第28話 王子と魔王のゴーレムと
「いでよ、我が愛馬、シルフィード!」
次のゴーレム披露は、シルヴィアのペガサスだ。
勇者の銀鎧を身に纏い、ゴーレムの名を呼ぶと上空に現れた魔法陣より、銀の天馬が空に飛び出した。そして翼を羽ばたかせ宙を駆けながらシルヴィアの元へと下りてくる姿に、歓声が上がる。
「サジタリウスモード!」
瞳をキラキラさせる王子の前で、ペガサスの頭部が変形し胴体に収納され、開口部が現れると、シルヴィアがするりと下半身を滑り込ませた。次に鎧や兜にスポイラー的な追加装甲が装着され、人馬型ペガサスゴーレムが完成。私と初めて戦った時の姿だ。
「初公開! アーマードランサーモード!」
周囲にいくつもの追加武装パーツが現れ、次々に各部へと合体してゆく。脚部が折り畳まれ、新たに大型スラスター付きの重厚な脚部が装着された。次に翼が胴に格納され戦闘機のような固定翼に換装されると、同時に五基の大型スラスターが胴体後方へ合体し、翼下部に大型ランスが四本、戦闘機のサイドワインダーミサイルのように装着された。
シルヴィアの上半身もエアロフォルムの流麗な鎧に換装された。兜は顎から頭頂までキャノピー化され、銀の美貌がよく見える。そして右腕に装備する主武装は、全長五メートルはあろう、金の飾り模様が美しい大型ランスだ。柄はダンパーアームによって胴と繋がっている。
重装アーマードランサーズパックを装備したその姿は、新幹線の先頭車のようなエアロフォルムの流麗かつ重厚な装甲によって、二回り以上も大型化し、もはやペガサスの要素は消え、四足の戦闘機のようだ。
ゴーレム開放以来、シルヴィアはこの装備の存在を誰にも明かす事なく秘匿していたという。
このアーマードランサーモードは、城を串刺しにして簡単に破壊する程の戦闘力を持っており、これを権力者に知られると、戦争に担ぎ出されるであろうとの判断からだ。
その為、彼女は一対一の対勇者戦に強いというイメージを定着させたという。
アーマードシルフィードが駆けだす。ノーマルのペガサスは地を駆けると「バカラッバカラッ」という感じだったが、今は「ドギュンドギュン」と、まるで地竜のような迫力だ。速度を上げ離陸し、轟音を立て空を飛ぶ様は、もはや完全に戦闘機。まるでこの場が航空ショー会場になったようだ。
しらふじには言わないけど、初戦でコレに来られてたら、どうなってた事か。
『さっ、次は私達。大トリだよ』
『う……うん』
自信なくしてる感が、声から伝わってくる。さて、どうしたものか。そもそも白鬼は魔導師型のゴーレムだと思うので、派手な戦士タイプと比べても仕方ないと思うのだけれど。
私の元にティメル王子が、目をキラキラさせ寄ってきた。
「噂で聞きました。陛下のゴーレムは、とても不思議な形だそうですね」
「それって白鬼壱式の事かな。ごめんね、それはシルヴィアにブッスリやられて、まだ修理中なのよ」
「え、アブリコ王国との戦争でもゴーレムを使ったと聞きましたが……」
「実は私ね、空戦型と陸戦型、二体のゴーレムを持ってるの」
「ええええ!? 違う種のゴーレム二体所有なんて話、聞いた事がありませんよ」
「ふふふ、私のゴーレムは特別製でね、今日は陸戦型を見せてあげる」
「はいっ!」
『しらふじ……隣の芝が青くふっさふさに見えてて、気付いてないみたいだけど、あなたの白鬼は唯一無二だよ。ほら、瞳を輝かせ白鬼を待ってる可愛い王子様を喜ばせてあげようよ』
『――うん』
「いでよ、白鬼弐式!」
