず。なら、こんな話し合いなんて無意味だろ。 

 頭ごなしに命令すりゃいいんだ。「お前は寝てろ」と。


『だったら、あーしをあのまま眠らせておくのが、手っ取り早いだろ』

『マスター落ち着いて、ケンカ腰はよくないです』

『うっせ。事実だろうが』

『確かに、今のような面倒なやり取りをせず済みますね。でもそれでは……』

『それではなんだよ、体裁が悪いか? 世間体か?』

『マスターがいつまで経っても、辛くて悲しいままではないですか』


『あ…………』


 全然、客観的事実ではなかった。全く違う。

 あーしが逃げていた最低最悪の現実を、イノゥバは全部あーしに押し付けられたんだ。

 本当ならこんなマスター見限って、乗っ取ったっていいはずだろ。

 なのに、律儀にずっと辛い世界から、あーしの事を護ってくれていた。

 こんな自分勝手で最低なあーしの為に、二十年もだぞ……


『私も立場を弁えてるつもりです。無理のない範囲で自由を頂ければいいんです』

『…………わかった。お互い幸せになれるよう、やっていこう』

『よろしいのですか?』

『ああ。イノゥバ、今までありがとう。これからもよろしく』

『マスター……何か変な物、食べましたか?』

『お前、ひどくね?』


「おや。二人とも、納得ゆく話し合いが出来たみたいね」

「はいっ、これでキキョウ様とまたエッチできます。次回は私が攻めでいいですか?」

「うふふ、いいよぉ」

『おいぃぃぃっ!』


 その後、イノゥバに魔王様の素晴らしさを延々と語られ、ハーレム入りを強く勧められた。

 いやいやいや。確かにあーしは、男なんてクソの付く程大嫌いだよ?

 だからって、んじゃ女なら~って、そんな単純な話じゃねーし。

 全力で拒否ったのに、保留って事にさせられた。解せねぇぇぇ。

 それにしても、ハーレムの面子、龍王とか女神とか、とんでもねぇ方々ばかりだ。

 しかもイノゥバと同じ、自我のある魔装しらふじちゃんも居るし。

 あいつ、ちゃん付けしないと怒るんだよ。イノゥバは、様付けで呼んでるけど。



「魔王様。実は……二十年ぶりに実家に顔出してみようと思うんです。イノゥバが生活必需品を運んで、時々実家に行ってたんですけど、あーし……アホみたいに寝てたんで」

「久しぶりの里帰りだね、場所はどの辺?」

「アドコック王国と獣王国の間にある秘境で……」

「じゃあ、行こっか。クロちゃんとノエルも行く?」

「あそこは、龍王ペンが近いのでやめておきます」

「わっちは、どこでも一緒です」

「ああ~、耳のデータ取ったあの兎人族の村ね。ゲートの座標送ったよ」

「ありがと~ゲート!」

「はいぃぃぃっ!?」


 この魔王様、とんでもねぇ御仁だわ。

 一瞬で隣の大陸の秘境にある、兎人族の隠れ里に着いてしまった。

 本来ならいくつも深い谷を越え、絶壁を登らなにゃならん難所なのに。

 ゲートを潜ると、粗末な家々が並ぶ、懐かしい村の広場に到着した。


「なんだよこれ……」


 村はまるで、戦場のような有様だった。

 焼け焦げた臭いの中、悲鳴や泣き声があがり、懐かしい広場には多くの兎人達が倒れ、傷付き苦しんでいた。


「いったい何が……あんたっ、何があったんだ! あっ、おばちゃん?」

「リリィかい? 勇者だよ。二人組の勇者が襲ってきて、子供達を攫ったんだ。村長も大怪我してるよ、早く行ってやんな!」


 おばちゃんは、布を抱えてケガ人の元へ走って行った。

 大怪我をした人達が寝かされた広場の一角で、母親らしき遺体にすがり、泣き叫ぶ子の姿が目に入る。なんて事だ……くそ、あの国。あーしが居なくなったから、村に手ぇ出したのかよ。

 今のあーしに何ができる? 混乱して何をしていいか、わかんねぇ!


『マスター、落ち着いて』

「ここは私に任せて、リリィはご家族の元に行きなさい。ノエルは火事を消して。しらふじは全体の被害確認とリリィ宅へ。私はここで死者蘇生するからサポートお願い。ああ、あと敵の現在位置を――」