地面に現れた白い魔法陣より現れ出た純白のゴーレム。
全高八メートルの巨体がくるりと軽やかに、王子の前で美しいカーテシーを披露した。
「こんにちは、ティメル王子様。私は魔王キキョウ様のゴーレム“白鬼弐式”です。よろしくね」
「ええっ……こっこちらこそ、よろしくお願いします!」
王子の前で跪き、白鬼が大きな右手を差し出すと、王子は恐る恐る紫色の人差し指を両手で、ぎゅっと握った。
「すっすごい……僕。ゴーレムと挨拶して、握手してる!」
興奮し頬を赤く染めた王子がキキョウを見て、白鬼を見て、再びキキョウを見る。
「うちの子はすごいでしょう。自分で考えて行動できるのよ」
「自立型どころか、まるで人みたいです! しかも…なんて綺麗なゴーレムなんだろう……」
「ほら、白鬼。王子様が綺麗だって」
「ふふふ……嬉しいです」
ちなみに今のしらふじは、“真面目に”白鬼を演じている。
「ねぇ、しら…白鬼。折角だし、この子を操縦席に乗せてもいいかな?」
「へえええええ!? ゴーレムって、契約者以外は装着できないのでは……」
「私は椅子に座って操縦するゴーレムなので、王子様も乗れますよ。でも危険なのでパイロットスーツは着てもらいます。私がコケたら大怪我じゃ済まないですからね」
『キキョウちゃん、予備のスーツを王子に着せてあげてね』
『うん。やっぱり私以外乗せるの、いや?』
『んー今回は特別だよ。まぁキキョウちゃんの親戚だし、いっかなぁ』
『ありがと』
先程と打って変わって、しらふじの機嫌がすこぶる良い。
この子に褒められたからだろうか。
魔法珠から金色に輝くブローチ型パイロットスーツモジュールを取り出し、王子の胸元に押し当てスイッチを押すと、瞬時に白と薄紫のぴっちりスーツ姿に変わった。
結構鍛えているようで、なめらかな筋肉がスーツ越しに見て取れる。なかなかの肉体美だ。そして、ぷっくりとした膨らみが、男の子である事を主張している。
妙な色気漂う美少年のぴっちり姿登場に、先程のロリ巨乳侍以上にギャラリーが沸いた。
だが当の王子に格好を気にする様子はなく、むしろ喜んでいるようだ。この場で気になると言えば、ベルテの表情と挙動がヤバいぐらいだろうか。
白鬼の胸部装甲が左右に開き、緊張する王子の前に、頭部と一体型のコックピットブロックがミュインと下りてきた。そして、側面のハッチが開き、連動するように操縦席が現れる。
「さぁ、楽しんでらっしゃい」
「はいっ!」
僕。アスラン王国第三王子ティメルの容姿は、とっても目立つ。
それは仕方ない。アスラン王家のご先祖様である、かの魔王様の血を色濃く受け継いだ容姿なのだから。さすがにもう慣れたけど、男女問わず妙な視線を向けられるのは、ちょっと苦手だ。
そして今日、転生された魔王様が僕の目の前にいる。なんて綺麗な人だろう。宮殿にいくつもある肖像画よりも、ずっとずっと綺麗だ。緊張しながら挨拶をしたら、抱きしめられてしまった。柔らかくていい匂い。大人の女の人だ。
誕生日のお祝いに欲しい物を訊ねられたので、思わず陛下のゴーレムが見たいと言ってしまった。
僕は勇者や魔王という、神に選ばれし超常の存在が好きだ。そして彼らだけが駆る事を許されたゴーレムが大好きだ。我が国にも勇者が四人いて、ゴーレム使いも一人いる。それが郷魔国の国賓には、キキョウ陛下の他に三人ものゴーレム使いがいて、僕にゴーレムを見せてくれるという。なんて幸運なのだろうか。