 魔王様すげぇ。

 テンパりながらも自宅へと向かうと、おやじと弟が横たわっていた。

 なんてこった……おやじの右腕と右足が無ぇ。

 弟のリトリは、肩からザックリやられて……生きてるのが不思議な程だ。


「リ……リリィかい?」

「母ちゃんは……無事か……どうしよう。せっかく来たのに、あーしなんにも出来ねぇよ」

「いいんだよ、よく帰って来たね。あーしらで……リトリを看取ってやろう」

「母ちゃんは、強いな……」

「その必要なっしんぐ。セイクリッドヒール!」

「しらふじちゃん?」


 魔王様の魔装である水晶の花が輝き、二人をたちまち治癒しちまった。

 すげぇ。

 外から歓声があがる。あっちじゃ魔王様が死人を生き返らせたようだ。

 とんでもねぇ。 

 外に出ると、もうどこにも死人もケガ人も見当たらなかった。

 あの人、魔王なんかじゃねぇ……絶対に女神様か何かだろ。


「皆さん、初めまして。私はキキョウ。郷魔国魔王のキキョウです。そして、この村出身の勇者リリィメレルさんの主をしています」

「まっ魔王様。この度は偉大なるお力で我らをお救いくださり、誠にありがとうございます」


 今、村長をやってるという、弟のリトリが魔王様に感謝を伝えた。

 立派になったな。後ろにいるのは嫁さんか。

 広場でおばちゃんと一緒に、ケガ人の手当をしていた娘だ。


 ぐるりと見渡しながら、魔王様が村長にケガ人の有無と安否確認をした。

 もうケガ人はいないが、どうやら若い娘二人と、子供が二人攫われたようだ。

 まだ襲撃から大して経っていないから、空でも飛ばない限り、まだ秘境を移動中のはずだ。


「しらふじ、どう?」

「うん、見つけた。ここから五キロ程先の森の中だね。すごい魔力感知スキル持ちがいるよ」

「まさか、水晶星が感知されたの?」

「うん、一キロほど近付くと警戒されたよ」 

「ぼんぼやーじゅのロックオンは、最低でも二百メートル近寄らないと出来ないし、子供を抱えられてたら一緒に転移させちゃうものね……」

「ガチでやるならノエルちゃんいるけど、ヴァルバロッテちゃんとシルヴィアちゃんも呼ぶ?」

「うーん、そうね。私もリリィも遠距離型だし……」

「しらふじちゃん、クソ勇者共の詳細な位置はわかるか?」

「うん。イノゥバちゃんにデータ送ろうか?」

「ヨロです」


『久しぶりに、アレ。やっか』

『はい、キキョウ様にいい所見せましょう。ハーレム参加の為に』

『いや、それはいいから』


【個体名】リリィメレル(女)

【年 齢】42歳(21歳成長停止中)誕生日9/23 

【種 族】兎人族

【職 業】弓術士、狩人

【理力値】1720

【魔 装】黄玉のイヤーカフ、狩人のビスチェ&ホットパンツ

 魔弓イノゥバ、魔法珠

【ゴーレム】トーラス(解放済)

【勇者ランキング】15位→11位

【スキル】勇者、魔弓術、狩人の心眼

【加 護】狩人の加護

【称 号】壊れ勇者


「来い、トーラス!」


 静かな海面から飛び出す巨鯨の如く、宙空より黒き巨体が現れた。


【機体名】トーラス

【操 者】リリィメレル

【寸 法】全長16.6m、全幅3.2m、全高4.6m、乾燥重量22.5t

【装 甲】200mmTPRチタニウム装甲

【主動力】ゴーレムコアユニット・ガンマ2×2

【推進機】魔導式グラビティスラスター×5

【武 装】魔導式投射砲×2、30mm魔導ガトリング砲×2

 9連式光学砲×1、20mm~360mm各種弾頭


 あーしのゴーレムは武器型だ。

 矢を放つ事も出来るけど、とても弓には見えねぇ。

 なんに似てるかと聞かれても困る。これって何なんだろうな。


「すごい迫力。まるでグリップのない巨大な拳銃ね。銀河偉人伝の帝国戦艦みたい」

「すご……これってレールガンだね。ベースは旧世代の艦砲かも。かっこいい~」


 魔王様が知ってる物で例えてくれたけど、さっぱりだ。これが戦艦……?

 しらふじちゃんは、これがどういう武器なのか、知ってるみたいだ。

 ひょいっとトーラスの上に飛び乗る。さ、始めるぞ。

 フィィ…フィィ…金属質のスラスター音を響かせ、トーラスが上空へ浮き上がり、森へ“艦首”を向ける。


『マスター、しらふじ様とデータリンク完了。ターゲットをロックします』

『あーしのスキル“狩人の心眼”同期。弾頭選択、ミスリル弾カケ2』

『20mm重ミスリダイト弾を二発、回転式弾倉にロードします。完了』


「ひょっとして、ここから森の中を狙うの? 五キロも先の?」

「この距離なら三秒でクソ勇者のどたま撃ち抜いてやりますよ」

「マジか。二人共がんばって」

『はーい』


 あーしは頷きながら目を閉じ、目標に向け、弓を構えるポーズで集中する。


『一発目、艦首を俯角0.53度下へ、1.44度右へ』

『艦首? 俯角0.53度下へ、1.44度右へセットします』

『二発目、俯角そのまま、0.15度左へ』 

『第二射、俯角そのまま、0.15度左へセットします』

『一発目発射の0.5秒後、二発目を発射する』

『了解、いつでもどうぞ』

『撃つ!』


 トーラス艦首から小さく鋭い砲撃音が二回響いた。

 杭状の重ミスリダイト弾が、音速を遥かに超える速度で射出され、それは奇跡の如く森の木々の間を抜け、小休止中の勇者と、水晶星を感知し神経を尖らせている勇者をほぼ同時に撃ち抜いた。