更に驚くべき事に、まだヘイワード勇者辞典にも載ってない、現れたてのゴーレムを見る事ができた。慈愛の勇者アスフィーリンク様の『黄金のアウレオラ』だ。これは装着型……いや、アスフィーリンク様の魔装はガントレットだから武器型か……いや、どっちなんだろう。質問したかったけれど、彼女は陛下の後ろに隠れてしまった。いつか、勇者ヘイワードにも質問してみたいな。
先のパレードでシルフィードと朱羅は遠目に見たけど、こんなに間近で見れるなんて……最強のゴーレムと謳われる鬼神シリーズだけあって、刀を振るう朱羅は本当にすごい。大迫力だ。シルフィードもあんな重武装モードがあったなんて、これも辞典に載ってない新情報だよ。
キキョウ陛下のゴーレムは、不思議な形状の飛行型で、白銀の勇者シルヴィア様とシルフィードを倒したと噂で聞いたけれど、修理中で見れずとても残念。でも、なんで修理中なのだろう。再召喚すれば元に戻るはずなのに。しかも陛下は、別のゴーレムを召喚した。我が国の『狼勇者ケン』みたいに動物型ゴーレムを複数召喚できる勇者はいるけど、全く異なる二体なんて聞いた事がない。
召喚された白く可憐なゴーレムが挨拶して、自己紹介して、握手してくれた。
驚愕だ。まさか知性を持つゴーレムがこの世にあった……いや、いたなんて。
どことなくローブ姿の女性にも見えるから、魔導師型ゴーレムなのかな。
そしたら、なんと、なんと、陛下がこのゴーレムに乗せてくれるというのだもの。なんか驚きすぎて、変な声出たよ。陛下が僕の胸に金色のブローチを押し付けると、瞬時に別の服に替わった。え……これ魔装だ。一瞬で着替えられるなんて魔装しかない。先程、ヴァルバロッテ様が朱羅を駆る時に着ていたのと似ている。超常の存在にしか許されない魔装の装着を体験できるなんて、感動しすぎてチンチン勃起しそうだよ。
そして今、白鬼弐式のこっくぴっとに座って、僕がゴーレムを操縦している! 僕の操作で白鬼が歩き、走り、ジャンプするんだよ!
「楽しいのは分かるけど、きちんと呼吸しましょうね。バイタルに警告が出たわ」
「はっ、どうりで苦しいと思った!」
「ふふふ、次は点滅するアイコンを押してね」「これですか?」「そうそう」
白鬼の指示に従い、周囲に浮いてる模様の中で点滅するものに触れた。
すると前方に白く大きな魔導銃が現れ、大きな手がグリップを握る。
「これって武器ですか?」
「私の主武装、魔導ガンランチャーライフルよ。マスターから許可が下りたので、75mm物理徹甲弾の射撃をしましょう。まずは……」
「ええと、れてくるを目標に合わせて……トリガーを、引く」
ドンッ!
私達が見守る中、轟音と共に撃ち出された砲弾は、用意されたターゲットを見事粉砕した。が……その発砲音と反動は、王子のなめらかな肢体をビリビリと震わせ……ナニをおっきさせてしまったのだ。
ぴっちりスーツゆえに、こうかはばつぐんだ。
「うをっ……彼の名誉の為、我々は何も見ていない。いいわね?」
コックピット内部の映像を水晶星を通し、王子の様子を暖かく見守っていた我々は、彼の未来に幸あれと、永遠に口をつぐんだ。
ベルテ……鼻血大丈夫?
鼻血、噴き出ひてひまいました。(ベルテ)
いつも読んれくらさり、ありがとうごにゃいまふ。
あああ、ノエルちゃん、ペロペロしないでぇ。くすぐったいぃ。
はーっはーっ……決めました。私、ティメル様と絶対に結婚してみせます。
少女のようなお顔の下、華奢に見えて結構鍛えてるあの肢体……
そしてあの……おっきしたナニを私のものにしたいぃぃぃ~っ!