「あ……」

「リリィ、フォローいる?」

「魔王様……最初に狙った勇者。立ちション中の股間ぶち抜いちゃって、悶死した……」


 するとノエルちゃんが股間を押さえ、ばたりと倒れた。あ、ノーパン。

 それを見た魔王様が噴き出し、しらふじちゃんが水晶星を咲かせ、ノエルちゃんは股間丸出しでケタケタと笑っている。あーしらもつられ、イノゥバと一緒に大笑いした。

 魔王様は笑いながらも、迅速に攫われた子供達を広場に転移させた。抵抗し殴られた痕のある娘も、すぐヒールしてもらい、笑顔を取り戻した。


 現在、村民全員が広場に集まっている。改めて思う、小さい村だな。

 村民も三百人に満たないので、呼べばあっという間に全員集合だ。

 毎年、この村に嫌気の差した若者が出てゆき、これまで誰一人戻ってきた事はない。そのせいで村の若者の数が、じりじりと減っている。


「再びこの村は襲われるでしょう。次はもっと大勢の勇者が来るかもしれないわ」


 魔王様のお言葉に、村人達が顔を青くする。あーしも同意見だ。

 こんな秘境に住んでいるんだ。

 兎人族に逃げる場所など、もう世界の何処にも無い。


「そこで提案なんだけど、兎人族がに安全に暮らせる場所を私が提供してあげる」

「おおお……そっその対価は何なのでしょうか」


 震えながらリトリが村長として、魔王様に訊ねた。


「兎人族が全員、私のものになる事よ」


 なっ……それって……


「そっ……それは種族ごと、魔王様の奴隷になるという事ですか?」

「え……ちがうちがう。対価はいらないわ。私が兎人族の後ろ盾になると言ってるの」


 びびった。一瞬、魔王様が本性を現したのかと冷汗が出た。


「あるじ様、今の言い方、すごく紛らわしいです」

「ごめんごめん。だって兎人族を国民に迎えられるチャンスに、ちょっとテンパったわ」


 リトリが跪くと、村人一同もそれに倣った。


「魔王様。過分なお申し出、心より感謝いたします。ですが……我らは兎人。どこに住んでも狙われる身。確実にご迷惑をお掛かけすると思われます。なによりその御恩に報いる事が……我らにお返しできる物があるとは思えません」

「うん、もう宝物を貰ってるから大丈夫」


 魔王様の言葉に、みんなが、そしてあーしも首を傾げた。

 宝? そんな物あったか?

 すると魔王様があーしをぎゅうっと抱きしめた。


「勇者リリィメレル。彼女は私の大切な恋人だもの。リリィの家族も里の皆さんも、私にとって大切な家族ですよ。だからみんなで郷魔国に移住して、一緒に幸せになりましょう」


 あーしかよぉぉぉぉっ!! 


 そ……外堀が埋められてゆく。魔王様こえぇぇぇ……。




 ◇とある識者の獣人という種族の考察◇


 見目麗しい種族として有名な兎人族だが、他の獣人族同様、姿が人に近い者、獣に近い者、かなり獣寄りな者という、同じ種族であっても三種類の形態が存在する。

 例えば、かの勇者リリィメレルのように、耳と尻尾以外ほぼ人族のような姿の者。

 次に、獣の頭部に人族の体をもつ者。

 そして最も獣に近い姿の者は、大きなぬいぐるみの様な愛らしい姿をしている。

 これをファニー型と呼ぶが、特に兎人族のそれは、驚く程きゃわゆい。

 リリィメレルの父と弟がそれだ。種族内の比率としては、2:2:1ほどのようだ。

 婚姻に制限はないが、種族を問わずファニー型同士での子作りは禁止されている。

 どういう訳か多くの場合、子が胎内で育たず死産となるのだ。

 劣勢遺伝子の問題かと思われるが、その分野の研究者はこの世界に存在しない。

 大魔導図書館になら、そのような知識が眠っているかもしれないが……龍王リヴァイアサン様が所有しているのだが、あの人怖くて、おいそれと近寄れんのだ。


 ちなみに多種族から見ると、人に近い姿の獣人はとても魅力的なようで、男女問わず美しい獣人は、誘拐などの犯罪に巻き込まれる件が後を絶たない。そして同族視点で見ると、どうもファニー型が最も人気らしい。

 私はケモナーという嗜好を持っていないので理解不能である。


 この物語を読んでくれて、ありがと。(リリィメレル)

 どーよ、あーしのチカラは。狙撃ならあーしに任せておけ。

 そうですね、マスターとトーラスの相性は抜群ですよね。

 だろ? もっと褒めていいぞ。あーしは褒められて伸びるタイプなんだよ。

 了解。じゃあ、たくさん褒め殺しますね。

 

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